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こばはーー!
さむーーーーー!! 雪になる前に(?)本日の更新ですー。





暗い道路を俯き加減に歩いていたキョーコは、はぁ~~、とため息をついた。もうこれで何度目か、数え切れない。
あれこれと奏江に言われたが、明日蓮の顔を真っ直ぐに見られるかどうか、全く自信が持てない。蓮が少しでも今日のような怒りの片鱗を見せたら、一目散に逃げ出して部屋の角でぶるぶる震え続ける、そんな近い未来が見えるようで恐ろしい。
奏江にも不思議がられたが、自分でも不思議に思う。なぜここまで蓮の機嫌にびくびくと反応してしまうのか。

でも…仕事中は大丈夫なはずよね。

蓮はその辺りは徹底しているはずだ。きっと撮影が始まれば、自分さえきちんと仕事に集中すれば、撮影の進行には影響しないだろう。しかし、ふとキョーコの頭にもう1人の男の顔もよぎる。

光さんへの返事は…どうしよう?

やはり仕事への影響を考えると、撮影が終わった後に話をするのがいいのだろう。
キョーコの中では光へはお断りするという意志が固まってはいるのだが、そう決めてはいてもあれこれと悩むことが多く、あまりすっきりとはしない。

だって、もう恋愛なんてしないんだもの

言い聞かせてみるものの、すでに自分の心の中には1人の男性がどっかりと居座り、キョーコの決意はじわじわと侵食されている。もうすでにキョーコの「恋愛しない」宣言は崩壊しているも同然で、絶対にそれを表に出さないと決意する方へと完全に問題はすり替わっているのだが、これ以上は自分でも認めるわけにはいかないのだ。

こうやってうじゃうじゃ悩むのもバカみたいだし!だからもう、こんな想いには蓋をするのよ!!

最初から、叶う見込みなんてない想いだ。それは自分が良く分かっている。そしてそれを更にダメ押しするように、甲子の存在が目の前にあるのだ。しかしだからといって、やっぱり人から想われる恋愛に自分が身を投じられるとは到底思えない。

あーあ…

またため息を吐き出したところで、キョーコは自分の腕に伝わってくるわずかな振動に気がついた。それは肩にかけているショルダーバッグの中から発生していて、規則的に繰り返されるのは考えるまででもない、携帯電話のバイブレーションだ。

「で、電話!?」
慌ててバッグの中を探って振動の発生源をつかみ出す。立ち止まって携帯を開くと、暗い中で眩しいほどに光る画面には『敦賀さん』の文字。その文字を目にした瞬間、キョーコの心臓はぎゅっと握られるような痛みを覚えた。

2コール分くらい画面を凝視してしまったが、キョーコはようやく我に返ると通話ボタンを押した。それからつばを飲み込んで、恐る恐る耳に持っていく。
「…はい、最上です」
『……あ……今、家にいる?』
向こうからかけてきた電話のはずなのに、驚いたような戸惑ったような間のあと居場所を聞かれ、キョーコは思わず顔を上げた。俯いて歩いていたので目には入っていなかったが、もう通りの向こうには見慣れた"だるまや"の看板が見えるはずだ。

「いえ、もうすぐ……え?」
キョーコは目を見開いた。確かに少し先にはだるまやの明るい看板が見える。しかし、その手前。
流線型の背の低い車体と、その横にたたずむ背の高い男性が目に飛び込んできて、キョーコは驚きの声を上げてしまった。

電話越しの声で気がついたのだろうか。見えている男性が首を左右に振って何かを探す。こちらに顔を向けるとキョーコがいることに気がついてゆっくりと携帯を耳から離し、体ごとキョーコのほうへと向いた。

「ど…したんですか、こんなところに」
キョーコはパニックに陥っていた。明日顔を合わせるのも気まずい、と思っているのに、何の心の準備もできない状態でこんなところで会うとは夢にも思っていなかった。逃げ出したいが、それも失礼だろうと思うともう為す術がない。呆然と、先輩俳優が近づいてくるのを突っ立って待つような状態になった。

蓮はゆっくりとキョーコに歩み寄ると、正面で足を止める。キョーコは目を伏せているので気がつかなかったが、蓮は一度ぎゅっと目を閉じるとふうっと息を吐き、それから口を開いた。
「君に会いに来た」
蓮の言葉が聞こえた瞬間、キョーコの腕がピクリと震えた。両手で携帯を握りしめ、小さく縮こまって自分を見ようとしないキョーコを見るとため息をつきそうになるが、何とかこらえて蓮は言葉を続ける。
「さっきのことを謝りたくて」
「謝るって何をですか?」
「…一番は、君をそうやって怯えさせたこと」
キョーコはそろりと顔を上げて蓮の顔を伺い見た。数時間前に見たような厳しい表情はそこにはなく、申し訳なさそうな穏やかないつもの蓮がいる。
「いえ…敦賀さんが仰ったことは間違ってるわけじゃないですし」
「いや。それについても…ね」

蓮は言葉を止めると横を向いて小さく咳払いをした。
「俺が君に強要していいことじゃなかった……ごめん」
頭を下げる蓮にキョーコは慌てて一歩を踏み出した。
「いえでも!私が、敦賀さんに誓ったことですから…」
「君が自分で誓ったことを貫き通すのを…俺は否定しない。けど、俺にとってはそれよりも大切なことがある」
「?」
無言で少し首をかしげたキョーコに、蓮は弱々しく笑いかけた。
「最上さんが幸せであること。笑顔でいられること。恋愛することが必ずしも幸せって訳じゃないと、俺も思うけど…俺に誓ったことが君を苦しめるなら、それは無効でいいと思う」
「それは……」
「君は君が思うままでいいんだ…俺が口を出すことじゃなかった。ごめんね」

寂しげに笑う蓮を見て、キョーコは先ほどまで感じていた恐怖とはまた別の嫌な感情に囚われていた。それは、急に放り出されてしまったような寂しさ。開放感はあるのだが、どこか居場所がなくて落ち着かない気持ち。

そっか…私が敦賀さんに怒られると嫌な気持ちになるのは、嫌われたくないからなんだ…

嫌われるのはいやだが、こうしてみると突き放されて「俺は関係ない」と言われるのはもっともっと辛いことだ。なんてわがままなの、と考えていたキョーコの脳裏に、ふと先ほど奏江から提案されたことが蘇ってきた。半信半疑で聞いていたその提案に、急に乗ってみたい気分がむくむくと首をもたげる。

大体、さっきまであんなに怒りを顕わにされて胃が痛かったのに、今は「俺が口を出すことじゃない」だなんて…どうせ敦賀さんには三谷さんがいるから私のことなんてどうでもいいんだろうけど…!
この際、はっきりすればもうスッキリできちゃうかしら?

何やら一部、寂しさの感情が八つ当たりのむかつきにも変わってきた。

「あの、敦賀さん」
「うん?」
キョーコは意を決して口を開いた。きちんと背中を伸ばし、しっかりと蓮の顔を見つめる。
「それでも私…やっぱり人に誤解を与えるような行動は、軽率だったと思うんです」
「それは…写真を撮られた事?」
「はい。そもそも私が光さんと2人でご飯を食べに行ったりしなければ…」
「ああ、まあそれは…ダメな事とは言わないけど、まあ、誤解を招くこともある…かな」
「はい。敦賀さんに言われて痛感したんです。それで…」

キョーコは携帯を握る手にぎゅうと力を込めた。
「敦賀さんの車に乗せていただいたりお部屋にお邪魔したりするのも、もし誰かに見られたら誤解のもとですよね?」

蓮の表情は変わらないが、外からは分からないレベルで眉間の筋肉に少し力が入る。

「だからその…敦賀さんにもご迷惑だと思いますし、今後はそういうことも控えようと思うんです。考えてみれば今までずっと敦賀さんの御好意に甘えてばかりで、私もそろそろちゃんと弁えないといけないですよね。なので…」
ちらり、と蓮の表情を上目遣いに伺ったキョーコは、慌てて見なかったことにして視線を下げた。

い、いつの間に…いつの間に敦賀さん怒ってたの??

「君は…随分と薄情なんだな」
「ひ、ひえぇぇ?」
「もう俺とは関わりたくないと、そう言うの?」

先ほどの蓮の怒りは体が竦みへたり込みそうになる迫力があったが、今は貼りついた笑顔から飛んでくるキラキラが痛くて、全身から汗が出る。いや、結局はどちらのタイプの怒りでも正面から全身で受け止めるのは寿命が縮む思いだ。

「関わりたくないだなんて、とんでもないです!ただ…」
「ただ?」
「いえ、あの、私がそうやってご迷惑をかけるのは、よくないかと…」
「一方的ではないよね?」
「はい?」
「俺も、君に稽古につきあってもらったり、食事を作ってもらったりしてるけど…もしかしてそれがもう嫌になった?」
「そんなこと!ないです…けど……」
「じゃあ、気にしなくていいよ。誰にも迷惑はかからないし、写真だって撮られたことないだろう?」
「ないですけど、これから先の可能性が!」
「大体、君と石橋君の写真だって、そう簡単に撮られるようなものじゃなかったはずだ」
「え?それってどういう…」
「とにかく、心配する必要はないから。何も気にしなくていいし、俺も迷惑とは思ってない。てことで、いいかな?」
「は、はい…敦賀さんがそう仰るなら……」

うん、と頷きながら見せた蓮の柔らかい笑みに、キョーコの心臓は勝手にどきどきとその動きを速める。


いーい?
本当に他に本命がいて、あんたのことはどうでもいいと思ってたら、あんたの申し出をそれなりに受け入れるはずよ。だけど、なんだかんだ理由をつけてあんたとのプライベートな関わりを保とうとしたら…やっぱり、そういう相手はいないってことじゃないの?
だって、普通好きな人に誤解されるのが一番困るでしょ?


蓮が自分とのプライベートな時間をそのままにしたいと言ってくれたことが、キョーコにとっては何かの望みのように感じられる。

でも、変に希望を持つのも…逆に辛いのよね。

嬉しい気持ちと戸惑う気持ちが大きくて、蓮が言った引っかかるセリフが気になってはいたものの、それはキョーコの頭の隅へととりあえずは追いやられていったのだった。


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コメントコメント


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うぎゃー、ってなりました。

こんにちわ。変な感想でごめんなさい。敦賀さんとキョーコちゃん、最悪のフェーズは通り越したけどこの歩みの遅さは何?!という速度でございますね。でも、それがこの二人なんですよね〜。これでも本誌より速いぐらいですものね。すみません、本誌と比べるものではないと思いますが、ついお日柄上意識してしまいました。今回は馬の骨がいないために素直に前に進んだ印象があります。馬の骨がいると進まないどころか、逆行してしまいます。あ、でも馬の骨の活躍も面白くて好きです。次の回でどう展開されるのかとても楽しみです。更新を待ち望んでいます。ありがとうございました。

Genki | URL | 2013/12/19 (Thu) 16:29 [編集]


Re: うぎゃー、ってなりました。

> Genki様

こんばんは!コメントありがとうございます。
返信が遅くて申し訳ないです。

そうなのです、本誌に忠実に、なんて考えようものならばきっと100話やっても進まない…
少し急ぎ足になったとしてもこんなもんですよね。
特にキョコさんはついつい遠慮したり卑屈になったり考え過ぎたりするので、馬の骨がでしゃばり過ぎは話が停滞する元かもしれません…!

ぞうはな | URL | 2013/12/20 (Fri) 21:49 [編集]