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こんばんは!
さてさて、週明けもなんとか更新できました。
今週はもしかしたら少し間があく事があるかもしれません。極力頑張りますが。





いつもなら満面の笑みを浮かべて飛びついてくるキョーコが、今日は固まったようにこちらを見ている。あまりの不自然さに奏江の眉は一瞬でつりあがった。
「どうしたのよあんた。こんな時間に」
言われて時計を見てみれば、確かに時刻はすでにだいぶ遅く、街には酔っ払いがあふれていそうな時間帯だ。
「いや…別に……」
キョーコは咄嗟に誤魔化そうとしたが、言い訳も思いつかずに口ごもった。さらに近づいてきた奏江は怪訝そうにキョーコの顔を覗き込む。
「何かあったの?」

止まっていたキョーコの思考が一気に動き出し、心の中のざわつきもまた戻ってきたのだが、キョーコは精一杯普通を装って返事をした。
「別に何もないわよ!さて、明日も朝から撮影だから早く帰らないと!」

そう…明日もドラマの撮影がある。
その場には蓮、光、甲子という顔ぶれが集まるのだ。さぞかし居心地が悪いだろうとキョーコは暗い気持ちになった。

「あんた…何隠してんのよ」
方向を変えようとしてその肩をがしりと掴まれ顔を上げれば、至近距離にじっとりとした奏江の視線がある。
「隠してるって…そんなの、なにもないってば」
「ふぅん…あのいつぞやの営業スマイルもできない状態なのに?」
「えぇ?」
「あんたそんな顔でここまできた訳?芸能人がなにやってんのよ!」
キョーコは思わず両手で自分の頬を包み込むが、そんなことでは自分の表情が分かる訳もない。
「そんな…ひどい顔してる?」
「そうね、これから屋上から飛び降りますって言う人は、もしかしたらそんな顔してるかもしれないわ」
「えええっ」
「あんたもう仕事は終わりよね。ちょっといらっしゃい」
有無を言わさず奏江に引きずられて向かった先は密談に向いた場所、いつぞやのカラオケボックスだった。


平日夜のカラオケボックスはにぎやかだ。周りから陽気な歌声が響く中、しかしキョーコと奏江が入った部屋はしんとしていた。

「で、何があったのかしら?」
奏江の口調は静かだが、響きには迫力がある。
「何…というかあ……」
キョーコは言葉に詰まった。今日のことを説明するには、芋づる式に色々と話さなくてはならなくなる危惧が強い。しかし目の前の奏江は険しい顔をして、とても誤魔化して納得してくれるとは思えない。

「実はね…」
キョーコは極力詳細と実名を省いて話すことにした。
今日、テレビ局で共演男性から告白を受けたこと。どういう経緯か分からないがそのことを蓮が知り、怒りにふれたこと。
「なんで敦賀さんが怒るの?」
キョーコから事情を聞いた奏江の疑問は最もだったが、それについてキョーコは答えを持っている。
「私…前に敦賀さんに自分から宣言してるの。もう愛だの恋だの愚かな感情は持たないって」
ああそう、と奏江はうんざりした顔になる。確かに常日頃からキョーコはそう言っていてその思考について異論はないのだが、何をどうしたら蓮にそんなことを宣言する事態になるのか、奏江には分からない。
「だけど、人から告白されることはあんたが誰かに恋愛感情持つのとは別じゃないの?」
「うん…でもそうね、敦賀さんは私がすぐに断らなかったことを怒ってたと思う…」
「あんた、断らなかったの?」
「えっ?いやあの!…返事は今しないでって言われちゃったの……」
「なんで」
「あし…ううん、仕事ですぐに会うっていうのが分かってるから…」
「断ったら気まずくなるから?」
「まあそんな感じかな…?」
ふうん、と奏江は適当な相槌を打った。だったらそんなタイミングで告白なんてしなければいい、と冷静に思うが、そのこと自体はキョーコの表情を曇らせたこととはさほど関係なさそうなので今は放っておいてもいいだろう。

「要するに…あんたが男と付き合うかもしれないって思ったから敦賀さんは怒ったのね?」
「って言うか…あんな宣言しておいてすぐ翻すのかって、そっちだと思うの。自分で言ったことには責任を取れというか」

奏江はううん、と考え込むと膝の上で両腕を組んでひたとキョーコを見据えた。
「そうだとしても…それってそんなに敦賀さんが怒る事?」
「え?」
奏江が一つずつ問いただしながら解きほぐしてくれると、キョーコも冷静に客観的に考えることができるようになってくる。

確かに…あそこまで恐ろしい形相で怒られることじゃないのかもしれないけど…
でも、ショータローと一緒にいるところを見られた時も敦賀さん、怒ってたわよね?でもあれは敦賀さんがショータローのこと生理的に嫌ってるからで…んんん?

「ううん…多分だけど、敦賀さんって自分に厳しい人だから、その基準で考えて腹立ったのかなあ…相手に勘違いさせるのもよくないって言われたし」
「それはそうかもしれないけど」
キョーコの言おうとしていることは奏江にも分かるが、それでもキョーコを怯えさせるほど怒る理由としては納得ができない。

もっとシンプルに考えた方がいいんじゃないの?

奏江はキョーコから聞いた状況をもう一度思い返してみる。
1人の女が男から好きだと言われた。
女はその場では告白に対する返事をせず態度を保留した。
それに対して別の男が怒った。

その場合って…やっぱりまず考えられるのはひとつよねえ?

「ねえ…やっぱりさ、敦賀さんってあんたのこと、好きなんじゃないの?」
奏江の中ではすぐに結論が出る。前にもこんなことをキョーコに言った気がするが、やっぱりそれが一番説明がつく。なんなら前の問題もそうだったと考えれば非常に明快だ。
「えええええええっ?なんでっ!?」
目を剥いて驚くキョーコの反応も前回と同じだ。が、その後は違った。キョーコはしょぼりと肩を落とすと、考えこむでもなくぽそりと答えを返してきたのだ。
「それはあり得ないわ…だって、敦賀さんには他にいるもの」
「え?敦賀さん、恋人いるの?」
「う……今付き合ってるのかどうかは知らないけど…その人のことが好きなんだと思うわ…」
キョーコは落ち着きなく視線をあちこちへと彷徨わせた。

店から寄り添って出てきたと言う尚の目撃談。
そして何より、甲子本人の口から出てきた言葉。

「なにそれ。本人に聞いたの?」
え?とキョーコは奏江の顔を見た。奏江は不機嫌そうに頬杖をついてキョーコを見ている。
「そうだとしたらなんなの、あの人。自分は好きな相手がいるくせに、なんでキョーコの恋愛をそこまで頑なに否定するのよ。あんたもちょっとお人好し過ぎない?なんで黙って言うこと聞いてんのよ!」
奏江はどうやらキョーコではなく蓮に対して怒っているようだ。

黙って蓮の言うことを聞いてショックを受けた理由は口が裂けても言えはしないが、キョーコは慌ててフォローを始める。
「いやでも、恋愛なんてしないって宣言したのは私だし…」
「それこそプライベートな話じゃないのよ!なんで先輩だからってそんなことに口出しするわけ?」
「でも敦賀さんは私のためを思って…」
「本当にあんたのためを思ってるなら、幸せな恋愛をすればいいって、普通はそう言うんじゃないの?そんな理由より、あの人がキョーコに『自分以外を見るな』って嫉妬してるって方がよっぽど理解できるわよ」

ええ?

キョーコはまたもや目を丸くした。そんなことあり得ないだろう、と反射的に頭が否定する。
「なんでびっくりするのよ」
「だって…」
「敦賀さんに好きな人がいるって、敦賀さんから直接聞いたの?」
「…ううん……敦賀さんからは何も」
「じゃあ、敦賀さんがどう思ってるか分からないじゃないの」
「でも!あの、2人が一緒にいるのを見た人がいるし…相手の人からそういう話を聞いてるし…」
奏江はむっつりとした顔でキョーコをにらみつけていたが、ふと思いついて何かを企むように表情を変えた。

「…わかったわ。じゃあ、ひとつ試してみない?」



蓮は車を路肩に寄せるとエンジンを切った車内にしばらくたたずんでいたが、携帯電話をぎゅっと掴みゆっくりとドアを開けて外に出た。

社は「ちぇーー!40分かかっちゃったよ!」と悔しがっていたが、当初かなりかかると予想していた打ち合わせは社の努力が実り短い時間で終わった。そして念を押すような社の視線に追いたてられ、蓮は悩んだ挙句ここまでやってきた。

蓮は手の中の携帯電話を見つめていたが、やがて視線を上げた。
目の前には営業中であることを示す店舗の明るい看板。「だるまや」という文字とダルマの絵がそこに書かれている。

最上さんの仕事はあれで終わりなはず、と社さんは言っていたけど…もう帰ってるだろうか。

キョーコとひどい別れ方をしてからもう2時間近く経っている。ここへ向かう前にかなりの決意でキョーコの番号を呼び出して発信ボタンを押したのだが、むなしくコール音が響くだけだった。

いつものごとく、着信に気がついていないのか…それとも、俺の電話にはでたくないか?

後ろ向きな気持ちがどろどろと湧いてくるが、自分のしでかした不始末だ。自分できちんと対処するしかない。社だって、あれこれ承知の上で細かいことを聞かずに蓮の背中を押してくれたのだ。
せめて、キョーコが明日の撮影を気分良く終えることができるようにしたい。

だけど……

自業自得とはいえ、キョーコに拒絶されるのはやはり怖い。蓮は携帯を握りしめたまま、車のドアにもたれてじっと"だるまや"の看板を見つめ続けていた。


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恋は盲目

今晩わ。お話を読み終わって「恋は盲目」という言葉が思い浮かびました。奏江さんにとっては火を見るより明らかなのに、当人たちは暗闇でぐるぐる…。モー子さんの提案が何なのかもとっても気になります。更新を待ち望んでいます。よろしくお願いします。どうもありがとうございました。

Genki | URL | 2013/12/17 (Tue) 18:37 [編集]


Re: 恋は盲目

> Genki様

「恋は盲目」、2人の場合は相手しか見えないというか、肝心なところが見えてない、という感じでしょうか。
出会いと最初の関係があるから、相手の好意が自分に向いてるなんて事、考えもしないんですよね…。
社さんとモー子さんにお尻叩いてほしいものです。


ぞうはな | URL | 2013/12/18 (Wed) 06:17 [編集]