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empty shell (15)


こんばんは!ぞうはなです。
よし、なんとかなった。
今日も続きですーー!





「あれ…?ロビーで待ってるって言ってたはずなんだけどな…」

社はTBMのロビーできょろきょろと辺りを見回していた。ディレクターとの短い打ち合わせの間ここで待っていると蓮は確かに言ったのだが、慌てて戻ってきてもその姿は見えない。
電話をかけてみるか、とゴム手袋を装着したところで、社は向こうからばたばたと駆けてくる少女に目を留めた。

「キョーコちゃん!」
思わず声をかけた直後、社はキョーコの様子がおかしいことに気がついた。顔面は蒼白で、かけた声に反応してあげた顔は今にも泣き出しそうに歪んでいる。
「ど、どうしたの?」
「いえ、なんでも…あの、ごめんなさい失礼します」
キョーコは社の横を早足で通り過ぎたが、振り向いた社の目の前でぴたりと足を止めた。そして少しそのまま静止してから思い切ったようにぐるりと振り返り、かなりの早口で社に向かって一言だけ言うと、ぺこりと頭を下げてまた背中を向けて走り去った。

「あ、ちょっとキョーコちゃ…」
あっという間に小さくなった背中に、上げかけた社の手も宙ぶらりんで止まる。

キョーコちゃん、どうしたんだ…?
いつもだったらにこやかに挨拶してくれるのに、何かあったのかな?今日の仕事でなにか嫌な思いしたとか?
ん、でも待てよ。最後、キョーコちゃんなんて言った?「敦賀さんに…」?

早口だったためうまく聞き取れなかったが、聞こえた音を脳内で何回かリピートする。数回目でようやくキョーコが口にした言葉が正しく漢字に変換された。

「えええ?なんで??」
大声で叫んで周囲の注目を集めたが、社はそんなことも目に入らないようにキョーコが走ってきた方向へと慌てて向かった。



なぜ、あんなことを言った?

--なぜって…あれが一番効果的だ

過去の恋愛で傷ついている彼女に追い討ちをかけるようなことを…

--だからこそだ。あれだけ言えばあの子は当分、いや睨みをきかせていれば今後ずっと、他の男とくっつくようなことはない

そうかもしれない。だけど…

--自分が手に入れられないものを誰かが手に入れるのは、耐えられないんだろう?

それは……

--自分の手には入れられない。それでも他の奴に渡したくない。だったら壊してしまえばいい。粉々に、跡形もなく。簡単なことだ。

そうすればそれは一生、誰のものにもならない?

--そういうことだ…


「蓮!ここにいたのか!」
呼びかけに、蓮の思考は中断された。先ほどまでキョーコが座っていたベンチに座り込み、うずくまるように俯いていた蓮は少しだけ顔を上げた。

社はキョーコの様子を伝えようと口を開きかけるが、蓮の顔を見て声にならない叫びを上げる。

うぎゃーーー!
キョーコちゃんが死にそうな顔してたと思ったら、こっちもだーーー!!!

どよどよと周りの空気までよどんでいるような気がして、社の足は少しペースが鈍った。ついさっきまでは蓮は普通の表情をしていたはずなのに。

「お前…キョーコちゃんと会ったのか?」
「……」
蓮は社から目を外して答えない。その目が何を映しているのか分からないほど虚ろなことに気づき、社は背中がぞくりとするのを自覚した。ようやく蓮の前までたどり着き、社はなんとなく正面を外して蓮の斜め前に立つと、上から問いかけた。
「キョーコちゃんに何したんだよ?」
「………何もしてませんよ」
「じゃあ、何を言ったんだ?」
「……」

黙秘かよ。

社はいささか自分がむっとするのを覚えた。
「ついさっき、キョーコちゃんとすれ違ったんだ。あの子、泣きそうな顔してたんだぞ。お前がなんか言ったんじゃないとしたらなんでなんだよ。キョーコちゃんと会ってたんじゃないのか?」
「…会いはしました」
「それで、キョーコちゃんに何を言ったんだ」
「たいしたことではありません」
「たいしたことじゃない?だったら何で、キョーコちゃんはあんな顔面蒼白だったんだ?なんで、あんなことを俺に言い捨てて行ったんだ?」
蓮はのろのろと顔を上げた。その表情は険しく、いつもの紳士の仮面はどこかに脱ぎ捨てられてしまっている。
「……最上さんが何を言ったって言うんですか」

瞳の色に気圧されそうになるが、社の脳裏に焼きついたキョーコの姿の衝撃の方が勝る。社はひとつ息をつくと、ゆっくりと言った。
「キョーコちゃんは『三谷さんとお幸せに』と言ったんだ。お前に伝えてくれって俺に頭を下げて」
蓮の瞳がぎらりと社をにらみつけて、社の左足が無意識に2cmほど後ろに下がった。
「なんで最上さんがそんなことを言うんですか」
「俺に聞くな!お前が三谷さんに乗り換えたってキョーコちゃんに言ったんじゃないのか」
「そんな訳ないでしょう!」
「だけど…あの台詞はお前が言わせたとしか俺には思えない。あんなどこかに消えてしまいそうな顔で、やっと絞り出したのがそれだったんだよ」
「……」
「いつでも相手のことを一番に考える、キョーコちゃんはそういう子だってお前、分かってるだろう?彼女を傷つけてお前は楽しいのか?」
「楽しくなんか…!」
「だったらなんのためだ!キョーコちゃんを傷つけて自分も傷ついて。お前は何がしたいんだ?」
社は一気に言い切り、蓮は唇をかんで黙り込む。

社は思いっきり息を吐き出して気持ちを落ち着けると、やや声のトーンを落として静かに語りかけた。
「お前とキョーコちゃんの間に何があったのかは俺には分からないけど。お前も男だったら、好きな子の笑顔くらい守ってやれよ。報われなくても思い通りに行かなくても、彼女が幸せになることが一番大切なんじゃないのか?」

最上さんの幸せ?

蓮はやっと気がついた。
自分の激情に飲み込まれ、自分のことしか考えられなかった。だけどそうだ。たとえキョーコが他の男の元に行かなかったとしても、キョーコがそれでずっと傷ついたまま過ごすことを自分は本当に望んでいるのか?
いや、そんな訳はない。自分の手に入らないからと言ってそれを壊して、嫉妬に身を焼き焦がす事態が回避されたとしても、誰も幸せになんかならない。キョーコの悲しい顔を見ていたって、気持ちが満たされることはない。
自分が見たいのはキョーコの笑顔だ。それがたとえ自分の方を向いていなかったとしても。


蓮の表情が少し変わったのを見て、社は時計に目をやった。
「そろそろ行かないと、前田プロデューサーとの打ち合わせの時間だ」
「……」
「いいか、30分だけ敦賀蓮の仮面をかぶれ。30分でいい」
「え…?」
蓮は呆然と社を見上げた。今日これから予定されている打ち合わせは、そんな短時間で終わるものではないはずだ。

社は蓮を見返すと、ふふんと得意げに笑ってみせる。
「なんとでも名目つけて30分で終わらせてやるから。明日はキョーコちゃんも一緒の撮影だろ。三谷さんもだ。こんな状態じゃ、うちの所属俳優2人が使い物にならないって俺が苦情を受けることになるのは目に見えてるからな」
「社さん…」
「だからお前、今日中になんとかしろ。明日の撮影に万全の体制で臨めるように。いいな」
「…今日中って…」
「俺も頑張るんだからお前もやれよ。天下の敦賀蓮がプライベートな理由で仕事に支障をきたしますなんてこと、言わないよな?」
「わかり…ました」
のろのろと蓮は立ち上がった。片手を頭に当てて懸命に切り替えようとしているのを社は感じ、励ますように蓮の背中をばしりと叩く。
「よしじゃあ、行くぞ」
「はい」
今度ははっきりと、蓮は答えた。


とぼとぼと肩を落として歩く後姿はやがてひとつの建物の前でぴたりと足を止めた。

「あれ?」

やっと我に返ったキョーコは目の前の建物を確認して思わず声を出した。目の前にあるのはLMEの本社ビル。今日はもう仕事も終わりで帰るだけだったというのに、なぜか無意識で電車を乗り換え、ここにたどり着いてしまったらしい。

やだ…普通は無意識だと家に帰るはずなのに…私の帰巣本能ってどうなってんのかしら?

原因はなんとなく分かる。蓮のことと、それと関連して光のことを考えていたら、どうにも関連のあるところに来てしまったのだろう。キョーコは深く長いため息をひとつ吐くと、「帰ろう…」と呟いてよろよろと歩き出した。

「キョーコ?」
思いがけなくかけられた声に、キョーコががばりと振り向く。
「モー子さん…?」
不思議そうな顔でLMEの階段を下りてきたのは、長い黒髪をなびかせた琴波奏江だった。


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コメントコメント


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敦賀さん、次回に期待しています。

今晩わ。本日も楽しく読ませていただきました。社さんは、不可欠のキャラクターですね。頑張れ〜、と心の中で応援しちゃいました。逆に敦賀さんはお子様で、恋愛音痴というのはこのような症状なのかと納得。確かに、中学一年生の初恋などでは、自分の思いを持て余して人を傷つけたり、自分が傷ついたりするものですが、「敦賀さん、あなた何歳なんですか?」と言いたくなりました。それともこれが純愛なのかしら。次回は読後感がじんわり暖かい、ぞうはな様らしいお話になってきそうでしょうか。期待して更新をお待ちしています。ありがとうございました。

Genki | URL | 2013/12/15 (Sun) 02:23 [編集]


Re: 敦賀さん、次回に期待しています。

> Genki様

本当になぜだか蓮さん、我儘なお子様な恋愛に…
社さんがしっかりフォローしてくれるのでまだ何とかなっていますが。
おそらくここまで見た目の良さも手伝って自分に向き合うような真面目な恋愛をしてこなかったつけがあるのかなあ、と思ったりもしております。
さてここから、どれくらい蓮さんがしっかり持ち直すのか?

ぞうはな | URL | 2013/12/15 (Sun) 14:18 [編集]