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empty shell (14)


こんばんは!ぞうはなです。
ではでは、続きをどうぞ!





「なっ!なんでそんな…!」
黙って慎一と雄生から離れたつもりだったのに、しっかり行き先も目的も把握されていて光は慌てた。
「だってリーダー、本番中もずっとそわそわしてたやないか」
「なー。丸分かりや」
「そんなの!勝手に決めるなよ!」
「じゃあ何の話やったん?」
「……」
「あ、やっぱ京子ちゃんに会ってたんやな」
「ぐ…」
2人に遠慮なくぐいぐいと突っ込まれて光は絶句した。

「べっつに、責めてるんとちゃうで。感心してるんや、珍しく積極的やなって」
「そうそう。あのスクープ記事に便乗して距離を縮めるなんて、奥手なリーダーにしちゃ上出来や」
「ち、違うよ!別に記事は関係ないってば。ただ、初めて2人でたくさん話せて、その、楽しかったってだけで」
「おーおー、ええやん、ええやん。で?」
「でって、別に…」
「断られたんか?」
「……返事は…今はしないでほしいって言ってきただけだよ」

おわーーー!という叫びを2人が上げたため、光は眉をしかめて2人を制した。
「でかい声出すなってば!!」
「ついに…ついにリーダー、言うたんやな!」
「その場で返事もらわないあたりがリーダーっぽいけど!…でもなんでなん?」

光は雄生のその疑問に少し考え込むと、真面目な顔で口を開いた。
「俺だって…京子ちゃんがそういう目で俺のこと見てないって分かってるんだ。だけどさ…嫌われてなくて、他に好きな人がいないんだったら、もしかしたらこの先少しは望みがあるのかなって思ってさ。考える時間を取ったらちょっとはその、意識してくれるかなあって…」

「おおお、この策士!」
「リーダー、そんなに深いところまで考える男だったかぁ?」
「うるさいな!俺だって……まあ、アドバイスくれた人がいたんだけど…」
「え、誰が?」

その時、3人の背後から声がかかった。
「やあ石橋君。おはよう」

がばっと振り返った3人の目に飛び込んできたのは、少し離れたところで穏やかに微笑む同じ事務所のトップ俳優だった。
固まる2人のメンバーに先んじて、光が慌てて挨拶を返す。
「敦賀君!おはよう」
「なんだか賑やかだね。向こうの方まで声が聞こえてたよ」
自分の後方を指す蓮に、光は申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめん!こいつらがうるさくってさ…」
「いや、楽しそうでいいんじゃないかな。石橋君、明日はまたよろしく」
「こちらこそ!明日で本当に最後なんだよね」
「ああ。その場に立ち会えるのが楽しみだな。じゃあまた明日」
「うん。お疲れ!」
3人の前から蓮は立ち去っていった。

「俺、こんな距離で会ったの初めてや!とてもリーダーと同い年とは思えへん…。リーダー今ドラマで一緒なんやな」
「うん…」
「リーダー、どないした?」
蓮の消えていく後姿を見ながら光は首をひねった。
「なんか…敦賀君いつもと違ったような…?」
「どこが?」
「いや、わかんないけど…」
光の呟きに、2人も顔を見合わせる。しかし、話を逸らされた!と再び光の追及に取り掛かったため、3人の頭からは蓮のことはあっという間に抜けていった。蓮が去って行った方向が光が先ほどやってきたのと同じだということも、特に気にとめはしなかった。


キョーコは光と別れた場所に先ほどまでと同じ姿勢で座ったままだった。
険しい顔で何回もため息をつき、思考の内側に入っていたため、先ほどから聞こえているはずの音に気がついたのはそれがだいぶ近くに来てからだった。

人気のない廊下に響く靴音。
それは、間違いなく自分のところに近づいてきている。やっとキョーコが顔を上げると、そこには見慣れたシルエットの男性がいた。キョーコは目を見開いてしばらく固まってからようやくはじかれたように立ち上がる。
「お、おはようございます敦賀さん!」
「おはよう」
蓮はキョーコの前まで歩を進め、立ち止まると言葉を返してきた。その顔を近くで見て、キョーコの全身にびりびりとした、緊張と言うかそれを超えた金縛りに近い感覚が走る。

蓮の顔に笑みはなかった。
何を考えているのか全く分からないが、その表情は怒りを溜め込んでいるようにも見える。その証拠に、キョーコのレーダーは蓮の体の後ろから噴出するどす黒い何かを捕らえており、しかし怨キョたちは喜ぶどころかその波動の強さに驚き戸惑って出てこようとしない。

「敦賀さんもここでお仕事ですか…?」
キョーコはなんとか声を出す。
「ああ、さっき終わったところ。最上さんは石橋君達と一緒だったの?」
キョーコの肩がびくりと跳ねた。今蓮の口からその名前が出ることがキョーコの胸にはずしりと響く。それに、ブリッジ・ロックの番組での坊としての仕事は蓮には秘密にしているはずだ。
「そうですけど……なぜ?」

蓮の口の端が片方だけふっと吊り上がる。それを見てキョーコは悟った。今目の前にいるのは、以前見たことがある男だ。蓮でもカイン・ヒールでもない、もう1人の誰か。

「ロビーで彼らが大声で君の事を話していた」
「私のこと…?」
何を話していたと言うのか。まさかついさっきのことを?いや、光がそんなことを…

「君は石橋君と付き合っているのか?」
ごちゃごちゃと心の中で考えていることを吹き飛ばすように、蓮から直球の問いが投げられた。
「い、いいえ!付き合っていません!」
キョーコはぎょっとしながらも即座に否定した。
「じゃあ、これから付き合うとか?」
「これからも何も、私は誰とも……」
「誰とも?」
「誰とも、お付き合いなんてしません。私はもう恋愛はしないって、誓いました」
「じゃあなぜ」
蓮の言葉はキョーコの返事にかぶせるように畳み掛けられていく。キョーコは後ろに下がりたい気分になったが、ベンチが邪魔で身動きが取れない。
「なぜその場で告白を断らない?」
「返事は今しないで欲しいと…言われたからです」
蓮はどこまで知っているのか。分からないが、何かの確証を持って問いかけられている気がして、誤魔化したり嘘をついたりすることができない。いや何よりも。この蓮の暗い瞳に見つめられて嘘をつくなどできない。嘘がばれたらどんな恐ろしい事態が待っているのか、キョーコは想像もしたくなかった。

「言われたから?そう言われたら、君は男に気を持たせるようなことを平気でするのか」
「そんなっ…!」
「断るなら、その場で断ればいい。返事が引き延ばされれば引き延ばされるほど、相手は色よい返事がもらえるものと期待するだろう。そんなことも分からないのか?」
「だけど…返事をする隙をもらえませんでしたし…」

ふん、と鼻で笑われた気がした。キョーコが見上げる先輩の顔は、蔑むような表情をこちらに向けている。

「それともなんだ…君は恋愛などしないと言っておきながら、好きだと言われて心が揺れたのか」
「違います!」
「不破に痛い目に合わされたというのに、喉もと過ぎれば、とは随分と軽い決意だな」
「いいえ!私はもう…あんな愚かな自分には戻りません。愛だの恋だのという愚かな感情はもう捨てました!」
「ならば」
蓮の声は冷たく響いた。少し空いた間に、キョーコは気持ちの悪い汗が背中を流れていくのを感じる。

「相手の誤解を招くような行為は控えた方がいい。…ああ、不破の仕打ちへの復讐として、他の男に同じ思いをさせると言うなら話は別だが」
「そんなことしません!私は…復讐はショータロー本人にとしか思っていませんし……自分と同じ思いを他の人にさせるつもりもありません」
キョーコは言いながら、何か自分でも制御できない感情が湧き上がって来るのを抑えることができなくなってきた。
「嫌なんです…!こんな感情、自分も周りも見えなくなるなんて嫌!想いが破れて辛いのも、もう二度とごめんです…!私はもう一生、一生愛だの恋だの愚かなことには踊らされずに生きていきます!」
「誓えるのか」
蓮は無表情のまま静かに聞いた。対するキョーコはギンと険しい目で蓮を見返す。
「もちろんです」
「じゃあ、見せてもらおうか。君のその誓いの強さを、行動でね」
「わかりました」
蓮はずっとキョーコに据えていた視線を、ふいと外す。そして独り言のように呟いた。
「ならばいい…」

蓮の視線が外れたことで、キョーコは体が動くようになったことを感じた。しかし蓮が吐き出すどす黒い何かはいまだ収まっておらず、この場にいるのも限界が来ている。
「では、失礼します!」
キョーコは蓮の顔も見ずにがばりと頭を下げると、小走りでその場から立ち去った。
頭は整理されず、血液が全部脳に集まってしまっているかと思うくらいぐらぐらする。でも、今この場に蓮と一緒にいたらもっとひどいことになりそうで、キョーコはとにかくその場から逃げ出すことしか考えられなかった。


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