SkipSkip Box

empty shell (13)


うむむむ。
なぜこういう流れになるのか…
てことで、続きです。




キョーコが甲子と恋愛について語った翌日、キョーコと光は車の後部座席に並んで座っていた。
ドラマの撮影は連日続いているのだが、この日は「やっぱきまぐれロック」の収録のために光とキョーコは一緒にドラマの撮影を抜けて、ブリッジ・ロックのマネージャーの運転でTBMへと向かっているのだ。
静かな車内では、キョーコと光がお互いの様子を伺いつつもそれを気取られぬように素知らぬ顔で座っている。


なんか今日の京子ちゃんは元気がないというか、ちょっといつもと違う気がするんだよなあ?
うーーん、どうしたんだろう…目があっても逸らされちゃうし、話しかけるとその都度ビックリしてる気がするし、俺、なんかしたかなあ?

光は昨日からのキョーコの変化に戸惑っていた。思い当ることはないのだが、自分への対応だけに変化があるように思えて懸命に昨日の自分の言動を反芻する。


どうしよう……
昨日あんなことを三谷さんに言われたせいかな、変に光さんの事を意識しちゃう…!
だめよキョーコ、平常心平常心。だって別に光さんに直接何か言われた訳じゃないんだし、あれは単に三谷さんがそう思い込んでるだけかもしれないんだし。
でも、もし光さんが…もし、もしもよ?本当に仮定よ?
もし、私の事好きだったとして…私は……どうするの?


「ねえ京子ちゃん?」
考え込んでいたところに当の本人の光から話しかけられて、キョーコは飛び上がった。
「うひゃっ!な、なんでしょう?」
「や、あの…俺、なんかしたかな?」
「え?」
キョーコはドキリとする。
「いや、もしなんか俺が京子ちゃんの気に障るような事したんだったら謝りたいなと思って」
「ええ?ご、ごめんなさい!そんなこと、何もないです!」
「そう?それならいいんだけど」
「すみません光さん。私、光さんに対して失礼なことしちゃいましたか?」
神妙な表情で頭を下げるキョーコに、光は慌てて片手をぶんぶんと振った。
「ああいや!俺が勝手にそう思っちゃっただけだからさ。逆にごめんね!」

えへへ、と笑顔を作る光の顔を、キョーコはまじまじと見つめてしまう。
自分は今まで、光のことを"事務所のタレントとしての先輩"とだけ思っていた。光に対して恋愛感情を抱くなど、それからその逆についても、考えてもみなかった。けれど、甲子に言われて意識してみれば、確かに光は優しくどこか熱を帯びた視線で自分を見ているような気もする。

思われる幸せって……あるの?

本気で自分を好きだと言ってくれる人がいたら。
自分はどう答えるのだろうか。もう、蓮への気持ちが叶わないものだとするならば、自分は本当に一生恋だの愛だの愚かなことを遠ざけて過ごすのか。それとも、その内また別の相手にそんな愚かな気持ちを抱くのだろうか。それとも甲子が言うように、愛される幸せというものがあるのだろうか。

「どうしたの、京子ちゃん?」
光の顔を見つめたまま考え込んでしまったらしい。はっと我に返るとキョーコは赤面して謝罪した。
「す、すみません!なんでもないんです!!」
心を落ち着けるように長く息を吐き出してフロントガラスから前を見つめるキョーコを、光はちらちらと見ながら何かを考え込んでいた。


なんか、疲れちゃったかな…

坊としての収録を無事に終えて、キョーコは着ぐるみを脱ぐと控室を後にした。
セリフもなく表情も見えず体を動かしていればいいのは今のキョーコにとってはありがたかった。が、明日はまたドラマの撮影に戻らなければならない。明日は最後の撮影となる予定で、蓮も参加するのだ。蓮、光、甲子と一緒の仕事だと、また色々と余計なことを考えてしまいそうだ。


大丈夫!明日でクランクアップじゃない!

よし、とひとつ頷いて顔を上げると、少し先に光がたたずんでいる。
先ほど挨拶をして別れたはずなのに、なぜここにいるんだろうか。光は「ごめん、ちょっとだけ大丈夫?」と、キョーコを促して歩き出した。

「こんなタイミングで言うのは迷惑だって分かってるんだけど」
光は周りに人がいない隅の休憩所でベンチにキョーコと並んで腰を下ろすと口を開いた。普段にこにこと笑顔を絶やさない光が真顔で話しているので、キョーコもじっと耳を傾ける。
「明日でドラマの撮影も終わりで…今みたいに毎日のように会うこともなくなっちゃうし」
「光さん…?」
「あのさ、京子ちゃん」
「はい!」
キョーコはぴしりと背中を伸ばす。キョーコの隣で勢い込んで身を乗り出した光は、思いのほか近い距離のキョーコの顔を見つめてしまい、ごくりと唾を飲み込んだ。それからプルプルと頭を振って、もう一度しっかりとキョーコの目を見つめる。

「週刊誌にスクープされて…それもあって撮影の時も周りにからかわれたりしてすっかり振りまわされてるんだけどさ」
「はい」
「俺…ちゃんと考えてみたんだ。考えて、やっぱりそうだって改めて思った」
何を?とキョーコは思ったが、黙って光の言葉を待つ。

「俺さ…俺……やっぱり京子ちゃんの事が好きだ」
キョーコは目を見開いて息をのんだ。昨日から甲子に言われてあれやこれやと考えたが、まさかこのタイミングで本人の口から聞かされるとは思わなかった。
「京子ちゃんと話してると楽しいし、笑顔が見られるとドキドキする。いつも一緒にいたいって思うんだ。この間一緒にご飯食べに行ってすごく楽しかった」
早口で言いきって、光はふう、と息をついた。キョーコは何を言うこともできず、光の顔から目をそらしてひたすらに床のタイルの継ぎ目を見つめる。
「今まで仕事でしか会ってないけど、仕事抜きでプライベートで仲良くなれたら楽しいだろうなって思っちゃって」

黙ってしまったキョーコを気遣うように、光は少し明るい声を出した。
「ごめんね、こんなところでいきなり変なこと言っちゃったりして!でも、明日でドラマ撮影が終わりだって思ったら…変な勇気が出ちゃったよ。ああ、あの、返事が欲しいとか、そういうことじゃないんだ!」

え?と困惑顔で自分を振り返ったキョーコに、光は慌てて付け加えた。
「いやだってさ、いきなり言われたってよくわかんないでしょ?だからとりあえず今は、俺の気持ちを知ってもらえるだけでいいんだ。あ、もちろん京子ちゃんに好きな人がいるんだったら諦めるし…えっと……」
光も言葉に詰まってしまい、その場にしばし沈黙が流れる。

「私は…」
やっと口を開いたキョーコは、自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉をつないだ。
「私は…もう誰ともお付き合いしないって……決めてるんです」
「誰ともって…今、誰か好きな人がいるってことではないの?」
「違います!そうではないんです。ただ、恋愛はしないって…」
「そっか、よかった!じゃあさ、ほんとにやっぱり、今返事はしないでくれるかな?」
「え?」

よかった、とはなんで?とキョーコは驚いて光を見つめる。光は照れくさそうに頭をかきながら弁解した。
「今返事もらっちゃうと…明日へこんで仕事にならなかったりするし…あはは、自分で今言っといて情けなくてごめん。それに、もし好きな人がいないんだったら、ちょっとでも俺を見てくれたら嬉しいなって思って」
「あ……」
「付き合うとかじゃなくても…京子ちゃんのそばにいられたらなって……ただそれだけなんだ。じゃあ、また明日!」
光はぴょんと立ち上がると、にっこりと笑って手を振り、小走りに去っていった。

挨拶をしないと、と思いながらも声が出ないでいる間に光は見えなくなってしまった。

「なんで…なんでこんな私なんかに?光さん……」

光の笑顔、甲子の言葉、尚の嘲笑がぐるぐると頭の中で渦を巻く。
自分の心は決まっているはずだ。

もう恋だの愛だのはごめんだ。愚かな感情を抱いてバカな女にはなりたくない。

けれど。
そう考えても1人の男の顔が頭から離れない。
キョーコは動くことができず、考えても虚しいだけの、けれど振りきれないその思いをもてあましていた。


「リーダー!どうやった??」
馬鹿でかくロビーに響き渡る声に蓮は顔を上げた。
「どうって何が?」
いささか動揺したような声がそれに答える。その声に蓮は聞き覚えがあった。確かあれは…

「誤魔化してもあかんて。京子ちゃんと会っとったんやろ?」
「ば、バカ!大声出すなよ!!」
「ああ、やっぱそうなんや」
「ちょっ、ほんとに!誰かが聞いてたら…」

蓮がいるのはTBMのロビーの一角。見通しのいいロビーだが、蓮の座っているソファの後ろにはかなり太い丸柱があり、その周りには観葉植物の大きな鉢がいくつか置かれているため、ちょうどその柱の後ろ側にいると思われる会話の主達からはまったく蓮の存在が分からない。

「で、で?京子ちゃんの返事は?」
「返事ってなんのだよ?」
「告白したんちゃうん?」

幾分声のトーンは落ちていたが、はっきりとその会話の内容は蓮の耳に届いていた。






えせ関西弁はご容赦ください…

関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する
 

敦賀さんの反応が気になります。

今晩わ。今回のお話もとても面白かったです。続きがとても気になります。特に敦賀さんの反応がどうなるのか、ヘタれたままなのか、前向きに動き始めるのか、どうなんでしょう?ぞうはな様のこれまでのパラレルは、積極的な敦賀さんも一杯出て来たと思いますが、これ、いわゆるパラレルではないですよね。ぞうはな様の描く積極的敦賀さんが結構お気に入りなので、期待してお待ちしています。すぐにでも更新を!と言いたいところですが、ご無理のない範囲で宜しくお願いします。どうもありがとうごさいました。

Genki | URL | 2013/12/10 (Tue) 21:44 [編集]


おお、蓮さん聞いちゃうんですね!立ち聞き(座ってるけど)パート2←1は尚との会話。これで蓮さんの危機感が煽られてくれればよいのですが…

霜月さうら | URL | 2013/12/11 (Wed) 08:42 [編集]


Re: 敦賀さんの反応が気になります。

> Genki様

いつもコメントありがとうございます!
さて、蓮さんの反応は…?
拙宅の蓮さんはそうですね、あっさり前向きで積極的な事もあるのですが、いかんせん原作沿い、と思うと急にうじうじヘタヘタ…
前向きになれない蓮さんにはカツを入れたいところですが、なかなかどうしてですねー。
じみじみと更新しますのでよろしくお願いいたしますー!

ぞうはな | URL | 2013/12/11 (Wed) 20:08 [編集]


Re: タイトルなし

> 霜月さうら様

コメントありがとうございます!
蓮さん、うっかり聞いてしまいました。
この話ではブリッジ・ロック、立ち聞きされまくっています。もう、プライバシーないですね、光君。
でも、自分の好きな子にアプローチしそうな会話を聞くのって、辛そうですね…。


ぞうはな | URL | 2013/12/11 (Wed) 20:09 [編集]