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こんばんは!
今日も今日とて更新です。(←使い方違うか?)





撮影中のセットを少し下がった位置でじっと見つめながら、キョーコは腕組みをして考え込んでいた。すでに昼休憩は終わり、蓮を加えた撮影は順調に続いている。

さっき…敦賀さんは怒ってる訳じゃないって言ってたけど…
だけどあの時は明らかに怒ってたわよね?
でも…結局なんで怒ってたのかうやむやになっちゃったな…もう改めて聞くのもなんだか聞きにくいし。
それに……

監督の「カット」の声に、撮影が終わって出演者たちがセットから下りてくる。
キョーコの視線の先では、甲子が楽しげに笑いながら蓮に話しかけ、さりげなく腕に手をかける。蓮も笑顔で甲子に答え、何かをしゃべっているようだ。


はあ。

思わずため息をついて、キョーコは戻ってきた一団の、蓮とは一番離れたポジションへとさりげなく移動した。ちらりと蓮の方を伺うと、蓮はまだ甲子と話している。甲子はもう蓮に触れてはいないが、肩同士が重なっていて距離は限りなく近い。

やっぱり、ショータローの言った通り…なの?

嬉しそうだった、とショータローは言ったが、キョーコが見る限り今の蓮の表情はいつもの笑顔。
蓮がいつも浮かべているその笑顔は十分に優しくて甘くて、目を合わせて笑いかけられれば大抵の女性はハートを撃ち抜かれてしまうが、キョーコは知っている。それは、蓮が内面をきれいに隠して浮かべる通常の表情なのだ。

神々笑顔ではないようだけど…な?

ほんのちょっぴり、キョーコの気持ちが和らぐ。
あのすべてが浄化されるような神々しい眩しい笑みを甲子に向けていたなら、キョーコはもっと落ち着かない気分になるはずだ。とりあえず他の女性達に見せるのと同じ笑顔だ、ということがキョーコにとっては救いになっていた。

って、何よ!
もしかして、自分にだけあの笑顔を向けて欲しいなんて、思ってないでしょうね!!!

自分に問いかけた時点でそれは肯定だ。
キョーコは自分勝手な思考が無性に恥ずかしくなったが、そのタイミングでふと蓮が視線をキョーコへと向けた。

きゃーっ!

自分がじーっと睨み付ける様にして蓮を観察していたのだ。蓮がその視線を感じたのは当然のことだったのだが、キョーコは慌ててふいと目をそらす。

み、見てたの、ばれた?

恐ろしくて視線を戻せない。不自然に思えるほど目線を下げていると、いいタイミングで光が話しかけてきた。
「あのさあ、キョーコちゃん?」

「はい、なんでしょう?」
渡りに船とばかりにキョーコはその問いかけにすがりつく。蓮を視界からはずすようにしっかりと光に向き直り、はきはきと笑顔で返事をした。
「あ、うん、次は台詞長いけどもう大丈夫?」
「ええ、昨日ばっちり覚えたので大丈夫……なはずですけど、すみません、もう一回確認します!」
あたふたと置いてある台本へと駆け寄るキョーコと、それを笑顔で見守り追いかける光。

「やっぱりあの2人って仲いいよね?」
蓮の視線の先を確認し、顔を寄せて囁きかける甲子に対して曖昧に無言のまま笑みを浮かべると、蓮はふっと2人から目をそらした。



「私に任せてくれれば悪いようにはしない」
「任せるって…何をですか?」
銀色の丸いトレイをぎゅっと抱きかかえるようにしてクリーム色のエプロンをつけたキョーコは尋ねた。警戒をしているのだが、明らかに言葉に揺さぶられてその瞳には動揺の色がにじむ。対する蓮はのんびりとコーヒーカップを取り上げ、香りを楽しんでからゆっくりと口をつけた。

「君はお父さんの敵を討ちたくはないの?」
「なっ!どうしてそれを…!」
「あの探偵先生に任せていても、君の望みは永遠に果たせない。私がこの短い間にたどり着いた真実に、あの男がまだ到達していないと君は本気で思うのか?」
「それって……どういうことですか」
表情を固くしたキョーコに、蓮はふっと笑いかけた。
「君が一番分かっているだろう。そういう顔をしているよ」
「……」
キョーコはトレイを抱きかかえる腕に力を込めた。
「私ならその思いを晴らしてあげられるが…?」
「私は……」
キョーコが迷いを湛えた瞳を伏せると、ドアベルがけたたましい音を立てた。

「まりちゃん!そいつに近づいちゃ駄目だ!」
店に飛び込んできた光がキョーコと蓮の間に割って入り、険しい表情で蓮をにらみつける。
「私は嘘は言わない。君の質問にもすべて答えよう。いつでもおいで」
蓮は光には一切に構わずにキョーコを見ながら立ち上がった。そのままドアへと向かう蓮をキョーコと光は黙って見送るが、蓮がドアに手をかけるとキョーコが叫ぶように言った。
「なんでですか?なんで、あなたは私のことを?こんなことして、あなたに何の得があるの?」

蓮はゆっくりと振り返る。
「なぜ…?……そうだな…君が昔の私のようで放っておけないから、かな?」
蓮は少し寂しげな、そして慈しむような微笑みを一瞬だけ浮かべると、すぐにその表情を消してドアの外に消えた。それを見てしまったキョーコは心配そうな光に「大丈夫」と答えながらも、困惑の表情を消すことができなかった。



「うん、いいね!京子ちゃん、いい表情だ」
監督が撮影した映像をモニターでチェックしながらぽつりと言う。後ろでキョーコは頭を下げ、それから隣に立つ蓮をちらりと見上げた。
「なんか…やっぱりずるいです…」
「なにが?」
単純に疑問を返した蓮の目には、少しふてくされたようなキョーコの表情が映る。
「だって…また敦賀さんに演技させられただけですもん」
「そんなことないだろう」
「ありますよ!あんな表情見せられたら、素でびっくりします」
「その俺の表情は最上さんの演技が引き出すんだよ」
「でもその私の演技は敦賀さんの演技がさせるんです」
「じゃあその俺の演技は…」
言いかけた蓮を「ああもう、きりがありません!」と遮って、キョーコは笑顔を見せる。
「でも本当、着実にうまくなってきてるね」
真顔で落とされた蓮の言葉に、キョーコは目をしばたかせた。
「共演するたびに実感するから楽しくなるよ」

「……そのお言葉、素直に受け取っていいんですか?」
喜ぶどころかキョーコは少し表情を険しくしている。
「なんでそう君はいつも疑うんだ?」
「だって…敦賀さんに褒められるなんてあまりに珍しくて。大体嫌味を言われるか意地悪を言われるか、あとはからかわれるか…」
指折り数え上げるキョーコに今度は蓮が眉間に皺を寄せて腕を組んだ。
「君はいつもどういう目で俺を見てるんだ?」
「そう思われるならまずご自分の言動を振り返ってください」
横に立っていた共演俳優がたまらず吹き出して、キョーコは会話を聞かれた恥ずかしさに赤くなる。

「俺は本当に君との共演が楽しいんだよ。嫌味でもなんでもなくね」
蓮にやさしく頭をぽんぽんとされながらふわりと微笑みかけられて、キョーコは胸がぎゅうっと苦しくなるのを覚えた。


やっぱり…敦賀さんは特別な人。人間としてもお芝居の先輩としてもすごくすごく…特別。
おとこのひととしても…特別な…でもでも……
ねえ敦賀さん……私のこの気持ちには蓋をしますから…絶対あなたにも誰にもばれないようにしますから……
敦賀さんの一番が他の人でも……三谷さんでもいいんです。
せめて、後輩としてそばに置いてもらえますか?


キョーコは蓮に「ありがとうございます」と答えながら、心の中では祈るような思いだった。
これ以上のことを望んだら、今のこの位置も危うくなる。ならば、他の何を犠牲にしても押し殺してもやっぱり近くにいたい。

蓮から視線を外してキョーコはややうつむいたため、蓮からはその顔は見えなくなる。だから、キョーコの切なげな悲しげな表情に気がついたのは、少し離れたところで蓮とキョーコを見ていた光だけだった。


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コメントコメント


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まあ、まだまだキョーコちゃんてば後ろ向き思考

今晩わ。今回も楽しく読ませていただきました。そして、まだまだキョーコちゃんがズブズブと後ろ向き思考を続けて素直に甘えられないじれったさを感じておりました。前回のスクープ写真疑惑もまだ不明のままですね。気になります。ぜひ更新をお待ちしております。どうもありがとうございました。

Genki | URL | 2013/12/05 (Thu) 20:35 [編集]


Re: まあ、まだまだキョーコちゃんてば後ろ向き思考

> Genki様

いつもコメントありがとうございます!
お返事が遅くなりまして申し訳ありませんー。

キョコさん、はまるところまでどはまりしております。
そりゃあ蓮さんが煮え切らないしどうにもなりませんよね…
一気に逆転、とはいきませんがそろそろヒーローには男らしくしてもらわないといけないのですが、なかなか蓮さん動きません~~
もうしばらく我慢のお付き合いを~~!

ぞうはな | URL | 2013/12/06 (Fri) 20:56 [編集]