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こんばんは。
今、こそこそとこの作業をしておりますーー…
では続きをどうぞ。





「何よまた適当なこと言って」

鼓動が急に大きく速くなった気がする。なんとか顔に動揺が現れることを回避して、なんでもない風を装いキョーコはさらりと言い返した。
「適当じゃねえよ。直接見たんだ」
「何を」
「敦賀と三谷甲子がいちゃいちゃしてるところ」

いちゃいちゃする蓮を想像するのは非常に難しい。
しかしこちらの様子を伺いながらにやにやと笑う尚は自信があるようで、全くのでたらめを言っているようには見えない。キョーコは慎重に言葉を選んだ。
「…敦賀さんは人前で節操もなくいちゃいちゃするような人ではないと思うけど」
はっ、と尚はバカにするように声を発した。
「じゃあ、敦賀でもあの女でも聞いてみろよ。『麻布の○○って店に2人で行ったか』ってな。否定しねーはずだぜ。べったりひっついて店から出てきたってこともな」

尚の言っていることは、全部が全部でないにせよ本当だ。瞬間的にキョーコは理解した。
ドラマの撮影で、甲子が「この間は」と蓮に言っていたのをしっかりと聞いた。あれはこのことだったのだと、キョーコはようやく腑に落ちた気がした。もちろんそれは、すっきりする種類の納得ではなかったのだが。

「敦賀の奴もでれでれしやがって嬉しそうだったしな。あの後どうしたのかは知らねーけどよ?」
暗にそのあと何かがあったような口ぶりだが、実際は見ていないのだろう。キョーコは心にどんよりと溜まっていくあれこれを内側へとぎゅっと閉じ込め、興味がなさそうな表情を作ると真っ直ぐに尚を見た。
「で?それで何が言いたいの、あんたは」
「ああ?」
「敦賀さんがプライベートで誰とどうしようが、あんたや私が口を出すことではないわ。何も悪いことしてる訳じゃないもの。自分だがやられたら腹立てるだろうに、下品すぎるわよ」
「なっ…!」
「私はもう恋だの愛だの面倒なことはごめんだわ。だから、人の恋愛にも興味はないの。大体前も言ったけど、私は敦賀さんをそういう対象としてみないわ。なのにいちいち言いに来るなんて、あんたどれほど暇なの?」
「俺が来たのはそんなことのためじゃねえよ!」
「じゃあ何?光さんとの週刊誌の記事のことだって、事務所から出したコメントどおり何もないわよ。まったくくだらない事で迷惑かけるのやめてよね。大体こうしてるのだって写真撮られたらどうするつもりなのよ」

キョーコはつんと顔を背けると止めていた足を再び動かした。動悸は相変わらず収まらず体は少し震えていたが、それを思わせないようなしっかりとした足取りで立ち去る。尚は今度は引き止めることはせず、そのまま後姿を見送った。

声が届かないくらい背中が小さくなってから、がりがりと頭をかくと尚はぼそっと呟いた。
「ふん…面白くねえの……」



「京子ちゃん」
呼びかけられてキョーコは笑顔で振り向いた。後ろに立っていたのは光だ。
「はい」
「今日はいよいよまた敦賀君と一緒の撮影だね」
「そうですね…」
キョーコの顔に張り付いた笑みに少し陰りが現れる。

キョーコと光が共演しているドラマ撮影は大詰めを迎えていた。すでに最終回のシーンもいくつか撮り始めているのだが、蓮の出演シーンは蓮のスケジュールにねじこませたわずかな時間に撮影を済ませなければならず、現場の緊張感も少しずつ高まっている。
蓮はこの日、スタジオ撮影に昼過ぎからの合流予定となっていた。

「京子ちゃん、大丈夫?」
急に顔を覗きこまれるようにして聞かれて、キョーコは思わず光の顔を見つめ返してしまった。
「えっ?な、何がですか?」
ばっちりと目があって、光が少し慌てて目をそらす。それからまたそろりと目線を戻し、少し笑いながら言った。
「いや、何もないならいいんだけどさ。なんか今日、ちょっと元気ないかなって思って」
「え」

尚に待ち伏せされた日以来、やたらとあれこれ深く考え続けてしまっている。そして今日は蓮に合うのだと緊張した結果、どんよりとしてしまっているのは事実だ。キョーコはどきりとした。

『蓮のプライベートに口を出すものではない』

尚に言い放った言葉がそのまま戻ってきて自分の胸に突き刺さる。
当然、蓮に何かを言うつもりはない。いや、言える訳がない。いっそのこと考えるのをよそう!と決意してみるものの、甲子と連日のように顔を合わせるものだから、つい寄りそう2人の画を想像してしまい、勝手にもやもやを感じるなど落ち着かないことこの上ない。

「やっぱり元気ないよね」
思わず思考の渦に飲み込まれて黙りこくってしまったキョーコを、心配そうに光は見ている。
「いえ、大丈夫です!元気ですよ?」
「んーー…じゃあ……」
光は口を開いたもののしばらく言葉を切って言い淀み、不思議そうな顔をしたキョーコを見て言葉を継いだ。
「何か、悩み事がある?」
「え?いや…それもないです!」
さらっと言いきろうと思ったのに、視界の向こう側に甲子の姿が入ってきて一瞬間が空いてしまった。不自然な間は肯定と取られるかも、と慌ててキョーコが言い足そうとすると、光が思い切ったように少し大きな声を出した。
「あのさ!」
「は、はい?」

「俺、京子ちゃんとこうやって一緒にいると楽しいし、何か悩んでる事があるなら力になりたいって思うから…あの、もしよかったら、頼ってほしいな」
「え……」
「それにあの……今度は気をつけるから、また一緒にご飯食べに行ってくれる?」
光はこぶしをぎゅっと握りしめて真面目な顔で真っ直ぐにキョーコを見ている。
「は、はい…あの、よろしくお願いします」

光の顔がぱあっと笑顔になった。
「よかった!!」
同時にスタッフが昼休憩に入ることを大声で宣言する。光は笑顔のままでキョーコに声をかけた。
「一緒にお昼行かない?」
「あ、はい!」
2人はたわいもない世間話をしながら連れだって食堂へと足を向けた。

キョーコと光が一緒に昼食をとる頃、スタジオの駐車場に蓮の車が滑り込んできた。
「あー、時間的にはセーフだな」
低い位置の助手席から体を外へと引っ張り出し、時計を見ながら社が言った。前の仕事がやや押したのでハラハラしたのだが、道が空いていたためスムーズに到着できた。
「ちょうど昼休憩くらいでしょうか」
蓮もドアを閉めながら答える。
「だな。着替えて午後から参加できるくらいだな」
「間に合ってよかったですね」
「ほんとだなあ」

蓮は社がスタジオに歩き出すために背中を向けたタイミングでこっそりとため息をついた。
しばらく自分の気持ちを整理する時間をとってキョーコとは顔を合わせないほうがいいと思っていたのに、急きょドラマの最終回への出演依頼が飛び込んで来た。蓮の変調は知ってはいるものの、キョーコと会うのを喜ばないはずがない、と社はきれいにスケジュールを調整して撮影の時間を確保してしまったのだ。

いや、これは仕事なんだ、仕事。

自分に言い聞かせながら、蓮は若干重くなった脚を持ち上げた。


蓮と社がスタジオに入ると、やはり昼休憩のようで少ない人数のスタッフがセットの準備をしたりと準備をしている以外、あまり出演者はいない。ちょうどそこに居合わせた甲子が蓮の姿を認めると笑顔を作って近寄ってきた。
「おはよう、敦賀君」
「おはようございます」
「ねえ、お昼まだ?まだだったら一緒に行かない?キョーコちゃんと光君を2人にしてあげたら、一緒に食べる人がいなくなっちゃって」
「そうなんですか。でも…」
蓮は見事に綺麗な笑顔を作ると、淀みなく答える。
「すみません、来る間に済ませてきたんです」
「あー、そうなんだ」

甲子とのやり取りを後ろで聞きながら、社はこっそりと「今日の昼飯、食いっぱぐれたな…」と心の中でぼやく。それにしても甲子がわざわざ口にしたキョーコと光についての言葉が少しひっかかる。まあでも、この冷静な返しが誘われたときの蓮のいつものパターンだよな、と思い直して、社はこっそりと蓮に声をかけた。
「いいのか食わなくて」
「まだ空いてないからいいですよ。楽屋にいますから、社さんは行ってきてください」
「ああ、いいよ俺も」
こうして2人はあてがわれた楽屋へと向かった。落ち着いて少しすると、控えめなノックの音が響く。

「失礼します」
開いたドアの向こうから顔を覗かせたのは、光と少し緊張した面持ちのキョーコだった。


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コメントコメント


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どうなるのでしょうね。

こんばんは、美音です。
じれったい感否めませんね。
こじれてこじれて 4名様がどうなるのか・・・。
凄く気になります。

美音 | URL | 2013/11/29 (Fri) 23:10 [編集]


おお~!!

光さん、いつになく積極的じゃないですか!!
キョーコちゃん、押され気味ですよね。

蓮様にも、頑張ってもらわないとですね…
ってか、ぜひ、頑張って下さい!!

蓮様の甲子さんに対する態度に「ホッ」としてます。
どうか、悪女⁈の罠にはかからないで下さい!!

しゃけ | URL | 2013/11/29 (Fri) 23:51 [編集]


何かこれから起こりそうな感じですね…

今晩わ。とても面白かったです。二人の負の反応が連鎖して、これから何か起こりそうな感じですね。しかし、この二人はじれったい人々ですね〜。だから甲子さんの術中にあっさり陥ってしまうんですね。二人でする片思いがあるということがよく分かりました。この先の展開を楽しみにしております。どうもありがとうございました。

Genki | URL | 2013/11/30 (Sat) 01:37 [編集]


Re: どうなるのでしょうね。

> 美音様

じれったいですよね…
ただでさえ思い切って打ち明けられない2人なのに外乱があってなおさらこじれております。
じわじわほどければいいのですが。

ぞうはな | URL | 2013/11/30 (Sat) 19:39 [編集]


Re: 何かこれから起こりそうな感じですね…

> Genki様

お互いに思っているのにそれが伝わらず、第三者につけこまれるという構図ですね。ああもう、早いとこなんとかせい!と、社さんがじれそうです。
さてすんなりいくのか更にこじれるのか、お付き合いいただければと思います!

ぞうはな | URL | 2013/11/30 (Sat) 19:42 [編集]


Re: おお~!!

> しゃけ様

そう、光さん、なにか振りきれたのか少し押し気味です。おそらくスクープを逆手に取ろうと思ったのか、ブリッジロックの残り2人に押されたのか、あたりでしょう。
蓮さんの女性を見る目を信じたいところです。
今後もお付き合いくださいませー。

ぞうはな | URL | 2013/11/30 (Sat) 19:44 [編集]