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こんばんは!
今週最後の更新ですーーー。





甲子は着替えを済ませ、次の仕事に向かうため楽屋を後にした。

着替え終わった頃には甲子の携帯には貴島からのメールが着信していた。内容はたわいもないことだったが、食事の約束を取り付けようとする貴島の意識が行間から滲み出している。甲子はその文面を無表情に眺めて、これが蓮からのメールなら…と思いながら携帯を閉じた。

廊下を少し進むと、何かに気がついたマネージャーが甲子に声をかけてきた。
「ごめん甲子。さっきのプロデューサーさんに確認しとかなくちゃいけないことがあるの、忘れてたわ」
「え、そうなの?」
「ごめん、すぐ戻るから、ちょっとこのフロアの休憩スペースのところで待っててくれる?」
「ん、分かった。大丈夫、時間は余裕あるから」

「ごめんね!」と駆けて行くマネージャーを見送ってから、甲子はまたゆっくりと歩き出した。マネージャーに指定された休憩スペースの手前の角で、聞きなれた声が聞こえてきて足を止める。

「そうは言うけど、そんなに簡単じゃないよ!」

やや興奮して大きな声を出しているのはおそらく、昨日も撮影で一緒だった光だ。甲子はなんとなく気になって角のこちら側で姿を隠すように一歩下がって様子を伺う。

「せやけど、もうドラマ撮影も終盤やろ?もっとぐいぐい行ってもバチあたらへんって」
「ったく、せっかくのチャンスなのに煮えきらんな、リーダーは」

光はため息混じりに吐き出すように言葉を返す。
「お前ら、他人事だからって気軽に言うなよ」
「じゃあリーダーはええんか?京子ちゃんとこないに頻繁に会うチャンスなんて…」
「分かってるって!俺だって、ちゃんと話しかけてるし、何回か食事に誘ったりはしてるんだけどさ」
「誘うっちゅーてもどうせ控えめにやろ?強引さがないのがリーダーの悪いところやな」
「いいところでもあるけどな」
「なー」
「ほんと、お前らなあ…」

移動したのか、言い争うような声は遠ざかっていった。
光がキョーコに好意を寄せていることはドラマのスタッフや出演者たちにはそれとなく察知されているが、近づこうと頑張っているというのを本人の口からはっきりと耳にしたのは初めてだ。

でも、ほんわかした雰囲気とか、お似合いよね。

キョーコと光が話していると、周りまでなんとなくほのぼのしてしまうような空気になる。光は気の利いたことは言えず世間話に終始し、キョーコも光の好意には全く気づいておらず、それでも丁寧に後輩の立場で言葉を返すからだ。
甲子にとって、光のような優しいがある意味幼くも見えるような男性は全くタイプではない。が、キョーコにはむしろ合っているのではないか。
そう考えてから、甲子はあることを思いついた。早速その思いつきを実行に移すべく、甲子は廊下の角に立ったまま思案をめぐらせたのだった。


数日後のドラマロケ。これまでスタジオ外のロケにはほとんど参加していなかったキョーコの姿がそこにあった。
キョーコは喫茶店のウエイトレスと言う役柄上、これまではスタジオでの撮影が多くロケには参加しないことがほとんどだった。しかしドラマが後半に入り、キョーコの過去と現在の事件が関連を見せるような展開になったため、スタジオ外での出番も増えつつある。

キョーコから少し離れたところでは、撮影のために探偵役の俳優と光、そして刑事役の甲子が指示を待っている。甲子はちらりと周りを伺うと、光に話しかけた。
「ねえ光君。今日さ、ロケ終わったらご飯食べに行かない?」
「え、ご飯ですか?構いませんけど…?」
突然の甲子からの誘いに、真意を測りかねて少し戸惑いながら光が返答を返す。
「京子ちゃんとさ、3人で。いつも大勢になっちゃうからたまには若手だけってのはどう?」
甲子の言葉に、光の顔がぱっと明るくなった。
確かにこのドラマの出演者で食事に行くことはあるが、主役や主要人物には年上の俳優が多いため、雰囲気もそちらに引きずられるしやはりそれなりに気を遣う。
「ああ、そういうのも楽しそうですね」
「でしょ?光君は女の中に入っちゃうと、もしかしたらやり難いかもしれないけど」
「いいえ、お2人とも演技の先輩なので、色々話が聞けたら嬉しいです!」

またまた、と甲子はにこりと光に笑いかけた。
「じゃあ、終わったら声かけるから。光君は京子ちゃんに伝えておいてくれる?」
「分かりました!あ、でも京子ちゃんは予定大丈夫かな…」
「さっき、今日はこのロケで終わりって言ってたから、プライベートな予定がなければ大丈夫だと思うけど」
「はい、俺聞いておきます!」

休憩時間に早速キョーコの元に甲子の提案を伝えに行き、嬉しそうにOKを伝えに戻ってきた光を見て、計画の実行が順調なことを思い、甲子は内心でほくそ笑んだ。


すっかり日も暮れて完全に夜になった頃、撮影は無事に終了した。手早く着替えを済ませてロケバスの横で甲子を待つ光とキョーコの元に、少し慌てた様子で甲子がやってくる。
「ごっめーん!あのさ、誘っておいた張本人が言うのも申し訳ないんだけど…」
「三谷さん、どうしたんですか?」
いきなり手を合わせて表情を曇らせる甲子を、2人は驚き顔で見つめた。
「なんか急な打ち合わせを入れられちゃって、事務所に戻んなくちゃいけなくて」
「えええ?今からですか?」
「そうなのー。もう、そういうのは早めに言っといて欲しいのにさぁ」
「えと、では…」
次回にしましょうか、と言い掛けたキョーコの言葉を遮るように、甲子は早口で続けた。
「それでね、せっかくだから、よかったら2人で行って来てもらおうかと思って。ちょうど近くによく知ってるお店があってね。さっき予約しちゃってたんだ。もったいないでしょ?」

キョーコと光は無言で顔を見合わせる。それから同時に少し悩んだような顔で甲子の方に目線を移したので、あやうく甲子は噴き出しそうになった。
「これ、お店のカード。周りを気にしなくていいように個室を頼んであるんだ。今、人数の変更もしといたから」
甲子はコートのポケットから1枚のショップカードを取り出して光に差し出した。光は反射的にカードを受け取る。
「あ、すみません。わざわざ予約まで…ありがとうございます」
「ううん、本当にごめんね。すごく美味しいお店だし、折角だから2人で楽しんできて!あ、支払いも私につけといて」
「そ、そんな、それくらいちゃんと払いますから気にしないでくださいよ!」
光が慌てて甲子の言葉を遮った。最年長で芸歴も長い甲子に色々させて申し訳ないと、かなり恐縮している。
「んーだけど、申し訳ないからなあ…」
「じゃあ、あの、今度はまた予定をあわせて甲子さんとお食事、お願いしてもいいですか?」
キョーコの提案に、甲子は笑みを浮かべた。
「ありがとう。そうだね、また今度3人で行こう。そのときはおごるからさ」
「いえいえ、おごりなんてそんなのは!あの、ぜひ、勉強のためにも甲子さんのお話を色々と伺いたいんです!」

2人はぺこぺこと頭を下げて去っていった。
甲子が教えた場所に向かう方法を話し合っているようで、あれこれと指をさしてから2人は並んで歩き出す。甲子はじっとその後姿を見送ってから、ふう、と息を吐き出した。

「なんであんな嘘ついたの?」
マネージャーに問われて、甲子は笑顔で振り向く。
「えーだって、少しは光君の力になってあげたいかなって思ってさ。最初から1対1だと京子ちゃんも少し構えちゃうでしょ?」
「あら、そういうことなの?」
「そ。うまくいったら恋のキューピットとして感謝してもらわないとね」

甲子とマネージャーは車に乗り込んだ。
マネージャーがエンジンをかけて車を発進させると、甲子は後部座席で携帯を取り出していじりだす。

「でもそうね、京子ちゃんと光君ってお似合いかもしれないわ。穏やかな雰囲気なんてちょっと似てるもんね、2人」
しばらくしてからマネージャーが甲子に話しかけ、甲子もそれに対して頷いた。
「そう思うよね。すごいほんわかカップルになりそうじゃない?」
「なりそう。ちょっと昔の中学生カップルみたいな感じ」
2人はふふふふ、と楽しそうに笑った。

「でも、光君はなんとなく京子ちゃんのこと気に入ってそうってのは分かるんだけど、京子ちゃんは恋人はいないのかしら?」
「さあ?そういう話したことないなあ」
マネージャーの言葉に、甲子は携帯を操作する手をやめて少し考え込んだ。キョーコは自分を演技の先輩として慕ってくれていて、尊敬までしてくれているようだが、その分会話の内容は芝居のことが多くてあまりキョーコのプライベートを聞いた記憶がない。光に対しても蓮に対しても完璧に後輩の立場で接していて、色恋の気配はこれっぽっちも見えないのだ。

「あまりいそうな雰囲気もないけどね」
マネージャーの冗談めかした台詞に「ひどい」と笑い返しながら、甲子は再び携帯の画面に目を落とした。メールの送信処理を終えると、携帯をしまって窓の外に目を向ける。

「光君のこと嫌ってるって感じもしないから、その辺聞いてみて恋人いなかったら、お姉さんが一肌脱いじゃおうかな」

それだけじゃなくてダメ押しも、しちゃうけどね。
もちろん2人のため。まあ、大部分は私のためでもあるんだけどね…?

どっかの親戚のおばさんね、とマネージャーに笑われながら、甲子はそっと心の中でつぶやいた。


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コメントコメント


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凄いスリル!!

ご無沙汰してます〜!!
最近読みに来れない日が続いて、一気に2〜4を読みましたー!!
すんごい面白かったです!!スリル満点ですね!!
いつ蓮様が気付くのかとか、どう行動を起こすのかとか、色んなパターンが浮かんでしまいます!!!!
更新楽しみにしてますねー!!

風月 | URL | 2013/11/16 (Sat) 07:27 [編集]


Re: 凄いスリル!!

> 風月様

ご訪問&コメントありがとうございますー!
お返事が遅くなりまして申し訳ありません。

うふふ、一気読み嬉しいです♪
ぞうはなの話としては珍しく、今回は原作沿いであり、そして恋愛関連が主体となってます(今のところ)。
蓮さんとキョコさんがどう動くのか、はらはらと見守っていただけるよう、じっくり進めますのでのんびりお付き合いいただければと思います!

ぞうはな | URL | 2013/11/18 (Mon) 20:08 [編集]