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こんばんは!

早速本日もいきますー。





喫茶店のセットでの撮影は順調に進んでいた。

探偵が行きつけにしていることをどこで耳にしたのか、蓮が演じる大学準教授がこの店を訪れるシーン。セットには、喫茶店のマスター役の俳優とウエイトレス役のキョーコ、そしてそこを訪れる準教授の蓮とが入っている。

1カットの撮影が終わったタイミングで、甲子がスタジオへと入ってきた。
スタッフや共演者に挨拶をしながらセットに近づき、そこで撮影をじっと見ている光に気づいて声をかける。
「おはよう、光君。どう?順調?」
「おはようございます、三谷さん。はい、敦賀さんが早めに入ったのもあって結構順調ですよ」

甲子もセットの方を見た。ちょうど撮影の合間で、キョーコと蓮はセットに入ったままADと打ち合わせをしている。
「敦賀君と光君と京子ちゃんはみんなLMEなんだよね」
「はい」
「仲いいの?」
「いやぁ、俺は敦賀君と共演したことないので…ちゃんと話したのもこの間のロケが初めてですよ」
「へぇ、やっぱりそんなもんなんだ」
「接点がないとそうですよね。でも、キョーコちゃんと敦賀君は仲いいみたいですね。まあやっぱり、Dark Moonで共演してるし」
光と甲子の視線の先では、キョーコの動きについて身振り手振りを交えながら話している2人が見える。蓮が何かを話しかけると、真剣に聞いていたキョーコがふわりと笑い、つられたように蓮も微笑をこぼす。
「でも、光君と京子ちゃんは仲いいじゃない?」
「えっ!いや、仲いいって言うか…その、ブリッジロックで持ってる番組で共演してるから…!」
少し顔を赤らめた光に、甲子はくすりと笑う。
「いいじゃない、仲いい方が」
甲子はそう答え、そのまま光の横で撮影の様子を見守った。

シーンの撮影はスムーズに終わり、キョーコと蓮はマスター役の俳優と談笑しながらセットを下りてきた。
蓮はキョーコの半歩後ろから、片手をキョーコの背中に添えるようにして歩き、キョーコは笑顔を浮かべて蓮を見上げる。先ほどのちくりとした痛みを光は再度感じたが、その横で甲子は笑顔で大きめの声を出した。

「おはよう、京子ちゃん、敦賀君」
「おはようございます」
2人は同時にぴたりと立ち止まり、蓮は軽く、キョーコはしっかり頭を下げるとまた同時に甲子と光に向かって歩き出した。
「三谷さん、今日もよろしくお願いします」
キョーコは甲子にも笑顔を向けてもう一度しっかりと頭を下げた。
「うん、今日も頑張ろう。敦賀君も、今日もよろしく」
「よろしくお願いします」

甲子は一歩蓮の方へと踏み出すと、その腕に軽く手をかけた。顔にかかる髪を反対の手でかき上げながら、じっと蓮の顔を見上げる。
「この間は付き合ってくれてありがとう。おかげでだいぶ、すっきりしたみたい」
「そうですか、それはよかったです」
「でももう少し深く考えたらまた悩むかも……また行き詰ったら話聞いてもらってもいい?」
「もちろんですよ」
「でもごめんね、この間は敦賀君だけ飲めなくて」
「いや、それは別に構いませんよ。気にしないでください」
「今度はさ、ちゃんと一緒に飲もうね」
「はい、機会がありましたら」
蓮はにっこりといつもの紳士スマイルで対応する。ありがとう!と甲子は蓮の肩をぽんぽんと叩き、監督の元へと歩いていった。

キョーコはさりげなくちらりと蓮の表情を伺った。
蓮はいつもの通り、寸分の隙もない笑顔だ。相変わらず心の中で何を考えているのか読み取れない。しかし、キョーコは目の端に少し離れたところに立っている社の姿も捉えていた。甲子が蓮の腕に手を添えた瞬間、社がぴくりと反応したのが見えてしまったのだ。

三谷さんとなんか……あったのかな…?

他人の個人的なことに首を突っ込むのは失礼なことだ。だから、今の会話の内容を「何の話ですか?」などと聞く事だってできる訳がない。だけど、分かっていても気になってしまうのはどうしようもない。

そこまで考えて、キョーコはばしりと自分のおでこを叩いた。

何で気になるのよ?何を気にしてるのよ?
敦賀さんだって、仕事の付き合いとか、そうよ、色々あるんだし!
大体、仕事関係だろうとプライベートだろうと誰とどこ行こうが何しようが、私が気にすることじゃないでしょ??
そうよ、偉大なる先輩の交友関係を気にしてどうしようっていうの、キョーコ?

ふと気がつくと、驚いた顔で光と蓮がキョーコを見ている。ほえ?と2人を見返すと、恐る恐る光が声をかけてきた。
「京子ちゃん…どうしたの?いきなりおでこ叩いたりして」
ああっ!と飛び上がったキョーコは懸命に弁解した。
「いえいえ、何かが触れたような気がして!!は、ハエとか止まったのかなって思いまして!」
「そうだとしてもそんな勢いで叩かなくても…」
「す、すみません、ちょっとパニックで…!」
考え事に沈み込んでいたせいか、またやってしまった!と恥ずかしく思いながら、キョーコはおでこをぐしぐしとこする。

「大丈夫、何も止まってないよ」
少し乱れたキョーコの前髪をちょいちょいと直しながら蓮が柔らかい微笑みで見下ろしてくる。キョーコは思わずその表情に見とれたが、ふと目線をそらした。向こうでは甲子が他のスタッフと笑顔で会話しているのが見える。キョーコは「すみません」ともう一度謝ったが、なんとなく後ろめたさを感じ、蓮の顔を真っ直ぐに見ることができなかった。


翌日、甲子はテレビ局の廊下を歩いていた。
ドラマの撮影の時にいつも着るシャープなパンツスーツではなく、この日は柔らかい印象を与えるワンピースにブーツを合わせている。
甲子の手には携帯電話があった。出演したトーク番組の収録終わりに、一緒に出演した俳優 貴島秀人に声をかけられたのだ。

「甲子ちゃ~~ん!メアド、交換しない?」
人懐っこそうな笑顔で近寄ってきた貴島に、甲子はやや苦笑交じりの微笑を返した。
「教えてもいいけど、本当にメールくれるの?」
「あったりまえじゃん!そのために聞くんだからさぁ。ねえねえ、前の共演の時は機会なかったけどさ、今度ご飯食べに行こうよ」
「んー、予定が合えば、いいけど…」
「ほんと?じゃあ、あとでメールするから予定教えて。絶対だよ!」
マネージャーから受け取った携帯を操作し、甲子は貴島に自分のアドレスを見せる。甲子のメアドをゲットして、二枚目俳優は満足げに去って行った。

甲子はすれ違う顔見知りのスタッフやタレントに笑みを浮かべたまま会釈をしながら廊下を進み、自分の楽屋へとたどり着いた。ドアを開けるとそのまま椅子まで進み、腰をおろすと携帯を目の前の机の上に放るように少し乱暴に置く。

「甲子、なんか嫌なことでもあるの?貴島くんの事?私がストップかければよかったかしら」
年上のマネージャーは楽屋の扉をしめると少し心配そうに聞いた。
共演するタレントや俳優から電話番号やメールアドレスを聞かれることはものすごく多いのだが、甲子はさほど嫌がることもなく対応しているので、貴島とのやり取りもマネージャーは黙って見守っていたのだ。
しかし甲子はにこやかに振舞っているが、一緒にいる時間が長いマネージャーの目からはやや機嫌がよくないように見えていた。

「あ、ううん、大丈夫。別に、嫌なことなんてないよ」
笑顔でマネージャーを振り返ると甲子は軽い口調で言った。しかし顔を正面に戻して携帯電話が目に入ると、ぴくりと眉をひそめる。

やっぱり…普通の男はこうやって接触するもんだよね?

貴島に限らず、ドラマなどで共演した同世代の男性芸能人は、社交辞令も含んではいると思うが自分の連絡先を聞いてこないことはまずない。
それなのに、あの男は一緒に食事までしたと言うのに、自分の連絡先が欲しそうなそぶりなど一切見せなかった。次の約束も、ほのかに誘うような台詞も一切なかった。
食事中の蓮は非常に機嫌がよいように思えた。柔らかい微笑みを常に浮かべていたし、自分の話を真剣に聞いて、ちゃんと答えを返してきた。帰り際、腕にすがった時だってそのまま受け入れていたのに。

食事が終わってタクシーで帰ってから、蓮からのアプローチが微塵も無かった事に少し首をひねったものの、実は案外堅い人なのかも、と思ってとりあえずは納得していたのだ。だが、昨日の撮影で甲子の考えは打ち砕かれた。


あの子に向けるあの笑顔は……私には見せなかったし、あんな風に私の髪に触れたりもしなかった。


考えてみれば蓮と同い年だという光だって、京子にはどぎまぎと接するくせに自分には礼儀正しく振舞うだけだ。

なんか、面白くないかも…

無意識に表情が険しくなってしまった甲子の横顔を、マネージャーは心配そうに見守って小さくため息をついた。


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