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empty shell (2)

こんばんはー!ぞうはなです。

あわわわ、この数日ほとんどまともにPCに向かえなかった…
てことで、間空きましたが2話目、参ります。





大学構内でロケが行われた2日後、某局の撮影スタジオ内には町の小さな喫茶店の店内を模したセットが組まれ、その中でリハーサルが行われていた。

リハーサルが終わり一度出演者達はセットから下りてきたが、その中で1人の少女の後ろから青年が歩きながら声をかけた。
「ねえ京子ちゃん、今日はちょっと緊張しない?」
「緊張ですか?」
「うん。これから敦賀君とのシーンがあるからさ」
そう言葉をかけられた少女はううん、と少し考えた。
「そうですね…でも、撮影の時は常に緊張してますよ」
ふわっとしたピンクのモヘアのセーターにデニムのミニスカートをはき、クリーム色のシンプルなエプロンをかけた少女は笑いながら答えた。この連続ドラマのレギュラーとして主人公の探偵行きつけの喫茶店のウエイトレスを演じているのは、タレントの京子こと最上キョーコだ。

「ええ?そういう風には見えないけどな」
「そんなにふてぶてしく見えますか?」
セットから下りたところで立ち止まって振り返り、少しだけ唇を尖らせて首をかしげるキョーコに、光の心臓がドキリと跳ねる。思わずキョーコの顔を正面からじっくり見つめてしまい、相変わらず可愛いなあ…と、同じドラマのレギュラー出演をもぎ取れたことに心から感謝した。

「そういう意味じゃなくてさ。京子ちゃん、落ち着いててしっかり演技するからだよ」
光はハッと我に返って両手を振ると、慌てて弁解した。
「そんなことないんですよ!毎回、緊張と反省の連続です」
「でも俺みたいにNG出しまくったりしないしさ!いやもう、京子ちゃんを見習わなくちゃな、俺」
「そんな!私、光さんが優しくしてくださるのでこの現場では緊張しつつも楽しくお仕事が出来てるんですよ」

ああ、京子ちゃんホントに可愛いし優しいし…いい子だよなあ……

またほわんとにやけたまま意識を飛ばす光を、周りのスタッフも温かく見守る。
光の演じる役の探偵助手の青年は、探偵とともに通う喫茶店の看板娘にほのかな恋心を抱いている。意気地も自信もない青年はその想いを少女に伝えることはできないのだが、少しでも会話を弾ませようと頑張っている。その頑張りはささやか過ぎて全く少女には伝わっていないのだが。
どうも光も役と一緒でこの少女に好意を抱いているらしい、というのはドラマ撮影を重ねるごとになんとなくスタッフや共演者たちが認めるところとなって行っていた。役柄と同じく、自信なさげに控えめに、それでも本人としては一所懸命に示される好意に少女がまったく気がついていない、ということも。
しかし、2人は同じ事務所であることもあって仲は良く、じれったくもほほえましいその光景を、周囲の人々は内心で光にエールを送りながら同時に楽しんでいた。

「敦賀さんとご一緒すると、緊張と言うよりも悔しい気持ちになるかもしれないです」
キョーコは少し眉間に皺を寄せたので、光は驚いて聞き返した。
「悔しい?」
「ええ!Dark Moonの時も思ったんですけど、敦賀さんと一緒だと、自分が演技してるんじゃなくて演技させられてる気分になってしまって」
キョーコはまだ鮮明に覚えている。新開監督の提案で瑠璃子と役を争って演技テストを行ったときのことを。
演技なんて何もさせてもらえなかった。ただただ素のままで本当に驚き、衝撃に打ちのめされ。Dark Moonの時は多少は頑張れたとは思うものの、やはりその差は歴然としていてちょっとやそっとでは追いつけそうにない。

「ああ…それはなんだか分かるなあ…この間のロケの時も本気で"このやろう"って気分になっちゃったな、俺も」
「大学でやったロケですよね?」
「うん、それそれ。いつもの温厚な雰囲気がガラッと変わってさ。敦賀君はやっぱりすごいなって思ったよ」
「はぁ~、そうなんですよねえ…」

2人が立ったまま話をしていると、入り口近くにいたスタッフが声を上げた。
「敦賀蓮さん、入られましたー!」
キョーコは少し驚いてスタジオ入り口に顔を向けた。確かに今日このスタジオで蓮も含めた撮影が予定されているが、確か先ほど聞いた進行では蓮のスタジオ入りは1時間ほどあとのはずだ。それまでに蓮が出ないシーンの収録を進めるということだったのだが。

しかし、入り口から優雅に歩を進めるのは見間違いようのない長身を持つ先輩俳優で、キョーコは蓮が近づいてくると笑顔で元気良く挨拶をした。
「おはようございます!敦賀さん、少し早くないですか?」
「おはよう、最上さん。今日はよろしくね。そうだね、少し早いけど…どんな雰囲気なのか見ておきたかったし、前の仕事が早めに終わったから」
「おはよう、敦賀君!」
「おはよう」

光と挨拶を交わす蓮をぽけっと見つめたキョーコは、蓮の後ろから歩いてきた社にも挨拶をした。しかし、社がぶら下げているビニール袋が目に入ると、少し目を細めてスタジオ内の時計を見上げる。
「ところで敦賀さん。お昼ごはんは召し上がられましたか?」
「お昼?ああ、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃなくて、口にしたかどうかをお聞きしてるんです」
「…えーっと……」
蓮は視線をふらりとさまよわせる。

「やっぱり!!社さんがおにぎりが入ったビニール袋を持っていらっしゃるからまさかと思ったら!」
「まだお腹が空いてないからいいよ」
「放っといたら永久に空かないじゃないですか!!」
がみがみと蓮をしかり、滔々と食事の重要性についていつものお説教を繰り出すキョーコと、それを苦笑に近い微笑を浮かべながらおとなしく聞く蓮を、光を含めた周りの人間は珍しいものを見る目で見つめる。その横で社は密かにため息をついた。

ごめん、キョーコちゃん…
でも分かってやってくれよ。こいつ、キョーコちゃんがいる現場にちょっと早めに入れそうだって分かったら、食事なんてどうでもよくなるんだよ…ああむしろ、こうやって微妙な時間に入ってキョーコちゃんに怒られるのが嬉しいのかもしれないなあ…知らなかった、蓮って案外M…

とりあえず社はキョーコの怒りをおさめるべく仲介に入った。
「ま、まあまあ、キョーコちゃん。あとでちゃんと食わしとくからさ!」
「社さん…社さんまでお食事抜きになっちゃうんですから、本当に気をつけてくださいね」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう!」

それにしても、と蓮が急いで話題を変えた。
「最上さんがやった役で、今回が一番誰だか分かるかもしれないね」
自分を見つめる蓮の視線を感じて自然とキョーコの頬に熱が集まる。
「す、すみません、地味ななりで」
「そんなこと言ってないよ。元気でちょっと天然で、うん、最上さんに良くあった役だよね」
「ひどいですよ敦賀さん、天然だなんて!」
「最上さん自身が天然だなんて一言も言ってないけど…?」
にやりと笑われて、キョーコは悔しそうな顔になった。
「う…またそういう言い方を…!」

「だけど単純に明るいだけじゃないってのが、最上さんにこの役が来た理由かもね。表向き無邪気で明るいように見えるから、たまに見せるふとした表情が、何があるんだろう?ていう視聴者の興味を誘うんだ」
キョーコの表情は一気に呆けたものになる。
「え…?なんで敦賀さん、私の役のことを…?」
「なんでって、オンエアされた回は全部見たよ?」
「えええええええええ?」
キョーコは目を丸くして叫んでしまったが、蓮はさも当然とばかりに肩をすくめた。
「ストーリーが面白いって教えてくれただろう?最上さんが出てることもあって、ちゃんとチェックしてたんだよ。まあ、出演することになったからちょうど良かったかな」
「そ、そんなこととは…」
「確かに面白いし、最上さんもまたうまくなったし…光君もすごくいい雰囲気を作ってるよね」
いきなり蓮に笑顔で振られて、それまでぼーっと2人を眺めていた光ははっと我に返った。
「え?あ、ああ…いや、ありがとう」

キョーコと光は本番のためスタッフから呼ばれ、蓮の元を離れてセットへと向かう。
「キョーコちゃん、本当に敦賀君と仲がいいんだね」
「ええっ?な、仲がいいだなんて恐れ多い!敦賀さんがご親切に面倒を見てくださってるだけで…」
「いやでも、敦賀君にあんなにお説教できる人ってなかなかいないと思うよ」
「そうでしょうか…?」
少し寂しげな笑みを浮かべる光を、キョーコは不思議そうに見つめた。
蓮は人の話を良く聞くし、後輩であっても正しいことを言われればきちんと自分の非を認めて素直に謝れる人間だとキョーコは思っている。そこが蓮のことを尊敬できる点のひとつでもある。
実はそこに気づけるまで蓮の懐に入り込んでいる人間はほとんどいないのだが、当事者であるキョーコには良く分からないのだ。そしてキョーコ自身は無自覚ながらも周りにもすぐに分かるキョーコと蓮との距離の近さが、光の胸に良く分からない痛みを与えていた。

「あれ?ちょっと待って京子ちゃん」
「はい?」
歩いていたキョーコを、光がその肩に軽く手を置いて止めた。
「エプロンの紐、ほどけかけてるよ」
「えっ。本当ですか?」
「ああいいよ。俺が直すから」
光はキョーコの後ろに回りこみ、キョーコのエプロンの紐をきれいに結びなおした。
「はい大丈夫。俺ね、リボン結び得意なんだよ」
「へえー!意外ですね」

笑いあいながらセットに入る2人の姿を、蓮は遠くから静かに見つめていた。


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