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薔薇の素顔 (16)

分かりにくいですが、パラレルです。
なかなか話が動きませんが、もう少しお付き合いくださると嬉しいです m(__)m

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蓮がキョーコの2回目の弁当を堪能した翌々日。
予告どおり、蓮は重箱を持ってCafe Felicia Gardenを訪れた。
キョーコが赤面するほどの賛辞とともに重箱を返却し、いつも通りに朝食とコーヒーを注文する。

いつもと違ったのはその後だった。
蓮が座るカウンター席の隣の椅子に、常連客の1人の中年男性が腰を下ろした。二人はしばらくの間ぽそぽそと小声で会話を交わし、なにやら真剣に話し合っているようだ。言葉を交わした後、常連客が蓮に対して右手を出し、蓮がそれをがっちりと握って握手が成立。
常連客はそそくさと立ち上がると会計を済ませて店を後にした。

何とはなしにその光景を見ていたキョーコが、食事を運んだ際に蓮に声をかけた。
「いつの間に太田さんと仲良くなられたんですか?」
先ほどの常連客は太田といった。キョーコと尚の話し合い、いや、怒鳴りあいに介入した客の1人だ。
蓮は普段マスターやキョーコとは言葉を交わすものの、他の客と会釈を超えた交流をすることはない。だからキョーコは不思議だったのだ。

「ああ、この間、不破君がここに来たときに、ちょっとね」
キョーコの顔が一瞬引きつる。あの翌日キョーコからお礼は言ったものの、それ以来太田も他の客も尚のことを探ってくるようなこともなかった。聞かれないことにホッとしながらも、気を遣わせているのだろうかと少し気になってもいたのだった。
キョーコは躊躇いつつも聞いてみる。
「…何のお話だったんですか?」
蓮は事も無げにさらりと返答した。
「うん、キョーコちゃんのファンクラブに入れてもらったんだ」

『ファンクラブ』

キョーコはあれこれ考えることがあって、すっかり忘れていたことを思い出した。
キョーコのファンクラブがあると、太田は尚に向かって言い放ったのだった。キョーコ自身初耳だったその単語、一体何事だと言うのだろうか。

「えと、……私の、ですか?」
「そうだよ」
「…この間も思ったんですけど、なんなんですか、それは」
「うーん、ファンクラブって言ってもね、キョーコちゃんのファンの集団ってだけだけど」
いや、一万歩譲ってその存在自体は認めるとしても、とキョーコが額に手を当てて悩む。
「それでなぜそれに…つ、敦賀さんが…」
「うん?だって俺、キョーコちゃんのファンだもん」
知らなかった?と言わんばかりに蓮は言ってのける。
驚愕の表情で固まってしまったキョーコに対して、蓮はくすくす笑いながら続けた。
「この店のお客さんには君のファンは多いんだよ。この間太田さんも言ってなかったっけ?みんな君に元気をもらってるんだよ」
「いやあの、えっと、…なんでしょう、有難いのですが、恥ずかしくてどうしようもないんですけど」
君はもうちょっと自分に自信を持っていいよ、と言う蓮の顔はにこやかだが、キョーコのことをからかっているようには見えなかった。
「太田さんが発案者で会長なんだけど、俺も会員資格があるって認めてくれてね」
「なんですか、会員資格って…」
「キョーコちゃんのファンで、真剣にキョーコちゃんの幸せを願っていること」
「…私そんなに不幸そうですか?」
眉を八の字にしたキョーコの質問に蓮は思わず吹き出してしまった。
「ごめんごめん、そうじゃなくて。頑張り屋さんのキョーコちゃんが、これからも幸せであるように、と思ってるんだ。皆、元気をもらっている分、恩返ししたい気満々なんだよ」
「そ、それはありがとうございます…」
「それで、俺は会員番号7番にしてもらったんだ」
会員番号までついてるんですか、とキョーコはうめいた。
「会員さんが7人もいらっしゃるってことですか…」
「ううん。会員数は15人だよ」
そんなに!と驚きつつもキョーコは疑問を蓮にぶつけた。
「あれ、それでなんで敦賀さんが7番なんですか?」
「7番は他の会員に認められないともらえないんだって。今まで欠番だったらしいよ」
「敦賀さんは何を認められたんですか?」
蓮はにっこりと笑って答えた。
「条件の一つは独身であること」
「独身?へ、変な条件ですね。一つ?ってことは他にもあるんですか??」
「今度機会があったら太田さんに聞いてごらん。教えてもらえないかもしれないけど。教えてもらえなくても、まあその内、分かるかな?」
キョーコは全く意味が分からなかったのだが、蓮はそれ以上キョーコの疑問に答えることはなかった。キョーコは衝撃と混乱に痛む頭を抱えると、フラフラと仕事に戻っていくのだった。


蓮のカフェへの訪問とは別に、お弁当に対するお礼メールをきっかけとして蓮とキョーコの間でのメールやり取りが始まった。お礼に対してキョーコの返信が送られ、それに対してまた蓮からキョーコへ。
キョーコは忙しい蓮の負担になるのでは、とメールの送信をためらうこともあったが、蓮からのメールに必ず質問が入っている上、蓮が休み時間などに息抜きでメールを読み書きしている、と伝えたため、律儀なキョーコは律儀に返信をした。
二人はメールに近況の報告をし合うようになり、回数を重ねるごとに蓮のみならずキョーコもメール着信を心待ちにするようになっていった。

その日、蓮と社は一仕事を終えて、楽屋に戻っていた。
楽屋に戻るとまずメール着信をチェックする蓮を、社はほほえましく見ていた。メールを読んで返信を書く蓮の表情は柔らかく、他人がうっかり見てしまったらハートを射抜かれてしまいそうな甘い微笑を浮かべている。

しかしながら、

いや、ほほえましいのはいいんだけど。
なんだか、のんびりしてるよなぁ…。

というのが、ここ数日の社の感想だ。
時間の許す限りこまめにカフェには顔を出しているし、キョーコに対してもちゃんとコミュニケーションを取っている。蓮自身、自分の気持ちを認めたようなことも言っていた。

だけど、決定的なのがないんだよなー。

社が思うのも仕方がない。蓮はごくごく軽く匂わせるようなことを言ってキョーコを赤面させるものの、決してキョーコを口説いたり、告白したり、強引な誘いをかけることはなかった。一度社はそれを指摘して、「もう直接言っちゃえよ!」と告白を促したのだが、蓮はまだ時期ではないとそれを否定したのだ。

時期がっていうけど、キョーコちゃんもまんざらじゃなさそうに俺には見えるんだけどなあ…
あれでもダメなのかなあ…
でもなー。蓮は「まだ」って言ってたからな。いずれは告白するって意味だよな。それなら、いいんだけど。

ふふふ、と社は笑うと、蓮に目を戻した。
すると、先ほどの微笑みはどこに行ったのか、蓮は少し険しい顔で携帯を操作している。社はびっくりして声をかけた。
「どうした、蓮!険しい顔して」
ああ、と蓮は気がつくと、表情を戻して苦笑しながら答えた。
「すみません、そんなに険しかったですか。気がつきませんでした」
「なんか気分を害すようなことでもあったのか?」
「そういう訳ではないです…ちょっと思い出したことがあっただけで。たいしたことじゃありません」
「…ならいいんだけどさ。まあ、楽屋で多少険しい顔したっていいさ」

蓮の書いたメールにはキョーコへのこんな注意が含まれていた。

『あれ以来、不破君からの接触はないかな?
脅かすつもりはないんだけど、先日のあの様子だとまたカフェに来るかもしれないので、気をつけて。
何かあったら、俺でも、友達でもいいから、遠慮しないでそばにいそうな人にすぐに連絡して』


キョーコは大学の講義室で蓮からの注意が含まれたメールを読むと、険しい顔でため息をついた。
キョーコ自身も、尚の性格から考えてあれで気が収まったとは思っていなかった。着信拒否は解除していないが、番号非通知で何回か電話がかかってきていた。警戒して出なかったし、かけ直しもしていない。留守電には何も入っていなかったが、もしかしたら尚からではないかと思うと落ち着かない。
電話の相手を確認したわけではないし、心配させるのも、と思ってキョーコは着信の話は誰にも話していなかった。

だって、敦賀さんもモー子さんもきっと心配してくれちゃうもの…

蓮は仕事が忙しくてそんなことで煩わせる訳にはいかない。奏江だって学校と部活とバイトで忙しいのだ。
自分と尚の問題である。自分で解決しなければ。

そうよキョーコ!ショータローなんかに負けてたまるもんですか!

キョーコは気合を入れ直したのだが、先日肩をつかんできたときの尚の顔を思い浮かべると、不安を完全に拭い去ることが出来なくなってしまうのだった。

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