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月の下で (17)


こんばんはー!

皆様、台風の被害はありませんか?
すごく風が強かったので、何回か家が揺れて怖い思いをしました…。幸いにも自分は、今回は大きな被害はなかったのですが、交通機関は大混乱でした。

さて、本日も更新です。
すすみがとろくなってきたー!





明かりが多い都心の夜空であっても、晴れていれば明るい星の光は見える。しかし、この日は月の姿は見えない夜。

蓮は1人、仕事を終えていつもの道を自宅に向かっていた。
深夜の空いた道。あと5分も走らせれば家につく。自分の前後には車がなく、視線の先に見える信号もすべて青だ。蓮は明日の仕事の内容など取りとめも無いことを考えながらハンドルを握っていたが、急に目を見開くと反射的にハンドルを切り、ブレーキを踏み込んだ。

今まで何も無かった道、車の真正面に、瞬間移動のように突然、人影が現れたのだ。

街灯と沿道の明かりでヘッドライトをつけなくても十分明るい見通しのいい道。普通に渡ろうと歩いている人を見落とすとは考えにくい。そう冷静に考えながらも蓮の体はすばやく動く。

蓮の操る車は人影の10cm横をすり抜け、耳障りなスリップ音を響かせて180度回転すると、どこにぶつかることも無く停止した。人影は慌てた様子も無く自分の後方で停止した車の方へゆっくりと向き直る。車はすぐにまた動き出すとタイヤを鳴らしながら正しい向きに戻り、道端に寄ってエンジンが止まった。

やがて車の運転席のドアが開くと、そこからのっそりと蓮が出てきた。
「いきなり車道に出ると危ないよ」
のんびりとした口調で注意を促すと、言われた人物もせせら笑いながら答える。
「ぶつかっても壊れるのは車の方だ」
「まあ、君ならそうかもしれないな」

音も無く車に歩み寄ったのは金髪の若い男、不破尚だ。尚は車に一瞥をくれると蓮に話しかけた。
「随分とまあ、派手な車に乗ってんだな」
「まあね。見た目より、走りが気に入ってるんだ」
「へっ。地面に這いずってのろのろ進むのがてめえに似合ってるよ」
「そうかい、ありがとう。君みたいに蝙蝠の羽は無いものでね、俺は空は飛べないんだ」

尚はぎろりと蓮をにらんだ。
「何が言いてえんだ?」
「別に何も?」

おや、と蓮は思った。前回尚が逃げ帰ったことを少し揶揄してみたのだが、尚はそれに気が付きつつも激高する様子はない。

「久しぶりだね。俺はまた、すぐにでも俺を殺しに来るのかと思ったよ」
「は、わざとらしい…!」
「その様子からすると、来なかったんじゃなくて来られなかったのか」

尚の瞳の光が少し鋭さを増す。
「アーティストの喉に毒を埋め込むなんざ、随分な営業妨害じゃないのか」
「俺は君に殺されかけたんだ、文句言われる筋合いは無いだろう」
蓮は相変わらずのんきな調子で肩をすくめて両手を広げてみせた。

蓮は満月の夜、ベランダで尚の首をつかんで吊り下げた時、意図的ではなかったものの、親指の爪をその喉へと食い込ませていたのだ。狼男の爪や牙が蓄える毒は本来獲物を仕留めるためのもので、死に至らしめることはないものの、感覚を麻痺させたりと神経に作用する。

結局尚は喉に残る少量の毒のせいでしばらく満足に歌を歌うことができず、レコーディングの延期を余儀なくされていた。

「用はなんだ?損害賠償でも求められるのかな」
「そんなことはどうでもいい。あんたに改めて警告しておこうと思ってな」
笑顔で聞く蓮に対し、尚は険しい顔で蓮をにらみながら答えた。

「警告?なんのだ」
「キョーコに近づくな、てことだよ。あいつを無駄に人間に馴れ合わせんな」
「彼女が望んでいるのに?」
「あいつの素性が割れた時、周りの人間の態度が変わらないとでも思ってんのかよ?」
「……」
「お前も分かるんだろーよ。人間じゃないってだけでどんな目で見られるか」
「それでも、人間の世界で生きていくためには全く関わらないのは無理だろう?」
「利用するだけならまだいい。だけど、仲良くしたい、とかあいつが能天気でアホな夢見てるから、やめろって言ってんだ」

蓮は驚いたようにまじまじと尚を見た。
「随分と最上さんに対して親身なんだな」
「ちげーよ!あいつがくだらない夢見んのは勝手だけどよ。勝手に失望して勝手に死なれたりしても俺が困る」
「……彼女の血、か?」
「……」
「ふぅん…」
蓮は一瞬だけ変わった尚の表情を見て頷いた。

「それにしても随分とこの間と態度が違うんだな」
蓮は感心したように首を振った。満月の夜の尚だったら、もう2回くらい殴りかかっていてもおかしくない。尚はそれでも落ち着いて腕を組んだまま蓮を見る。
「別に。ただ、それでも警告を無視するってんだったら、どうなっても知らねーよ」
「君が俺に手を下すって言うのか?それは無理だ」
「はん。あんたが何もんだか分かっちまえば手の打ちようはある」
「ほう。ってことは、俺の事が分かったってことかな?」

尚はバカにしたように笑った。
「そんな獣くせえ匂いふりまいといて、分かんない訳ねーだろ。…満月で変化するあたりもな」
「それで、手の打ちようとは?」
「んなの、教えてやんねーよ」

そりゃそうか、と蓮も笑ったが、ぴたりと真顔に戻ると真正面から尚を見た。
「じゃあ、俺が最上さんを閉じ込めて独り占めしておけば問題ないんだな?他の人間と会わせなければ」
「あああ?」
尚は怪訝な顔になるが、すぐににやりと口の端を上げた。
「そんなことするつもりもないんだろ?どうせキョーコが泣いて頼んだら、あんた、ころっと言うこと聞きそうだぜ」

おや、やはり、頭が足りない訳ではないんだな…

蓮は尚の返事を少し意外に思った。キョーコや蓮の事をよく見て割と正しく理解している。
やはり満月の夜のあの攻撃性は、月の光に煽られてのことらしい。蓮やキョーコのように人間の血をもつ者よりも、生粋の魔物の方があの青白い光には抗えないのだろうか。

「で?あんたの答えはどうなんだ?」
「…君の言う事に従う訳にはいかないな。俺の望みや最上さんの願いと反していれば、なおさらだ」
「あーあ…やっぱりそう言うのかよ。なんだよ、俺が紳士的に頼んでやった意味がねーじゃねーか」
尚は一歩足を踏み出すと、組んでいた腕をほどいて蓮の首筋にその長く鋭い爪をつきつけた。

「紳士的?本当の紳士は人の家に押しかけていきなり人を投げ落したりしないよ」
蓮の首には尚の爪の先端が刺さりそうだが、蓮の顔色は変わらない。
「俺は紳士じゃなくて吸血鬼だ。問題ねーよ」
「それで、やっぱり俺を殺したくなったのか?」
「そうだな…まずはそのすました顔が苦痛で歪むところを見てみてえよ」
「男の顔がいいのか?趣味が悪いな」
「笑ってられるのも今のうちだ」
尚がぼそりと呟いた瞬間、不意にその体は後ろへとよろけた。
蓮と尚の間に飛び込んできた黒い影に突き飛ばされたのだ。勢いに押され、尚は2歩ほど後ろに下がる。

「んだよ!」
毒づく尚の目に、風にふわりとなびく銀色の髪が飛び込んできた。

「…ダメよ」
黒いショートパンツにピンヒールのブーティを履いた雪花が蓮の前に両腕を広げて立ちふさがっている。
「絶対にダメ。もう傷つけるなんて許さないから」

「っだーー!お前、よえーくせに首突っ込んでくんじゃねーよ、興ざめだな」
尚はため息をつきながらがりがりと頭をかいて雪花に詰め寄った。その顔には薄らと笑みが浮かんでいる。
「折角お前の目に触れないようにこの男を始末してやろうってのによお…自分のせいだぜ」

キョーコの肩に後ろから手を置くと、蓮は反論しようとしたキョーコを制した。
「それは違うな、不破君。君はわざと最上さんの近くに痕跡を残しただろう」
「ああ?」
「俺を尾けてるって最上さんに気付かせて、ここに呼び寄せたな」
「なんの言いがかりだよ…!」
「違うか、最上さん…いや、雪花?」
「……」
雪花はちらりと振り返って蓮を伺うとまた顔を元に戻した。
「…事務所を出たところで…こいつの匂いを感じた。まるで誇示するようにこっちに続いてた…」
「だから慌てて来てくれたんだろう?」
雪花は答えないが、尚を睨む瞳が肯定を示していた。

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