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月の下で (14)


皆様、こんばんは。ぞうはなです。

今日は持ち帰り仕事が終わらなくて、更新できなくなるかと思いました。
なんとか解決してやれやれ。

なので、無事に更新でーす。





俺もな?いいことだと思うよ?
何よりあいつは少し前からすごく気になってるみたいだったしさ。
あいつの部屋でキョーコちゃんに会ったときは本当にどうしようかと思って、あの瞬間、胃がきりきりして、潰瘍かなんかができたと思ったけど。いや、絶対できてたね。

そもそもあいつ、自分が普通の人間じゃないからって、はなから人との付き合いをどこか避けているところがあったからな。恋愛なんて間違っても、なんて感じだったから、あいつにとってはいい変化だと思うよ。

うん。いいことだと思うんだよ。

…思うんだけどさ。だけどね?


手帳を手に立ち尽くす社がいるのはドラマの撮影スタジオだ。目の前には蓮とキョーコがいる。

あの満月の夜から一週間ほどが過ぎていた。
キョーコは俳優の仕事に興味を持ったようで、それならば、と蓮が出演している連続ドラマの撮影のときは大体付き人として現場に来ている。
ここのところ連日撮影が入っていたため、ドラマスタッフや共演者はキョーコの存在にも派手なユニフォームにも慣れてきていた。そしてキョーコが蓮だけではなく他の人間にも愛想よく、こまめに気を遣い、それでいてでしゃばらずスマートに動き回るため、周りにも可愛がられるようになってきている。

状況に大きな変化があったのは2日前のことだ。
キョーコが芝居の仕事に興味がある、と雑談中に聞いたドラマ監督が、それならばエキストラとして出てみる?とキョーコを誘った。オフィスの廊下で蓮とすれ違い、挨拶を交わすだけのほんの1シーンの出番だったのだが。制服を着て、もう少し大人っぽい方がいいかも、と言う理由でメイクを施され…メイク室からスタジオに戻ってきたキョーコに、周りがざわついたのだ。

「えええ?キョーコちゃん、だよね?」
「すごい、美人……」

キョーコはすっかり美人で大人っぽいOLに変身しており、スタッフや共演者の態度が一変してしまった。キョーコへの評価が上がったということで、それはそれで何もまずいことはなかったはずなのだが。


俺…あいつのマネージャー、もう何年もやってるのになあ。
…あんな面があるって、本当に知らなかったよ……


社の目の前には蓮とキョーコがいる。
セットの中では蓮が出ないシーンの撮影が行われているため、2人はセットから少し離れたスタジオの隅でパイプ椅子に座って撮影を見ていた。蓮があれこれとキョーコに対して説明をしているのだが、本番中のため、邪魔にならないようにその会話は小声でされているようだ。2人はたまに頭を寄せ合って真面目に話しあっている。

傍から見れば、面倒見のいい先輩と真面目に勉強中の後輩だ。
ちらりとそのワンシーンだけ見れば、それ以外には見えない。だが、社は1週間前からずっとこの2人のやり取りを継続して見ているのだ。だから分かる。
最初は蓮も普通に先輩後輩、という立場を崩さずキョーコに接していた。
だけど、だけど。

キョーコの存在が撮影スタッフたちに受け入れられて、キョーコが蓮以外のメンバーとも多少なりとも会話を交わすようになってから、微妙に、ごくごく微妙に巧妙に、蓮の立ち位置が変わってきた。と、社は思うのだ。

蓮の撮影中には1人でぽつりと撮影の様子を見ているキョーコに、なんとなく話しかけるスタッフや俳優がいる。気を遣って、ということも、蓮の後輩だから興味があって、ということもあるが、キョーコ自身に興味を持って話しかけてくる人間だってもちろんいる。
そういう人間が男性だと、いつの間にか、いつの間にか蓮がするりと傍に立って、会話に参加しているのだ。そして、さりげなく、さりげなくキョーコと自分の距離感が、キョーコと会話相手の距離感よりも近い、ということを相手が察するように仕向ける。


相手になんとなく自然に悟らせちゃうあたりが巧妙だよな…詐欺師になれるんじゃないのか?


社が舌を巻くほど、それは相手や周りの人間にばれないような絶妙なさじ加減だ。
でも、社には分かる。なぜならそうやってキョーコにまとわりついた男になんとなく悟らせた後は、蓮は満足げな、愛しげな笑顔でキョーコを見るから。

けどなあ…キョーコちゃんは蓮の事、どう思ってるんだろうなあ?

社の目の前で、見られているのを知ってか知らずか(社の予想では、蓮は怪しいがキョーコは全く気がついていない)、2人はくっつきそうなほど頭を近づけ、こしょこしょと話をしては目を合わせて微笑んでいる。キョーコが膝の上の台本を指差しながら蓮に対して言葉を発すると、蓮はにこりと笑ってキョーコの頭をよしよしとなでた。


ううぅん、まんざらでもなさそうなんだけど…


気取られないように気をつけながら覗き見たキョーコの顔は、どこか恥ずかしそうな、嬉しそうな顔に見えた。
蓮の言葉から想像するに、2人はあの満月の夜、一線は越えなかったとしてもある程度、スキンシップを取ったものと予想された。そしてその後も仲良くしているという事は…?


「蓮…?」
「なんでしょう?」
「お前、キョーコちゃんに告白しないの?」
社がようやく話題を切り出せたのは、キョーコを送った帰りの車の中だった。2人の内密な会話は、大体この場所で交わされることが多い。
「……なんですか、藪から棒に」
「だって、なんかお前、動きがセコいんだもん」
「……」
「それとなく周りを牽制するくらいなら、本人に直接言って自分のポジションを作ればいいじゃないか」
「……」
「大体、キョーコちゃんだって丸一日俺たちと一緒に行動してる訳じゃないんだ。1人でいる間に、誰に声かけられてどんなことになってるか、分かったもんじゃないぞ」
「分かってますが…そんなに簡単にいくならとっくの昔に動いてますよ」

おっ、と社は嬉しそうに蓮を見た。
「キョーコちゃんを好きってことを否定はしないんだな」
「しませんよ……ここで否定するのは最上さんにも失礼です」
蓮は物憂げにため息をつく。
「じゃあ、さっさと行動に移せばいいじゃないか」

赤信号の交差点で蓮は車を停めると、ハンドルから手を離して前髪をかきあげた。こんな仕草をさりげなくされたら、助手席に座った女性は99%蓮に好意を持ってうっとりと眺めるだろう、と社は思う。

「返事が怖くて…無理です」
「振られるんじゃないかって?お前がそんなこと考えてるなんて、ファンの女の子たちは思わないだろうなあ」
「茶化さないでください」
蓮は恨みがましい目でちらりと社を見たが、信号が青に変わったためギアを入れて車を発進させる。マニュアルのスポーツカーを滑らかに操作するこの仕草だって、ほとんどの女性をメロメロにさせるものだろうに。

「キョーコちゃんはお前に懐いてるように見えるけどな」
「嫌われてはいないと思いますよ…だけどそれだけです。彼女は、少し前までの俺と同じなんですよ」
「同じ?どこが?」
すぐに返された社の問いに、蓮は少し考えてから口を開いた。
「人との関わりを…無意識に諦めているところです。俺と違うのは、彼女はそれでもどこかで望んではいるんですが。どうしても吸血鬼である、という事実で踏み出せないでいるんでしょうね」
「ああ…まあお前も、今はだいぶマシになってきたけどなあ」
「思い込みの方が大きかったと今は思いますけどね…社さんにもご迷惑おかけしました」

いいよ、昔のことは、と社は笑う。
「じゃあお前も教えてあげればいいんだよ、キョーコちゃんに。それほど自分の出自を気にすることなんてない、てな」
「先輩として、なら可能なようですけど」
「恋人として、は無理なのか?」
「今はまだ……」
「一夜を共にしたのに?」
「誤解を生む表現、やめてください」
蓮は軽く眉間に皺を寄せ、社は「大体あってるだろ」とそんな蓮をからかう。蓮はひとつため息をつくと、まっすぐ前を向いたままつぶやくように言った。
「あの夜のことは…どうも、彼女の中では『満月の夜だったから』で完結してるみたいなんです」
「え…?狼男の本能だと思われたのか?」
「…説明したんですけどね」

そりゃ厄介だと社は考えながら口をつぐんだ。
蓮のキョーコに対する好意がまったく伝わっていない可能性がある。好きでもない女性にそういうことができてしまう男性だと、いやそれは狼男だから仕方ないのだと、キョーコがもし思っているのだったら、蓮はゼロから、下手したらマイナスからのスタートだ。

「満月じゃない夜に迫ってみたら?」
「…それは、もうただ普通に"男"として軽蔑されませんか?」
「う……可能性高そうだなそれ」
「なら言わないでください」

社から見た限り、キョーコが蓮に恋心を抱いているとも、まったく脈が無いとも、どっちとも取れない微妙な状況に感じられる。なにしろキョーコは喜怒哀楽をかなり素直に表現するし人懐っこいのだが、それ以上の好意というものをあまり外に出さないのだ。

見せないって事は無いってことなのか…?
でもなあ…折角、蓮がこんな素直に人を好きになれたんだ。キョーコちゃんもいい子だし、お互いの事情を分かっている分、うまくいきそうなんだけどな。うまくいってほしいんだけどなあ…

何か、キョーコの心の中を覗ける、きっかけみたいなものがあればいいのに、と社は蓮に気づかれないようにそっとため息を吐き出した。


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