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月の下で (12)


こんばんは!ぞうはなです。

吸血鬼の生態や弱点って、お話によって全然違うんですね。
何を今さら、ですが、このお話に出てくる各種設定はその様々なものを都合よく取り入れつつも最終的には完全に創作です。
一応お断りまで。

では本日も参ります。





さすがに雪花の格好で事務所に行くのはちょっと、という社の意見を取り入れ、蓮の車は事務所に向かう前にキョーコが下宿していると言う居酒屋そばに停まった。「5分で戻りますから!」と慌てて飛び出したキョーコを見送り、社は助手席で路地の向こうに見える"だるまや"という看板を眺めながら口を開く。

「で?」
「はい?」
穏やかに聞き返した蓮に、いらいらしたように社は言葉を重ねた。
「はい?じゃないだろ!俺の予想は今のところ全部外れてる。当たってるっていう10%は今日お前が寝過ごした理由だと思うんだけど」
「そう…ですね。まあ、無関係ではないと思います」
「なーにが無関係じゃない、だよ。キョーコちゃん声かすれてたぞ!どんだけ無体をはたらいたんだよ、まったく。キョーコちゃんはかなりおどおどした感じだったし、場合によっちゃ犯罪だぞ」
じろり、と蓮をにらんだ社はシートに背中を預けると一つため息をついた。

「…具体的なことは聞きたかないけど……合意の下だったのか?」

「………多分最終的には」

おおおいい!と腰を浮かせて激しく突っ込んだ拍子に車の天井に頭をぶつけて社はうめいた。がくりとうなだれながら、失望のため息と共に嘆きがあふれ出す。
「ちょっとおい…やめてくれよーー」
「具体的なことは省きますが、誤解があるかもしれませんのでこれだけは言っときます」
「なにを!」
「何もしていない、とは言いませんが、なんでもかんでもって訳でもありません」
「…なんだよその謎解きみたいのは……あーつまり、最後まではってことか?」
「まあ、そんなニュアンスです」
「…ほんとかどうかは知らないけど、昨日の理性をなくしたお前にそんなことが可能だったのか?」

疑り深い顔で目を細めて自分を見る社にも、蓮は冷静に無表情で答える。
「無くす訳じゃありません、別の血が騒ぐだけですよ」
「そいつが理性をはぎ取るんじゃないのか」
「社さんのおかげで、そのあたりのコントロールはだいぶできてますし、何せ昨日は肉も食べましたし」
「そりゃ、ワンポンドステーキ2枚も平らげりゃなあ。普段食わないくせに、1か月分の栄養取ってんのかっていつも思うよ」

満月の日にステーキハウスを訪れるのは、2人の定例行事のようになっていた。満月の夜になると普段の温厚さが嘘のように攻撃的に、野性的になる蓮を見かねて、社が提案した方法だ。
食欲が満たされると攻撃性もある程度は落ち着くらしいのだが、敦賀蓮が1kg近いステーキをがつがつと食べる姿は到底人に見せられるものでもなく、人目につかない席が確保できる店をいくつかキープして、さらに変装して訪れるようにしている。

「で、そんだけ肉を食べて満足しておいてもなおかつ抑えきれない欲望ってのはなんなんだよ。最後までしなかったってことは単純にやりたかったって訳でもないんだろう?」
社が的確に自分の状況を理解していると感じて蓮は苦笑をもらした。
「俺も自分で初めて気がついてびっくりしたんですけど…どうも単純な本能ではないものも刺激されるみたいなんです」
「本能じゃないもの?…うーーんとそれは…なんだ?」
「ようやく自分の中でも整理がつきましたが、おそらく昨日は"独占欲"と"嫉妬心"でした。"征服欲"も混ざってたかもしれません」

社の顔は困ったような苦いような複雑な笑い顔になる。
「征服欲があった割には最後までしなかったのか?」
「どこかにあったんですよ。傷つけたくないって気持ちが」
「へえ……それにしてもお前、それ全部キョーコちゃんに対してってことだろう。完全にはまってるじゃないか」
「やっぱり…そういうことになりますよね」
「それ以外何があるんだ?」
「分かりませんけど」

んーでもさ、と社はちらりとキョーコが消えた居酒屋の方に目をやった。まだキョーコは出てこないようだ。
「お前達がした契約ってのは、お前が血を分け与えるってだけだよな」
「はい」
「将来を誓ってるとかそんなんじゃないよな」
「そうです」
「うーん、キョーコちゃんの気持ちは?」
「…正直、まだ分かりかねます。拒絶はされていないですけど、戸惑ってるというのが一番正確かもしれません」
「まあ確かに俺から見てもそんな感じだな。…お前、そんな状態の女の子に無理強いするなよな」
「分かってます。昨日は…まあ……今さら取り返しつきませんけど、俺自身はしばらくは最上さんの食糧って立場でいいです」

無表情で正面を見て言い切った蓮の顔を見て、社は渋い顔になる。
「それもまた随分と自虐的だな」
「しばらくは、ですよ。それに…あの子も知らなかったみたいですけど、どうもこの契約には副次的な効果があるみたいです」
「何それ?」
「はっきりするまでは言えませんが……来ましたね」
蓮の声に社が窓の外に目をやると、全速力で駆けてくるキョーコが見える。先ほどの色っぽ過ぎる服装ではなく、女の子らしいカットソーとフレアスカートで、キョーコのイメージに合っていてなんとなく社はホッとした。

「お待たせしました!」
「いや、早かったよキョーコちゃん。よし、行こうか」
キョーコを再び乗せて、車は滑るようになめらかに走り出した。


事務所で蓮たちとキョーコは別れ、蓮と社は事務所での打ち合わせを経ていつものように撮影現場へと向かった。
しかしドラマの撮影の現場に入り撮影が始まっても、休憩時間などで考える時間ができると何故か蓮の頭には昨夜のことがいささかの後悔の念と共に蘇ってしまう。

おびえて…いたよな……?

ベッドに組み敷いたときのキョーコの顔が思い出される。

あの夜は、尚への攻撃欲、キョーコへの征服欲など、湧き上がってくる魔物としての本能の猛りを抑え込むだけで精神力のほとんどを使っていた。それでもなんとか制御できていると思っていたのに、その努力をあざ笑うかのような吸血時のぞわぞわする快感とキョーコの表情に箍が外れかけた。そして最終的に蓮に止めを刺したのは、キョーコが尚から血と引き換えに快楽を与えられていたと言う告白だった。

吸血するときに相手が快感を感じるのは本来吸血鬼が持つ力であって、尚やキョーコの感情は無縁のことだと頭では理解していたが、体は止まらない。冷静に観察するとか、相手の気持ちを慮るとか、そんなこともできなかった。

「本当に気持ちいいってどういうことか、教えてあげるよ」

そんな台詞を吐いた後、驚いて目を丸くしたキョーコの唇に自分の唇を重ねた。
自分は唇以外キョーコの体には触れていない、束縛もしていない。けれど、キョーコはそこから逃げようとはしなかった。執拗に唇を貪られても目をぎゅっと閉じて身動きせず、蓮の唇が首筋から鎖骨へと下りても、びくりと身震いをし、はだけられようとするブラウスを弱々しくつかんだりしてみたものの、本気で抵抗することはなかった。
当時はキョーコが合意しているのだと勝手に納得して行為をすすめてしまったが、冷静に考えれば分かる。

契約したことに対する見返り、だよな、どう考えても…

一生解けない契約を、血を提供すると言う契約をさせてしまった後ろめたさが、逃げ出しそうになるキョーコの体をそこに留めたのだと、明るい月の光から解放された朝に考えてみれば理解ができた。
携帯のコール音で目覚め、社と言葉を交わし、すぐに回転し始めた頭でそのことに気づいて頭を殴られたようなショックを受けた。しかし、そんな蓮の目に飛び込んできたのは、目を覚まして自分が裸であることに気づいて慌てふためいて布団を頭までかぶり、それからそろりと顔だけ出したキョーコだった。

「おはようございます…」

恥ずかしそうに蚊の鳴くような声で、でも蓮を非難することもなく朝の挨拶をしてくれたキョーコを、蓮は抱きしめたい衝動に駆られたのだ。

散々いいように弄んでおいて「守りたい」なんて、今更で自分勝手すぎると思うが。

昨夜の失態を満月のせいにしたとしても取り返しがつかないことは理解しているが。

朝は2人とも慌てていて、うろたえていて、気まずさやら恥ずかしさやらでなかなか顔を合わせられなかった。そして社がやってくるまでの短い時間の中、順にシャワーを浴びて身支度を整えるのが精一杯で落ち着いて話もできなかった。
満月で沸騰したような頭でではなくて、冷静にもう一度きちんとキョーコと向き合いたい。

冷静に考えているつもりの蓮の目の前を、共演女優が白いブラウスと黒いタイトスカートという衣装で通りかかった。
途端に蓮の頭の中では月明かりの中で白い肌をさらして身悶えるキョーコの姿が思い起こされ、蓮は思わずため息をつき、セットが乱れるのを気にもせずに頭をかきむしったのだった。

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