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薔薇の素顔 (13)

一応パラレルです。
今回は、ちょっぴり短めです。
(それでも十分長い…)

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「綺麗になって見返してやる、と思ったのかな?」
蓮の声は静かだった。
キョーコは思わず蓮の顔を見上げたが、深い瞳の光の奥にたたえられた感情を読み取ることは出来なかった。ただ少し、肌がちりちりするような緊張感だけがあった。

呆れられたかしら・・・
情けなく思いながら、キョーコは当時の自分を振り返る。
「そういう気持ちが全くなかった訳ではないですが・・・バイトの時にお化粧したりするのは、変装の意味の方が強かったんです」

変装?意外な答えに蓮が なぜ?という顔をした。

「ここ、前に住んでた部屋にすごく近いんです。あいつは私のバイト先なんて知りませんでしたけど、近所のカフェってことだけは話したことがありました。荷物を実家に送ったことを知られたらきっと文句を言いにくるだろうと思って、見つからないように」
「普段は、いいの?」
「最初は、普段から、て思ったんですけど、慣れない事すると肩が凝っちゃって!大学は人が多いしあいつは目立ちすぎるから来ないだろうし、バイト先だけケアしておけば大丈夫かなーって思いまして」
えへへ、とキョーコは照れくさそうに笑った。

やれやれ、と息を吐き出して、蓮はキョーコの顔を見つめた。
この若くて華奢な少女が、そんな経験をしてここまでやってきているとはね・・・。

「そうか……頑張ってきたんだね…」
蓮はキョーコの頭をぽんぽん、と優しく叩く。慈しむような仕草に、キョーコは蓮の優しさが心を癒してくれるのを感じた。

「でも、俺にこんなことまで話しちゃって、よかったの?無理やりに聞きだしてしまったみたいだし、ごめんね」
蓮は過去の傷を再びほじくり返してしまったような気分になった。本人は過去のこととして話してはいるが、まだそれほど時間が経っているわけではない。思い出せば、かさぶたが剥がれて血が出てしまうようなこともあるかもしれない。
「いえ、いいんです!私が、敦賀さんに聞いて欲しかったんです」
「なぜ俺なんかに?」
蓮は思わず聞き返してしまった。いくばくかの期待をこめて。

「それは・・・・・・…」
キョーコは言葉につまった。しばらく膝に置いた自分の手を見つめる。
「…誤解、されたくなかったからです・・・つ、敦賀さんには・・・」
キョーコの顔は赤くなっていた。
「あのバカと、付き合ってるとか、思われたら嫌だなって」

「・・・そうか・・・」
蓮はそれ以上答えることができなかった。思わず嬉しさで緩んでしまいそうになる頬に力を入れて、無表情でやり過ごす。


やがて客の来店と同時にキョーコはしゅたっと立ち上がり、何もなかったかのように接客を始めた。
蓮は冷めかかったコーヒーを飲み干す。注文を取っているキョーコの後姿を見ながら、小声でマスターに話しかけた。
「マスターがキョーコちゃんに抱いてた懸念、当たってましたね」
「ああ・・・さすがにここまで壮絶だとは思わなかったけどね」
マスターは苦笑しながら答えると、ふと思いついたように蓮に言った。
「考えてみると不破尚って、1回うちに来てるな」
「そうなんですか?」
「ああ、多分、あれはそうだ。3日前くらいかな。夕方にふらっと来て、その時は普通にコーヒー飲んで帰ってったんだ」
なんでここに最上さんがいるって分かったんだろうなあ、とマスターは呟いているが、蓮はあることを思い出した。
「おそらく…この間の雑誌じゃないですかね」
「ああ、あれ?でもあれ女性誌だよね」
マスターはマガジンラックの方向に目をやる。もう発売されたその雑誌は編集部から送られてきたので、店内に置かれていた。
「さっき、不破は貴島君と俺の名前を出しましたからね。なんでだかは分かりませんが記事を見て、キョーコちゃんの名前を見つけたんでしょう」
「うーん、キョーコちゃんの希望で苗字も伏せたし写真も小さくしてもらったけど、あれは見つかることを恐れてだったのかな?でもなあ、なんで今頃になって…」
注文を取ったキョーコがカウンターへ戻ってきたため、二人の会話はそこで中断した。

さて、と蓮は立ち上がると、カバンを開いて小さい紙袋を取りだした。会計を済ますと、紙袋をキョーコに渡す。
「はいこれ、北海道のお土産。この間のお弁当のお礼……にはとてもならないけど」
ええ?と声を上げて、キョーコは紙袋の中を覗き込んだ。紙袋の中には薄紫のリボンでラッピングされた、ラベンダーのポプリとオイルのセットが入っていた。
「本当にささやかだけどね。リラックス効果があるみたいだから、良かったら使って?」
「あ、ありがとうございます!わざわざ済みません!!わー、可愛いっ。こういうの、大好きなんです」
「そうか…よかった。明日は社さんもここに来ると思うよ。この間の弁当、ちょっと社さんに食べられちゃったんだ。美味しいって感動してたよ」
そんな感動なんてオーバーな、と照れ、そしてキョーコはうなだれた。
「うう、そういえば社さんの分をお渡ししなかったですよね…」
蓮は余計なことを言ったと慌ててしまった。
「いやいや!あの人はなんでも普通に食べるから、いいんだって!!」
「いいえ!明日はぜひ!」
「そんな催促した訳じゃないから!!気にしなくていいんだよ」
「………」
キョーコに捨てられた子猫のような顔で見つめられて、蓮はため息をついた。
「…本当に美味しかったから嬉しいんだけど、申し訳なくてね…だからあの、キョーコちゃんが、負担にならない範囲で」
途端にぱぁっとキョーコの顔が明るくなる。どん、と胸を叩いて宣言した。
「任せてください!ほんとに、負担だなんて思ってませんから!!」

それよりも、とキョーコは再び申し訳なさそうな顔になる。くるくるとよく変わる表情だ。
「この間、わざわざ定休日にお弁当箱戻していただいて、かえってお手数かけて申し訳ありませんでした」
「ああ、いや、もし使うものだったら困るかな、と思ってね。それこそ近いし、全然お手数じゃないよ」
「あのお弁当箱は下宿先の大将のなんです。滅多に使わないから大丈夫なんですよ!」
でも次からは捨てられる入れ物の方がいいかしら、などとブツブツ言っているキョーコを見て、蓮はくすりと笑った。
「次からって、そんなにずっと作ってくれるの?」
キョーコは はっとなって顔を真っ赤に染める。
「はわ、いやあの、ご、ご迷惑じゃなければ…」
「ご迷惑どころか、嬉しいよ。でも本当、大変なんだから無理しないで」
「あ、はい!分かりました!!」
「じゃあ、また明日」

「ありがとうございました!お仕事頑張ってください!」

キョーコの元気な挨拶を受けると、軽く片手を挙げて蓮は店を後にした。

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