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月の下で (1)


こんばんは!ぞうはなです。

前回でいちまんヒットのリクエストは一応まがりなりにも全て終わった!ということで、本日は再びにまんヒットのリクエストです。

リクエストをくださったのはねここ様。 ありがとうございます!
内容は、要約させていただきますが、『きょこたんが吸血鬼と人間のハーフ』のパラレルもの。
リクエスト内容を反芻している内にだいぶアレンジされてしまいましたが、ぼちぼちと進めます!よろしくお願いいたします!!




朝の河川敷。
普段であれば土手を散歩したりジョギングしたりする住民がいるだけの場所だが、この日はドラマのロケが行われているため、大勢のスタッフと出演者が行きかう雑然とした雰囲気となっていた。朝陽が上るシーンのために真っ暗な時間から始まった撮影は、完全に日が昇りきった今の時刻、ほぼ終わりかけているが、通勤通学の時間帯に差し掛かっているために野次馬の数は増えてきていた。

「れーんーー、予定が変更になったぞ」

椅子に座って休憩中の俳優、敦賀蓮のところに、小走りでマネージャーが駆け寄ってきた。
「変更ですか?」
口にしていた水のペットボトルをおろして、穏やかに蓮は尋ねた。蓮はマネージャーである社に全幅の信頼を置いて仕事のスケジューリングを任せている。自分は社の指示に従って動くだけだと詳細を待つ。
「うん。この後のスチール撮影、延期になった。その次は16時からだから、だいぶ空いちゃうな」
「延期は構わないんですけど…」
「うん、スタジオの問題もあるし、ねじ込み先はまだ検討中だ。時間が空くのはいいんだけど、結局その分先がきつくなるからなあ」

社は困り顔でぺらぺらとスケジュール帳をめくっていたが、ふと目を上げて周りを見渡した。
「もう大体終わりか?」
「そうですね、俺のシーンはあと2つです」
「じゃあ遅くとも9時くらいには終わっちゃうな。…うーん、お前1回家に戻って休んどいた方がいいんじゃないか?ここんとこ、ろくに寝てもいないだろう」

番組の切り替わりの時期は、絶大な人気を誇る蓮の仕事量はピークに達する。
普段どおりの俳優としてのドラマ撮影とモデルとしてのスチール撮影に加えて、番宣のためのバラエティ番組出演や雑誌の取材などが加わってくるのだ。毎クール欠かさずに複数本のドラマを抱え、映画のオファーも引きを切らない売れっ子ならではの状況である。

「そうですね…」
「そうしてくれよ。さすがにこんな中途半端な時間に寝られないかもしれないけどさ。少し体休めといてくれるだけで俺としても少し安心ができる」
蓮は笑顔で了承した。
「分かりました。お言葉に甘えて一度家に戻りますよ。社さんも自宅に送りましょうか?」
「いや、俺は事務所でいいよ」
「社さんこそ、大丈夫なんですか?」
「俺は大丈夫だよ。お前が仕事してる間休んでるようなもんだからな」
「そうでもないと思いますけど…」

2人の間でごちゃごちゃと調整した結果、ロケ終了後蓮は愛車に社を乗せて事務所まで送り、そのまま自宅へといったん戻ることになった。

こんな明るい時間帯に家に戻るのも、なんだか落ち着かないな…

蓮は自宅マンションへの道をたどりながらそう考えた。すでに通勤時間帯は過ぎているため、歩道を歩く人もそれほど多くなく、太陽は撮影中よりだいぶ高い位置まで上っている。
蓮はマンションの駐車場へ車を入れると、エレベーターで最上階まで上がった。だいぶ疲れがたまってきているのは自覚しているので、社の忠告どおりシャワーを浴びて少し横になろうと考えながら玄関ドアを開ける。

靴を脱ごうと下を見て、蓮は見慣れないものがそこにあるのに気がついた。
白いキャンパス地のスニーカー。きちんと揃えて置かれたそれは、明らかに女性のものだ。なぜ自分の部屋の玄関にそんなものがあるのか数秒間立ち止まったまま考えていた蓮は、玄関から続く廊下の隅に置かれた掃除機を見てようやく思い出した。


今日はハウスクリーニングの日か。


多忙な蓮には、家事をしている暇はない。しかしどれだけ自宅での滞在時間が短いといっても、掃除をしなければ部屋はどんどん埃だらけになってしまう。なので事務所を通して、週1回の頻度で部屋の掃除を業者に依頼しているのだ。
蓮は昼間自室にいることなどほとんどないため、何曜日がクリーニングの日なのかということもほとんど意識しないでいたが、なるほど、自分の不在時にちゃんと掃除はされているらしい。

蓮は納得すると靴を脱ぎ、物音がする洗面所のほうへと向かった。洗面所からは女性の機嫌のよい鼻歌がかすかに聞こえてきている。洗面所を覗くと、物音がするのはバスルームの中らしい。半開きの扉から、なにやら派手な色が動いているのが蓮の目に飛び込んできた。

「こんにちは」
蓮が声をかけると、入り口に背中を向けてバスルームにしゃがみこんでいた人物がびくりと体を震わせた。後ろから見える茶色いミディアムショートに「おや?」と思ったのだが、がばっと振り返ったその顔はやはり、思っていたよりも相当若い。相手は蓮の姿を認めると、スポンジを持ったまま慌てて立ち上がった。
「あ、こ、こんにちは!すみません、ご在宅の時間帯に!!」
がばりと頭を下げるその女性に、蓮は慌てて手を振った。
「いや、お願いしているのはこっちなのにそんな。こちらこそ勝手にこんな時間に帰ってきてすみません」
え?と女性は頭を上げて不思議そうな表情になった。
「そんな、ご自宅なんですから、普通勝手に帰るものじゃないんですか?」

やや首をかしげた女性と数秒目を見合わせてから、蓮は思わず噴き出した。
「確かに…自宅は勝手に帰るところだ。変なこと言ってすみません」
「あの…いえ……」
女性は泡だらけの両手でスポンジをぐしゅぐしゅといじりながら恥ずかしそうに目をそらし、もじもじと返答する。それからはっと気づいたように蓮に話しかけてきた。
「あの、バスルーム以外はほとんど掃除終わってますし、ここもすぐ終わりますので!」
「ああ、ありがとうございます」

蓮はにこやかに軽く会釈をするとリビングへと向かった。
もうかなり前からハウスクリーニングを頼んでいたが、実際に担当者に会ったのはこれが初めてだ。数少ないオフの日がクリーニングに重なった時はずらしてもらうので、こんな突発的なことでもない限り会う訳もない。

それにしても意外だったな…

てっきり年配の女性が派遣されているのだと思っていたのだ。テレビ局でも事務所でも、お掃除をしているのはほぼ例外なく年配女性だからというのも大きい。
だけど今日蓮の部屋の掃除をしているのは明らかに蓮より年下の、少女と言ってもいいくらいの若い女性だ。そしてそのユニフォームもなかなか派手だ。全身ピンク、いやそれもショッキングピンクの上下かつなぎかを着て、懸命にバスルームの床を磨いていた。
どういう素性の人なのだろうか。蓮は先ほどバスルームで見た女性の恥ずかしそうな顔を思い出して、少し興味を覚えた。リビングの入り口まで来ると、端っこに申し訳なさそうに置かれた女性物のトートバッグを見つけ、掃除が終わるまでリビングで待ってみることにした。

蓮がソファに腰掛けて目をつぶって休んでいると、やがて掃除道具を片付ける音がして、リビングに人がはいってくる気配を感じた。
「お掃除、いつもありがとうございます」
蓮が振り向いてお礼を言うと、女性は少し照れた様子で頭をかいた。
「いえ、これが仕事ですから。お休みのところお邪魔して申し訳ありません」
そそくさとトートバッグを持って帰ろうとするところを蓮は立ち上がって引き止めた。
「あの、もしかして、最近担当が替わりましたか?」

女性は唐突な質問に驚いた顔になるが、なんとか返事をした。
「え?……あ、はい、確かに私はここにお邪魔するのは3回目ですが…」
ああやっぱり、と蓮は微笑む。
「ちょうど先々週くらいから、いつもよりきれいだって思ってたんです。気のせいじゃなかったんですね」
「ええ?そ、そんなこと…」
「いや、前の方ももちろん綺麗に掃除してくれたんですけど。今は"磨き上げてる"って感じで、おかげで気持ちよく過ごせますよ」
「あの…ありがとうございます」
えへへ、と女性は照れ臭そうに笑った。その笑顔は花がほころぶようで、思わず蓮もつられて微笑みがこぼれる。
「それにしても、お掃除の女性ってどうしても年配の方ってイメージがありますけど…お若いんですね」
「あ、すみません、頼りないかもしれませんが、精一杯頑張りますので!」
「ああいや、それについては全然気にしてませんけど」

女性はせかせかと荷物を担ぐと、では失礼します、と頭を下げた。しかし蓮はそのまま玄関まで女性を見送ると、ドアノブに手をかけた女性に声をかけた。
「失礼ですけど、お名前を伺っても?」
「は、はい?あ、えと、最上と申します」
「最上さんか…今日はありがとうございました。また、よろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそ!」

深く丁寧なお辞儀をして、女性は帰って行った。玄関のドアを見つめながら、蓮はしみじみと考える。

今時珍しいくらい、化粧っ気もないし、俺の顔見ても完全に"顧客"として対応していたな。
うん、珍しい… 最上さんか…さて、一体いくつの女性なんだろう?

さすがに初対面の女性に年を聞くことはできない。
しかし、掃除の手際の良さやその磨き上げ方や立ち振る舞いと操る敬語はまるで経験をよく積んだ年配女性のようで、いかにも若くて幼いその風貌とのミスマッチに、蓮は強く興味を引かれていた。


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コメントコメント


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楽しみです!

いつも楽しく拝読させていただいています!
偏愛感情がものすごく好きで,日曜日にまた一気によませていただきました・・・。今度は社外恋愛読み直さなきゃ・・・!!

今回のお話はきょこたんが人間と吸血鬼のハーフ!?
蓮様が吸血鬼という展開は見ますが,きょこたんが吸血鬼というのはなかなか見ないので、今後の展開がとても楽しみです。
今のところ,吸血鬼のからみが見えないのでこれからどうなっていくのか・・・楽しみにしています!

かほ | URL | 2013/09/10 (Tue) 21:06 [編集]


Re: 楽しみです!

> かほ様

ご訪問とコメント、ありがとうございます!
読み返し&一気読みしていただけるの、なんだか恥ずかしいのですがすごく嬉しいです~~~。

そう、今度のお話はリクエストにより、キョコたんが人間と吸血鬼のハーフなのです。
初回では懸命に風呂掃除しているだけでそのかけらも見当たりませんが…
いや、もしかしたらなかなか出てこないかも??

見切り発車で走り始めた今回の話ですが、楽しんでいただけるようになんとかつないでいきますのでよろしくおねがいいたします~。

ぞうはな | URL | 2013/09/10 (Tue) 22:47 [編集]