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心の泉【リクエスト】 (後編)


こんばんはー!
ネットから隔離された環境からようやく復帰しましたー!
花様リクエスト、遅くなりましたがようやくラスト1話です。

ちょっとまとまりに欠けますが…どうぞー!





窪みはさほど深くないようで、蓮が近づくにつれ底の方にきらきらと光るものが見えてくる。蓮は窪みの縁に立つと、少し目を細めて窪みの中心を見つめた。
底の方にあるのは、少し青みがかった水面。水の量は少ないが、中央部の底から水が湧いているのか、同心円状にゆったりとしたさざ波が広がり、それが光って見えている。蓮はゆっくりと体を折り、砂の上に片膝をついた。
よく観察してみると、周り一面がさらさらとした砂であるのに対し、窪みの内側は乾いた土が固まってひび割れている。かつてこの窪みいっぱいに水が湛えられていたのに、それが枯れて干からびてしまったのだろうという予測がついた。そう、おそらくこれは一度枯れた泉だ。
そして今、底の方に少ないながらも湛えられた水は澄んで、何か甘い香りが漂ってくるような気がする。

直感的に蓮は気がついていた。この泉が枯れたから、キョーコの心はこのように荒涼とした風景となってしまったのだと。そして、その原因も。だけど、なぜまたこの泉に水が湧き始めたのか。

「君はもしかして…もう二度としないと誓った恋を……恋心を、誰かに持ち始めているの?」

風もないというのに、泉の水面がざわりと波立った。蓮は自分の言葉がキョーコに届いていると感じ、ゆっくりと言葉をつむぐ。

「ねえ、最上さん……この泉をもう一度満たす相手は…俺じゃ、だめなのかな?」

ざわざわと波立つ泉の中心の湧き出しが激しくなり、蓮が見る前で水かさが増していく。そして、あたりに水がしみこんできたのか、泉の縁の周りの砂が濃く色を変え、小さな芽が出てそれが次々と伸びて小さく可憐な花を咲かせた。気がつけば、泉の周りだけに緑と小さな花のオアシスが出来上がっている。
驚いて立ち上がった蓮は、周りの変化が落ち着くともう一度膝をつき、そばに咲いている小さなピンク色の花をそっと手の平に乗せた。

「これは…少しは期待してもいいってことかな?」

穏やかに微笑んだ蓮に、後ろから声がかかる。
「甘っちょろいな」
立ち上がり振り返った蓮の目には、嘲笑を浮かべたレイノが見えた。
「そんな浅い感情、俺には必要ない…キョーコにはもっと激しいオーラが似合う」
「どういうことだ?」
蓮の表情は少し険しくなったが、レイノの調子は変わらない。
「キョーコは激しく暗いオーラをまとう瞬間が一番美しい。こんな泉の水など、一瞬で蒸発させるようなマグマのような感情だ…あれが俺はほしい」
「それは…最上さんがあの幼馴染の男に向けているものじゃないのか」
レイノは ふ、と口の端をゆがめて笑った。
「今はな」
「あんな激情…ずっと抱き続けることは本人の精神にとってもいいことではない。賛成できないな」
「俺は俺のしたいようにするだけだ」
冷たい声で言い放ったレイノを、蓮はまっすぐに見据える。
「ならば俺も、ここを穏やかな泉と花園で満たせるよう、俺なりにやるだけだな」

レイノは蓮の視線を正面から受けたが、ふいと目線をはずして呟くように言った。
「あんたにできるのか…?こことは比べ物にならないくらい深く暗い闇を背負ったあんたに…」
「……」
無言でレイノを凝視し続ける蓮に、レイノは目線を戻す。
「精神だけでここにいるというのに、あんたの見てくれは"敦賀蓮"のままだ。そんな心を閉じた奴の言う事とは思えんな」
蓮は自分の目に入る前髪を認識した。そういえば、その色は最近見慣れた黒色だ。少し厳しくなった蓮の瞳の光に、レイノはぞんざいに片手を振った。
「勘違いするな。あんたのことなどどうでもいい。覗くつもりもない。あんたが勝手に強烈なのを垂れ流してるだけだ」
「ならばいいだろう。俺は自分の問題は自分でけりをつける。最上さんに何かを負わせる気はない」
「ふん。どうだかな…」
言い捨ててからレイノは蓮に背中を向けて会話を打ち切った。レイノが足を進める先に、元に戻るのに最適なポイントがある。蓮はそれを理解して、レイノの後を少し間を空けて追った。



「あっ…」
思わず社が声を上げた。視線の先には身じろぎをするレイノ。間をそれほどあけず、隣にうずくまっていた蓮の腕もぴくりと動く。
「も、戻ってきたんだ。で、どうなった?」
社がおろおろと尋ねる間にレイノは立ち上がり、上着の裾をばさりと払った。
「ああ、そいつが言いくるめてキョーコの中の生霊は追い払った」
「そうなんだ…よかった……」

社はほっと胸をなでおろした。つい先ほどから、キョーコの表情がやわらいで呼吸も穏やかになったので、大丈夫だろうと思ってはいたのだが、蓮が意識を回復したことでようやく社も安心が出来ていた。しかし、蓮はまだしゃがみこんだまま頭をゆっくりと振っている。
「ここは…?」
やや混濁した意識で周りを見回す蓮に、社は慌てて声をかけた。
「蓮!大丈夫か?お前、無事に戻ってきたんだよ。キョーコちゃんも大丈夫みたいだ!」
「あ…ああ……社さん、どれくらい時間経ってますか?」
「それほどでもない。7、8分ってところか?」
「そうですか…」
蓮はとても長い時間どこかを漂っていたような感覚に囚われていた。はっきりしない頭を整理するように今見てきたものを思い起こそうとするが、なにかをしてきたという自覚はあるものの、霞がかかったようになってしっかり思い出す事が出来ない。

蓮が顔を上げると、まだ目を開けないキョーコの顔が視界に入った。意識は戻らないが、先ほどとは違って穏やかな表情で眠っているようだ。
「最上さんは…このままで大丈夫なのか?」
蓮はぐるりと後ろを振り返ってそこに立ったままのレイノに尋ねた。
「ああ…じきに目を覚ますだろう」
「そうか。…協力してくれて感謝する」
「……」
レイノは無言のまま目をそらす。すると、いきなり車内にお経を唱える声と木魚の音が響き渡った。

なんでお経?何の音なんだ??

あまりにも場違いな音に社が辺りを見回すが、レイノは懐から携帯を取り出すと通話ボタンを押した。
「…俺だ」

も、もしかして今のは着信音??ビジュアル系のバンドのボーカルじゃないのか??
確かに似合ってると言えば似合ってるけど…!!

口をぱっかりと開けて社が見守る中、レイノのぼそぼそと呟くような受け答えは続く。
「ああ…もうそばにはいる。…いや、大丈夫だ。……わかった」
レイノは携帯を懐にしまいながらちらりとキョーコを見た。
「…俺は行く」
「あ、あの!ありがとう…!」
おそるおそる繰り出された社の感謝の言葉にも、レイノは無表情だった。
「別に…」
そして、靴音を鳴らしながらロケバスのドアまでたどり着くと、ドアの外に集まったスタッフに目もくれず、歩き去って行った。

「蓮…本当にキョーコちゃんの心の中に?」
レイノの姿が見えなくなってからしばらくして、社がぽつりと尋ねた。
「はい……おそらく」
「なんでそう曖昧なんだよ」
「いえ…夢から覚めた時みたいに……どんどん記憶が薄れて行くんです。もう漠然としか思い出せません」
「そんなもんなのか…?」
もちろん2人とも、人の心の中に入るなどと言う事を今までに経験した事があるはずもなく、そんな話を聞いたこともない。なんとなく、そういうものだと結論付けるしかなかった。

「ん……」
ちいさく声を上げ、キョーコがぱちりと目を開いた。

「キョーコちゃん!」
「最上さん!」
2人はがばっとキョーコの方へ向き直る。
「大丈夫?気分は?」
社に心配そうに聞かれ、キョーコはビックリした顔で起き上がった。
「あれ?私…もしかして気を失ってましたか?わあっ。す、すみません…!」
慌てて立とうとするキョーコを制して、蓮が声をかける。
「ああ、いいから最上さん、落ち着いて。倒れる前に何か感じなかった?」
蓮に押さえられた両肩をちらりと見て、やや落ち着かない様子のキョーコだったが、ええと、と考えて思い当った。
「あ、さっきビーグルが来て、そのあと敦賀さんが来られて…その時、何でしょう、悪意と言うかプレッシャーみたいなのを感じたと思ったら…」
「気を失っていた?」
キョーコはこくりと頷いた。

「今はどう?」
尋ねられて、キョーコは思わず自分の体を見おろした。
「全く…なんともありません…」
「よかった…」
思わず全開になった蓮の柔らかく甘い笑みを正面から見たキョーコの顔は、瞬く間に真っ赤になった。
「どうした、最上さん。熱でも?」
純粋に心配した蓮がキョーコのおでこに手を当てると、キョーコはびくりと体を震わせた。
「いいいい、いえ、熱はありません…あの!なんでもありませんから…!」
「そう?…おっと、送って行くって約束したね。そろそろ行った方がいいかな。ちょうどいい、最上さんは車の中でもう少し休んでて」
蓮は立ち上がると、キョーコに向かってすっと手を差し出す。キョーコはその手におずおずと自分の手を重ねると、そろりと蓮の顔を覗き見た。
「あの…ありがとうございます」
「どういたしまして」
ふんわりと微笑まれ、きゅっと指に力を入れられただけでキョーコの心臓が飛び跳ねる。

何これ?なんなの?いくらなんでもこんな…こんな反応…私?

キョーコが軽いパニックに陥っている内に、手をつないだまま2人はロケバスを出て、心配そうに寄ってきたスタッフに大丈夫と返事をして、そのまま蓮の車へと進んだ。すると、黙って歩いていた蓮がふと立ち止まり、キョーコを振り返る。
「君の…」
言葉が途中で止まったため、キョーコは首をかしげた。
「はい?」
「いや……なんだか、綺麗な景色を見た気がして…それを守りたい、育てたいって思ったんだ」
「え?」
「ごめん、なんでもないよ」
蓮は苦笑すると車のドアを開け、キョーコと後ろからついてきた社を導き入れる。

確かな記憶はないが、蓮の胸の中にはある種の確信と自信が生まれ、全く自覚がないままキョーコの泉は溢れだす。
キョーコの心に豊かなオアシスが生まれるのも…そう遠い将来ではないかもしれない。




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コメントコメント


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微笑ましい(*^○^*)

ばっちり潜在意識に植え込まれちゃったんですね、キョコちゃん。
お互い記憶はないのに暖かい気持ちが溢れているのが伝わってきて微笑ましいです。
そして何気に、

 > 手をつないだまま2人はロケバスを出て、心配そうに寄ってきたスタッフに大丈夫と返事をして、そのまま蓮の車へと…

…って、心配そうに寄ってきたスタッフさん、繋がれた手を見て内心度肝抜かれたんじゃ(笑)

素敵なお話、ありがとうございました!!

花 | URL | 2013/09/04 (Wed) 02:24 [編集]


Re: 微笑ましい(*^○^*)

> 花様

コメントありがとうございます!
何やら中途半端に終わってしまった気がしますが、お楽しみいただけましたでしょうか?
蓮さんが自信持っちゃってキョコちゃんが意識しちゃってたらあとはイケイケです!

> …って、心配そうに寄ってきたスタッフさん、繋がれた手を見て内心度肝抜かれたんじゃ(笑)

おそらく何がどうなっているのか分からないまま、蓮さんの紳士笑顔になんとなく納得させられて後で首をひねっていたものと思います。

楽しいリクエスト、ありがとうございましたー!

ぞうはな | URL | 2013/09/04 (Wed) 22:38 [編集]