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心の泉【リクエスト】 (中編)


こんばんはーー!

なんとか2話目を残して行く事が出来ましたー。
続きはまた来週!ということで、よろしくお願いします。





なんとか理由をつけて着替え用のロケバスを空けてもらうと、蓮はキョーコを横抱きにしたまま中に入り、一番後ろのシートにそっと横たえた。レイノまで一緒に入り込んだこともあって、居合わせたADはバスの外でおろおろと不安げに社に尋ねる。
「京子さん、本当に大丈夫なんですか?救急車、呼びますか?中に一緒にいるの、ビーグールのレイノですよね。なんでここに…?」
「とりあえず、ちょっと様子を見るだけ。すぐ目を覚まさないようだったら救急車も呼ぶから!とにかく、人を入れないように頼むよ!!」
社は必死にADを押しとどめると、人が近づかないように念を押し、ドアをロックしてロケバスの奥へと向かった。

「どうだ?」
心配げに社は2人の後ろからキョーコを覗き込んだ。キョーコは少し呼吸が荒く、たまに眉間にしわを寄せて苦しそうだ。レイノが長い数珠のようなものをじゃらりと腕に巻きつけ、その手でキョーコの額に触れる。
「ふん……やはり完全に中に入り込まれてしまっている。キョーコ自身がそういう体質なんだ。馴染みやすいんだろう」
レイノはキョーコがたびたび飛ばす分身の生霊を思い起こしながら言った。
「どうすればいい?」
蓮の表情は固かった。自分が原因だと言うことも、この怪しげな男に頼らなければならないことも苛立たしく情けなく、感情がぴりぴりとささくれ立っている。

「除霊は不可能ではないが…生霊だからな。成仏させることはできない。無理やり取ってもまた取り憑かれる可能性も高い」
「では?」
「確実なのはこちらも内側に入り込んで…二度と近付けないようにすることだ」
「内側?」
「ああ。キョーコの心の中に入る」
さらりととんでもないことを言ってのけるレイノに、蓮はなんと返していいのか分からず言葉に詰まった。しかしレイノは懐からなにやらまじないの書かれた札を取り出し、さっさと準備に入っている。

「ど、どうやって?」
思わず聞いたのは社だ。不安げな顔で、どこか信じられない様子でレイノを見る。
「精神だけを飛ばす。俺の体は抜け殻になるが、それほどかからず戻るはずだ」
「そ、そんなことが本当に…?」
「……」
どこかバカにしたような表情で社を見たレイノは、すぐ目線をキョーコに戻した。
「やらなければキョーコは衰弱するばかりだ。冗談でなく呪い殺されることもあるだろう…」

「俺も行かれるか?」
真剣な静かな声で蓮が尋ねた。レイノはゆっくりと蓮の顔を見る。
「連れていくことはできるが、帰れる保証はないぞ」
「帰れなかったらどうなる?」
「体を抜け出した精神はそれほどもたない。魂が霧散した後は意識のない体が残るだけだ」
「そうなったとしても、最上さんに害はないんだな?」
「ああ」
「ならば問題ない。俺も一緒に行く」

「れ、蓮!?」
驚いたのは社だった。そもそもキョーコの心の中に入る、と言う話だけで荒唐無稽で信じがたいのに、そのよく分からない話に蓮が乗ると言うのだ。しかも今の意思表示で蓮は、自分は死んでも構わない、と言っていた。
「大丈夫ですよ社さん。俺のファンがした事だとしたら、責任は俺にありますし」
「だ、だけど…」
「俺が説得すれば聞いてくれる可能性も高いでしょう?」
「れん~~~~」

「ううう…」
キョーコが額に汗を浮かべてうめき声を上げる。蓮と社はキョーコの顔を見つめた。
「なるべく早く最上さんを解放したい。頼む」
真剣な表情で正面から蓮に見られ、レイノは頷いた。
「何が起きても俺を恨むなよ。責任は取らない」
「ありがとう」

微笑んで礼を言った蓮を無表情に見つめると、レイノは無言でキョーコの前に跪いた。窮屈ながら蓮もそれに倣う。レイノは数珠を自分の腕と蓮の腕に巻き付けた。そしてその手をキョーコの腕に重ねると、ちらりと社を見る。
「しばらく俺とこの男は眠ったようになる。…むやみに起こそうとするな」
「わ、わかった」

「いいか、行くぞ」
「ああ」
蓮が頷くと、レイノはなにやらぶつぶつと口の中で呟き始める。やがて2人の体は揺らぎ、キョーコの横たわる椅子にもたれかかるようにして意識を失った。


「蓮…大丈夫かな……キョーコちゃんを、頼むぞ~~~」
社には、もはや祈ることしかできなかった。



蓮がふと気がつくと、砂の上に立っていた。
今気がついたばかりだが、ずっとここにたたずんでいたような不思議な気分にもなる。ここがどこなのか、なぜ自分がここにいるのか、ということを考えながら蓮は辺りを見渡した。

頭上に見える空はどんよりとした灰色で、地面は見渡す限りの砂地。まるで砂漠のようだ。しかし少し離れたところには煙をもくもく吐く火山のようなものも見える。火山と反対側のかなたにおとぎ話に出てくるような立派な城が見えるが、こちらは幻なのか、輪郭がぼやけたり、たまにゆがんだりしていて像が安定しない。

メルヘン思考のキョーコのことだから、一面のお花畑に妖精が飛んでいる方が似合っている気がするのだが、蓮が思うよりもキョーコの心の中は色がなく、殺伐としているようだ。そんなことを考えながら蓮が足を一歩踏み出すと、いつの間にか目の前に黒ずくめの男が立っていた。

「ここが最上さんの心の中なのか?」
蓮に問われ、レイノは頷いた。
「そうだ。そしてあれが、入り込んだ生霊だ」
レイノがあごをしゃくって見せた方向には、もやもやと飛び回る黒い影が見える。呪詛にも聞こえる耳障りな雑音をまき散らし、たまにその影がどかんと空に当たると足元が揺れるので、この空間は見えているより狭いのかもしれない。

「あの生霊と話はできるのか?」
「呼びかけは届くだろう。聞き入れるかどうかはわからん」
「届いた呼びかけは本人の記憶には?」
「残ることはないだろうな。潜在意識に少し働きかける程度だと思え。キョーコに対しても、だ」

なぜこの男はこれほど詳しいのか。
蓮は疑問に思ったが、実際にレイノは蓮をこの不思議な世界に連れてきたのだ。蓮の知らない世界のことを熟知しているのだろう。蓮はそのことを頭から振り払うと、飛び回る影へと意識を集中させた。なぜか、声が届くと確信を持って普通に話しかける。

「君は…俺のファンで、俺のことを応援してくれていると思うんだけど」
やわらかい口調の蓮の声に、黒い影は動きを止めると中空で耳を傾けるようにじっと留まった。
「俳優としての敦賀蓮は、応援してくれる、君を含めたファンを大切に思ってる。だけど、俺も俳優として活動しない、わずかなプライベートの時間もあるんだ」
黒い影は少し動揺したのか、ぶぶぶ、と震えた。
「君が俺を思ってくれる気持ちはすごく嬉しくて、俳優である敦賀蓮としては、最大級にその気持ちにこたえたい。でも、俳優でない俺には、どうしてもゆずれない、大切な人がいるんだ」

大切な…人……?

つぶやくような女性の声が蓮の耳に届く。
「そう。だから、俳優でない俺自身としては君の気持ちにはこたえられないんだ…すまないと思うけど」
黒い影はぶるぶると震えたままゆっくりと蓮の周りを回り始めた。
「納得されなくても、恨まれても、仕方がないと思う…でも、それなら俺への気持ちは、俺にぶつけてほしい。俺の周りにいるほかの誰かではなく」

蓮の正面で動きを止めた黒い影は、ふわりと浮いたままじっと蓮の顔を覗き込むようにしてたたずんでいる。蓮はそっと両手を伸ばして黒い影を手のひらに乗せるようにすると、やわらかく微笑んだ。
「俺からのお願いだ。分かってもらえるかな?」
蓮には、涙を一筋流した女性が、それでもこくりと頷いたのが見えたような気がした。
「ありがとう…さあ、自分の体にお帰り…」

黒い影は蓮の手の平からふわりと浮かび上がると、黄色く光る玉に変わった。それから蓮の周りをくるくると何回か回り、上空でしばらくためらうように飛び回った後、勢いよく空へと飛び去り、消えた。

「ふん、なんだ、意外とあっけないな」
ぎしぎしと砂を踏みしめてレイノが蓮に近づいてきた。
「あんたのファンはお行儀のいい女が多いってことか」
「分からないが…」
蓮は顎に指を当てて考えながら慎重に答える。
「俺は俳優として、ファンを大事にしたいと思っている…それは本心だ。…通じた、のかな?」
「お優しいんだな」
「いや…」
蓮はふと顔を上げて空を見た。さきほどのどんよりとした色が、少し明るくなったような気がする。
「あんたがさっきのを払ったから、ここは安定したようだ」
「そうか、よかった…」

レイノはくるりと踵を返した。
「さて、さっさと戻るぞ。長居は危険だ」
「ああ…」
蓮も頷いてレイノについて歩き始めたが、足を止めるともう一度ぐるりとまわりを見回した。この荒涼とした砂漠の風景がキョーコの心の中だと言う事が、ある意味納得ができる半面、寂しくもある。

「俺が…君の心に色を与えることは…できないかな?最上さん…」

蓮はぽつりと呟いた。そして歩き始めようとしてふと斜め前方に目を止める。
だだっ広い砂漠の中に、先ほどは気がつかなった大きい窪みがある。蓮は何故か吸い寄せられるようにその窪みに近づいていた。


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コメントコメント


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窪みの中は…

レイノ大活躍~!(*>▽<*)
彼はホント色んなことできそうですよね。
ぜひとも仲村先生にレイノの特技をリストアップしてみて欲しいところです(笑)
それにしても聞き分けの良い困ったちゃんで良かった。
そして窪みの中は…何だろう。
やっぱりinキョコちゃんなのかしら。
蓮さんがただっ広い砂漠に綺麗な色を添えてくれることを信じて…
後編楽しみに待ってますね。

花 | URL | 2013/08/29 (Thu) 01:57 [編集]


Re: 窪みの中は…

> 花様

コメントありがとうございます!
お返事が遅れて申し訳ありません。

ほんと、レイノって何でもありなお人ですね。何食べて生きてるのかしら?と思うくらいです。
それにしてもキョコちゃんって蓮さん、レイノ、尚、と傍から見るとえらく羨ましがられるラインナップに好かれていますよね。 中身は癖のある人ばかりだけど。
(光さんが一番まともかも)

後編、遅れてしまっていますが、お待ちくださいねーーー。

ぞうはな | URL | 2013/09/01 (Sun) 17:19 [編集]