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毒りんごをどうぞ【リクエスト】(6)


こんばんは!

まだまだ暑いですねー。動きたくなくなる…

さて、もうどうにも止まらなくなってきた6話目。
あと2話か3話か、ごめんなさい、お付き合いいただけると嬉しいですー。




俺が君に触れても…君は怒らない?


社の言葉にしばし考え込んだ後、心の中で蓮は尋ねました。怒りで目を覚ましてくれるならそれでもいいかな、とまで考えてしまい、自分で考えのおかしさに苦笑します。
「でも…俺はもう一度君の笑顔が見たい。そして、君が目覚めてくれたら今度こそ俺も…俺も余計なことに囚われずに……」
蓮は両手でそっとキョーコの手を包み込むように握りました。その手を祈るように自分のおでこにつけ、しばらく目を閉じて祈りを捧げます。

それから片手でキョーコの手を握ったまま立ち上がり、そっとそっと、その唇に自分の唇を重ねました。

蓮がゆっくりと顔を離すと、一瞬キョーコのまつげがぴくりと震えたような気がしました。
「最上さん!?」
思わず声をかけると、握っていたその手に弱く力が入ります。蓮は祈るような気持ちでキョーコの顔を見つめました。やがてキョーコの表情が少し苦しげにゆがむと、ゆっくりと瞳が開きました。しばらくぼんやりと中空を見つめていましたが、間近にある蓮の顔を認識したのか、驚いた表情になり、息を吸おうとして急に咳き込みました。げほげほ、と咳をした瞬間に何か小さいかけらがキョーコの口から飛び出します。

咳が落ち着くと、キョーコは大きく呼吸をしました。頬に徐々に赤みが戻り、どんよりとしていた瞳にもいつもの光が宿ります。しばらく深呼吸を繰り返してから、やっとキョーコは蓮の方を見ました。
「敦賀さん?あれ、私……?」
「最上さん……!」
キョーコは訳が分からないまま蓮にぎゅっと抱きすくめられていました。ちょっと前にもこんな事があった気がします。けれど、やっぱり蓮の腕の中は温かくて気持ちよくて、キョーコは再びじっとその身をゆだねたのでした。

寝室から蓮に呼ばれ、社も飛び込んできて大喜びしました。
まだ蓮の腕に囚われたキョーコの両手を取り、うっすらと目に涙をためて「よかった」と繰り返します。2人があまりに喜ぶので、キョーコは照れ臭くも嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
やがて社がキョーコの食事を作るために出て行き、再び寝室には蓮とキョーコ2人になりました。2人は並んでベッドに腰掛け、手を握り合ったままぽつりぽつりと話をします。

「真っ暗な中にいたんです。どっちにいっていいのかも分からないくらいの暗闇でした。寂しくて心細くて、でも…ずっとずっと、敦賀さんが私の名前を呼んでいるのが聞こえていたような気がしました。それに、温かいぬくもりが私の手を包んでくれていて…」
キョーコは蓮の大きな手に包まれた自分の手をじっと見つめました。

「……君にどこかに行ってほしくなかった。目を開けてくれって、ずっと祈ってたんだ」
「また、敦賀さんに助けてもらったんですね、私」
「いいや?」
くすりと笑って首を傾げた蓮を、キョーコは驚いて見つめました。
「え?」
「俺は祈って……君にキスしただけ」
「キ…!?」
「ごめんね、君の許可もなく」
「なななな、なんでまたそんなことを…?」
「君が王子からのキスで目覚めるかもしれないって聞いたから」
「なんですかそれ!ど、どなたにですか?」
「君の……婚約者の王子から」

びくり、と肩を震わせたキョーコに、蓮は尚の訪問について説明しました。すべてが蓮に知られたことを理解すると、キョーコは肩を落としました。
「すみません、黙っていて」
「いや、そういう事情があるなら仕方がないし、気にしないで。それで、どうする?アカトキで、尚王子に保護してもらうかい?」
蓮は内心そんなことはさせたくないと思いながらもキョーコの意思を確認すべく尋ねました。するとキョーコは途端に表情を固くして首を横に振ります。
「いいえ!私、あの男のところに行くつもりはまったくありません!父が戻り次第、婚約の撤回をお願いしようと思っていたところなんです!」
目を丸くした蓮に、キョーコは身振り手振りを交えて感情的に尚の不誠実さを語りました。愛情なんてこれっぽっちも残っていない、あんな男はリボンをかけて美森に渡す、と断言したころには、蓮は笑顔になっていました。

「そうか…それで納得がいったかな」
「何にですか?」
「尚王子は君の王子は自分だけ、と言ったけど…彼がキスしても君は目を覚まさなかった」
「な!私、あのバカにキスされたんですか?」
「うん…ごめん。どうしても君に目覚めてほしかったから俺も止められなかった…でもだめだったんだ」
「……あんな奴のキスで目覚めたくなんかないです!」
「ふふふ、そうだね。だけど君は俺のキスで…目覚めてくれた」
キョーコは「あ」と口を開けると恥ずかしそうに目をそらして頬を染めます。蓮は微笑みをたたえたまま、しっかりと正面からキョーコの顔を見つめました。キョーコの手を握る指にも少し力が入ります。

「俺もね…君に偉そうなことを言ったけど、自分の心をごまかして、状況に流されるところだったんだ」
キョーコは不思議そうに首をかしげて蓮を見ました。蓮は続けます。
「でも…君が死んでしまったかもしれない、て思って、そんな考え方をしたことをすごく後悔した。手に入れたいものは、どんな状況だろうが、諦めたらいけないって知ったんだ。失ってから嘆いても、遅すぎると」
「はい…?」
「ねえ、最上さん。俺はもう、君を失うことに耐えられそうにない。もうこの手を離したくない。そう思うのは、迷惑なことかな?」
キョーコは目を見開いて蓮の顔を見ました。思いがけない言葉が、蓮の口から飛び出したことに驚きを隠せません。
「え…ええええええ……あのでも、いや…ちょっと待ってください」
「この短い間の君との暮らしは、今まで経験したことがない喜びにあふれてた。君がいない生活は、もう考えられないくらいに」
戸惑い混乱するキョーコに蓮は畳み掛けました。
「こんな木こりに言われても迷惑だろうけど……俺はもう、自分の気持ちをごまかして、大切なものを失ってから後悔したくないんだ。ああもちろん、君にちゃんと断られたら、納得するよ」
少し寂しげに微笑んだ蓮を見て、キョーコは胸が締め付けられるような気がしました。思わず顔を伏せると、握ったままの手が目に入ります。

しっかりとつながれた2人の手をしばらくじっと見つめてから、キョーコは顔を上げました。
「私も…ここに来たのは本当に偶然ですけど、敦賀さんと暮らすのはすごく楽しくて、お城に帰りたくないくらいで…私も、ここでずっと暮らせたらって思ってました。でも…でもやっぱり、私はLME国の王女で、国の将来を作っていく義務があって…それを放棄はできないんです」
はあ、とひとつ息をつくと、キョーコはぎゅっと蓮の手を握りしめました。
「でも、私もこの手を離したくない…敦賀さんといたい。でも……」

悲しそうな顔になったキョーコに、蓮は笑顔のまま問いかけました。
「君が俺といられないと思うのは、君の王女としての義務の問題だけ?」
「それだけ、です。もしそれがなかったら…!」
「なかったら、俺と一緒にいたいって思ってくれる?俺が木こりでも?」
「そんなこと、何も関係ありません!木こりは立派なお仕事じゃないですか。…でも、だからこそ、一緒にお城に来てもらうのは無理ですよね…?」
「俺みたいな人間は城になんて入れないだろう?」
「そんなことありません。もし反対されたとしても、どれだけかかったとしても父と母を説得してみせます」
キョーコはきっぱりと言い切って、まっすぐに蓮を見ました。キョーコの顔をじっと見ていた蓮は ふ、と表情を緩めると口を開きます。
「うん。すごく嬉しいな。君から、そんな返事が聞けるとは思ってなかった」
蓮は少し恥ずかしそうにかりかりと頭をかきました。

「すごく嬉しい」

改めて見つめられながら囁かれた言葉に、キョーコは真っ赤になりました。蓮はその顔を見ながら何かに気がついたように口を開きます。
「ああそうだ、忘れてた」
キョーコが「何を?」と問おうとした瞬間、その唇は蓮に塞がれていました。意表をつかれてされるがままだったキョーコは、蓮の唇が離れてから我に返って思わず手で唇を覆います。
「なっ?」
「やっぱりキスするなら、ちゃんと意識がある時じゃないとね」
何言ってるんですか、と真っ赤な顔で頬を膨らますキョーコは、照れ臭そうです。蓮は嬉しそうに笑いながらキョーコに一つ、提案をしたのでした。
「君に、会ってほしい人たちがいるんだ」


「つ、るが、さん、はや、すぎ、ですぅ~~~」
「しっかり捕まっててね。あと、舌噛まないように」

キョーコの耳元を風が吹き抜けていきます。木々が飛ぶように後ろに流れて行きます。体は規則的に揺られますが、後ろからたくましい腕にしっかりと支えられ、安心感がありました。
2人は真っ黒な美しい馬に乗って、森の細い道を素晴らしい速さでヒズリ国の方向へと駆け抜けていました。でこぼこしてあちこち木の根がむき出しになっているというのに、馬は全く揺らぐことなく軽快に蹄の音を響かせています。

瀕死の状態から目覚めた翌朝、キョーコは蓮に促されるまま小屋の外に出ました。そして、そこに大きいがっちりとした黒い馬がつながれているのを見てえらく驚きました。
「な、なんですか、この馬は…!」
「ん、こいつは俺の馬、カインって言うんだ」
「え」
蓮は慣れた手つきで鞍を馬につけると、ひらりと飛び乗って上からキョーコに手を差し伸べました。
「さ、行くよ」
訳も分からず手を取ったキョーコは蓮の前に引き上げられ、そして蓮が馬にするどく掛け声をかけて…ありえない速さで馬が森の中を駆け始めたのでした。

「う、まって、こ、んな、には、やいん、です、か?」
「カインは特別だよ。さて、そろそろ森を抜ける」
蓮の言葉通り、前方の視界は開け、森の向こうにはなだらかな丘が広がっていました。歩いたら2日かかると聞いていた気がするのにこの馬にとっては大した距離ではないようです。少し向こうに小さな町が見えます。キョーコの住むLME国と違い、起伏が激しく森があちらこちらに見えました。

町々での短い休憩をはさみながら、2人は日が暮れる前にヒズリ国の首都に辿り着きました。
周りを森に囲まれたようなその街は、街中にも緑があふれています。2人は馬に乗ったまま街の大通りをゆっくりと進んでいきます。キョーコの前には、LMEの王城とは趣が違う、背の低い宮殿がどっしりとたたずんでいました。

蓮はあれこれと街のことを指差しながら説明します。
「君が目覚めなかったら、ここまで連れてこようかとも思った。ここには優秀な医者がいるからね」
「そうなんですか…」
「でも、意識のない君を乗せて今日みたいな速さで馬を走らせるわけにもいかないだろう?」
「確かに…私、落ちる自信があります……」


宮殿までたどり着くと、蓮は宮殿の衛兵に馬を預けて勝手知ったる様子で玄関から中に入ります。蓮の顔を見た衛兵たちが驚いた表情を作りながらも、もれなくびっしりと背筋をただし、最大級の敬意を払って礼をする様子を見て、キョーコはなんとなく感じていた予感が確信へと変わっていくのを感じました。

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