SkipSkip Box

薔薇の素顔 (11)


分かりにくいですが、パラレルです。
なかなか終わらなくなってきた…

---------------------------------------



キョーコは通路の入り口に見える数人の姿を認めて、驚きの表情になった。
「皆さん、どうなさったんですか?」
そこにいたのはCafe Felicia Gardenの常連客達。たった先ほどまで、店内でコーヒーや朝食を味わっていた面々である。なぜか、会計を済ませて出かけたはずの男の姿まで見える。

「いやね、できれば聞くだけで口を挟むつもりはなかったんだけどね」
一人のスーツを着た中年男性が代表して答える。少し恥ずかしそうにぼりぼりと頭をかきながら。

(どっちにしても聞くつもりではいたんだ!)
キョーコと尚は同時に心の中で叫んだ。

「君は、不破尚さんだよね。よく娘が君の歌を聞いているよ。本物も男前だねぇ」
「・・・それはどうも・・・・・・」
尚も展開の読めない状況に毒気を抜かれてしまってうまく対応できないでいる。うっかり頭まで下げてしまった。

その間に蓮はジャケットを脱ぐと、キョーコの肩にふわりとかぶせた。
「キョーコちゃん、風邪引くよ」
「うあっ。すみません、ありがとうございます!」
キョーコはシャツ1枚で外に出ていたことに気がついた。ジャケットを羽織らされて慌てるが、大きすぎるジャケットからはたった今まで着ていた蓮のぬくもりと香りが伝わってきて、思わずどぎまぎしてしまう。蓮を見上げると、穏やかな顔で見つめ返され、なんだか赤面してしまい、慌てて視線を尚と馴染みの客のほうへ移した。

「・・・俺とこいつの個人的な話なんで、できれば放っておいて欲しいんすけど」
尚は話をぶった切られていささか不機嫌だ。一番肝心なことを、まだキョーコの口から聞けてもいない。対する中年男性は穏やかに答えた。
「うん、一つだけね。ちょっと、訂正しておこうと思って」
「なんすか、訂正って・・・」
客たちは互いに顔を見合わせて、頷きあっている。
「ああ、その前に、我々はね、キョーコちゃんのファンクラブ会員なんだけど」

尚は思わず「はぁぁ??」と間抜けに聞き返してしまった。キョーコ自身もそんなのがあるとは初耳だった。え、いつの間に?なんで?とはてなマークが大量に飛んでいる。
男性は二人の反応に構わず続けた。
「まあ、店に来るときだけではあるものの、毎日のようにキョーコちゃんに会って、声を聞いて、その仕草をよく見てる訳だよ」
「・・・・・・」
尚はまだ呆然としていてなんと返していいのか分からない。この話はどこへ向かってるんだ?

「バイトを始めたときから、髪を切ったときも、色々毎日、見て来た・・・そして、毎朝キョーコちゃんの『行ってらっしゃい』の声に、元気をもらって毎日の仕事に励んできたんだ。だから、キョーコちゃんが悲しかったり、落ち込んだりする時は、できるだけ力になりたいんだ。もっとも、キョーコちゃんはなんでも自分で頑張っちゃうってことも知ってるけどね」
別の男性が引き取って続けた。
「それで、君が今日店に来たときのキョーコちゃんの様子がおかしかったから、悪いとは思ったけど君たちの話を聞かせてもらったよ。・・・まあ、聞こうと思わなくても聞こえてくるくらい大声で叫んでたけど」
「あの・・・」
キョーコも言葉が出ない。とりあえず、尚とのなんだかんだのやり取りを全部聞かれたのかと思うと顔から火が出そうでくらくらする。さっきから色々な衝撃に打ちのめされて、なんとか踏ん張って立っているのがやっとだった。
「キョーコちゃんだって不破君だって若いんだ。恋愛のあれこれがあっても、おかしくはないと思う。仕打ちがあんまりだったとしてもね・・・」
男性の目線がちょっと険しくなるが、そこは追求しないと決めたのか、そこで留める。
「ただ、尻軽だの色気を使うだの、キョーコちゃんはそんなんじゃない!そこだけは訂正してもらおうか!!」

(一番大事なのはそこなのか??)
尚は更に動揺する。もう、このおっさんたち何を言いたいのかわかんねえ!と色々放棄したい気分になってきた。

男性たちは堰を切ったように口を開き始めた。
「キョーコちゃんはねぇ、それはそれはつれないんだよ」
「もちろん、やさしいんだよ。決して冷たくはないんだ」
「でもちょっとやそっと言い寄っても、まあなびかないこと!」
「村田君なんてあんなに勇気を振り絞って告白したのになかったことになってたもんな」
「いや、村田君はだって、35歳超えてるぞ。なのに口説き慣れてないし」
「村田君が口下手ってのもあるけど、そもそも口説かれてるって分かってなかったみたいだったよな」
「店の外で会う事に成功した客はいないんだぞ」
「あのいい男の貴島さんだって全然まともに相手してもらってなかったよな」
「女の家からの帰り際に別の女口説くのもどうかと思うけどねぇ」

なんだかよく判らない男たちの会話は止まらなくなってきた。
キョーコは持ち上げられてるのか落とされてるのかの判断もつかない。大体、あれこれと挙げられている事例だって、全部お客さんの冗談かお世辞だと、今の今まで思っていたのだ。つれないとか言わないで欲しい。

「あぁ~~、もう、分かったよ・・・とりあえず、そこだけ訂正すりゃいいんだろ!」
焦れた尚が叫んで不毛な会話を断ち切った。落ちたキャップを拾い、目深にかぶると、サングラスをかけて踵を返した。
「邪魔が入ったから改める!ケータイの着拒戻しとけよ」
「誰が!!もう話すことなんてないわ・・・それから言っとくけど、もう愛だの恋だの愚かなことは二度としないって決めたのよ!」
わかったわね、バカショー!と鼻息荒く言い切ったキョーコをしばし見つめると、尚は何も言わず客たちの間を抜け、足早に去っていった。

尚の後姿を見送り、男たちは はぁ~~、と息をついた。
「・・・てことなんで、何かあったら誰でも頼っていいんだよ」
「もし不破君がストーカーみたいになるようだったら山崎さんに相談してね、あの人ああ見えて警察のお偉いさんだから」
「じゃ、私たちは仕事なのでこれで!」
何か余計なことを追求される前に、と常連客達はとっとと退散した。後に残されたのはキョーコと蓮だけだ。
黙って成り行きを見守っていた蓮はやっと口を開いた。
「さて、体も冷えちゃったし、そろそろ戻ろうか?マスターも心配してるよ」
キョーコはまだ混乱の中にいたが、だいぶ披露していたため、素直にうなずいて蓮の言葉に従うことにしたのだった。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する