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毒りんごをどうぞ【リクエスト】(4)


こんばんは!
久しぶりの更新となりましたー。

そろそろ、カテゴリを移そうかな…?5話を超えたら中編…?





また数日が経ったある日。所用のためLME国を訪れた社は、難しい顔で蓮の元へと帰ってきました。LME国に関することを話して不安にさせるといけないと思い、キョーコには秘密の行動です。

「社さん、怖い顔してどうしたんですか?」
「うーん…ちょっと気になることを聞いたんだよ」

社がLMEの城下町を訪れた際にそこの住民と世間話をして、なにやら城内で問題が起こっているようだと言う事を聞いたのです。聞いた話は国王が外遊で不在なこと、少し前に城の中で騒ぎがあったこと、その騒ぎのあと王女の1人が行方不明らしいこと。
噂の域を出ない話でしたので細かい事は分かりませんでしたが、ただ、1つとても重要な事が分かったのです。

「行方不明になったという王女の名前がキョーコと言うらしいんだ」
「え?まさか……最上さんが…LME国の王女?」
「断言はできないけどな」

一方のキョーコは、男たちが自分の身元をそんな風に推測しているとは知らず、ひとり不安の中にいました。
先日キョーコに櫛をくれた老婆は、キョーコを亡きものにしようと来たのでしょう。まず間違いなく美森が差し向けた者だと思われました。
自分は崖から落ちたと報告がされたはずなのに、なぜ美森は自分がここにいると分かったのでしょうか?毒の塗られた櫛が髪に挿されたようでしたので、居場所を知るための魔術や毒薬などをどこかで手に入れたのかもしれません。

国王が戻るまで、と思っていましたが、父である国王が戻ったからといって、城に戻ったら美森に暗殺されないとも限らないとキョーコは考え始めていました。

なによりも、ここでの暮らしは初めに思ったよりキョーコにとって楽しく居心地がよく、ずっとここで暮らしたいと思ってしまうくらいです。王女としての責務を思うとそれは許されないことですが、キョーコはここに居座りたくなるのは蓮がいるからだ、と気がついていました。社の方が優しくて、お兄さんみたいな温かさがありますが、蓮は意地悪なことを言う割にキョーコのことを見守ってくれているし、たまにふわりととろけるような微笑を見せます。キョーコはその微笑をみると胸の中がざわざわとかき乱されてしまうのです。でも、それも王女と言う身分の自分にとっては許される思いではありません。なにより自分には、もう結婚など拒否したいくらいむかつく相手とはいえ、許嫁がいます。
たとえ美森に「あげるわよ」と尚を譲ったとしても、自分が蓮や社と居続けることは不可能でしょう。遠くない将来に2人との別れが待っているのです。

千々に乱れる気持ちを持て余し、キョーコは思わずため息をこぼしました。
「どうしたらいいんだろう…」
「最上さんはどうしたいの?」
ぽつ、と口からこぼれた独り言を人に聞かれているとは思わなかったため、キョーコは後ろから声をかけられて飛び上がりました。
「つつつ、敦賀さん!」
「俺は君の事情を知らないけど、君は何かに囚われてしまっているように見える。だけど、誰に気兼ねする事もないし、立場みたいなものにこだわる事もない。自分が決めたことをそのまますればいいんだよ」
無責任にも聞こえかねない蓮の言葉は、なぜかキョーコの心にすとんと入ってきました。なぜでしょう、蓮に言われるとものすごく説得力があってそれが正しい気になってしまうのです。

変なの…敦賀さんは森の木こりで、私のことなんて何も知らないはずなのに…

「自分が決めた事…」
「そう。案外ね、そうするとうまく行くもんだよ」
「そんな経験が…おありですか?」
蓮は穏やかな笑みをたたえると頷きました。
「あるよ。まあ、君みたいな貴い身分の人に比べれば木こりの悩みなんてちっぽけなことだろうけどね」
「そんなこと!……私なんて、今まで与えられた環境で人に言われるまま生きてきたんです。自分で決めるなんて…考えたこともありませんでした。ここで完全に自力で生活してらっしゃる敦賀さんの方がずっとずっとご立派です」

今回だって奏江と石橋3人組に助けられるまま森に入り、ここで社と蓮に拾われ。自分は人に頼らないと生きていかれない弱い存在なのだと強く強く思い知らされています。王女なんかより木こりの方がよほど、自分の力で森を切り開いて生きているではありませんか。

蓮は少し驚いた顔になりましたが、苦しげな顔で俯いてしまったキョーコをしばらく見つめると、その頭に大きな手を置いて、少し体をかがめて正面から顔を覗き込みました。
「そういう風に考えられるってことは一歩を踏み出した証拠だ。大丈夫。最上さんなら絶対できるよ」
「本当に…?」
少し潤んだ瞳で真正面から見つめられて、蓮の表情は一瞬固まりました。しかしすぐに立て直して力強く頷きます。
「本当。なぜなら俺も似たような考えを通って今ここにいるから。その俺が保障するんだ。説得力があるだろう?」

この人も…いろいろ抱えて生きてきているんだ…

キョーコは力強い先輩を得た気分です。
「はい!ありがとうございます。私…ちゃんと考えて、頑張ってみます」
「うん。俺に手伝えることがあったらなんでも言って」

少し離れたところで社が様子を見守っていたのですが、微笑み合う二人を見て小さく笑みをこぼすと、そっとその場を離れたのでした。

キョーコがこの先を考えてみようと決心した翌日。
いつも通り蓮と社が出かけ、キョーコが表の井戸の脇でじゃぶじゃぶと洗濯をしていると、元気そうな浅黒い肌の中年女性が通りかかりました。がっちりとした体型のその女性は、キョーコに気がつくと、おや、と声をかけてきました。

「いつもここを通ると誰もいないから、ここは木こりの家かと思ってたんだけど、女の子が住んでたのかい」
「あ、ええ、まあ…」
キョーコは言葉を濁しました。女性も気にせず、背中の籠を下ろします。
「ちょうどよかった。お嬢さん、りんごはいかがかい?ちょうどよく熟れたのがうちの畑で取れてね。これからLMEの城下町に売りに行くところなんだよ」

どさりと地面に下ろされた大きな籠の中には、女性の言葉通り美味しそうに光るりんごがたくさん入っていました。
「うわあ、本当に美味しそうなりんご!」
キョーコが思わず歓声を上げると、女性は嬉しそうにうんうんと頷きました。
「だろう?1個味見してみるかい?」
女性は籠の中から太い手でりんごを1個つかむと、懐からナイフを出して器用に手の上で半分に切りました。蜜が入った美味しそうなりんごです。女性は半分をキョーコに差し出すと、もう半分をかじりました。
女性の人懐っこい笑顔につられて、キョーコも一口りんごをかじりました。一口かじっただけで口の中に甘い香りが広がります。
「すごく美味しい…」
「実はね、このりんごはLME城のコックさんもよく買ってくれるんだよ。もしかしたら王様が食べてるかもしれないね」
女性は周りに人も居ないのに、こっそりとキョーコに囁きました。

確かにお城の食事に出てくるりんごはこんな風にいつも甘くて美味しいな…

キョーコはそう考えると、女性ににこりと笑いかけました。
「じゃあ、2つくださいな」


りんごの籠を背負いなおした女性は木こりの小屋からLME国へ続く細い道をえっちらおっちらと歩き始めました。しばらく歩くと、道の脇の大木の陰から若い女性が姿を現しました。
「首尾はどう?」
問いかけられた女性はぴたりと足を止めると無表情に感情の入らない声で答えます。
「りんごを2つ、買ってもらいました」
「ちゃんと渡したあのりんごを売ったわね?」
「はい」
「で、女は食べたの?」
「いいえ…持って小屋に入りました」

ちっ、と女性は舌打ちして、思案顔になりました。
「てことは…死んだのも確認してないってことね。…まあいいわ。どうせお姉様のことだから、リンゴパイでも作って木こりたちにふるまうんでしょ。あの小屋の他の人間も一緒に始末できれば、事情を知る人間はいなくなる……今度こそ、美森がショーちゃんのお妃として一番になるわ!」

ふふふふ、と暗い笑顔で女性は笑うと、ぼうっと立ち続ける女性に囁きかけました。
「今あったことは全部忘れて、いいわね」
女性の耳の横で ぱん!と両手を鳴らすと、女性は はっと正気に戻り、LME国に向かって歩き出します。美森はしばらくその後姿を見つめると、ちらりと小屋のほうを振り返り、そして煙のように姿を消したのでした。


夕方、小屋に戻った蓮と社は言葉にならない衝撃に打ちのめされていました。玄関ドアを開けたすぐそこ、台所のスペースに真っ青な顔のキョーコが倒れていたのです。
「キョーコちゃん!キョーコちゃん!」
「最上さん、しっかりしろ!」
すぐに駆け寄った2人はキョーコを抱き起こすと呼びかけましたが、完全に顔の色を失ったキョーコは力なく横たわりまったく反応しません。
社は周りを見渡すとキョーコが倒れた原因となったものを探しました。食卓の上にはりんごがひとつ、鍋敷きに置かれた鍋の中には美味しそうなりんごジャムがつやつやと輝いています。
「今度はこれか…?」
キョーコの足元にはジャムのついたスプーンが転がっているので、間違いなさそうです。

「誰がこんな…」
蓮の声には悲しみと怒りが混ざっていました。そのまましばらくキョーコの白い顔を見つめると、無言でその体を抱き上げて自分の寝室に運び、そっとその大きいベッドに横たえました。少し間を空けてから社が寝室を覗くと、ベッドの脇で椅子に腰掛けた蓮がキョーコの手を両手で握り締めたまま俯いてじっとしていました。社はかける言葉も見当たらず、キョーコが目を開けないことを改めて認識し、悲しい思いを抱いて戸口にたたずんでいたのでした。

夜が更け、そして明けても一睡もせず、蓮はずっとキョーコの顔を見つめて椅子に座り続けていました。
食卓で突っ伏してウトウトしながら朝を迎えた社が少し休むように蓮を促しましたが、それでも蓮は振り向きもせずじっと座ったままです。
「お前が倒れちゃうぞ」
「2、3日食べなくたって寝なくたって平気です」
「だけどさ…」
「すみません社さん、少しだけほうっておいてもらえませんか?」

蓮の声は穏やかでしたが、反論できない意志がそこにこもっていました。

なんとなく惹かれてるとは思っていたけどそこまでだったとはな…

その事に今気付いたとしてもどうしようもありません。社は頭をひとつ振ってその場を離れました。
キョーコはLMEに帰すべきなのでしょうが、それを今の蓮に言い出すことは到底できそうにありませんでした。

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