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毒りんごをどうぞ【リクエスト】(3)

こんばんは!!ああ、日本の夏。

さて、ぞうはなは明日からしばらく、PC環境より離れます。
来週中はほぼ更新できないと思いますが、よろしくお願いいたします。
(余裕があれば小話程度を予約投稿するかも…?)
コメントなどへの返信も戻ってからにさせていただきたいと思います。

それでは3話目です!



そして翌日。
蓮と社はその日の仕事を終えて小屋へと向かっていました。
「さて、キョーコちゃんは無事かな」
「身なりからして、貴族のお嬢様みたいですからね。音を上げてるかもしれませんよ」
小屋に近づくと、煙突から煙がたなびいているのが見えました。更に近づくと、窓からいい匂いが漂ってきます。

「ただいま」
小屋のドアを開けた2人は目を丸くしました。
小屋の中は、家具や道具の配置こそ変わっていないものの、一段トーンが明るくなったかと思うほど綺麗に磨きあげられていました。食卓の上には小さな花が飾られ、丁寧に洗われてたたまれた洗濯物が椅子の上に積まれています。

「お帰りなさいませ!お疲れさまでした」
「すごいなキョーコちゃん!1日でこれ全部1人で?」
「え、そうですけど…。これくらい、お世話になっているのですから当然です!」
「家事、得意なの?」
「得意と言うか、趣味に近いんです」

ぐるりと部屋の中を見渡していた蓮が感心したようにぽつりと呟きました。
「お嬢様みたいだからそれほど出来ないと思っていたけど…驚いたな」
「さあ、ご飯出来てますよ」
キョーコには蓮の呟きは聞こえなかったようで、笑顔で二人を促します。
キョーコの作った食事は、昨日まで主に社が作っていたのと同じ材料でできているはずなのにとても美味しく、2人は再び目を丸くしたのでした。

こうしてキョーコは数日を蓮と社の住む家で過ごしました。
もともと働く事が嫌いではないキョーコは、お城の中であれこれと制限されて暮らすよりも日々が充実していました。それでも慣れない暮らしに疲れ果て、テーブルにもたれて眠ってしまう事もあったのですが、そんな時は蓮と社はそっとキョーコを蓮の寝室へと運び、蓮用の大きなベッドで朝まで寝かせてあげたりもしました。

一方の美森は、一時期の激昂で姉を殺めてしまった事に自分で驚き、しばらくふさぎこんでいました。何かに取り付かれたように兵士に魔法の薬をかがせ、姉を襲わせてしまったのです。結局姉が逃げようとして崖から落ち、目の前にその無残な姿を晒すことがなかった事に、美森はホッとしていたのでした。
王不在時の大変な出来事に、城内は様々な事に目をつぶり、『キョーコ姫は城から逃げ出して行方不明』という曖昧な結論に無理やりすがりつき、何もなかったかのように日々が過ぎていました。

やがて数日経って美森は落ち着くと、誰にも咎められなかった事に安堵し、改めて鏡の前に座って話しかけました。
「鏡さん、鏡さん、王妃として一番ふさわしいのは、誰?」
鏡がぼやんと曇り、先日と同じ若い女性が姿を現します。
「んーーーっと?」
鏡は大きな目をくるりと回してしばらく考え込むと、はっきりと言いました。
「んん、やっぱりキョーコちゃんね!」

驚いたのは美森です。
「えっ?だ、だってお姉さまは……!」
「ん?何?」
「いえ…あの、数日前に崖から落ちて……」
ごにょごにょと言いよどむ美森をちらりと眺めて、鏡の中の女性は呆れたように言いました。
「あら、キョーコちゃんは元気にしてるわよ?」
「どこにいるのっ??」
美森は鏡をがしりと両手でつかむと、思い切り顔を近づけて叫ぶように尋ねました。鏡の女性は思わず身を引きます。
「…森の中。親切な木こりの家にいるわよ?」

あの、城のそばの森…?

美森は思案に暮れました。姉はもしかしたら森に身を隠して戻る機会を伺っているのかもしれない。このままにしておけば、やがて戻ってきた父王に様々なことがばれてしまう。そんな事になったら…!
美森姫は再び城下の怪しげな魔法の品を扱う店へと足を運んだのでした。


「行ってきます」
ある朝、社と蓮は元気に仕事に向かいました。
「いやー、キョーコちゃんの作ってくれるご飯は元気が出るねえ」
社は毎日上機嫌です。
「社さん、最上さんはしばらくの間いるだけなんですからね」
「分かってるよそんな事。今だけ満喫したっていいだろう!」
ぶつぶつと言い合いながら出かけていく2人は仲がいいのか悪いのかよく分かりません。2人を送り出した小屋では、キョーコが早速家中の掃除に取り掛かります。ぱたぱたとほこりを払い、チリを掃き、窓際に並べた鉢植えに水をやっていると、表を大きな荷物を背負った老婆が通りかかりました。
「お嬢さんこんにちは」
「あ、こんにちは!」
キョーコは慌てて深々とお辞儀をしました。この森はたまに商売のために隣国に行く人が通るのですが、こんなおばあさんは初めてです。
「わしは行商のものでねえ。お嬢さんのきれいな黒髪に、この櫛が似合うと思うんじゃが…」
老婆は背中に背負った重そうな袋の中からきれいな細工が施された小さな櫛を取り出しました。
「わあ、きれい!あら、でもごめんなさい。私お金を持っていなくて買えないの…」
「ほっほっほ。わざわざ声をかけて売りつけやしないよ…これはあげるよ」
「えっ。そんな、売り物なのに申し訳ないですよ」
「他の櫛は売れてしもうてね…残り物で悪いんじゃがねえ」

にこにこと笑うおばあさんに、キョーコも笑顔を返しました。
「本当にいいんですか?ありがとうございます」
「出ておいで。つけてあげよう」
キョーコが玄関から外に出ると、くるりと丸めたキョーコの黒髪におばあさんが櫛を挿しました。その途端、糸が切れた人形のようにキョーコはその場にぱったりと倒れてしまったのです。

「ふふふふ…これでいいわ…これで………あのレイノとかいう男、なかなかいい物を持ってるじゃない」
いつの間にかおばあさんの姿は掻き消え、そこにはキョーコの妹、美森が立っています。美森はキョーコが倒れたままぴくりとも動かないのをしばらく眺めると、暗い笑みを浮かべて森の中に消えて行きました。

お昼になり、蓮と社は小屋へ戻ってきました。
この日は近くで仕事をしていたため、お昼ご飯をキョーコと一緒に小屋で食べると約束していたのです。のんびりと歩いていた2人ですが、小屋が見えるあたりまで来たところで蓮が顔をしかめて急に走り出しました。
「どうした?」
蓮の突然の行動に驚いた社も小屋へ視線をやって同じように走り出します。社が小屋に着くころには、蓮は開きっぱなしの玄関でうつぶせに倒れていたキョーコの体を抱き起こしていました。

「最上さん!最上さん?」
蓮がキョーコの頬を叩きながら必死に呼びかけますが、キョーコの顔は白く、ぐったりとしています。何が起こったのかと思いをめぐらせる蓮の目に、キョーコの髪に挿された櫛が飛び込んできました。
「社さん、最上さんってこんな櫛持っていましたっけ?」
「いや…これは見たことがないな」

蓮は櫛を外そうと引っ張りましたが、何やらべたついたものが櫛についているのか、髪に絡んで外れません。蓮は躊躇無く腰に差した小刀を抜くと、キョーコの髪の絡んだ部分をばさりと切り落としました。そして、その体を抱きかかえて井戸に走り寄ると、冷たい水を汲んでその頭を流すようにざばざばとかけました。

途端にキョーコが顔をしかめ、呻いたかと思うと薄っすらと目を開けました。顔にも一気に赤みが差します。
「敦賀…さん……?」
不思議そうに頭を起こそうとしたキョーコを、思わず蓮はぎゅっと抱きしめました。
「よかった……よかった、最上さん。死んでしまったのかと……」
「え……私…?」
キョーコは訳が分からないまま蓮に抱きしめられていました。櫛を挿された瞬間、意識を失う直前には体中が一気に冷たくなったような気がしたのですが、今はそれが蓮の温もりで温められているようです。

なんだろう…温かくて安心する…

「蓮、キョーコちゃん、拭かないと風邪引いちゃうぞ!」
キョーコはぼんやりとその温もりに身をゆだねていたのですが、タオルを手に走り寄ってきた社の言葉で我に返ったのでした。


「髪…ごめんね」
小屋の中に入り、着替えて落ち着いたところで、ぽつりと蓮がキョーコに声をかけました。キョーコは自分の頭に手をやって、長かった髪が肩の辺りでぶっつりと切れていることにようやく気がつきました。
「いえ、そんな…こんなの、別にいいんです。助けてくださってありがとうございます」
蓮とキョーコはどこかギクシャクと言葉を交わしました。咄嗟に抱きしめてしまった、抱きしめられて身をゆだねてしまった、そんなことを考えるとなんとなく挙動が不自然になってしまいます。

キョーコは内心、とても不思議でした。
最初に会った時から、ずっと蓮には嫌われていると思っていたのです。社はそんなことないと笑っていましたが、何かと厳しく当たられていたような気がします。それなのに、蓮は自分もずぶぬれになってキョーコの命を救ってくれました。そしてキョーコが息を吹き返した事にとてもとても安堵して喜んでくれたようにみえました。

嫌われて…ないの?

思わず蓮の顔を見つめてしまったキョーコに気がつくと、蓮はふわりと柔らかい笑顔を作ってキョーコの頭に触れました。
「もう大丈夫だね。本当に良かった…うん、短い髪も似合うね」
キョーコはその笑顔を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような痛みを感じたのでした。


さっぱり心当たりが無い、と言い張るキョーコに、何か隠していることがありそうだ、と思いつつも、蓮と社は深く追求する事は避けました。問い詰めたらここから出て行ってしまう、そんな気がしていました。

キョーコが蓮によって命を救われてから、2人の距離は少し縮まったようでした。蓮が厳しい事を言うのはそれほど変わりませんでしたが、2人で話をして笑い合っている様子を社は良く見かけるようになり、そのことで蓮をからかったりもしました。
「最上さんはすぐにLMEに帰る人です。ここには一時的に滞在しているだけですし、ただそれだけですよ」
自分に言い聞かせるような言葉で社に反論する蓮は、なぜか、どことなく辛そうな顔をしていたのでした。


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