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毒りんごをどうぞ【リクエスト】(2)


こんばんは!さあ、このお話"短編"カテゴリに入っていますが、何話になるでしょう…
さっそく2話目、ようやくもう一人の主役が出せました。





キョーコは布袋を背負って森の中の細い道をひたすら歩き続けました。
着ている服はいい物ではありますが簡素な部屋着、履いているのも室内履きで、足が痛くなってきます。薄暗い森ですが、木々の合間から見える空が段々と暮れてきた事が分かりました。

この森って…いろんな化け物が出るって話だったわよね……

幸いここまで小動物以外のものには出会いませんでしたが、これから夜になれば何が出るか分かりません。もともとLME国ではこの森は恐ろしい場所だと言われていたので、キョーコも足を踏み入れた事は無かったのです。急に心細くなったキョーコは、どこか夜を明かせる場所はないかと、きょろきょろとあたりを見回しながらそれでも頑張って歩き続けました。

やがてキョーコは森の中の小さな空間に出ました。
そこには簡素ですがしっかりとした丸太で組まれた小屋がどっしりと建っていました。小屋の横には井戸があり、木の間に張られたロープに洗濯物が揺れています。小屋の前の切り株には薪を割るためでしょうか、斧が1本刺さっています。

こんなところに人が住んでるのかしら…それとも、森の妖精さん?いやいや、化け物かもしれないわ…

キョーコは楽観に傾きそうな考えを無理やり引き戻しました。しかし、小屋は至って普通に見えます。どんどんと暮れていく空を見て、キョーコは意を決して小屋のドアを叩いてみました。
「どなたかーーいらっしゃいますかー?」
数回呼びかけながらドアを叩きますが、何の返事も返ってきません。
「留守なのかしら…?」
試しにドアを引いてみると、ドアは簡単に開いてしまいました。キョーコは呼びかけながら恐る恐る中に入ります。

ドアを開けたそこは台所とダイニングとリビングを一緒くたにしたような空間でした。飾り気が無く殺風景ですが、こまごまとした物が置かれていて、誰かが暮らしているのだろうという事は一目で分かります。丸太を切っただけの椅子が2つあるので、ここには2人の人が暮らしているのかもしれません。
豪華でだだっ広いお城に比べればとても狭くてごちゃごちゃとした空間ですが、不思議と居心地は悪くありませんでした。

「ご夫婦ってことかしら…?」
キョーコはきょろきょろと部屋の中を伺いながら、部屋の奥に見えるドアの方へゆっくりと進みました。ドアを開けると、そこは広い寝室のようでした。しかし、部屋の真ん中に置かれたベッドは縦も幅もえらく大きいものです。キョーコがいつも寝ている、天蓋がついた豪奢なベッドより一回りほど大きいのでキョーコは驚きました。

「も、もしかしてここは巨人のおうちなのかしら?」
家も家具もそれほど大きいものではなかったのですが、キョーコはこのベッドが印象深くてついそんな事を考えてしまいました。それにしても気持ちよさそうなベッドです。

「うぅん、ちょっとだけ…ちょっとだけよ……」
キョーコは、緊張の糸が切れて疲れがどっと出てしまい、床に座ってベッドに上半身だけをもたれると、いつしか眠り込んでしまいました。



「起きちゃいませんか?」
「とは言ってもなあ…この体勢じゃ、辛いだろ?起きちゃったらそれはそれで仕方ないよ」
「分かりました」

キョーコはもやもやとした意識の中で男性が会話する声を聞いたような気がしました。

ううん、まだ眠いの……

そう思ってもう一度眠りの中に逃げ込もうとしましたが、ふわりと体が浮いたので、驚いて思わずぱっちり目を開きました。

「ほら、やっぱり起きちゃいましたよ」
至近距離から声がして、キョーコはそちらを見ました。顔の上から、至近距離で男性が自分を見下ろしています。自分の顔の横には壁…ではなく、見下ろしている男性の胸。
「きゃあああああああ!きょ、きょじん~~~~??」
キョーコは自分が男に抱え上げられていることに気がつき、思いっきり悲鳴を上げてしまったのでした。


「た、大変申し訳ありませんでしたー!」
キョーコは床にべったりと這いつくばって謝罪の言葉を繰り出しました。

「いやいや、もういいって。びっくりしちゃったんだろうし、大丈夫だよ」
「社さん、巨人と言われたのも耳がジンジンしてるのも俺なんですけど」
「そんなことどうでもいいだろ!もう許してあげろよ」
「別に許さないとは言ってません」
「許すとも言ってないぞ」

「あのう…」
ぽんぽんと言い合う2人の男を見上げて、キョーコは這いつくばったまま顔だけ上げておずおずと口を挟みました。
「ああ、ごめんごめん。でもどうしたの、こんな森の深くまで。君はどこから来たの?」
眼鏡をかけた優しそうな青年が、キョーコを椅子に座らせながら聞きました。

キョーコと男2人は、キョーコが寝込んでしまった寝室の中にいました。
この家の住人である2人の男は、戻ってきた家の中で眠りこんでいたキョーコを見つけて大層驚きました。しかし、床に座ったままベッドにもたれたその体勢が辛いだろうと、ちゃんとベッドに寝かせようとして、目を覚ましたキョーコに大音量で叫ばれてしまったのです。

「ええと…」
少し言いにくそうに言葉を詰まらせたキョーコを見て、眼鏡の青年は慌てて声を上げました。
「ああ、いきなり聞いちゃってごめんね。俺は社倖一って言うんだ。ここで木こりをやってる。こいつは仲間の敦賀蓮」
「あ、私はキョーコ…最上キョーコと言います」
キョーコは咄嗟に王家の名ではなく母親の旧姓を名乗りました。

「キョーコちゃんか。それで、キョーコちゃんはどうしてここに?」
「あの…私、この森に迷い込んでしまいまして」

「そんな格好でこの森に踏み入ったのか?」
ここまでずっと黙っていた大きな男が口を開きました。見た目はものすごく整った顔をしているのですが、優しく微笑んでくれる社と対照的に、この男の口調は穏やかでありながら氷の破片がちりばめられているようでした。
「う…すみません……」
「この森には狼が群れをなして棲みついている。そんな靴じゃ逃げることもできないだろう」
「はい…」
キョーコはしょぼりと下を向いてしまいました。自分でも、自分の服装が森の中を歩くに適していないことはよく分かっています。けれど、どうしようもなかった、と思うと悔しさもこみあげてきます。

「で、君はどこから来たの?」
蓮を手で制して、社がやさしく聞きました。
「あの……LMEの城のそばから…」
「おや、珍しいね、LMEの人なんだ君は」
「はい…」
「ここはね、ちょうど国境を越えたあたりで、ヒズリ国なんだよ」
「あ…もう、隣の国に入ってたんですね」
「うん。とはいえ、ここから一番近い村まではあと2日くらい森を歩かないとダメだけどね」
それを聞くとキョーコはがっくりとうなだれました。ここまで来るのにも相当疲弊しているのに更に2日はありえません。しかも狼が出ると聞いてしまえばなおさらです。

「無謀にも程があるな」
キョーコが隣国の村か町に行こうとしていたと判断すると、蓮はやれやれとため息をついて部屋から出て行きました。キョーコはその後姿を口をぱくぱくさせたまま見守る事しかできません。
「ああ、ごめんねキョーコちゃん。蓮の奴、他人に対してあんなに厳しい奴じゃないんだけどさ」
「いえ……別にいいんですけど…私嫌われたんでしょうか…」
「まあ、多分森をなめるな、とか思ったんだろうけど…」
そこまで言って、社は改めてキョーコの全身を眺めました。
「その格好でここまで来たって事は何かあったんだろうね。まあ、細かい事は置いておいてとりあえずは食事にしようか。お腹すいてるでしょ?」
「あ、ありがとうございます」

社のあとについてキョーコが部屋を出ると、台所に蓮が立っていました。蓮は豪快に材料を切っては鍋に放り込んでいきます。あまりの豪快さにキョーコは呆気に取られてその後姿を眺めていたのですが、社がこっそりと小声で囁きました。
「あいつ滅多に台所には立たないんだ…別に君を嫌ってるわけじゃないみたいだよ?」


3人は食卓を囲みました。キョーコ用の椅子を手早く丸太から切り、座面の角を丸めてくれたところを見ると、蓮も確かに親切な人のようです。作ってくれたシチューも、あの不器用な手つきの割には素朴で美味しく、疲れた体にじんわりと染みこむ気がします。

「今日はここに泊まっていくといいよ。明日、朝のうちにLMEに送っていってあげる」
社に言われて、キョーコは手を止めるとスプーンを置きました。真剣な表情でしばらく考えてから、決心した面持ちで2人の男の顔を見ます。
「あの…しばらくここに置いていただけませんか?」
「は?」
驚いて声を上げたのは蓮でした。

「ご、ご迷惑なのは承知しています!けど、今はまだLMEに戻るわけには行かなくて……あのっなんでもしますから。掃除も洗濯も料理も、もうできることでしたら1日中働きますから!お願いします!!!」
早口で一気に言い切ると、キョーコは深々と頭を下げました。社と蓮は思わず顔を見合わせます。

「キョーコちゃん、帰れないってどうして?なにか事情があるなら話してくれれば…」
「いえ…ごめんなさい。それだけは…」
国王が帰ってくる前に、美森からの追っ手がかかる可能性もあります。その時に自分の正体を知らない方が、2人のためにはいい気がしました。

「蓮…どうする?」
「……仕方ないですね。放りだす訳にもいかないでしょう」
「おお、そうか。蓮がいいなら俺は構わないよ。じゃあキョーコちゃん、しばらくの間よろしくね」
蓮と社はあっさりとキョーコを受け入れてくれました。
「あ、ありがとうございます!!」
緊張のあまりぎゅっと顔と肩に力を入れていたキョーコの表情が一気に緩みます。キョーコはこの日初めて、2人に明るい笑顔を見せました。

「その代わりここは町のように便利じゃない。弱音を吐かないようにね」
キョーコの笑顔を正面から見た蓮は一瞬真顔で固まりましたが、すぐに穏やかな表情を作ると釘をさすことは忘れなかったのでした。


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