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偏愛感情(26)

こんばんは!
また、日付が変わってしまいましたーー!

今日で「偏愛感情」も無事(?)終わりとなりましたー。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!

さて、リクエストに手をつけないとー!





「……」

3度目ともなると"またか"と思えて怒りの沸騰も起こらなくなる。
キョーコはバラエティ番組の収録を終えて楽屋へと戻ってきたところだ。廊下の角を曲がったら、自分の楽屋のドアにもたれている人物が目に入り、キョーコは心の底からのため息をついた。
レギュラー出演しているバラエティ番組は収録の曜日と時間帯がいつも大体同じなので、待ち伏せがしやすいのだとは思う。しかし自分と違ってアーティストはレギュラー番組などないだろうに!

「どいてよ入れないわ」
キョーコは抑揚のない声でドアの前にいる男、不破尚にどくように顎で示しながら声をかけた。
「お前まずは挨拶だろうが」
「傍若無人で無礼なあんたになんか言われたくないわよ」
売り言葉に買い言葉は健在だ。しかしキョーコの口調はやや冷ややかで、激高する様子はなかった。
「お前…結局まぬけ面を全国にさらしたんだな」
言うまでもなく蓮との広告を指しているのだろう。
「あら、あのシリーズ広告見てくれたの」
「あんだけあっちこっちに出てりゃ避ける方が難しいってんだよ。おまえの顔なんて見たくもねーのに」
「おかげ様でSOAVITAの直営店もオープンからかなりの集客と売上だって。貢献できて光栄だわ」

けっ、と興味のない素振りを見せてから、尚はじっとキョーコを見た。
「お前やっぱり恋愛しか能のないバカに戻ったんだな…復讐は終わりかよ」
「冗談じゃないわよ。絶対あんたに"参りました"って言わせて上から踏みつけてみせるわ」
セリフはいつものキョーコだが、その口調はまだ落ち着いていて、尚はどこかしら見下されているような気がする。むっとして言葉を返した。
「はっ、あんなアホ面で男といちゃいちゃするような奴が俺に復讐しようだなんて、なめてんじゃねーのか?」
「…ショータロー、私今度映画に出るの」
「はっ?」
「新開監督がずっとあたためていた話が映画化されることになって、オファーをもらったの」
「あ?ああ…それが……?」
尚は呆気にとられてやや呆然と返事をした。
「海外のコンペにも出す予定なんですって。そちらでもし賞が取れたら…あんたより上に行けるわよね?」
「なっ…お前?」
「あんたはまだまだ海外になんて…ねえ?」
ふふ、と口の端を上げたキョーコの笑顔はどこかいつもと違って色っぽくて、尚は不覚にも心臓が跳ねる音を聞いてしまった。

キョーコはふと目を伏せると、これまた悩ましげにため息をついてみせた。
「私ももう、あんたへの復讐なんてくだらないことに囚われてるのがバカらしくなってきたから…」
そしてきっと顔を上げて正面から尚の目を見据える。強い瞳の輝きに、尚は再度どきりとした。
「とっととけりをつけるわ。見てなさいよ」

尚は声を出せないままキョーコを見つめていたが、ようやく立て直す。動揺したり気圧されたりする自分にいらっとしてわざと目線を外し、不機嫌に言い返した。
「ああ、できるもんならやってみろっつんだ。どーせお前の事だ、ガキができたとかいって途中で引退したりしかねねーし」
「やあね、蓮さんがそんな、あんたみたいに考えなしな訳ないでしょ」
「…キョーコ?」
「ああほら、祥子さん来たわよ、時間なんでしょ?全くもう、いい加減人に迷惑かけないで仕事に集中しなさいよ」
キョーコは尚の元へやってきた祥子に笑顔で会釈をすると、ドアの前から尚をどかして楽屋に入って行った。

「なんかキョーコちゃん…ちょっと見ない内に女らしくなったわね」
「はっ……どこが!」
楽屋のドアの横の壁をがつんと蹴飛ばし、尚はどすどすと歩き始めた。
キョーコの自信のなさ、不安定さが今日は全く見えなかった。終始落ち着いて余裕を持って受け答えをされると、妙に自分が下に見られているようでむかむかする。キョーコの堂々とした態度の向こうに、嫌な男の嫌な笑みが透けて見えるようで、尚はこれ以上ないくらい面白くなかった。

しかもあいつのあの顔……
キョーコのくせに色気づきやがって…!!考えなしじゃないって、だったら何なんだ、どーゆー意味だ、あの男!!!


祥子はひとつため息をつき、キョーコが消えた楽屋のドアをしばらく見つめると、さてどうやって尚の機嫌を戻そうかと、少し悩みながら尚の後を追った。


「ごめんなさい、呼びましたか?」
キッチンからリビングへとスリッパを鳴らして戻ってきたキョーコが、首をかしげながらソファに座る蓮に尋ねた。

「うん、そろそろ終わりかな?と思って」
「はい、終わりました!」
「ごめんね、片付けまでやらせてしまって」
「私がやるって言ったんですから、全然構わないんです!休んでてもらわないとかえって困ります」
「でも…キョーコだって1日休みだった訳ではないのに」
「蓮さんは1日みっちりお仕事だったじゃないですか」
「俺の方が休みは多いし明日も休みだよ?」

蓮の横に座ったキョーコはぶんぶんと思いきり首を横に振った。
「あんな仕事を毎日こなしてるのに休みなしじゃ参っちゃいますよ!短期バイトで行った私ですら、脳の普段使ってない場所をフルに働かせたって自覚がありますから!」
「慣れだよ。俺から見たら毎日人に見られるキョーコの仕事の方がストレスが溜まって疲れそうだ」
「慣れです、慣れ」
2人は顔を見合わせて笑った。

ようやく秋の気配が見え始めて朝晩の空気が涼しい9月下旬。ちょうど金曜日の午後があいたキョーコは、蓮の部屋を訪れて手料理をふるまっていた。

芸能人であるはずのキョーコの家事スキルは蓮がびっくりするほど高く、作る食事はどれもこれも美味しかった。こんなご飯が毎日食べられたら幸せだな、と蓮はあまり今まで思い描いた事のない将来像を想像してしまったりもしたが、現実には忙しいキョーコにそれほどしょっちゅう炊事をさせる訳にもいかず、本当に余裕がある時だけ!と、張り切ってしまうキョーコを押しとどめている。

「今日はね、どこがいいか選んでほしいと思って」
蓮がソファの横に置いたカバンから取り出したのは、数冊のカラフルなパンフレットだ。
「温泉…?」
キョーコは渡されたパンフレットの表紙をいくつか見てみたが、どれもこれも関東近県の有名な温泉地を特集したものだった。

選ぶって…?一緒に旅行に行こうってことかしら。でもそんなまとまった時間は…

キョーコがちらりと上目遣いで蓮を伺うと、蓮もキョーコの懸念を予想していたようで、笑いながら口を開いた。
「やっぱり椹さんも社長さんも、君には話してないんだね」
キョーコはきょとんとしてしまった。
「何をですか?」
「今スケジュール帳持ってる?」
キョーコの質問に答えず逆に聞いてきた蓮に、キョーコは素直に頷くと自分のカバンからピンク色のスケジュール帳を持ってきた。キョーコにつくはずのマネージャーは人選が終わったものの、現在担当しているタレントについて後任への引継ぎ中で、まだキョーコは自分でスケジュールを管理している。

「来月を見てみて」
蓮の言葉にキョーコはページを繰る。蓮は頭を寄せてスケジュール帳を覗き込むと、1点を指で指し示した。
「ほらここ。ここなら1泊できるよね」
言われてみれば、すでにいっぱいに埋まりつつある来月の予定ではあるが、なぜか最後の週の金曜日と土曜日だけは真っ白だ。最近特に忙しくなってきたキョーコにとって、連続2日間何も仕事が入っていないと言うのはここ数ヶ月記憶に無い。
「あれ…ほんとですね……」

しかし突発的な仕事がこれから来ないとは限らない。一応そう伝えようかと顔を上げると、キョーコが口を開くより先に蓮が言葉を発した。
「大丈夫、ここはもう埋まらないから」
「え…?どうしてそんなこと?」

そういえばよく考えてみれば蓮が翌月のキョーコの予定を知っている事も不思議だ。"なぜ?"という疑問符を大量に顔に貼り付けてキョーコは困惑気味に蓮を見た。蓮はキョーコの気持ちが思いっきり表れた表情にくすりと笑みをこぼすと手を伸ばし、キョーコの頬を指でなでながら説明を始めた。
「たまには温泉でも浸かってのんびりしたいって言ってただろう?」
「確かに…言った覚えはありますけど…」
「でもまとまった休みを欲しいとは言いづらいって」
「はい…まだ私、そんな贅沢な事を言える身分では…」

十分トップクラスで事務所に貢献しているだろう、と蓮は思ったのだが、そういうキョーコの謙虚なところも魅力だと感じているため、特に反論はしない。
「うん、自分じゃ主張しづらいと思ってね。ダメもとで、俺がモデルの仕事を引き受ける条件として提案してみたんだ」
「えっ?れ、蓮さんの仕事なのに私のお休みを?」
「そうだよ。キョーコと会える時間をしっかり確保できるってのは俺のモチベーションにもなるんだ。インセンティブ、と言ってもいいか。俺は比較的自由に休みが取れるからね。あとはキョーコだけだったし」
「はぇ?で、あの、それが通ったってことですか?」
「社長は快諾してくれたし、椹さんも少し先なら大丈夫だ、と言ってくれたんだ。ちょっと調整に時間かかっちゃったけどね」

それで、どこがいい?と笑みを浮かべ、蓮はキョーコが膝の上に置いたままにしていたパンフレットを取り上げて自分がピックアップした宿の説明を始めた。
「どれも部屋に露天風呂がついてるんだよ」
「ご、豪華ですね」
「人目を気にせず2人でのんびり浸かれるから、いいだろう?」
「……蓮さんの目が一番気になりますが…?」
「またもう、今さらだろう…」
「そ、それとこれとは別ですっ!!」

真っ赤になっておろおろと視線を外したキョーコに軽く口づけると、蓮は雰囲気を変えてくすりと笑った。
「じゃあ、予行演習しておく?」
返事をする間もなくあっという間に横抱きに抱きあげられてキョーコは慌てた。
「なんですか、予行演習って…!!!」
「寝室とバスルーム、どっちがいいかな?」
「…!だ、ダメです、シャワーは1人で浴びますからねっ」
蓮はわざとらしくため息をつく。
「しょうがないな、じゃあ俺は寝室で待ってればいいよね?」
「う…はい……」
がっちりとした蓮の腕に抱えられたままキョーコは大人しくしていたが、やがて口を開いた。
「あの、でも…ありがとうございます。温泉に蓮さんと一緒に行かれるの、すごく楽しみ…」
「そうだね、俺もだよ」

キョーコに向ける蓮の笑顔も、それを見たキョーコのはにかんだ顔も、新聞広告に載ったものよりも数倍甘く、数倍幸せに満ちている。

そうして1か月後、温泉街にはやたらと背の高い男性が浴衣の襟元から覗く肉体美で周囲の女性を釘づけにし、その横に並ぶ女性は可愛さ満点の笑顔と色気で男性の注目を集めていたのだった。


(おしまい)

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コメントコメント


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はじめまして!

こんにちは!chimarisと申します!
ぞうはなさんのお話を昨日から読ませていただいてます。
社外恋愛シリーズ面白かったです!一気に読んでしまいました!偏愛感情でもみごもにハマってしまい、キョーコちゃんとリンクしてアタシがやきもきしてしまいました!でもやっぱり蓮さんの特別はキョーコちゃんだけ!ストーリーがとっても好きです!他の作品も楽しみです。
これからも頑張ってください!

chimaris | URL | 2015/10/09 (Fri) 17:30 [編集]


Re: はじめまして!

> chimaris様

はじめまして、ようこそお越しくださいましたー!
社外恋愛シリーズを気に入っていただきましてありがとうございます。
ホントに、蓮さんの特別はただ一人、ですよね。

ストーリーが好きと言っていただけるととてもとても嬉しいです。
これからもぼちぼちと続けますので、よろしくお願いいたします~。

ぞうはな | URL | 2015/10/09 (Fri) 22:32 [編集]


はじめまして。

こんにちは。
私も社外恋愛シリーズおもしろくて、一気読みさせて頂きました!
他のお話もポツポツ読ませて頂いているのですが、このお話の蓮さんの設定がソフト会社勤めということで、業界用語やらリアルな感じがよけいにはまってしまいました。
私もその業界に居た身ですが、本当にそんなシチュエーションがあったら素敵ですね~(*^^*)
その前に、そんなできるキョーコちゃんとお仕事してみたいです(笑)
お忙しいとはおもいますが、新しいお話も更新楽しみにしていますね。

azarashi+ | URL | 2015/11/17 (Tue) 21:51 [編集]


Re: はじめまして。

> azarashi+様

はじめまして!
ご訪問&コメントありがとうございます。
社外恋愛は私自身、その業界に関係しているため妙に舞台設定がリアルになっていたりします。
あまりリアル過ぎると一般の会社から少しずれちゃうかと思うくらいですが。
キョコさんも蓮さんもオールマイティな匂いがする(基本的に頭の回転が速そう)ので、きっとテキパキ仕事こなすんだろうなーと思います。そんな2人がいる職場、覗いてみたいですが…

最近ちょっと更新が停滞しがちですが、なんとか載せて行きますのでよろしくお願いいたします!

ぞうはな | URL | 2015/11/18 (Wed) 23:06 [編集]