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偏愛感情(24)


こんばんは!
気がつけば7月も中旬… うかうかしていられませんね。

遅い時間になりましたが、本日の更新です。
次は連休明けになるかと思いますー。




「まあでも、よかったよ!お前には恋愛感情が無いのかと思ってたもん、俺」
社は両手を後ろについて体を後ろに傾けながらにこやかに言った。
「え?あれでも、敦賀さんって彼女がいるって…」
「あれ嘘」
山口が不思議そうに問うと、まだ言い終わらないうちにばさりと社が答える。

「嘘なんですかあ?」
山口は素っ頓狂な声を出した。
「そう。ちょっとそれには理由があって。まだ山口さんも石井さんもうちに来る前のことだから知らないよね。光はよく分かってるよな」
話を振られた光は、うんうんと頷く。酔っ払っているのか、同時に体もふわふわと揺れる。
「俺と敦賀君は研修でも一緒でしたから。まあ、すごかったですよね」
「なーー」

どういうこと?と不思議そうな女性陣に対して、社は身振り手振りを交えながら説明した。
入社して以来、研修中も配属されてからも蓮は無意識にあちこちの女性社員を虜にしてしまっていた。特に配属された早々に、美人で割とちやほやされていたタイプの派遣社員に目をつけられた。誰にでも親切で人当たりのいい蓮なので勘違いされてしまい、激しいアプローチを受けてまとわりつかれてしまったのだ。

「最終的にあまりのしつこさに困って、ちょっとこいつその人に厳し目に対応しちゃったんだ」
「厳し目ってどんなだったんですか?」
キョーコが身を乗り出して尋ねる。
「"自分は会社に仕事をしに来てる、くだらない事をしている暇があったら働きたい"って」
「そんなきっぱり言ってないですよ」
蓮がすかさず訂正を入れたが、キョーコは蓮の厳しい言葉については身に覚えがあったので、そのシーンが目に浮かぶような気分で少し身震いした。

「で、その人どうしたんですか?」
山口の疑問に、今度は光が答えた。
「バカにされたってヒステリー起こして大変だったんです。まあ、敦賀君のほうが正しいこと言ってたから、仕方ないですけど」
「それ以来だよな。蓮を説得して、新しく来る派遣の人にはあらかじめさり気なくこいつが彼女もちだって言うようになったの」
蓮はなんとなくばつが悪そうな顔をしている。

「でもさあ、こんだけイケメンでそれだけもてるから、さぞかし遊んでるのかと思いきや……こいつ、びっくりするくらい女っ気がなくてさ。なー?」
社は光に同意を求めた。
「そーですよ…同期の女子もみんな敦賀君に憧れてるのに、誰にも見向きもしないし」
光も同意してぶちぶちとこぼす。どうやら2人の舌はアルコールでだいぶ滑りが良くなっているようだ。

「俺…社さんや光君にそんなことを話したことありましたっけ?」
蓮が呆れたように2人を見たが、逆に2人に睨み返されてしまった。
「何言ってんだよ!アプローチしたけどダメだって悩んでた子、1人や2人じゃないんだぞ!なんでだか知らないけど、俺に相談されたんだ!」
「そうだそうだ!大体直前に頼んだ残業も休出も喜んで引き受ける奴に、彼女なんている訳無いだろ!」

そんな風に思われてたのか…

今まで飲み会でも自分に振られる恋愛話は適当にあしらってきたので、それほど深い話はした事がなかった。派遣社員がいるような場ではなおさらだ。社にはさすが、同じグループでずっと仕事をしてきただけあって、よく見られているんだな、と改めて認識する。

「でもそんな枯れてる蓮がやっと選んだ相手が…キョーコちゃんとはね。タレント京子を射止めるなんて、さすが普通じゃないな」
「さっきからほんと、色々とひどい言われようですね」
「違うよ。女性を見る目があるって言ってるんだ」
意外な返しに蓮はまじまじと社を見た。社はうっすらと赤い顔で、グラスを口の側に持ってきたままちらりと蓮を横目で眺める。

「俺から見たってさ、キョーコちゃんはこれまで会ったことがないくらい、すごくいい子だよ。タレントさんだってことを抜きにしてもな。これまで2年以上、言い寄ってきた女性には目もくれなかったくせに、キョーコちゃんにしっかりターゲット決めてちゃんとその想いを成就させてんだからな。やっぱお前、すごいよ」
「はあ……?」

半ば呆然と社を見つめる蓮を無視して、社は今度はキラキラと目を輝かせてキョーコの方に身を乗り出した。
「で、で、蓮はどうやってキョーコちゃんに迫ったの?」
「え、ええええ?迫ったって…!」
「だってこいつ、女の子からアプローチ受けてなびくような奴じゃないしさ。今付き合ってるって事は、蓮から押したんだろう?」
うんうん、馴れ初め聞きたい~~~、と、女性2人が社の援護射撃をする。
「いえあの…もともとは、私の片想いだったんです…」
「キョーコちゃんの!?」
「はい…それであの、お付き合いされてる人がいるって聞いてたので、諦めてたんですけど…蓮さんが、応えてくれたので…」

「へぇ~~~~~~~」
社は心底感心したようにキョーコと蓮に視線を往復させた。そして大きな独り言のようにうんうんと頷きながらぼつりと呟く。
「まあでもそうか、蓮は元々京子マニアだったからなあ。本人から言われたら、そりゃあなびくか」
それからにっこり笑うと、キョーコに話しかけた。
「ねえ、キョーコちゃん。こいつさ、やたらと目立つし表向きは誰にでも紳士だし、その割に性格は案外きつくて何考えてるか分かんなくて完ぺき主義なところがあるんだけどさ」

ちょっと社さん…

蓮は更に滑りを増す社の舌を止めたかったが、キョーコが真剣な表情で聞いているので思いとどまった。

「これまで見たことないくらい、キョーコちゃんのこと甘い眼で見てるの、よく分かるんだよ。蓮は多分、キョーコちゃんじゃないとダメなんだ。キョーコちゃんに見捨てられたら、こいつ廃人みたいになっちゃうと思うからさ。よろしく頼むね」
「そんなことは無いと思いますけど…でもそうだとしたら、せ、責任重大ですね」
「うん、ほんと、よろしく」

頭をしっかりと下げた社に蓮はため息をついた。
社によろしく頼まれるような事ではないと思うのだが、入社以来世話になっているこの先輩が、自分のことをよく見てよく理解して、そして気にかけてくれている事はよく分かる。迷惑はこれ以上かけられないな、と思うと自分の方を見ているキョーコにそっと頷いてみせた。

その日の飲み会は一次会で解散になった。許容量をオーバーして飲み続けた光が、完全にダウンしてしまったのだ。
店を出てから、社の肩に支えられて足元がおぼつかない光をキョーコは心配そうに見た。
「光さん大丈夫ですか?なんだか今日はものすごく飲まれてたみたいですけど…」
「ああ、まあ大丈夫だよ。光だって、ス、ストレスもあるだろうしさ。そういう気分の時もあるってことだよ」
ははは、と社は明後日の方向を見て乾いた笑いをもらした。キョーコにほのかな想いを寄せていた光にとって、今日はショックが大き過ぎたに違いない。そして、当の本人のキョーコは光の想いには全く気がついた様子もなく、純粋に光の事を心配している。光にほとんど意識がない状態でよかったかも、と社はそっと思った。

「俺は光を送ってくよ。どうせ家の方向も一緒だしな」
「俺も手伝いましょうか?光君、自分じゃ歩けないみたいですけど」
「ああ、大丈夫。気にしなくていいよ。2人はどうするの?」
社は蓮の申し出を辞退して山口と石井に尋ねた。
「私たちは2人でお茶してから帰ります」
「だから敦賀さんはキョーコちゃんをお願いしますね」
石井と山口は含みのある笑顔で返事を返す。

「じゃあ、お開きにするか。キョーコちゃん、また飲もうね!」
「はい、社さん、お誘いいただきましてありがとうございました!光さんにもよろしくお伝えください」
「キョーコちゃん、またね!」
「石井さん、山口さんもありがとうございました」

キョーコはそれぞれに深く礼儀正しいお辞儀をして、タクシーに乗り込む社達と歩いて去っていく山口達を見送った。それから「ふう」と息をついて蓮を振り返る。
「楽しかった?」
蓮に聞かれ、キョーコは満面の笑みを返した。
「はい!すごく!!」
結局すべての事情を明かすことになったが、社達はキョーコがタレントの京子であると知っても、バイトとして働いていた時のキョーコとして接してくれた。そして、キョーコから頼む前に「このメンバー以外には絶対漏らさないから安心して」と秘密にすることを約束してくれたのだ。

「とても楽しかったし、嬉しかったです」
「そうか、それはよかった」
「蓮さんの話も聞けちゃいましたし」
「社さんも光君もオーバーなんだ…」
「そうですか?多分、仰ってた通りだったんだと、私は思いましたけど」
「……」
蓮が自分で言っていた通り、やはり蓮の容貌ではどこに行っても女性から言い寄られてしまうらしいが、これも蓮が言っていた通り、誰かに心奪われるようなことはなかったのだと再確認して、キョーコはどこかほっとするような嬉しい気持ちになっていた。

「社さんは、蓮さんの事すごく気にしてらっしゃるんですね」
「そうだね、俺もちょっと意外なくらいだった」
「お兄さんみたいですよね」
「そうだね」
蓮は苦笑してから、ふと真面目な表情になった。
「社さんが言ってた通り…俺はキョーコ以外に、恋愛感情を持つことなんてできないと思う。だから、よろしくね」
「蓮さん…な、なんて事言うんですか、偏りすぎですよ!」
「ダメかな?」
「もう!そういう聞き方しないでください!ダメじゃないって分かってるくせに!」

2人はごちゃごちゃと言いあい、そしてそれでも仲良く、帰路についたのだった。


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