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薔薇の素顔 (9)

分かりにくいですが、パラレルです…

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蓮がようやっとCafe Felicia Gardenを訪れたのは、キョーコの手作り弁当を食べてから10日ほど経ってからだった。

お礼も言わないまま、ずいぶん間が空いちゃったよな・・・
と思いながらドアを開ける。

やっぱり連絡先を聞いておくべきだった、と後悔するが後の祭り。
これから無理に聞き出すのもさすがに不自然だな、と、ふと連絡先を知りたがっている自分に気がつき、聞いてどうするつもりだと自分で自分に突っ込みを入れながら店内に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ」
涼やかな微笑とともに、キョーコが声をかけてきた。
「やあ、おはよう。久しぶりだね」
「ロケだったんですよね、どこに行かれてたんですか?」
「北海道で撮影してたんだ。もう向こうは雪があって寒かったよ」

蓮は帽子とサングラスを取っていつものカウンター席に腰を下ろした。
開店間もないこともあり、他に客はいない。
「お礼が遅くなっちゃったけど、お弁当どうもありがとう」
お冷のグラスを持ってきたキョーコに、蓮は頭を下げてお礼を言った。
「そんな、いいんですよ。私が勝手に作って勝手に押し付けちゃったんですから、お礼を言われることなんて」
「わざわざ作ってきてくれて本当に嬉しかったよ。しかも、すごく美味しかった」
「お口に合いましたか?」
「うん、合うどころか。キョーコちゃんのお弁当の味を知ったら、ロケ弁が味気なく感じるよ」
「ほ、褒めすぎですよ!お世辞も過ぎるとわざとらしいですよ」
蓮は本心なのに・・・と思ったが、怒ったように言って去っていくキョーコの耳が赤くなっているのに気がついた。

あれ?少しは動揺している?
蓮はくすりと笑みをこぼす。

どうも、蓮はキョーコの素顔を見たいがために、動揺させたりびっくりさせたり、そんなことばかりしてしまっている。
ついついからかってしまうのだから、いじめていると思われても仕方がない。ちょっとやそっと気障な台詞を吐いたくらいではサラリとかわされてしまうので、うっかりエスカレートしてしまう。
それでも反応見て嬉しくなるんだから、我ながら性質が悪いな・・・と思いながら、蓮は久しぶりのキョーコの表情を眺めていた。

やがて、蓮がうっかりロケ中のずさんな食生活を白状してしまい、キョーコのお説教を食らってから朝食に手をつける頃、店には数人の客が入ってきていた。

ふと蓮が目を上げると、帽子にサングラスと言う、蓮の来店時と似たような装備の客が店に入ってくるところだった。
しかしその格好は蓮とは全く異なり、細身の革パンツにカジュアルなショートコート、シャツの胸元にもパンツのベルトにもシルバーのアクセサリーがジャラジャラと光っている。帽子の下から見えている髪は金髪に近い明るい色だ。

中年の勤め人が多いこの時間帯のこの店には珍しい客だな、と蓮はちらりと視線をやったが、逆にその男の方が蓮に気がついてギョッとしている様子だった。

ああ、俺のほうが珍しいか・・・
と蓮は思い、そ知らぬ顔で目線をそらした。

男は窓際のテーブルにつき、コーヒーを注文した。相変わらず帽子とサングラスは身につけたままだ。
蓮はほぼ背中を向けていたが、ちらちらと蓮の方を伺っている気配を感じる。珍しいのは分かるけど、放っておいてもらえるとありがたいな、と思いながら極力気配を消すように努力する。

しかし、あの男、どこかで見たことがあるような気がする。知り合いにああいうタイプはいないし、まだ年も若く見えるが・・・顔を隠しているところを見ると業界関係者か?
考えてみたが、蓮にははっきりと思い当たる人物は思い浮かばない。

やがてキョーコがコーヒーを男のテーブルに運ぶと、男の注意はキョーコへと向かった。
サングラスでその視線は分からないが、キョーコのことを凝視しているようだ。なんとなく不審な客だな、と思いつつキョーコの方を蓮は見る。

そして、蓮は気がついた。
キョーコは隠そうとしているが、顔色があまり良くない。動揺を必死に隠しているようで、表情は硬くたまに唇をかみしめているように見える。キョーコは男から目線をはずし、足早にカウンターへと戻ると、右手でそっと左腕を握りしめた。
明らかに、あの男が入ってきてからキョーコの様子がおかしい。

蓮は手を上げてキョーコを呼ぶと、少し大きめの通る声で「コーヒーのお代わりを」とオーダーした。
そして、皿を下げようと近づいたキョーコにこっそりと囁く。
「キョーコちゃん、大丈夫か?顔色が悪いようだけど」
キョーコははっと蓮を見たが、きゅっと唇を引き結ぶと、「すみません、大丈夫です」と答えた。
蓮はそのまま小さい声で続けた。
「深呼吸して…体の力を抜いた方がいい・・・」
キョーコはふーっと息を吐く。少しだけ、目に光が戻った気がした。
「よし…OK。…困ったら、いつでも俺を呼んで」
キョーコはこくんと小さくうなずくと、空になった皿を持って下がって行った。

どうやら二人は顔見知りのようだが・・・どういう関係なんだ?あのキョーコちゃんの様子は尋常じゃないが。心の中に苦い感情がわき上がってくるような気がしたが、今はそんなことに気をとられている場合じゃない。
蓮はいざとなればすぐに立てるようにさり気なく体勢を整え、男の挙動を見逃さぬよう神経を張り巡らせた。

男はまだキョーコの方を伺っているようだが、黙ってコーヒーを飲んでいる。
するとその時、男の横のテーブルにいた別の客が席から立ち上がり、会計のためにキョーコに近づいて行った。
「ごちそうさん!キョーコちゃん、今日のオムレツ星三つだったよ!」
「ありがとうございます、いってらっしゃい」
出がけに笑いながらキョーコに声をかけて、そして店から出ていく。
ドアが閉まると同時に、男がガタンと音を立てて立ち上がった。

「やっぱりお前、キョーコかよ!」

店にいた数人の注目が男に集まる。キョーコは眉をひそめて男を見やると、冷たい声で言い放った。
「他のお客様のご迷惑になりますので、お静かにお願いできますか」
「お前!そういうことじゃないだろう!!」
男はかっとなって更に声を張り上げた。

マスターが冷静に声をかけた。
「すみません、お客様、お静かに。最上さん、お知り合いなら少し離れてもいいよ」
わかりました、とキョーコは返事をして男を促すと、店の外へと出て行く。男も不承不承、と言った様子でキョーコの後を付いていった。

キョーコはドアを開け外に出る一瞬、振り返って蓮の方を見た。一瞬のことだったので、助けを求めているようにも、心配するなと言われたようにも思えて蓮は一瞬ためらった。しかし、その直後、キョーコの視線の方向に気がついた男がサングラス越しににらみつけてきたのを認め、蓮は腹をくくったのだった。


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