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偏愛感情(22)


こんばんは!

前回の偏愛感情にたくさんの拍手をありがとうございます!
いつもより多い拍手は"おめでとう蓮さん、やっとだね"という皆さまのお気持ちがこもっているものと受け止めております。

さて、間があいてしまいましたが、続きと参ります。





バラエティ番組収録中のスタジオでは、ちょうどロケのVTRが流されているところだった。
モニタの中では、スタジオ収録にも参加している男性アイドルが、断崖絶壁をロープで登るスタントに上半身裸で挑戦している。やがて何とか登りきったところでVTRは終わり、カメラはスタジオ内のものへと切り替わった。

真剣な表情でモニタを覗き込んでいたキョーコは、VTRが終わると同時に自分の顔が大写しにされたことに一瞬びっくりした。すぐに飛ばしていた意識を回収し、テレビ用の笑顔を作ってみたが、目ざとい司会者は早速キョーコにコメントを求める。
「京子ちゃんすごい見入ってたけど、もしかして永田君の肉体美に見惚れちゃった?」
「あ!いえあの、スタントすごいなって思いました!」
「またまた、うっとりした顔で見てたの知ってるよ~~。京子ちゃんはマッチョな男性が好きなの?」
「…確かにがっちりした胸板とか太い腕って、守られてるって感じで頼りがいがあると思いますけど…」
「おおおっ。いいねえ、実体験に基づいたコメントだねえ」
はっと気がついたキョーコは一気に真っ赤になり、それをさらにいじられると言う事態にあたふたとしてしまった。

だ、だめよー!
裸なんて見ちゃうと、ついつい思い出しちゃうんだから!!

ようやく話題が他に逸れて、キョーコは頭の中にどかんと再生された映像を懸命に追い出しにかかった。VTRに出ていたアイドルはそこそこ筋肉質ではあるものの細身だったが、キョーコの頭に出てきた映像の中の男性はもっとがっちりと胸板が厚くて、腹筋が割れてて、腕もたくましくて、顔も男らしくて…
問題は、その画が(当時もよく見てはいなかったがおそらく)全裸で、ほのかな光に照らされたこの上なくエロティックな姿だということだ。もう数日が経つと言うのに、頭の中にばっちりと焼き付けられてしまった映像は全く褪せようとしてくれない。

思い出しただけでドキドキと心臓が早鐘を打ってしまうなんてどれだけ自分の思考は破廉恥なのか、とショックを受けながら、表面上は平静を保ってキョーコは収録の方へと気持ちを集中させた。


「蓮、キョーコちゃんちょっとだけ遅れるって」
夕刻、鳴り出したケータイを持ってしばらく席を外していた社が戻りながら蓮に声をかけた。
「おや、そうなんですか」
蓮はそ知らぬ顔で返事をする。キョーコが初めて蓮の部屋で朝を迎えてから数日後。今日は社主催の飲み会の日だ。この日、午後の収録が少し延びる可能性がある、というのは事前にキョーコから聞いてはいた。ちらりと机の端に置いた自分のケータイに目をやると、ブブッと震えてメール着信のランプが光る。
「すみません、俺も寄るところがあるので、少し遅れるかもしれません」
「ああ、分かった。先に行って待ってるからなるべく早くなー」
「はい」

そしてその日の業務はいつも通りに進み、定時を過ぎて社達は席を立った。
蓮が予約をした店はオフィスのあるビルから歩いて数分の距離。社と光、そしてキョーコがバイトをしていた時に親しくしていた派遣の山口と石井は揃って店に入った。通された個室はちょうど数人で一杯になる大きさで入口に引き戸もあり、話をするにはもってこいの環境だ。

とりあえずの飲み物を注文して雑談をしていると、入口の引き戸が少し開いて蓮が顔を出した。
「遅れてすみません」
社が手を上げて笑顔で返事をする。
「ああ、お疲れ。まだキョーコちゃんも来てないんだよ」
「最上さんもいますよ」
蓮が廊下の方に顔を向けて促すと、戸口からひょこりとキョーコが現れた。

「おお、キョーコちゃん久しぶりー!」
社が声を上げたものの、「あれ?」という不思議そうな顔になる。山口や石井、光も同様だ。笑顔でキョーコを見たが、その姿を見ると少し不思議そうに首をかしげた。

バイト中のキョーコは黒いセミロングの髪をいつもバレッタでまとめていたのだが、今目の前にいるのは茶髪のショートヘアの女性だ。顔つきも微妙に違うような気がして、まじまじと見つめてしまう。
「皆さんお久しぶりです!お誘いいただいたのに、遅れてしまって申し訳ありません」
深々とお辞儀をするその礼儀正しさと言葉づかい、そしてその声は確かにキョーコだ。とりあえず入って、と促され、キョーコは前回の飲み会と同様、石井と山口の間に収まる。蓮は向かいの社の隣に座ったため、男女が3対3で向かい合う形となった。

乾杯がすみ、早速山口がキョーコをまじまじと眺めて口を開いた。
「キョーコちゃん、髪型と髪色変えたんだね~。なんかすごく印象が変わって見える~」
「あ、はい。すみません、誰だか分かりにくいですね」
「ううん、分かんないほどじゃないよー」

「でもその髪型だと…キョーコちゃん、タレントの京子に似てるかも」
斜め前からじっとキョーコを見つめていた光が 名前も同じだしね、と笑いながらぽつりとつぶやく。途端に社がビールジョッキを置いて激しく頷いた。
「そうそう、俺もそう思ってたんだ!…と言えば蓮?」
「はい?」
蓮はにっこりと返事をする。社はその笑顔に若干の胡散臭さを感じながらも聞いた。
「お前の目から見ても、今日のキョーコちゃん、京子に似てると思わないか?」
「社さん、俺は似てるかどうかじゃなくて、京子がどんな扮装をしていても本人だと分かるんだって、言ったじゃないですか」
「ああ、まあそうか…」

社はそうだった、と引き下がろうとしたが、蓮は意外な言葉を吐いた。
「だから分かってましたよ」
「え?…何が?」
社は目を丸くして蓮を見返した。蓮は笑顔のままキョーコの方に顔を向けて「ね?」と一言だけ発する。社がつられてキョーコを見ると、キョーコは難しい表情で口を一直線に引き結び、黙ってこくりと頷いた。

「どういうこと…?キョーコちゃん」
一同が事態を理解できずにキョーコを見る。沈黙に耐えかねて山口が問いかけると、突然キョーコがガバリと頭を下げた。
「私、実は皆様に黙っていた事がありまして!ずっと騙していて申し訳ありません!!」

「な、何?」
「どうしたの、キョーコちゃん?」
蓮以外は何が起こったのか分からず、おろおろとキョーコに尋ねるが、蓮は落ち着いて口を開いた。
「いきなり謝っても皆びっくりしてるよ。事情があって仕方がなかったんだから、説明すれば大丈夫」
「蓮…お前はキョーコちゃんの事情とやらを知ってるのか?」
社が訝しげな表情を作って蓮に聞くが、蓮は再びキョーコを促した。
「はい。でも本人の口から話したいってことなので」

キョーコは緊張した面持ちで顔を上げると、思い切って口を開いた。
「あの、実は、私……私、光さんが似ていると言われた…京子本人なんです!」

「え?」
誰かが無意識に発した一言の後、場に静寂が満ちる。数秒が経過してから、社が混乱したように言葉を発した。
「え…ええ?ちょっと待って。キョーコちゃんは、タレントの京子なの?ほ、本物?」
「はい」

ええええーーーーー???

4人の驚きの声が個室の外にまで響いた。キョーコは慌てて人差し指を立てて周りを見回す。
「ご、ごめんなさい!あの、ぜひご内密に…!!」
あ、ごめん、と光たちが口をつぐみ、しかし、とまじまじとキョーコを見た。

「もしかして…今日はそれを言うために髪型も変えて?」
石井が思いついたように尋ねる。
「はい…というよりも、これが地毛で、アルバイト中はウィッグをつけてたんです」
「ああ、そうか、そうだよね。テレビで見る時はいつもそうだよね」
納得して頷きながらも、まだ石井は呆けたようにキョーコを見ている。山口はようやく立ち直ったようでこちらもキョーコを見ながら感心したように言った。
「うわあ、なんか不思議な感じ。今言われてよく見ると分かるけど、ぜんっぜん気がつかなかったもん」
「すみません…さすがにばれるとまずいので、バイト中は変装して分からないようにしてました」
「でも、なんでまた?タレント活動しててバイトの必要なんて…?」
社が不思議そうに首をひねって尋ねる。

当然の疑問を受けて、キョーコは懸命に説明をした。
ドラマの役柄を演じるにあたり、どうしてもIT企業の職場の雰囲気を肌で感じたかった事。ちょうど事務所の社長と社達の勤務するホッズシステムズの専務が知り合いだった事。バイトのために1ヶ月間はスケジュールを調整していた事。
皆ドラマを見ていたり、その評判を聞いていたのでキョーコの話を聞いてうんうんと頷きながら納得した。

「いやぁ、そんなことだったとは…」
社は感心しながらもやれやれと首を振った。
「でもキョーコちゃん、バイトの仕事もしっかり頑張ってたよね…いやすごい」
「いえあの…不純な動機でお世話になってしまって申し訳ありませんでした」
キョーコはまた深々と頭を下げた。社はそれを見て慌てて両手を振る。
「いやいや!動機なんて、なんだっていいんだよ!!だってバイトってお金をもらうためにやるだろ?それ以外の理由なんてなくていいんだって。どんな事情があったって、キョーコちゃんは俺が唸るくらい完璧な仕事をしてくれたんだから!」
でも、今後仕事を頼めないのはちょっと残念かな、と社は複雑な表情で笑って、ジョッキに残ったビールを一気に空けた。

ジョッキをだん、とテーブルに置き、っはーーーー、と息をついて、ふと社は何かに気がついた。
「あれ?」
「どうしたんですか?社さん」
横で社の勢いに感化されてジョッキを空けた光が尋ねる。

「キョーコちゃんが京子ってことは……蓮、お前気がついてたってことか?ああ、そうだよ!さっきなんだか事情を知っているような事を!」
ぶん、と音がしそうな勢いで蓮を振り返った社は、一気にまくし立てた。蓮は まあまあ、と社の勢いを宥めてから口を開く。
「どんな変装をしてても京子だと分かる、そう思ってたから、最初は目が鈍ったのかと思ったんですよ」
にこりと笑うと蓮もビールを飲み干した。

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