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偏愛感情(18)


こんばんは!ぞうはなです。

この「偏愛感情」、「社外恋愛」と同じくらいのボリュームのつもりで書き始めたのに…
もう18話です。あと2話じゃ、終わらない… 計画性は大事ですね。

そして、なぜか話の中で2日連続金曜日。うむ~~~。

それでもめげずに参ります。





セットの前に並んで立った蓮とキョーコを前にして、黒崎はあらぬ方向を見ながら顎を指でさする。それから2人に視線を戻すとにっかりと笑った。
「うし、やるか。今までで一番エロい感じで行くから、よろしくな」

いつもの事ながら、何をどうよろしくなのか、さっぱり分からない。

思わず顔を見合わせた2人だったが、黒崎はまったく構わずに蓮にセットに入るよう指示し、キョーコを手招きしてスタジオの隅のほうへと連れて行く。

蓮は改めてセットを見た。
白い床と背景の布の真ん中に3人掛けのソファが一つ。ソファには光沢のあるライトグレーの大きい布がかけられている。入れと言われても、と蓮が躊躇っていると、笑いながら美希が声をかけてきた。
「とりあえず、寝そべるような感じで座ってみて」
言われるままに蓮はソファの端に浅くかけ、肘掛に上半身をもたれるようにした。シャツの裾がするりと落ちて蓮の肌がますます顕わになる。美希はソファにかけた布がずり落ちないように手早く止めながら、ちらりと蓮を見て呆れたように笑った。
「いまだに鍛えてるのね。サラリーマンの体じゃないわ」
ああ、と蓮も苦笑を返す。4年前、モデルのバイトをした際に、カメラマンから体を鍛え上げる事を強く要求された事を思い出した。
「あの頃は強要されて苦しかったけどね。続けてたら、日課になった」
「やだやだ、そこは前から変わらず真面目ねホントに」
「悪かったね」

美希はじっと蓮の顔を見たが、黒崎に少し似た意地悪そうな笑みをその顔に浮かべる。
「そうやって真面目だから、黒崎さんの言いつけを律儀に守って我慢しちゃってるのね」
「…!何でそれを?」
蓮は思わずがばりと体を起こした。美希は何を今更、とため息をつく。
「黒崎さんがそういう面白い事を、あなたの事を知ってる私に黙ってるわけじゃないじゃない」
「ああ、そう…」
蓮は複雑な表情で再びソファに体を沈めた。美希はくすくす笑いながら作業を続行する。
「そういう意味では昔の方が不真面目だったわよね。リズとそうなったの、付き合って何日目だった?」
「昔の事を持ち出すのはもう勘弁してくれ…」
降参とばかりに頭を振った連を、美希は真面目な顔でじっと見つめた。
「いいじゃない。あなたばっかり幸せそうなんだから…」
ぽそりと呟くと、はっと顔を上げた蓮から目を逸らし、「はい、準備完了」と美希はセットから出て行った。


「さて、京子。今日もお前がリードだ」
蓮に声が届かないくらい離れた壁際で、黒崎はキョーコに命じた。眉を八の字にして情けない顔で見上げてくるキョーコに、黒崎はがりがりと頭をかく。
「お前いい加減に慣れろよ…何が不安だ」
「…く、黒崎さん、さっき、え、エロくって…」
ごにゃごにゃと口ごもって恥ずかしそうに俯くキョーコを、黒崎はまじまじと眺めた。純情と言うか素朴と言うか初心と言うか。芸能界でそこそこ、いやかなり売れっ子となっている20歳の女性タレントの素がこんなんだとは、誰も思わないだろう。京子よりもっと清純派をきどっていたり、もっと若いタレントだって恋愛に関してはもっと大人なはずだ。

「…お前、缶コーヒーのCMで悪魔役やってただろうが」
「は、はい…確かにやりましたが」
「あれは色気とかエロさとか、相当求められたんじゃないのか?」
「だってあれ…大変だったんです…」
キョーコは涙目になる。天使と悪魔を演じ分けたCMで、天真爛漫な天使としての撮影は順調に進んだものの、セクシーな悪魔の撮影はえらく難航したのだ。予定を大幅にオーバーして、最終的にはOKが出たものの監督とスタッフにものすごく迷惑をかけた、と思い出すだけで冷たい汗が背中を伝う。悪魔になりきっての1人での演技でもそうだったというのに、今日は目の前に色気を振りまき過ぎな蓮がいて、素の自分としてそんな色男と向き合わなくてはいけないのだ。

「ああもう、分かった分かった…まあいい。今日は露骨なのは狙ってねーから」
「はあ…」
黒崎はぐっと顔をキョーコに近づけると、小声でぼそりと言った。
「お前には、あの男を落としてもらう」
「お、落とす?」
「ああ。蓮をその気にさせてみろ」
意味は分かるだろ?と聞かれ、キョーコは自信なさげに呟いた。
「こんな私なんかで…蓮さんをその気にさせることなんてできるでしょうか…」
蓮は無理して抑え込んでるのだと言ったが、それ以後もキョーコに対してあまりそういう面を見せていない。ある意味蓮の我慢は成功していたのだ。キョーコに勘付かれない、という意味においてだけは。

自信なさげに視線をうろつかせるキョーコを、黒崎は目を丸くして見つめた。
明らかに蓮は我慢して我慢して我慢しぬいていると、黒崎の目からは見える。特別なことを何もしなくても、はにかむようにキョーコが笑うだけで、あの男はぐらりと揺らぐではないか。

出来るでしょうか、だと?
他の女だったらどんな女であっても逆立ちしても無理かもしれないが、お前にとっちゃ、赤子の手を捻るより簡単なことだぞ?なんで気づかねーんだ??

「京子!」
黒崎は大きい声で呼ぶと、返事をする前にキョーコの肩を乱暴に抱いてぐっと自分に近づけた。
「ひゃい!!なん、なんですか?」
「そのまま、こっそり蓮の方見てみろ」
今度は小声で言われて、キョーコは黒崎の肩越しに蓮を見た。セットに置かれたソファの上、照明に照らされた蓮は険しい顔でこちらを見ている。
「こえー顔してるだろ?あいつ今俺にイラついてるはずだ。分かるか京子。お前に近づく男全部があいつの敵なんだ」
「そんな…」
「嘘でも大げさでもねーぞ。そんだけ想われてるってことだ。自信持て」
「でも…!」
黒崎はキョーコの肩を離すと、にやりと笑った。
「まだ落とせる自信がないっつーなら、お前に秘策を授けてやろう」


蓮はイライラしながら待っていた。
黒崎が抱いていたキョーコの肩を離してからも、2人は顔を近づけて話をしていた。時折キョーコが慌てたように反応したり困ったりしているのが見えたが、最終的にはこくこくと、何かを了承するように何回も頷いた。

黒崎に嫉妬をしても仕方がないのは分かっている。あの人はキョーコに対してそんな気持ちを抱いてはいない。分かってはいても、キョーコのパーソナルスペースに他の男が入り込んでは欲しくない、それは理屈ではなく本能に近かった。

ようやくキョーコは黒崎の元を離れると、ぱたぱたとスリッパを鳴らして蓮の方へとやってきた。お待たせしました、と丁寧にお辞儀をすると、スタッフに言われてスリッパを脱ぎ、裸足でセットに入る。

「黒崎さんと何の話してたの?」
「あ、はい!えっと、撮影の手順の説明を受けてました」
絶対聞いてくるから、さらっと答えとけ、と黒崎に指示された通りにキョーコは答えた。ふうん、と疑いの眼差しを向けてくる、その視線が刺さるようでいたたまれなかったが、必死に平静を保つ。

黒崎の指示を受けてスタイリストがセットに入り、キョーコにカーディガンを脱ぐように促した。
キョーコがするりとカーディガンを肩から落とすと、白い肌が現れる。キョーコが着ているのは華奢な肩紐のスリップドレスだった。きらびやかなストーンが肩紐にちりばめられたものだが、胸元も背中も大きく開き、形はインナーのようだ。華奢な肩から腕のライン、大きく開いた背中の肌色が蓮に夢で見た光景を思い起こさせる。

だから、それを思い出すな、俺!

蓮が必死に頭から映像を追いだしている間に、繊細な銀色の細い鎖が何重にもなったデザインのネックレスとブレスレットがキョーコの首と手首につけられた。準備が整ったキョーコは蓮の座るソファの端にちょこりと腰を下ろす。蓮は片足をソファの上に伸ばし、片足を下に下ろした姿勢のため、蓮の足の間にキョーコが座るような状態となった。

蓮が目を離せずにキョーコを見つめていると、キョーコは蓮の方を向いて口を開いた。
「蓮さん…今日も、私がリードするところからスタートだそうです」
「"から"ってことは、後で攻守交代なの?」
キョーコが緊張した表情をしているため、軽く冗談めかして蓮は答える。
「分かりませんが…とりあえず動くな、と伝えてくれと黒崎さんが」
自分で言えばいいのに、と思ったところで黒崎がカメラを手にして開始の声をかけた。

黒崎の合図を受けて、キョーコが動く。
前回の撮影ではキョーコはおどおどしてしまって、いちいち黒崎が指示を出さなければ動く事がなかなかできなかったのだが、この日は違うようだ。
キョーコは蓮の方に体を向けると、ゆっくりと蓮の方へ近づいてくる。片手を蓮の腰の横、ソファの座面につくと、片膝をソファの上に乗せ、ほぼ四つん這いの状態でもう片方の手をソファに伸ばした蓮の膝の上に置いた。
足の上でするりと動く手の平の感触に、蓮は身震いしそうになってこらえる。キョーコをうかがうと、俯き加減の顔は何かを考えているかのように真剣な表情だ。すると、蓮の視線に気がついたのか、キョーコはふと顔を上げて蓮と目を合わせると、恥ずかしそうにもう一度俯いた。

まな板の上の鯉、ってこういう感じか?

目の前に近づくキョーコが包丁だとすると、自分は事前に黒崎と言う串か目打ちで固定されてるのかもしれない。
動くなと言われている以上動けないし、当然ながら周りに大勢のスタッフがいるので変な行動もできない。何よりもキョーコのこれからの行動はまったく予測がつかず、蓮は開き直る事にした。

キョーコは少し低い姿勢のまま蓮にゆっくりと近づいてくる。まるで迫られているようだ。
膝の上に置かれていた手はするりと滑って腰まで移動し、ふ、と離れたかと思ったらシャツから覗く蓮の鎖骨の下辺りに着地した。同時に手首のブレスレットがしゃらりと小さな音を立てる。キョーコの顔もかなり近い距離、蓮の胸元まで寄っていて、蓮は思わず息を呑む。

キョーコの手が再び滑り、蓮の肩へと移動した。ゆっくりと顔を上げたキョーコは上目遣いで蓮を見つめて、口を開く。何か言いたげにしたまましばしの時間が過ぎ、一度ごくん、とつばを飲み込んでからようやく、キョーコの口から言葉が発せられた。

「蓮…」

初めてキョーコの声で聞いた、"さん"のつかない呼び捨ての自分の名前。
蓮が目を見開いてキョーコの顔を見つめると、キョーコはものすごく恥ずかしげに視線を外す。しかしすぐに視線を蓮の顔に戻すと、えへ、と笑ってもう一度口を開いた。

「蓮?」


限界だ…!

蓮はキョーコの肩を引き寄せると、ぎゅう、とその華奢な体を抱きしめていた。
かろうじて残った理性と冷静さがなんとかキョーコの頭をカメラの側に向けたが、"動くな"の指示はすでに吹き飛んでいた。

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