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偏愛感情(14)


こんにちは!
週末ですが、鬼の居ぬ間の更新です~~

では早速どうぞ!





咄嗟に声を出せずにいる尚の目の前に、やたらと大きい男が姿を現した。見覚えがあるその男は、先ほどの気障ったらしい格好ではなく、ごくシンプルで地味なジャケットとパンツ姿だ。
「あんた、さっきの撮影のモデルか。俺とキョーコが話してんだ、部外者が勝手に割り込んでくんなよ」
尚は乱入者を睨みつけて牽制したが、蓮は全く気にする風も無くにこりと微笑んだ。
「ええと、不破尚君、だっけ?売れっ子アーティストって聞いたけど、思ったより暇なのかな」
「な訳あるか!ていうか、早く行けよ!」
「悪いな、キョーコを置いていく訳にはいかなくてね」
「ああ?なんだと?」
尚は眉間の皺を深くしたが、蓮はそのままキョーコの隣まで移動すると声をかける。

「キョーコ、いきなりいなくなるから驚いたよ」
「あ、すみません!着替えから戻るなり強引に連れてこられたので」
「うん…人が多いとはいっても、もう暗くて死角も多いから気をつけて」
「はい…」
「じゃあ、帰ろうか?」
「はい!」
「ちょーっと待てーー!」
笑顔で会話を続けている2人を黙って見ていた尚は慌てて叫んだ。
何を、自分を無視して帰ろうとしてるんだ。しかも一緒にだと?それに何親しげに呼び捨てにしてやがる!
先ほどの撮影を見ている間からずっとくすぶっていたイライラが頂点に達する。

「なんだい?」
さも迷惑そうに蓮が尚の方を向く。その腕はすでにキョーコの腰に回され、キョーコも方向転換しかけているという、その手際のよさに尚は更に苛立ちを募らせた。
「まだ話をしてるって言ってんだよ」
「君とキョーコの声は俺にも聞こえていたけど…もう話は終わっていたように思えたけど?」
「俺はキョーコの返事を聞いてねーよ。キョーコ!お前はこいつにも愛想ふりまいてんのかよ。べたべた触らせやがって、なんか勘違いしてんじゃねーのか」
大声で指を指してキョーコに言いはなった尚に、蓮とキョーコは顔を見合わせた。それから蓮がぼそぼそとキョーコの耳元で囁き、「えっ?」とキョーコが目を丸くし、更にこそこそと密談は続く。

「この際…」「でも…」「…大丈夫だよ」
断片的に聞こえてくる内容に、尚はつま先をせわしなく鳴らし、「いい加減にしろよ!」と声を荒げた。
蓮は笑顔を尚に向けると、少し首をかしげて尚に話しかける。
「不破君。君はどうしてキョーコの事をそんなに気にしているんだ?」
「な…」
ずばりと聞かれた問いに尚は一瞬戸惑った。しかし、すぐにぐっと前に乗り出すように答える。
「お…俺はそいつの幼馴染なんだよ。そいつのことなら俺が一番知ってるんだ。そいつは男と付き合ったことなんてねー、地味な女だからな。その辺の適当な男に騙されて捨てられないように忠告してやってるだけだ」
「へえ…それだけ?実は君がキョーコに気があるってことではないのか?」
「当たり前だろ!そんな地味で色気のねー女、俺みたいな男が選ぶ訳ねーだろ」
「なぜ?」

蓮は相変わらず笑顔を浮かべているが、その目の奥は冷たい光が宿っている。キョーコは思わず身震いしてしまったが、尚は気がつかずに胸を張って自論をぶちかました。
「俺は芸能界一イイ男を目指す男だ!まあほぼその座はいただいたも同然だけどな。そんな俺が選ぶ女といったら、一番イイ女に決まってる」
「君の言う一番いい女ってのはどんな女なんだい?」
「ああ?」
尚は問われて怪訝な表情で蓮を見返した。
「たとえばとびきりの美人で、スタイルがよくて、連れて歩いて自慢できるような…そんな女の事を言っている?」
「あ、当たり前だろ。イイ男の俺につり合うのはそういうイイ女なんだよ!」
「なるほど…呆れるほど、底が浅くてナンセンスな考え方だな」

尚はようやっと気がついた。蓮の笑顔は先ほどのにこやかなものではなく、冷ややかな、冷笑とも言えるものに変わっている。その形のいい顎に指を当てて自分を見おろしている蓮を見て、尚はいらりと神経を逆なでされた。
「なんだって?」
「まあ俺には関係ない話か。他人に自慢するために連れ歩くマスコットみたいな女がいいなら、君はそうすればいい。だけどキョーコに口出しする必要はないだろう」
「だから言っただろう!そいつが変な男に遊ばれないように…」
「君がそんなことを気にしてやる理由なんてないよね」
「幼馴染だからだって言っただろう!」
「君の理屈は、幼馴染というより頑固な父親のようだけどね」
「お、おお、それに近いようなもんだ!」
「ふうん…じゃあ、心配はいらないよ。キョーコは俺が大切にするからね」
「はああああ??」
尚は大声を上げると、キョーコをがっと睨んだ。

「キョーコ、お前!不細工な彼氏はどーしたんだよ!」
「不細工なんかじゃないって何回言ったら分かるのよ!」
キョーコはいきなり矛先を向けられて、反射的に怒鳴り返す。
「いやそこはどーでもいいんだよ!こいつにこんなこと言わせて、にやにやしてんじゃねー!!」
「いいのよ!何もおかしいことなんてないわ」
「ああ?何言って…」
キョーコは一つ息を吐きだすと、ちらりと蓮を見上げた。小さく頷いたのを確認して、目線を尚に移す。

「蓮さんは私の恋人だもの。何も間違ってない!」
「え?」
尚は混乱した。こいつは何を言ってるんだ。
「ちょっと待て!お前、会見で言ったんだろう?彼氏は一般人だって」
「蓮さんは一般人よ!普通に会社員なの!」
「普通の会社員な訳ないだろ!こいつ今日お前と一緒にモデルをやってただろうが!」
「今回だけだよ」
蓮が静かに会話に割って入った。どうも2人に任せているとエキサイトしてしまって会話が進まない。
「今回だけ、キョーコの相手役を事務所の社長に頼まれたんだ。普段は本当に会社で働いている、会社員だよ」
「んな…」

ありえねえ。

尚はもう一度蓮の姿をじろりと上から下まで見た。
190cmはありそうな長身。ただ背が高いだけではなく、頭が小さくて足の比率が高い。そして、服の上から見ても分かる、鍛えられた胸板に引き締まった腹部、がっちりとした肩幅。何でも着こなせるであろう、スタイルの良さだ。何よりもその顔は彫刻のように整っている。切れ長の目に通った鼻筋。芸能界でもここまでの美形はなかなかお目にかかれない。

こいつが普通の会社員で、キョーコの恋人だと?あり得ねえだろ…

尚はキョーコの交際宣言に慌てたものの、どこかでたかをくくっていたのだ。相手が一般人だという時点で。どうせたいした事がない、キョーコにお似合いの地味な男なのだろうと。
いや、ちらほらと「イケメンだ」という噂が聞こえてきてはいたが、それだって一般人としてはだろう!と、決して自分を脅かすような男ではないと自分を納得させていた面も多少、あった。

「だから、あんたが言ってる事は全部見当違いなの!」
腰に手を当てて ふん、と鼻息荒く言い切ったキョーコを尚はじろりと見た。キョーコに勝ち誇られたまま、この場を去る訳にはいかない。それだけは、自分のプライドが許さない。
しかしなぜこんな男とキョーコは付き合っているのだろうか?どこで知り合った?キョーコは本当にこの男の事を好きなのか?逆に、男の方はどうなのか?先ほどの撮影の時はいちゃいちゃと甘い雰囲気を作っていたが、普段から…?

「…だからと言ってお前が遊ばれてねえってことにはならねーだろ」
「キョーコは遊ばれてなんてないよ」
「てめぇ…」
「君と違って、俺は"イイ女"を彼女にしたいとは思わない。いや、言ってみれば俺にとってのいい女がキョーコなんだ」
「蓮さん?」
蓮はゆっくりとキョーコの肩を抱き寄せた。柔らかく優しい微笑みを浮かべてキョーコの顔を覗き込む。
「どんな外見であろうとキョーコじゃなくちゃ意味がない。俺はこの子を大切にするし、手放す気はないよ。不破君、君が心配する必要はどこにもない。安心して俺に任せてくれ」
言葉の最後で尚に向けた微笑みは、キョーコに向けたものと違ってどこか空々しかった。

「ま、任せられるかよ!」
「なんでかな?キョーコが誠実な男と付き合うならいいんだろう?それともやっぱり君はキョーコの事…?」
ぐう、と尚は黙った。自分が意地で言い張ったことを逆手に取られてしまった。しかしキョーコに対してずっと取り続けたスタンスを今さら崩すことなどできないし、この男の前で折れる訳にはもっといかない。
「くだらねえ!!」
尚は吐き捨てたが、ぐっと拳を握り込むと、低い声で蓮に向かってぼそりと言った。
「だけどお前の事、俺は認めてねーぞ。お前だけは気にくわねー」
「おや奇遇だね。俺も君にだけはキョーコを譲れないと思っていたんだ」
「何?」
「キョーコをひどい目に会わせた張本人にだけは絶対にね。…不破松太郎君」

こいつ、キョーコから俺の事を聞いているのか?

尚の表情が一瞬凍りついた。
「…そんな顔をするところを見ると、ひどい事をしたという自覚はあるのかな」
「……うるせーよ。お前に言われることじゃない」
尚が蓮をにらみながら絞り出すように声を出したその時、尚のポケットの中でスマホが震えだした。尚はスマホを取り出すとその画面を見て、舌打ちを一つする。そのままスマホを元に戻すと肩を抱かれたままのキョーコをじろりと見やった。

「お前…今度ちゃんと話を聞かせてもらうからな」
「だ、誰が!冗談じゃないわよ!」

尚はしばらく黙って立っていたが、再び震えだしたスマホに目をやるとそのまま無言で立ち去った。

キョーコは尚が去っていく後ろ姿を見送った。やがて照明の向こう側の暗闇に尚の姿が消えると、はあ、とため息をつく。顔を上げて蓮の方を見ようと思った瞬間、くるりと体が蓮の方に向けられ、正面からきつく抱きしめられていた。

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