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偏愛感情(13)


こんばんは!
うぬぬ、ダンナが早く帰ってくると色々予定が狂う!
いや、帰ってくるなとは、言わないよ!思うだけ! いやいや!!

てことで、本日やっとこ続きです。




あーーーーーーー……

らしくない、言葉にならない呻きは、それでも蓮の胸のうちに収められ、声には出ないし表情にも出ていない。はずだ、少ししか。

ある意味での拷問は、もう断続的に1時間以上も続いていた。
歩きながらのシーンの撮影でキョーコが腕にぎゅう、としがみついてきて、そのすがりつくような行為に、ついでに腕に感じられた柔らかい感触に、じんわりと幸せを感じてしまったところまではなんとか、良かったのだが。

その後いくつかのシーンの撮影をした後、キョーコは赤いワンピースから青いワンピースへと衣装を変えた。ホルターネックのそのワンピースは背中が大きく開き、フレアたっぷりのアンシンメトリーな裾からは歩くたびに太ももがちらりと覗く。髪はうなじを出すようにまとめられ、耳には小ぶりのイヤリングが、腕にはイヤリングとお揃いの華奢なネックレスがキラキラと光っている。

キョーコは自分の全身がどのようにまとまっていて、どんな印象を見る者に与えるのかをそれほど意識していないようだが、つやつやに輝くグロスやいつもよりしっかりと入れられたアイメイクが、普段と同じはずの笑顔をより引き立てて、吸い寄せられそうになる。
それなのに。

「蓮、お前今日は徹底して受身な」

撮影前に落とされた黒崎の一言で、蓮は魅力的なキョーコを抱き寄せる事すらできず、おっかなびっくりのキョーコからのたどたどしい接触を、ただただ笑顔で受け止めるのみだ。キョーコが蓮への自発的な接触を恥ずかしがって、そろそろと腕や腰に手を絡めてくるだけでぞくりと鳥肌が立ちそうになる。

黒崎の意図は良く分かる。
前回の撮影では蓮がリードして、蓮が行動を起こしている画が撮られた。今回は逆パターンを狙っているのだ。キョーコが恥ずかしがりながらも手探りで蓮とのコミュニケーションをはかる様を撮りたいため、蓮からの手出しは厳禁。

意図は分かるのだが、真剣な表情でカメラを構える黒崎の、ニヤニヤ笑う裏の顔がすぐそこに浮かんで見えるようで、蓮としては非常にもどかしく腹立たしい気持ちをもてあましている状態なのだ。

そして、撮影は最後のシーンに入っていた。
蓮は噴水前に置かれたベンチに腰掛け、長い足を組んでいる。横にはぴったりとくっついたキョーコがはにかんだような笑顔を蓮に向けて、蓮の手の平を指でこねたりつついたりして遊んでいる。
今日のこの撮影で、キョーコが蓮にぴったりとくっつく事を躊躇しなくなったのは収穫かもしれない。しかし、撮影の場を抜けたら元に戻ってしまうだろうか。そもそもその前に、撮影後自分は爆発せずに済むのだろうか。穏やかで柔らかい微笑の下で、蓮は思考をあちこちに飛ばしていた。

傍から見てもべたべたに甘い恋人達のシーンの撮影は、多くのギャラリーに見守られていた。だから、何重にも撮影場所を取り囲む群衆の後ろの方に、キャップを目深にかぶって夜だというのにサングラスをかけた男が1人、気配を殺すように立っていることには、誰も注意を払わなかったのだった。


忍耐の撮影が終わり、蓮は静かに肺の中の空気を全部吐き出した。
よく耐えた、と自分でも思う。普段も我慢してはいるが、キョーコを抱きしめたり手を握りしめたり掠めるようなキスをしたりということまでこれほど我慢したのはあまり記憶に無い。いやでも、それが我慢できないと言うのも男としてどうなんだろうか。

頭を振りながら蓮が考えていると、黒崎が寄ってきて蓮に声をかけた。先ほど蓮が想像した、そのままのにやにや顔だ。
「おう、お疲れ。次の撮影までは我慢続けてくれな」
「分かってますよ…」
「わはは、想像通りだな。今日1日でだいぶ消耗してるみてーじゃねーか」
「大丈夫ですよ、撮影は演技だと思ってますから」
「どうだかなあ」
黒崎はにやにや顔のまま、ひらりと手を振るとぶらぶらと歩き去る。黒崎の後姿を若干恨みがましい目で見送った蓮は、その姿の先に機材の片づけをする美希の姿を見つけた。

「ちょっといいかな?」
あらかたの機材を車に積み終えた美希は、積み残しが無いかどうかを確認しに戻った公園内で声をかけられた。顔を上げると、そこには着替えを終えた蓮がいる。
「どうしたの、あなたから声かけてくるなんて」
笑いながら美希は答える。キョーコはまだ着替えから戻ってきていないようで、そこには姿が見えなかった。
「ああ、言っておかなくちゃいけないことが、あってね」
「何?」
美希は蓮の方に向き直る。蓮は植え込みの柵にもたれかかると両手の指を組んで話し出した。
「うん…君は、キョーコをリズと重ねてる?」
美希は腕組みをすると、少しの間沈黙を保った。それからゆっくりと口を開く。
「あんまり意識してなかったけど、重ねてると言うか…う~ん、そうね、あの時のリズと同じ顔してるって思って気になってた」
「やっぱりそうか」
「蓮の顔は昔と違うけど、リズと同じような表情を京子さんがしてるんだもん。あれ?て思うわよ」
「それはそうだね…でも、心配は要らないよ」
「あなたがそれを言い切れるの?」
「言い切れるよ。リズの時とは思いっきり逆だから」
「逆って何よ。あなたの方がヤキモキしてるってこと?」
からかうような美希の口調に、それもあるけどね、と蓮は笑ってから、真面目な顔で美希を見た。

「リズのときは…俺がリズに無関心で、距離を作ってリズを悲しませたけど、今は違う。干渉して束縛する気持ちが暴走しそうで…無理やり抑えつけてたら、彼女を不安にさせた」
「結果としては同じじゃない」
「ついこの間まではね。でも、彼女の気持ちを聞けたから、少し自分に素直になるよ」
「だから、リズの事は京子さんに言うなってこと?」
「いや、もう俺から全部話した。君には、心配要らないって、キョーコには絶対悲しい思いをさせないって、宣言しておきたかったんだ。ただ、それだけ」

美希は組んでいた腕を解くと、肩をすくめて息を吐いた。
「あなた…本当に変わったわね。女性に対してそんなに熱くなった事なかったくせに。4年経つと、変わるものなのかしら?」
「君にこの間変わったと言われて考えてみたんだけどね」
蓮はもたれていたフェンスから体を起こし、がりがりと頭をかいた。
「俺は何も変わってないよ。俺にとってキョーコが特別なんだ。きっとキョーコ以外にはこんな気持ちにならない」
「へえ…それは、ゴチソウサマ」
美希が笑って踵を返したところへ、スタッフの女性が興奮した様子で近づいてきた。

「京子ちゃんって、前に不破尚と噂になったことあるけど、あれってやっぱり本当だったのかな?」
いきなり切り出された話題に、美希は不思議そうに問い返した。
「なに、いきなりどうして?」
「今、不破尚が来て、京子ちゃん引っ張って行っちゃったの。本物初めて見ちゃった~~」
蓮の顔が一気に険しくなる。それでも穏やかな声でスタッフにさり気なく聞いた。
「2人はどっちに行きました?」
スタッフは振り返って指で指し示しながら答える。
「あの建物の方、かな?」
スタッフが指した方は、公園内の売店の方だった。今は閉店しているのか、その一帯は街灯が少なくて薄暗く、人影も見えない。
「ありがとうございます」
するりと身をかわして、蓮はスタッフが示した方へ足を向けた。優雅に歩いているように見えるが、あっという間にその姿は闇に溶け込んでいく。
「あれ?もしかして敦賀君って本当に…?」
「さあねえ?」
蓮の後ろ姿を見送って、不思議そうに振り返ったスタッフに、美希は曖昧に答えながら苦笑を返した。


「もう、なんなのよ!離して!」
キョーコは足を止めてつかまれた腕を力いっぱい振り払った。着替えを終えてスタッフのところに戻るや否や、「京子ちゃん、お客様」と興味津々なスタッフに声を掛けられて、返事をする間もなく腕を捕えられ、有無を言わさずここまで連れてこられた。スタッフの前で怒鳴り合いをする訳にもいかず、とりあえず人がいないところまで着いてきてしまったが…。

手を振り払われた尚は足を止めてキョーコの方へ向き直った。
今日はしっかりとキャップを深めにかぶり、サングラスをかけているため、取り次いでくれたスタッフ以外のギャラリーなどには誰だかばれてはいないはずだ。
「お前なあ…」
呆れたようにため息混じりに吐き出された尚のセリフに、キョーコは喧嘩腰に返事を返す。
「なによ!」
「ほんとに別れたのかよ、不細工彼氏と。今度はモデルに鞍替えか?デレデレしまりのねー顔さらしやがって」
「あんたホントに正真正銘のバカなんじゃないの?」
キョーコは眉を吊り上げて大きな声を出した。ここからならば他の人には聞こえないはずだ。
「撮影で恋人の役をやってるのよ、それの何が悪いのよ!」
「はっ。前のドラマの時はあんな顔してなかったくせに」
「へぇ…あんた、私のドラマなんて見てるのね」

じとりとキョーコに睨まれて、尚はうっかり口を滑らせた事に気がついた。役とはいえドラマでキョーコの相手役を演じた貴島秀人のことを疑って、あらぬ妄想を頭の中で繰り広げたなどという事はキョーコに知られる訳にはいかない。
「たまたまテレビがついてただけだ」
ぷい、と顔をそらして尚は言い捨てた。
「で?何なのよ、こんなところまで押し掛けて。何しに来たのよ」
「ばっ!押し掛けてなんてねー!たまたま今日は富士で収録があっただけだ!」
「だから何、そのまま帰ればいいじゃないのよ」
「お前が撮影やってるって聞いたから、どんな地味な役かと思って覗いてやったんだよ」
「やっぱり押し掛けたんじゃないのよ!」
「ちげー!…お前見て、幼馴染のよしみで忠告してやろうと思っただけだ」
「何よ?忠告って」
怪訝な顔で尚の顔を見るキョーコに、尚は真面目な顔を向けた。両手はぎゅう、と握りこぶしを作る。

「あんな顔で男を見て…お前、好きにしてくださいって言ってるようなもんなんだぞ。いくら彼氏に振られたばっかりだからって、相手誰でもいいのかよ」
キョーコは真面目に聞いたのが馬鹿らしいと言わんばかりにぐわりと噛みついた。
「何を言い出すかと思えば、ホントに何を言ってんの?振られてなんかないし、相手が誰でもいいとか訳分かんないこと言わないで!!」
「お前自分でどんな顔してるか分かってねーのかよ!ほいほいそんな顔向けるから男に遊ばれんだ!また恋愛しか頭にないバカ女に逆戻りかよ!」

反論しようとキョーコが口を開けた瞬間、それは別の声に遮られた。
「やれやれ、自分にそういう顔を向けてもらえないからって、八つ当たりはみっともないよ」
暗くて顔はよく見えなかったが、キョーコは聞こえた声の調子から、声の主の表情が手に取るように分かり、その空々しいまでの満面の笑みを頭に思い浮かべて青ざめた。

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コメントコメント


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ついに!!

ついに来ました!
直・接・対・決!!
『社外恋愛』ではこの二人の接触はなかったですもんね。
何だか血が騒ぐ。(笑)
行け、蓮!そこだ!!ヤツをがぃ~んとヘコませてやれ!!
…と手に汗握りながら次の展開楽しみにしてます♪

花 | URL | 2013/06/14 (Fri) 02:01 [編集]


Re: ついに!!

> 花様

コメントありがとうございます!
そうなのです、2人はここまで接触なく、尚に至っては蓮さんの存在も知らない状態…
さて、どんなことになるのかー!

ぞうはな | URL | 2013/06/14 (Fri) 22:14 [編集]