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偏愛感情(11)


こんばんは!
ぞうはなです。

週末更新、隙間を見てみました~~。
では、早速行きます。





キョーコの住むマンションの最寄り駅。電車を降りたキョーコと蓮は並んでいつもの道を歩く。
売れっ子芸能人が電車なんて、と蓮はいつも言うのだが、キョーコはそんな贅沢はできない、と頑なにタクシーの利用を拒む。2人でいるときは特に散歩の気分で楽しいし、電車の方がずっと会話を聞かれることもないから、と言われてしまうと、蓮とて否定はできない。

2人は道中たわいもない話をしていたが、キョーコのマンションが近づき、蓮は少し落ち着かない様子でキョーコに切り出した。
「さっき…美希に何か言われた?」
「え?」
「いや…一緒に来たから、何か話をしたのかと思って」
「ああ!いえ、恋愛で辛い思いしてないかって聞かれて…困った事があったら相談して、と言われただけです」
「やっぱり…」

蓮は少し考え込んでいたが、足を止めるとキョーコに真っ直ぐ向き直った。
「ちょっと話しておきたいことがあるんだけど、いいかな?」
「はい…なんでしょう?」
キョーコは不思議そうに首をかしげた。何の話だろう、美希と関係あるのだろうかと少し緊張する。

「どこか、座って話せるところがいいかな」
「あ、でしたらうちにいらっしゃいますか?」
キョーコの部屋はもう少しの場所にある。ちょうどいい、とキョーコは手を打って提案した。
「あ……うん、でも、えーっと…」
珍しく蓮は動揺して言いよどむ。
「…いきなりお邪魔するのも申し訳ないし……さっきの通りの先にある、ファミレスにでも行こうか?」
「はい、それでもいいです!そういえば遅くなっちゃいましたけど夕ご飯まだでした!」
キョーコは特に不審に思うでもなく蓮の提案を受け入れた。方向転換をして歩きながら、蓮はキョーコにばれないようこっそりとため息を吐き出す。

これまで蓮はキョーコの部屋に上がった事はなかったし、それを要求した事もない。何かのきっかけがあれば、という欲求がない事はなかったが、そんなものはキョーコを気遣って理性の下に押し込めてきた。それが、このタイミングでチャンスがあっさりとやってきた。この上ない自然な流れだったと言える。それなのに。

こんな日にキョーコと密室で2人っきりになって…絶対に何もないっていう自信はないからな……

今日の撮影では至近距離でキョーコの表情を堪能してしまった上、自分も色々と思いの丈を吐き出しこともあってやや気持ちが高ぶっている。キョーコは自分の言葉を決して嫌がってはいなかった。むしろ、瞳からは不安な色が消えていったような気すらする。このまま自分をさらしても、もしかしたら受け入れてもらえるのか?という期待がむくりと頭をもたげてきてしまったこの状態で、先ほどの撮影のときのようなはにかんだ笑顔を見せられてしまったら、正直、まずい。
それに、撮影中にキョーコが着ていた衣装も、普段のキョーコより少し大人の色香をかもし出すようなもので…

黒崎さんには先を見越したように釘を刺されたしな。確かに今日そんな事になったら、キョーコの態度には出ちゃうだろうし、次の撮影で間違いなく黒崎さんに勘付かれて何か言われるだろう…

死ぬ気で自制するような状態に自らを追い込むくらいだったら、最初から予防線を張っておいた方がいい。残念だと思う気持ちを何とか抑え、蓮は明るい店のドアを開けた。


「さてと、何から話しておこうかな」
注文を終え、蓮は話を切り出した。キョーコは水のグラスを置いて両手を膝に置き、少し緊張した面持ちで蓮を見ている。
「美希は、俺のことも言ってなかった?俺と付き合ってるのかって、きっと聞いたと思うんだけど」
「あ、はい…聞かれました。いきなりだったのでうまく答えられなくて…」
「ああ、前に俺も聞かれてね。完全に否定はしなかったから」

蓮は水を一口飲むと、ふーっと息を吐き出した。
「美希はね、見てて分かるかもしれないけど、思ったことをそのまま言う性格なんだ。だからその、キョーコにも色々と言い出すかもしれなくて、昔の事を」
キョーコはなんとなく納得した。美希ははきはきとしていて、自分の師匠の黒崎に対しても遠慮せず口を聞いていた。黒崎はそういうことはあまり気にしないタイプのようだが。
「さすがに俺のことを美希から聞くのも、キョーコにとっては気分良くないと思うし…隠すことでもないから、ね」
「で、でも私、無理に聞きたいとは…!」
いいんだ、と蓮はキョーコを制した。
「キョーコにはまだあんまり自分の事、話せてないよね。キョーコはプライバシーがないも同然なのに、一方的でごめん」
キョーコと蓮の交際がすっぱ抜かれたときも、蓮が一般人だからとキョーコは1人で取材攻勢の矢面に立ったのだ。しかし、プライバシーをかぎまわられる煩わしさを知っているせいか、キョーコは蓮に対しては遠慮してあまり色々と聞き出そうとはしない。
「そんな…私が選んでこの仕事をしてるから当たり前なんです!それに…」
「うん。でも、俺が話しておきたいんだ。聞いてくれる?」
キョーコは口を閉じて頷いた。

「美希とは…留学時代の友達、と言ったけどね。その当時、実は俺も、ちょっとだけモデルの仕事をしていたんだ」
道理で!!!とキョーコはものすごく納得してしまったのだが、蓮に言わせると単純にバイトとして学校の合間にやっていただけで、大した事はない、らしい。しかし、蓮にとっての「大した事」がどれくらいなのか、キョーコには分からない。
「美希も…そのモデルの仕事で知り合った。美希の方は俺みたいなバイトではなくて、ちゃんと仕事としてやってたんだけどね」
「美希さん、背も高いしスタイルもいいしお綺麗ですからね……あの…もしかして、お付き合いされてたんですか?」
「ううん…美希は、本当に友達だった。お互い日本人ってことで仲良くはなったけど」

少しホッとしたようなキョーコに、蓮は申し訳なさそうに切り出した。
「美希の…モデル仲間に、リズという女の子がいた。美希とリズはすごく仲が良くて…そして、その内俺はリズと付き合うようになったんだ」
キョーコは無言で頷くと、ごくりとつばを飲み込んだ。
「リズが…俺のことを美希に相談して、美希が仲を取り持った、そんな感じだった。3人でたまに遊んだりもして、リズは俺とのことを美希によく話したりしてたみたいだ」
キョーコはじっと蓮の話を聞いている。過去の彼女の話など聞きたくはないだろうに、と蓮は少し申し訳なく思いながらも話を続けた。
「俺は、リズとの交際が順調にいってると思ってた。けど、ある日突然、リズから別れを告げられたんだ。他に好きな人ができた、そう言われた」
蓮はウエイトレスが料理を持って近づくのを目の端で捉えて一度言葉を切った。キョーコに食べるよう促し、自分はコーヒーに口をつける。

「いきなりで俺は驚いた。うまく行ってると思ってたからね。だけど、心変わりをしたんじゃ仕方がない、と思って別れを受け入れたんだ」
「その場でですか?」
「そう。驚くよね。でもその当時は、それで何も思わなかった」
「はあ…」
キョーコはなんと言っていいのか分からなかった。うまく行っていると思った交際相手からいきなり別れを告げられて、その場で別れるという決断ができるだろうか。

「リズが何か言いたそうにしているのはなんとなく気がついてたけど…向こうから言いだした事だから、俺が何を言う事もなかった。だけどね、翌日俺の部屋を美希が訪ねてきて…」
なんとなく、何が起こったのか予想がつく。キョーコは蓮の言葉を待った。
「ドアを開けるなり、怒鳴りつけられた。一方的になじられて、最終的にひっ叩かれたな。リズの気持ちが分からないのか、て言われたけど、その時は全く分からなかったんだ」
「リズさんは、蓮さんの気持ちを確かめたくて、嘘をついたってことですよね?好きな人ができたって言って、引き止めてもらいたかったんでしょうか」
「その通りだよ。美希が帰ってから1人で考えた。理屈では分かったよ、リズのやった事、美希が怒った意味。でも、自分の感情では理解できなかった。好きな人ができたと言われたら、彼女の幸せのためにもその好きな人の元へ送り出してあげるのが一番だろう?ってね」
「蓮さんは、リズさんの事好きだったんですよね?」
「その時は…そう思ってた」

リゾットをすくうスプーンが止まっているのを見て、「冷めるよ」と蓮はキョーコを促した。再び食べ始めたキョーコを眺めながら蓮はため息をつく。
「とにかく、自分はリズを傷つけた、ということだけは分かったよ。考えてみたら、リズの前に付き合った彼女も、向こうから告白されて、しばらく付き合って一方的に振られたんだ。その彼女も同じように傷つけたのかもしれない。そう思って、もう当分恋愛はやめようと思った」
「やめちゃったんですか?」
「言い寄られて、自分の気持ちも曖昧なままに付き合うようなことをね」
そんなにしょっちゅう言い寄られるんだ、とキョーコはやや複雑な心境になった。そりゃあ、蓮は格好いいし物腰も柔らかいし、もてるだろう。もてるだろうけど、言い寄られてほいほい付き合ってきたと聞くとやはり穏やかではない。けれど、蓮は真剣な表情でじっとキョーコを見つめながら話を続けた。

「リズとのことがあって間もなく、俺は日本に帰った。そしてそれ以来、誰とも付き合ってなかった。キョーコに会うまでは」
「蓮さんは…どうして私と付き合ってるんですか?」
キョーコは複雑な気持ちのまま蓮に聞いた。ここで聞いておかなければまたどろどろと1人で悩んでしまうような気がした。しかし蓮は迷うことなく答える。
「そりゃあ決まってる。キョーコの事は曖昧な気持ちなんかじゃないからだ」
「でも、私が蓮さんに言い寄ったようなものですよ」
「きっかけはキョーコが意思表示をしてくれた事かもしれないけど…全然違うんだよ。君と自分の環境の違いを考えて、やめた方がいいとブレーキをかけようとしても暴走するような、そんな気持ちだ。全然違うんだ」
「蓮さん?」
「キョーコと出会って…ようやくリズの気持ちを感情で理解できたよ。今君に『好きな人ができた』なんて言われても、笑って『いいよ』なんて言える訳ない」
「へ?」
「きっと今そんなこと言われたら、すがりついて泣き落して怯えさせてどこかに閉じ込めてでも…俺のもとから離さない。自信があるよ」
にこりと笑って恐ろしい事を言われた。そんな気がして、キョーコは一瞬背筋が寒くなるのを覚えた。が、なぜだろうか、自分を束縛しようとする蓮の言葉を聞いて、どこか喜ぶ気持ちがじわりと湧き上がってきてしまう。
「そんな自信…もたないでくださいよ」
「ダメかな?でも本当だ。君を手放す気は…俺にはないよ。今まで必死に取り繕って君には見せなかったけど、君を不安にするくらいだったらいっそのこと、隠すことをやめちゃおうか」
「えええ?」
「ふふ、冗談だよ。君が嫌がるようなこと、したくはない。だから見せるのはちょっとだけにしとくよ」

見せても見せなくても内に持っているなら同じ事じゃないだろうか。
キョーコはごく冷静にそう思ったのだが、目の前でにこりと爽やかに微笑んでいる男性にはなんとなく言えない。とりあえずキョーコはまた中断していた食事を再開したのだった。

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