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偏愛感情(8)


こんにちは!
珍しくこんな時間にこんにちは。ぞうはなです。

普段できない週末の更新ですが、なんとなく、できたのでしてみました…

では早速、どうぞー!





「俺のせいか?」
困ったようにガリガリと頭をかく黒崎に聞かれ、蓮は首を横に振った。
「いいえ、それはないと思います」

屋上での撮影は、始まって間もなく中断していた。キョーコは今この場にはいない。
「お前と美希を並べてテストしてたのを見て、ああなったと思うんだがな」
「それは…そうかもしれませんが、多分、単なるきっかけに過ぎないかと」
「んじゃあ、なんだ?」
蓮は黒崎と一瞬目を合わせると、ため息をついてしばらく考えてから、答えた。
「おそらく俺のせいだと…思います」

テスト終了後、すぐに蓮とキョーコがスタンバイをして撮影が始められた。しかしキョーコの笑顔がこわばったり表情が固まってしまったり、挙句の果てには泣き出しそうな顔になってしまったために、撮影を続ける事ができなくなってしまったのだ。真っ青な顔で謝り続けていたキョーコは、黒崎に頭を冷やしてこいと追い出されて一人で控え室にこもっている。

「確認しとくぞ。お前と京子のことは、"新しい"スキャンダルにはならないよな?」
黒崎はじろりと下から蓮を睨むと周りに聞こえないよう小声でぼそっと言った。蓮はすぐに頷く。
「そうですね、なりません」
「っだーー!やっぱりそういうことか!!もう、お前んところの社長は何考えてんだよ!」
「…あの人の真意は俺にも分かりませんが」
黒崎は蓮の肩をつかんだ。ぎりぎりと指に力を入れながら低い声を出す。
「お前に15分時間をやる。スタッフはここから出さねーから、なんとかしてこい」
「……善処します」

蓮はすぐにビル内へと走る。途中、睨まれているような視線を感じたが、あえてそちらを確認はしなかった。


蓮が控え室のドアをノックすると、「はい」とすぐに返事が返ってきた。ドアを開けて様子を伺うと、ちょうどキョーコが椅子から立ち上がったところだった。
「キョーコ……」
大丈夫?と聞こうとして、とても大丈夫そうには見えないキョーコの様子に、蓮は言葉を飲み込んだ。
「すみません…すみません、撮影中断しちゃって…」
うつむいて弱々しく謝罪の言葉を呟くキョーコを制して座らせ、蓮は自分もキョーコと膝を突き合わせるように座った。

「……すみません、すぐ切り替えますから」
懸命に自分を立て直そうとするキョーコの両手を蓮は握った。
「無理やり押さえつけようとしても辛いだけだ…何か思う事があるんだったら吐き出した方がいいよ」
ゆったりとした低い優しい声がキョーコの胸を揺さぶるが、キョーコはふるふると首を振った。
「俺には言えない…?いや違うな。原因が、俺なんだよね」
「違います!…違います、私が勝手に、勝手にバカな事考えてるだけで…」
「バカな事って何?」
蓮の問いに、ぎゅう、とキョーコは唇を引き結んだ。しばらく無言の時が過ぎる。蓮は再び口を開いた。
「俺と美希の事、気にしてる?」
「ち…がいます…」
「でも、キョーコがそんな風になったのって、テストで俺と美希が並んでるのを見たからだよね」
「え?」
思わずキョーコは顔を上げた。視線の先の蓮は相変わらず柔らかい表情だ。ヘアスタイルと服装がいつもと違うので、受ける印象も何となく違ってキョーコはどきりとしてしまい、慌てて目を伏せる。

「知ってるよ。キョーコが屋上に姿を現してから…ずっと見てたから。スタッフに声をかけて、それから俺と美希がいるのを見て…すごく悲しそうな顔になった」
「いえ…違うんです、美希さんは関係なくて…ただ私……」
「うん、ただ?」
「ただ……ただ、私、つり合わないなって思っちゃって…」
「つり合わない?」
「はい…テストで並んでる蓮さんと美希さん、すごく素敵でした。2人とも大人っぽくて色っぽくて」
「キョーコ…」
「私…背も高くないしスタイルも良くないし、美人な訳でもありません。蓮さんの横に立っても、色気なんて全然なくて、みじめになる事が多いんです」
「それは君が思いこんでるだけだ」

「いいえ」
キョーコは俯いていたが、即座に強い口調で否定の言葉を吐いた。
「いいえ。蓮さんだって分かってますよね」
蓮は訳が分からず、反射的に問い返す。
「分かってる?俺が何を?」

キョーコは顔を上げた。しかし視線は落ち着きなくさまよって蓮の方を見ようとしない。
「撮影が始まる時…黒崎さんが言いました。『夜らしい、恋人に向ける顔を見せろ』って」
「ああ、そんなこと言ったね」
「そうしたら、蓮さんの雰囲気が変わって…私、あんな蓮さん、今まで見たことないです」
「あんな…って?」
「急に色っぽくなって、男の人って感じで、まるで夜の帝王みたいな…」

夜の帝王ってなんだ?

蓮は聞き慣れない言葉に首をひねったが、自分の撮影時の行動を思い出し、すぐにキョーコの言わんとしている事に気がついた。キョーコの両手を握った手に少し力を入れてから、ゆっくりと口を開く。
「なんでそれが、君がつり合わないって理由になるの?」
キョーコは蓮を見上げた。少し悲しげな顔で、それでも自分の考えに確信を持った表情で、蓮の質問に答える。
「私がお子様だから…普段、蓮さんはああいう表情を私には見せないってことですよね」
「……じゃあさっきの撮影の時はなんだったと思う?」
「もっと、もっと大人な、蓮さんにつり合うような…美希さんみたいな女性が相手だって考えた時の、演技だと…」

蓮は苦笑すると頭をうなだれさせた。はーーーー、と長いため息をついてからそのまま静止し、しばらく経ってからのろのろと顔を上げた。
「俺…役者じゃないんだけど…」
おろおろしながら見守っていたキョーコは、え?という顔になった。
「俺、単なる会社員。モデルでも、タレントでも、俳優でもないよ。それなのに、そんな咄嗟にそこまで考えて演技ができると思う?」
「え?え?…それは確かにそうですけど…だって、今回の撮影ではずっと、全然違和感なくプロのモデルさんみたいだし…」
「ああ…キョーコからそう見えるのが喜ぶべきなのかよく分からないんだけど、もう全部、素だから」
「素…素ですか?」
「そうだよ。全部俺の素直な気持ちを表しただけ。もちろん、キョーコに対する気持ちだ」
「え?」
完全に困惑したキョーコに対し、蓮は少し困ったようなばつの悪いような笑みをこぼした。その指は握ったキョーコの手の甲をさすっている。
「いつも君にはそんな顔を見せない…それは確かにそうかもしれない。でもね、キョーコが言ったのとは違って…それはキョーコがお子様だからじゃないんだよ」
「え…じゃあ…?」
「俺が君に、嫌われたくないから」

は?と、声を出さずにキョーコは口を開けた。眉間には皺が寄ってしまっている。蓮はもう一度 はあ、とため息をつくと、観念したように話し始めた。
「付き合い始めて最初に…君がうちに来た日。覚えてる?」
「あ、はい。あの、私が制服着てた時ですね」
「そう」
キョーコははっきり覚えている。どれだけメイクを変えて変装をしても蓮には一目で見破られてしまうため、キョーコはわざわざ衣装の制服を借りて女子高生に扮して蓮に会った事があった。努力の甲斐なく簡単に見破られた後、「援助交際に見えない?」と気にした蓮の提案で家デートをすることになり、その日初めてキョーコは蓮の部屋を訪れたのだ。

「あの時…初めて完全に2人っきりってシチュエーションで、ちょっと舞いあがって」
「…蓮さんがですか?」
本気で不思議そうなキョーコに、蓮は苦笑した。自分がキョーコの前では必死に取り繕っていたためにすっかり聖人君子とでも思われていたんだろうか、と微妙に今までの自分を後悔する。
「そりゃあ、俺だって男だよ」
「いえ、ですけど」
「……それであの日、君につい迫ってしまった」
「あ…」
それもしっかり覚えている。蓮のまとう雰囲気が変わって……そういえば、その時は今日の雰囲気と……

「あの時、君が真っ白になって固まったの見て、しまったと思ったんだ。怯えさせてしまったって」
「す、すみません…でもそういえば、確かにあの時の蓮さん、ちょっといつもと違ったような…」
「君がそういうことに慣れてないって、あれでよく分かった。無理に距離を縮めようとして軽蔑されたり嫌悪されたりするのが怖くて…それで、それからは無理やり隠し通すようにした。分かるかな?本当に無理やりだ」
蓮の両手が緩むと、その手がするりとキョーコの手から腕へと上がっていく。くすぐったさにキョーコはぴくりと身をよじるが、蓮の両手はキョーコの肩を伝って頬へと辿り着いた。
「でも…そうか、もう遠慮はいらないってことかな」

もう蓮のまとう空気が変わっている。なにやら妖艶な笑みを浮かべた人が目の前にいてキョーコはどぎまぎしてしまったが、ここでまた固まる訳にはいかない。
「遠慮…?」
「うん、俺が君をどう想っているのか教えてあげる。まずはそうだね、撮影で…ここで2人っきりで教えてあげたいのは山々だけど、何せ15分で戻らないと黒崎さんにどやされちゃうからね」
蓮はいたずらっぽく笑って立ち上がると、キョーコの手をしっかりと握った。

私の事をどう想ってるかって…どういうことかしら?

手をつないだまま、蓮に引っ張られるようにキョーコは屋上への道を戻っていく。蓮の言葉に、先ほどまでの切ない気持は少し和らいだような気はするが、まだキョーコは蓮の真意が分からず、首をかしげながら蓮に着いて行くしかなかった。


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