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偏愛感情(6)


こんばんは!
なんとか連続更新です。
なぜなら、お話がすすむのが妙にとろいから。(せめて更新頻度を…うにゃうにゃ。)

……ではでは早速参りましょう~





「あ、ちょうど戻ってきたみたいですよ」
撮影の準備が進み、もうしばらくしたらモデルの2人を呼びに行った方がいいか、という話をしていたスタッフの1人が、広場の向こう側を指差した。ちょうど蓮とキョーコが会話をしながら戻ってくるのが見える。
「なんだかもう恋人みたいで、いい雰囲気ですね」
何気なく漏らしたスタッフの声に、黒崎は2人を見やった。確かに蓮は愛しげにキョーコを見ているし、その蓮を見上げるキョーコもはにかんだような嬉しそうな表情だ。

へぇ…京子の方は真面目そうだから難しいかと思ったけど……意外とすんなりいきそうか?
それにあの…蓮と言ったっけ。あいつの顔ときたら…。京子のファンなのかね?

にやにやと笑う黒崎の後ろでは美希が一瞬作業の手を止めて、2人の姿をじっと見つめていた。


蓮とキョーコはすぐに衣装に着替え、撮影は始まった。蓮は全身がベージュ系でまとめられたカジュアルな装い。キョーコも活動的なハーフパンツにスニーカー姿だ。

「その辺に遊び道具を色々用意したから、適当に遊んでみてくれ」
黒崎の大雑把な指示に、2人は指し示された方を見た。そこにはビーチボールやバドミントンといった、一般的によく公園で遊ばれる道具が色々と置かれている。蓮は早速物色を始めたキョーコの横に並んで声をかけた。
「キョーコ、どれがいい?」
「うーん、じゃあ風がない内にまずはバドミントン!」
「まず、ね。何種類遊ぶつもり?」
「えっ!あ…」
「はは、いいよ、適当にって言われたからね。バドミントンやってみようか」

スタッフも黒崎も、2人が楽しげにバドミントンやバレーボールで遊び、じゃれあう画を予想していたのだが、現実は違った。バドミントンをやらせてみれば本気のラリーが続き、蓮にスマッシュを決められたキョーコが真剣に悔しがるし、キャッチボールはボールの速度とミットで受ける音が普通ではない。

黒崎が蓮の後ろでカメラを下ろして天を仰ぐ。
「京子…!お前、少しは手を抜け!俺はスポーツカメラマンじゃねーんだ」
キョーコは申し訳なさそうに恥ずかしそうに身を縮めると、頭をかいた。
「すみません…ついつい本気に…」
「蓮!なんでお前まで本気で相手するんだ」
「ああ、失礼しました。…いや、なんだか手を抜いたら怒られそうだったので」
蓮はグローブにすぽんとボールを入れると、にこやかに返事をする。思わず黒崎も同意した。
「まあそれはそうだろうけどな」

「ああっ。2人とも、ひどいですよ!」
キョーコの抗議を無視して、黒崎は改めて撮影のポジションを決めるとキャッチボールの続行を指示した。スパン、ズバンと小気味良い音が公園に響く。

しばらく撮影を続け、休憩中に黒崎はカメラを交換しながらにやにやと上機嫌だ。
「あいつら、何だかんだで息あってるよな」
「本当に楽しそうですよね」
黒崎を手伝いながら美希も同意した。黒崎と美希の目線の先で、モデルの2人は楽しそうに談笑している。
「京子が思ったより変わった奴だったから、男の方がうまく合わせられるのか?て思ってたんだけどな。蓮の奴、よく分かってんじゃねーか、京子のこと」
「分かってるって?」
「何をすればどういう反応をするか、分かってやがる。頭も切れる奴だな。俺が撮りたい画の構図だけ要求すりゃ、京子の表情をあれこれ引き出してみせる。あいつの名前聞いたことないけどなあ。ルックスもいいし、勘もいいし、もっと売れててもおかしくないぜ。なんでこんな顔が出ない仕事してんだ」
「…副業だからですよ、多分」
ぽつりと呟かれた言葉に、黒崎は美希の顔を見る。
「ああ、お前あいつと知り合いだって言ったっけ?モデル仲間なのか?」
「もうだいぶ前、アメリカにいた頃ですけどね。今、蓮の本業はモデルじゃないそうですよ」
「へえ。じゃあ撮影が週末と夜に寄ってんのもあいつの都合か?ふぅん…なんかLMEの事情がありそうだな。まあ俺は作品が期待通りのものになってくれたらそれでいいんだが」
黒崎は言いながら美希の表情を見て、口の端をあげた。
「あいつは友達だったのか?それとも、お前の元彼?」
「違いますよ!ただの友達です!」
ムキになりなさんな、と黒崎は笑い飛ばしてまた撮影に戻る。美希はその後姿を憤慨した顔で見送りながらぼそりと呟いた。
「私は、ただの友達だったわよ…」


蓮は、着替えを済ませて1人佇んでいた。遊びのシーンの撮影は終わり、今度は少しシチュエーションを変える、ということで衣装も変わっている。キョーコは衣装だけでなくヘアメイクも少しいじると言うので、蓮はそれを待っているのだ。

芝生を踏む音が聞こえ、蓮は顔をそちらに向けた。ゆっくりと歩いて近づいて来たのは、美希だ。
「随分変わったわね、蓮」
無表情で切り出された美希の言葉に蓮は首をかしげた。
「そう?」
「そうよ。今日みたいな顔、見たことないわ。昔と全然違う」
「どんな顔?」
「また白々しい!分かってるんでしょ。京子さんに向ける顔よ」
「そんなに違うかな?」
蓮は苦笑しながら美希を見る。しかし美希は目線をあわさずに遠くを見たまま答えた。
「全然違うわよ。あんな柔らかい甘い笑顔、仕事中でもプライベートでも見たことなかったもの」
「そうかな…あんまり、意識はしてない」
じろり、と美希は蓮を睨んだ。
「ねえ、京子さんの恋人って実は蓮なんじゃないの?」
おや、と蓮は驚いた顔になった。
「また、面白い発想をするね」
「茶化さないでよ。そうじゃなきゃ、あなたのあの表情の説明がつかないわ。…昔は、恋人にだってあんな顔しなかったのに…」
「美希…」
「ごめんなさい。でも私、まだ許してないんだからね」
「…分かってるよ。俺も、許してくれとは言わない。君にも、リズにも」
ぴくり、と美希の肩が震えた。口を開いて何かを言いかけたが、目線を一瞬蓮の向こう側に移し、口を閉じて真っ直ぐに蓮を見た。それから再度口を開く。
「今私を見るあなたの顔は、昔と同じ。やっぱり、そういうことよね…でも、もしそうだとしたら、京子さんには悲しい思いはさせないで」
蓮は一瞬躊躇ったが、美希の目線の方向をちらりと見てから一言だけ答えた。
「ああ…そうだとしたら、ね…」
美希は蓮の言葉を聞くと、無言で黒崎の方へと戻っていく。蓮はその姿を見送ると、別の近づいてくる女性-キョーコの方に体を向けた。


キョーコは公園内に特別に入れさせてもらったマイクロバスの中で、スポーティーなハーフパンツからフルレングスのワンピースに着替え、メイクを直してもらっていた。少しふわりとしたシルエットのワンピースに身を包み、先ほどよりも柔らかい色使いのメイクになったキョーコを見て、スタイリストは絶賛して太鼓判を押してくれた。
キョーコはバスを降りると、撮影をしていた広場に向かって歩き出す。歩くたびにワンピースの裾がフワフワと揺れて、なんだかさっきよりおしとやかに振舞った方がしっくり気がする。そんなことをなんとなく考えながら歩くキョーコの目にはすぐに撮影隊の姿が入ってきたが、そこから少しだけ離れたところに、蓮と美希が向かい合って話しているのが見えた。

何を…話してるのかな?

すごく気にはなるが、邪魔をするのもよくないだろう。キョーコは蓮の元へ向かうかどうか一瞬迷ったが、美希がその場を離れたので意を決して連のほうへ足を向けた。蓮はキョーコに気がついていたようで、美希の背中を見送るとすぐにこちらを向いた。

「お待たせしました」
つとめて笑顔で明るい声を出す。すると、蓮が柔らかい笑みを浮かべて答えた。
「いいね、さっきとはまた印象が違ってとても可愛い。すごく似合ってるよ」
「う…ありがとうございます」
蓮は少しキョーコに寄って声をひそめると、こそりと追加の賛辞を贈った。
「普段そういう格好してるの見たことないから新鮮だ。でも本当、そういうのもすごく似合う」
「そ…確かにこういうの着ませんけど…ほんとにおかしくないですか?」
先ほど着替えたマイクロバスは狭かったので姿見などもなく、キョーコは自分の姿をちゃんと確認できないでいた。
「おかしいどころか。そうだな、どれくらい、と言えば、周りに誰もいなかったら抱きしめたいくらい?」
「ん、もう!蓮さん、真面目に!!」
「真面目に言ってるよ。それにしてもキョーコ、まだ一度も"さん"付けが取れてないんだけど?」
「だからそれは、徐々にです!!」
真っ赤な顔でキョーコは慌てて弁解し、蓮の顔から目線を下に外した。

落ち着いて見てみれば、蓮は白いVネックのシャツにダークグレーのジャケットを羽織っている。ジャケットは軽めのものではあるが、この湿度の高い初夏の気候ではかなり暑いはずだ。なのに、蓮は全く暑さを感じさせず爽やかに涼しげに着こなしている。

それにそれに。
さっきは気がつかなかったが、今着ている白いシャツがさっき着ていた物よりもフィットするデザインで、ジャケットの前ボタンも開けているせいか、蓮の胸板が思った以上にがっちりしているのがよく分かってしまう。

そりゃあ…毎回抱きしめられた時にがっちりしてるなあ、とは思ってるけど!
普通に会社勤めしてて、デスクワークなのにどうして蓮さんこんなに筋肉質なの?ああもう、プロのモデルだって逃げ出しそうなプロポーションで、やっぱりずるい!!写真撮られてたって全然緊張せずに自然にしてるし!!!

キョーコはふう、とため息をついて改めて目の前の男性を見た。

優しくて、意地悪で、格好良くて、口が悪くて、ああでも…

周りに誰もいなかったら抱きつきたいのは自分だわ、と思いつつ、キョーコは真っ赤な顔のまま、蓮の腕を引っ張って撮影隊に合流したのだった。


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