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偏愛感情(4)

こんばんは!
うーむ、すっかり1日おきペース?
しかもしばらく微妙に話がすっきりしないかも。

すみません、のんびりお付き合いくださいー(>_<)




打ち合わせから3週間後、キョーコをモデルとした写真撮影がスタートした。
キョーコはようやく主演のドラマ撮影がクランクアップしたのに、ホッとする間もなく次のドラマの仕事などに追われている。写真撮影の衣装合わせや打ち合わせはその隙間を縫って行われたため、とにかく事前の心構えができないまま撮影に突入する形となっていて、一抹の不安を覚えていた。

ドラマなら台本覚えて、役作りしてってやるべき事がわかってるんだけど…

雑誌のグラビア撮影などは経験した事があるものの、今回のようなスチールモデルは初めての経験で勝手が分からない。自然にしているところを撮影するから特別なレッスンなどは必要ない、と事前に言われてはいたが、本当だろうか。不安を抱えたまま、キョーコは指定された時間よりも早めに撮影スタジオに入った。

挨拶をしながら中に入ると、すでにスタジオスタッフにより撮影の準備が始まっていた。目の前には女の子の部屋らしい家具や小物が広げられたエリアが出来上がりつつある。
するとそこに、「おはようございます」という女性の挨拶の声が響いた。キョーコが何気なく入り口の方を見ると、入って来たのはTシャツにワークパンツを履いた、黒崎のアシスタントの美希だった。美希は幅、高さ、厚みともにどっしりとした巨大な四角いカバンを肩に下げ、もう片方の手にも大きいジュラルミンケースを提げている。

「うわぁ、重そうですね」
平然と歩いてきた美希に、キョーコは思わず声をかけた。
「ああ、京子さん。うふふ、いつも持ち歩いてるので慣れちゃいました」
にこやかに笑う美希の表情に、キョーコは一瞬見惚れた。カバンを開けると、中からは数台のカメラと大量のレンズが顔を出す。美希は慣れた手つきでそれらを取り出し準備を始めた。
「黒崎さんはご一緒じゃないんですか?」
キョーコの素朴な疑問に、美希は手を動かしながら苦笑する。
「タバコ1本吸ってから来るって言って、外にいますよ」
「ああ…」
キョーコが納得して作業を見守っていると、美希が顔を上げてまじまじとキョーコの顔を見た。
「ほんと京子さんって、ドラマだと印象が変わりますね~~。"明日香"はきりっとしていたけど、素顔はキュート!黒崎さんの作りたいイメージに、ぴったりはまりそう」
「え…そうですか?でも…昨日見せていただいたサンプルの写真、モデルされてたの堀さんですよね?すごく綺麗で決まってて、本当のモデルさんみたいでした」
ありがとう、と笑顔で答えてから、美希は少し渋い顔をした。
「黒崎さん、すぐ人のこと使うんですよ。嫌だって言ってるのに。それでいて、『お前じゃイメージに合わん』って、失礼なんだから。…でもね、私も前までは撮られる側だったんです」
「え、美希さんはモデルさんだったんですか?」
「大したモデルじゃなかったけど…一応。でも、撮られるより撮る方に興味が移っちゃって」
スタイリストから声がかかり、キョーコは軽く挨拶をすると美希の元を離れてそちらへ向かった。美希は大量の機材をセッティングし、きびきびと動き回っている。

前回の打ち合わせ後、キョーコはどうしても気になって、蓮に美希との関係を尋ねていた。
「学生時代、アメリカに留学してたって話をしたよね。その時の友達だよ」
そう蓮は答えた。もう4年ぶりかな、まさかこんなところで会うとはね、と蓮自身も驚いていたのだ。モデルと友達って…さすが交友関係が普通じゃないわ、とキョーコはしみじみと思った。

本当にただの友達だったんですか?

出かかった質問は喉で止まった。過去の交友関係まで引っ張り出して疑うのは、みっともない。ましてや、過去に誰と付き合おうが、自分が口を出すことでもない。

だけど…自分はこんなだものね…

衣装として用意された、室内着として着られるようなワンピースを着た京子、いや、最上キョーコが壁際に置かれた姿見に映っている。京子であることが一目で分かるよう、ヘアメイクも控えめだ。

顔は平凡だし、背もそれほど高くないし、足が長い訳でもないし、胸は小さいし…

放っておいたらどんどん落ち込んでいきそうで、キョーコはきっと顔を上げると、スタジオへと戻る。スタジオの中では、黒崎が美希やスタジオのアシスタントたちに指示を飛ばしているところだった。

「おはようございます。よろしくお願いします」
きっちりと頭を下げて挨拶をしたキョーコに対し、黒崎は「おお、早速いくか」とにっかり笑って声をかけ、撮影が始まった。

用意されたセットの中にキョーコが立つ。
女性の部屋をイメージしたその一角は白を基調として、家具や小物はキョーコ好みの可愛らしいものばかりだ。クローゼットは開け放たれて中の洋服が丸見えの状態で、更にベッドの上にもいくつかの服が並べられている。ぐるりと周りを見回したキョーコに、セットのすぐ横から黒崎が声をかけた。

「いいか、ここは京子、お前の部屋だ。お前はこれから恋人とのデートに行くところで、着ていく服をどうしようか迷ってそんな状態になってる」
なるほど、とキョーコはベッドの上を見る。
「で、恋人のことを想いながら服を選んでほしい。お前、一般人のイケメン彼氏がいるんだろう?そいつが喜ぶような、デートにふさわしい服を悩みつつ探すんだ。キャラはお前自身でいい、カメラを意識しなくていいから自由に動いてくれ」
キョーコは物言いたげな顔でにやにや笑う黒崎を見たが、「分かりました」と頷いた。黒崎がカメラを構えると、キョーコは一度目を閉じ、深呼吸をする。

今日は蓮さんとデート…うぅん、どこに行くんだっけ?
今度まとまった時間が取れたら、水族館に行こうって約束したっけ。うん、じゃあ目的地は水族館。そのあとちょっとショッピングして、ご飯を食べて…

キョーコは目を開けると、ベッドの横に立ち、いきなり腕組みをして眉間に皺を寄せ、むむむ、と唸りだした。ベッドの上のワンピースを両手で持ち上げひらひらさせながら何かをぶつぶつ呟くと、ぶるぶると首を振ってワンピースを元に戻す。次にその横のカットソーを手に取り、鏡に向かって自分の体にあててみる。うーーーん、としばらく静止して考え込んでから、今度はスカートを選ぶ。ベッドの上の洋服をざざっとよけて、自分の正面に選んだカットソーとスカートを並べると、またもや腕組み。カットソーを何回か迷って変えてみて、最終的に選んだ服を再度鏡で確認すると、少し恥ずかしそうに幸せそうにふわりと微笑んだ。

「あい、とりあえずオッケー」
黒崎は声をかけてからシャッターを押し続けていたカメラを下ろすと、「ぶふっ!」と噴き出した。ふるふると肩を震わせる姿をキョーコが呆然とセットの中から見ていると、やがて黒崎がこちらを向いて、ずびしとキョーコを指差す。
「ぶはははははは!お前、なんだよそれ」
「ええっ?何かおかしかったですか?」
「いや、おかしいというか、今のって素か?普段どおりか?」
「…はい……特に何か意識して変えたって事はありませんけど」
「そうか…お前、変わってるとか不思議ちゃんとか天然とか言われないか?」
「ぬあっ!失礼ですよ黒崎さん!そんなこと…た、たまにしか言われません!」
「やっぱり言われてるんだな…」
黒崎はぼそっと呟いてからキョーコをじっと見た。

「なんでデートの服選ぶのに、ずーっと眉間に皺寄せてんだ?」
「は?え?寄ってましたか?」
「よってたも何も、すげー難しい顔してたぞ。何考えて選んでたんだ」
「え?えっと、このワンピースはこの前着たのにちょっと似てるな、とか、胸元が開いてるのは貧相なのがばれるからやめようとか、そんなことですけど」
それ以外にも、かなり短いスカートで会ったときに、他の男に変な目で見られるから、とやんわり蓮に咎められた事まで考えたが、それは口に出さずに心にとどめた。
「ふーーん。で、最後に笑ったのは?」
「あ…いえ、会うと必ず『可愛い』とか『似合う』って言ってくれるので、それをちょっと思い出して…」
「おうおう、なんだラブラブだな~」
からかうように言われて、ついうっかり漏らしてしまった事の恥ずかしさに気がつきキョーコは真っ赤になった。しかしなぜだか黒崎は上機嫌で撮影を再開し、シチュエーションを変えつつその日の撮影は無事終わったのだった。

その後も数回にわたりキョーコ1人での撮影が行われた。撮影は1日を追うように順番に進むため、デート当日の準備、待ち合わせまでの時間、と少しずつデートに近づいていく。もっとも、必ずしもストーリーがある訳ではないようで、異なるシチュエーション、衣装での撮影が複数回にわたったのだった。


明日から…ついに蓮さんとの撮影が始まるんだ…

キョーコはぼんやりと考えながら、バラエティ番組の収録を終えてテレビ局の廊下を楽屋に向かって歩いていた。とりあえずキョーコ1人の撮影は何の問題もなく進んでいる。たびたび黒崎にからかわれるが、黒崎自身の考えていたイメージに合っていない、ということもないようで、本当に大丈夫なのだろうかと不思議に思いながらもキョーコはホッとしていた。ただ、大量に撮ったであろうこれまでの写真をまだ見せてもらえないところがとても気になる。

明日からはまたがらりとシチュエーションが変わる。キョーコは自分でも、蓮との撮影が近づくにつれ不安感が増していく事が不思議だった。椹や連には、「つまらない自分のプライベートをさらすことが不安」と言ったが、ならば1人の撮影だって嫌なはずだ。けれど、ここまではそれほど悩まずにこなせている。

私は…何をこんなに嫌がっているの?
相手が蓮さんに決まってから、辛さが…不安が…増えているような気がするのはなぜ?

考えるだけで疲れてしまう。キョーコは重い気持ちで廊下を進み、角を曲がって……自分の楽屋のドアにもたれて立っている人物の姿を見つけて、重い気持ちに怒りがプラスされるのを自覚した。
そこにいるのは明らかに、幼馴染でアーティストの不破尚だ。動きもせずにだるそうにこちらを見て、キョーコが来るのを待っている。

人の気分が悪いときに限って待ち伏せって…嫌がらせよね?

その気持ちは確実に八つ当たりだったが、以前に待ち伏せされたときも確か、気分がかなり落ち込んでいるときだった。そして、その後くだらないスキャンダルにも巻き込まれた。しばらく遭遇する事がなかったのに測ったようなこのタイミング。いい加減にして欲しい、とキョーコが怒りを募らせてしまったのも仕方がなかったかもしれない。

もっとも尚の側も、キョーコの交際会見直後からしばらくは祥子が危険を察知して、なるべくテレビ局でキョーコとかち合わないように細心の注意を払っていたのだ。けれど、時がたてば収まると思っていた尚の情緒不安定さがどんどんひどくなり、抑え切れなくなって今日、人目のあるこの場所でキョーコを待たせたという事情があった。

「どいてくれないと入れないんだけど」
キョーコは挨拶もなく、楽屋のドアにもたれている男につっけんどんに話しかけた。
「お前…何いきなり怒ってんだよ」
尚は体を起こすと呆れたようにキョーコを見た。金髪に胸元の開いたシャツに革パン。そしてあちこちにジャラジャラと光るシルバーアクセ。キョーコの幼馴染である不破尚はいつも通りの出で立ちだ。
「今日はあんたの顔見て気分が悪いのよ」
「ああ悪かったな…お前、今日は仕事上がりだろ。早く着替えてこいよ」
「…なんであんたが指図するのよ!」
「お前に聞きたいことがある」

いつもより真剣な顔で正面から見られて、キョーコは少しひるんだ。しかし、踏みとどまると尚を睨みつける。
「前も言ったけど、あんたに話すことなんか私には何もないわ」
「ふん。お前、いつの間に俺への復讐諦めたんだ?」
「諦めてなんてないわよ」
「そうか?俺には諦めてるように見えるけどな。男にうつつ抜かしてふわふわしやがって」
「そんなこと!」
キョーコの脳裏に蓮の顔が浮かび、なぜかチリ、という痛みが胸に走る。
「ちげーんだったらあんな会見、やらねーよな…阿呆面さらしてみっともねーったら…まあ、一般人男性ってのが、お前にお似合いだよな」
「どういう意味よ…」
「俺みたいないい男だとお前なんかに見向きもしねーって意味だよ」
「……」
キョーコは無言で尚を睨む。尚は自分の言葉が図星をついたと思って言葉を継いだ。
「あんだけ別人みたいな顔でテレビに出てれば、ファンも多少はつくよな。そこを狙えば、お前みたいのでも不細工な彼氏を作る事くらいできんだろ」
「勝手に言ってればいいわ」
キョーコは尚の挑発に乗らなかった。尚の言葉が実際とかけ離れすぎていて、反論する気にもならない。その反面、どうして蓮は自分みたいな女を好きになってくれたんだろうか?という疑問がはっきりと形を持ってキョーコに迫ってくる。

「お前…もしかして、交際宣言は嘘か?いやそれとも、もう振られたんだろう」
バカにしたような尚の言葉に、キョーコはカッとなってかみついた。
「そんな訳ないでしょ!」
「そんな顔でよく言うぜ。お前、振られましたって顔してるぜ」
尚に言われてキョーコも気がついた。確かになぜだろう、自分は泣きそうな気分だった。


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コメントコメント


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やっぱり。

馬鹿尚むかつきますね。でも、格好のお間抜けキャラだから居ないとしかたがないのですが。それでもむかつくわ。

美音 | URL | 2013/05/24 (Fri) 23:19 [編集]


Re: やっぱり。

> 美音様

コメントありがとうございます
そう、尚って肝心のところで余計なことしてくれてイライラさせられますよね。
でも言われる通り、お間抜けキャラだからいないと…。
障害の多い恋こそ結びつきがより強くなる、ていうことで頑張ってもらいましょう(^^)

ぞうはな | URL | 2013/05/25 (Sat) 20:54 [編集]