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薔薇の素顔 (7)

…分かりにくいですが、パラレルです。
パラレル苦手な方はご注意ください。

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キョーコが蓮にお弁当を渡した日の昼。

大学キャンパス内にある学食には二人の女子学生の姿があった。
長机の端っこに向かい合って座る二人の内、一人は短い茶色い髪の少女、最上キョーコだ。キョーコは何回も腕時計をそわそわと覗きこみ、何やら心ここにあらず、といった状態。バイト中ではないためか、化粧はほとんどしておらず、服装も長袖Tシャツとフレアのミニスカートの上にカーディガンを羽織ったカジュアルなスタイルだった。
もう一人の学生は、ストレートの黒髪を長く伸ばした切れ長の目が印象的な美人で、キョーコより大人びて見える。彼女は名前を琴波奏江と言った。キョーコの大学の同じ学科に所属する同級生で、二人は学内で一緒に行動することが多い。

奏江は少しあきれた顔で肘をつき、キョーコの様子を見ている。
「キョーコ、今日は何なの、さっきから」
「えっ?何なのって、何が?」
キョーコは慌てて目の前の親友に視線を移した。
「…2限の授業終わったあたりからソワソワソワソワしちゃって。なんか用事でもあるの?」
「別に、用事なんてないわよ」
キョーコは机に置いた弁当の包みを解くと、今度はその蓋を開けたまま中身を凝視して固まっている。
「もーー!なんなのよ、あんたは!!さっきから挙動不審なのよ!!さっさと、説明しなさい!!!」
奏江は、短気なようだ。

『話さないんだったら友達やめるわよ!』という奏江の脅しに屈して、キョーコは事情をすべて話すことになった。
「ふーーん、雑誌の取材であんたのバイト先が使われたってのは聞いてたけど、そのあとも敦賀蓮が通ってたとは初耳だわ」
「家が近いとか、あんまり言わない方がいいかと思って」
奏江はキョーコのまじめな性格と仕事に対する真摯な態度を知っているため、"初耳"であった件については追及しなかった。

「まあね。で?お弁当作って渡したなんて、あんたが男に対してそんなことするの、あいつ以来じゃないの?」
「あ、あんな奴と敦賀さんを一緒にしないでよ!!大体、もうそれは忘れたい過去で…!!」
「ごめんごめん、そういう訳じゃなくてさ。ただ、あれ以来、あんた、恋愛なんてしないって言ってたじゃない」
「恋愛とは関係ないのよ。ただ、まともに食事をしないってマネージャーさんから聞いたから」
「ふぅん…好きでもないただのバイト先の客に、そこまでするの?」
うぐ、とキョーコは言葉に詰まる。
「しかも、渡した弁当をちゃんと食べてもらえるかどうか、気にするの?」
あぐ、とキョーコはうめいた。

き、気にしてるとかじゃなくて、本当に迷惑だったら困るし好き嫌いも知らないで押し付けちゃったわけだし、とかなんとか、口の中でごにゃごにゃ呟くキョーコの顔は心なしか赤い。
「別に、いいんじゃないの?」
「へ?何が?」
「好きになったって。敦賀蓮のこと」
はぁあああああああ?と驚愕の顔で叫ぶキョーコを眉をひそめて窘めてから、奏江は続けた。
「だって、あんたが自分で『恋愛なんて二度としない』なんて言ってみたって、好きな人ができちゃったら仕方ないでしょ」
「そ、そうは言うけどモー子さん…」
だからその、変なあだ名はやめてよ、と奏江は呟いてから続けた。
「あいつのことがあって、あんたが今は恋愛なんてしたくない、ていうのは自由よ?でも、嫌な恋愛を忘れるには案外次の恋愛に行くのが一番だったりもしない?」

キョーコは弁当をしばし睨みつけるようにして考え込んでから、ぽつぽつと話しだした。
「それでも私、もうあの頃のような馬鹿な女になりたくないの…」
「恋愛して、馬鹿な女になるかどうかはあんた次第よ」
うわ、ばっさり。とひそかに傷つきつつも、キョーコは言いつのった。
「そうかもしれないけど!でも、本当に違うの。好きとかそういうことじゃないのよ」
それに、と続ける。
「…もし、もしよ、好きになったとしても、片思い確定の恋なんて辛いだけだよ」

あらやだ、と奏江はいささかわざとらしくびっくりした顔を作ってみせた。
「誰が片思いなんて決めたの?」
「なんでよ!だって、あの『敦賀蓮』よ!!私なんて相手にする訳ないじゃない!!」
「私なんかっていうけど」とそこまで口にして、奏江は気がついた。
「あ、そうか、敦賀蓮がカフェの客ってことは、あんたのビジュアルはあれか」
奏江はキョーコがカフェバイトの時は普段とは丸っきり見た目とキャラが違うことに思い当った。
「素の自分と違うから怖気づいてるとか?」
だからそうじゃなくって、とキョーコはしかめっ面をしてから、あ、と思いだした。
「敦賀さん、私が普段はこうだって知ってるんだった」
「どういうこと?」
実はね、とキョーコは素の状態で偶然敦賀蓮に会ったこと、蓮が自分のことをカフェの店員だと気がついたことを奏江に説明した。

「1回しか会ってないのに気がついたの??」
「そうなの、だから私も本当にびっくりしちゃって」
「なんで分かったか聞いたの?」
「なんかね、立ち振る舞いが同じだったのと、お店に来た時に私に違和感を感じてたんだって」
「違和感?」
「うん。素じゃなくて、何かを演じてるように見えたって」

はーーーーーーー、と奏江はぽっかり口を開けてしまった。

「ねぇ、お芝居する人ってそういうこと、分かるものなのかな?モー子さんは、分かる?」
「私はお芝居って言っても演劇部に入ってるってだけよ」
「でもさ、モー子さんのお芝居ってすごいじゃない!」
「プロと一緒にしないでよ!いや、でもプロだからってそんなこと分かるのかしら?」

奏江は口に手を当てて考え込んだ。

確かに私もテレビで見てて、敦賀蓮は日本の中でもトップレベルの俳優だとは思ってるわよ?
でも、そんなこと分かるものなの?
大体、分かるとしたって、相当しっかりと観察してないと分かりようがないわよね。
カフェのウエイトレスなんて、普通見過ごすわよねえ…
うぅん?これって、どうなのかしら?


考え込んでいる奏江に対して、キョーコは話題を元に戻した。
「ねえ?こんな地味で質素なお弁当、やっぱり渡したの失礼だったかしら?」

まだそこで悩んでるのね! 奏江はがっくりとうなだれると、考えることを中断した。
私がここで考えててもどうにもならないものね。成行きにまかせましょ!

そして、心配顔でいまだに弁当箱をにらんでいるキョーコに言い放った。
「もーー!あんたの作ったお弁当なんだから、美味しいに決まってるでしょ!!これで口に合わないとか言うんだったら、味覚音痴なんだからどっちにしたって放っておけばいいのよ!」

そして、美味しいって言ってくれてありがとう、とにまにまと機嫌を直したキョーコに笑いかけられて、別に、ほんとのことよ!と赤い顔で怒りながら昼食を食べ始めたのだった。

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