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偏愛感情(1)

こんばんは!
ここのところ少し更新間隔があいております。
仕事が立て込んでおりますので、しばらくはこんなペースになるかも…。

さて、今日はリクエストでもご要望いただきました、「社外恋愛」続編のお話となります。
「社外恋愛」とは少し傾向の違う話となりますが、また少しずつ進めていきますので、よろしければお付き合いください~~。

社外恋愛 -> 1話目

なお、このお話はパラレルで、キョコちゃんは原作に近い設定、蓮さんはソフト会社のエンジニア、という設定になっております。



白い天井と壁に囲まれた明るいオフィスでは、その日の業務もいつもと同じように滞りなく行われていた。
カタカタとキーボードを打つ音が軽快に響き、所々でディスプレイを覗き込みながらの相談がされているが、オフィス内は比較的静かだ。

そんな中、自席でディスプレイに向かってひたすらに作業を行っていた蓮は、エンターキーをぱしりと打って椅子の背もたれに体をあずけた。大量の文字が吐き出されていくディスプレイを眺めながらコーヒーのカップを口につけると、隣の社がその様子をちらりと見て話しかけてくる。

「蓮、一昨日頼まれてたモジュールの改造って、終わったか?」
「さすがにまだ全部は終わってませんが…今日中には一通りテストを回し終わって動作確認まで行くと思います」
「そっか、じゃあ予定通りでいけるな。助かるよ」
「いえ…ただそのせいで、メインの方が若干遅れてますよ」
「遅れてるったって、取り返せるくらいだろう?」
「まあ……大丈夫だと思いますけど」

相変わらずニコニコしながら限界ギリギリの事を言うよな、と思いながら蓮はコーヒーをすすった。目の前のディスプレイは順調に処理結果の表示を続けている。蓮はちらりとデスクに置かれている卓上カレンダーに目をやった。

今週は…出来る限り作業を詰め込んで、来週を少しでも空けられればな…

蓮の脳裏に愛しい女性のにこやかな笑顔が浮かぶ。するとそれを邪魔するかのように社が話しかけてきた。

「なあ蓮、来月のリリースが終わったらさ、飲み会やらないか?」
「リリースの打ち上げですか?」
「いや、それとは別に、もうちょっとこじんまりと」
「?別に構いませんが…」
蓮はなぜわざわざ?と思って首をかしげて社を見た。蓮と社が所属するこの開発グループは、営業部門に比べるとグループ内の飲み会は少ない。仲が悪いわけではないが、個々人の作業の進み具合がばらばらなため予定が合いにくく、更にもともと理系な集団だから、ということが大きい。社は満面の笑みで蓮の無言の問いに答える。

「そろそろ、キョーコちゃん呼ぼうかと思ってさ」
親しい人だけで少人数の方が、キョーコちゃんも来やすいだろう?と社はやや得意げだ。
「…社さんは本当に最上さんを気に入ってるんですね」
「そりゃそうだよ!また機会があればうちで働いてほしいもんね」
後ろで話が聞こえたらしい派遣社員の山口が2人を振り返ってくすくす笑っている。
「前の打ち上げで断られたんじゃないんですか?」
「忙しいから、てことだったからな…だから、定期的にキョーコちゃんの状況を把握して、ついでにこっちのことを覚えておいてもらうために、飲み会だろう!」
まあいいですけど、と蓮はまた視線をディスプレイに戻す。処理はまだ終わっていないようだ。

「光もさ、次はいつだってうるさいんだよな」
「最上さんとの飲み会のことですか?」
「そう。自分じゃ連絡先の交換もできないくせにさ、俺をせっつくんだよ。どんだけシャイなんだよ、あいつ」

ふうん…光君、割と本気なのか…?

蓮は頭の片隅に同期の石橋光のことを留めておく事にした。とはいえ、さほど気にしなくても大丈夫だろうと予想はつく。以前の飲み会のときにかなり頑張ってキョーコと会話をしていた光だったが、結局メールアドレスも聞けない程度だ。自分から積極的にがつがつと動く事はおそらく今後もないだろう。

「社さんは、最上さんと個人的に付き合いたい訳ではないんですか?」
蓮はさり気なく話を振った。
「俺?俺はそういうのとは違うよ。大体、年が離れすぎてるしなあ。9こだっけ?そこまで離れちゃうと、なんかこう、妹みたいな感じになっちゃうんだよね」
だけど、職場の後輩としては理想的だ!と鼻息荒い社に苦笑しつつ、蓮は少し頭を悩ませていた。

思ったより…社さんの口から名前が出るのが早かったな…

もちろん、蓮の思考の対象となっているのは社が話題にした最上キョーコその人であった。
タレント『京子』であることを隠し、蓮のいる部署でバイトとして1ヶ月を過ごしたキョーコは、未経験であったにも関わらず求められた仕事を質・量ともに120%こなし、社を感嘆させたのだ。ぜひまたうちで働いて欲しい!と社に懇願されたのだが、当然ながらキョーコは芸能人の本業があるため、その要望には応えられない。しかし、事情を知らない社はなかなか諦めきれず、定期的にキョーコと接触を持って様子を伺いつつ口説き落とす作戦に出ようとしている。

それだけであれば別段問題はないのだが、最も蓮の頭を悩ませているのは蓮とキョーコの関係についてだ。
誰もがそんなことを予想もしなかった中、蓮だけが最上キョーコ=京子であることに気づき、それが関係あるのかないのか今となっては分からないが、キョーコに強く惹かれてしまった。幸いな事にキョーコも同じ想いを蓮に対して抱いていて、紆余曲折があったものの2人はめでたく想いを通じ合わせる事ができた。付き合い始めて3ヶ月経過した現在も、お互い忙しい合間を縫っての交際はごくごく順調に続いているのだが。

蓮は社にも誰にも、キョーコが京子である事も、キョーコと蓮が付き合っている事も明かしてはいない。
蓮が気持ちを伝える際に、やや、いや、かなり強引な手段をとってしまったせいで、タレント京子に恋人がいる、という事は世間的には公になっている。しかし、蓮が一般人であるため、京子の交際相手についての情報は全て伏せられているのだ。

蓮と、バイトとしてきていた最上キョーコの交際の事実は、色々言われるだろうが、社たちに明かしてもまだ問題はないように思える。しかし、最上キョーコが京子である、ということについては話が広まってしまうと厄介なため、そう簡単に打ち明けられる事ではなかった。

飲み会に一緒に参加して、そ知らぬ顔をするのも微妙に無理があるし…まあそもそも、キョーコが忙しければ参加自体が難しいか。
どっちにしても、キョーコと話し合って方針を決めておかないといけないな…


今週キョーコはドラマの撮影がみっちりとつまり、それ以外の仕事もあるため、蓮と会うこともままならない状態だ。来週は少し余裕が出来ると告げられ、それならばと蓮も自分の作業を調整しようと奮闘しているところだ。電話で少し話しておくか、と考えてから、蓮は処理が終わったパソコンに再び向き直った。


一方、蓮と社の会社よりは相当雑然とした事務所内。
あちこちで電話のベルが鳴り、人の出入りが激しいオフィスの片隅には、簡易的にパーティションで区切られたミーティングスペースがあり、そこには口ひげをたくわえた中年男性と、向き合って座る若い女性タレントの姿があった。

中年男性、タレント部の主任である椹はやや困ったように腕組みをしてため息をついた。
「全く…普通だったら喜んで引き受ける仕事だと思うんだけどなあ…いいチャンスだと思うよ?」
向かいに座る女性は、目の前の資料をぱらぱらとめくりながら、ちらりと上目遣いに主任を見た。
「分かってます…もちろん、こういうお仕事を名指しでいただけるのはすごく嬉しいですし、喜んでお引き受けしたいんですけど…」
女性タレントは最近人気急上昇のタレント京子だ。初主演のドラマも回を重ねるごとに話題となり、最終回を控えた今は同じ時間帯の中ではダントツの視聴率を誇っている。しかし現在椹の目の前に座っているのは、自信なさげな表情の最上キョーコだ。
「何か、気に入らないことでもあるのかね?」
一度でいいから自信満々で鼻持ちならないこの子の姿を見てみたいものだ、と椹はもう一度ため息をついた。
「気に入らないなんて、とんでもないです…ちょっと、自信がないだけで」
「自信?でもこのコンセプトにあるような演技だったら、今までだって立派にこなしてきてるじゃないか」
椹は京子の過去の出演ドラマやCMを思い出して言った。今までタレント京子に来た役で、こなせなかったものはなかったはずだ。それぞれをどのように演じるか悩み、苦労はしていたようだが、最後には立派に結果を出してきている。

「今までのは…こういう役を演じて欲しい、というオファーでしたけど、今回のは……」
資料の一点を見つめながら言いよどんだキョーコを見て、ようやく椹は合点した。なるほど、確かに今までのドラマにしてもCMにしても必ず"役を演じる"というのが根本にあった。しかし今回の企画は『素の京子』を出すことに重きが置かれている。
「そういうことか…それでも、俺から見たら全く問題ないと思うけどね」
「そうでしょうか……」
「そりゃあそうだ。演じているとは言ってもそれは京子が、なんだし、バラエティ番組でだって"京子"本人が出てるんだ。同じ事じゃないか?」
「はあ…」

まだ反応が芳しくないキョーコに、椹は内心で決断をするとはっきりと言い切った。
「とにかく、タレント部の主任としても、この仕事は受けるべきだと思っている。最上さんが絶対的に反対する理由がない限り、先方には引き受けると連絡するが、いいかね?」
キョーコは目の前のテーブルの一点をじっと見つめていたが、やがて顔を上げた。
「分かりました。確かに、喜んで引き受けるべきお話ですね。大丈夫です、お受けするからには精一杯頑張ります!」
深々と頭を下げ、覚悟を決めた表情でキョーコは顔を上げた。それから、再度不安げな表情に戻り、首をかしげて椹に尋ねる。
「あの、それで…この撮影の、お相手の方はどなたなんでしょうか」
ああ、と声を上げてから椹は顎をごしごしと指でこすりながら目線を上に上げた。

「俺もそれは気になって聞いたんだが、とにかくまず"京子"に受けてもらうのが先決って事でな。こちらが返事をしたら、それから決めるそうだ」
「そうなんですか…」
キョーコは壁の時計を見上げ、目の前の資料をとんとんと揃えると、立ち上がった。
「では、そろそろ次の仕事に向かいます」
「ああ、頑張って。君のマネージャーも、じっくり人選してるところだ。もう少し待っててくれ」
キョーコはやっと笑顔を見せた。資料をカバンにしまいながら、首を横に振る。
「今までだって1人でできてましたし、今も椹さんやタレントセクションの方々がサポートしてくださってますので、まだ大丈夫ですよ」
「ああ、君が頑張ってるのは知ってるがな。ラブミー部も無事卒業したことだし、そろそろ本当の意味でマネージメントが必要だろう」
「ありがとうございます。お任せしてしまいますが、よろしくお願いします」
最後にしっかりとお辞儀をするとキョーコは事務所を後にした。かなり人気が出てきたと言うのに、相変わらず自分でスケジュールを管理し、ちょっとの変装で周りに気づかれず電車移動をしているキョーコのために、椹はマネージャー選びを急いでいるところだ。やりたがる者は多いが、補欠扱いでもここまで自力で頑張ってきたキョーコを、しっかりと事務所としてサポートしてやりたい気持ちが椹にはある。人選には慎重になっていた。

それにしても、ここまで来たのにあの子は相変わらず…

椹はしばらく座ったまま考えていたが、やがて立ち上がると自分のデスクに足早に戻る。そして、内線電話の受話器を上げると社長室の番号を押した。

「ああ、椹です。少し、最上さんのことでご相談したいことがあるのですが……」

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コメントコメント


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問題山積み?

蓮様の会社のほうも、キョコちゃんのオファーも。一癖もふた癖も問題が多そうですね。
社外恋愛も大変気に入っていましたが、アフターストーリー的?のこの作品も楽しめそうです。

美音 | URL | 2013/05/17 (Fri) 23:42 [編集]


Re: 問題山積み?


> 美音様

コメントありがとうございます!
2人で数々の問題を乗り越えて行かれるのか?
前回の話の終わりで無事にまとまった2人ですが、社外恋愛の続きである今回の話も、お付き合いいただければ幸いです。

ぞうはな | URL | 2013/05/18 (Sat) 21:40 [編集]