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モテ日【リクエスト】(後編)


こんばんは!
今日は急に夏が来たような、そんな1日でした。
うちではグリーンカーテン用にゴーヤーを植えているのですが、そろそろにょきにょきと伸びる季節です。

さて、今日はゆきだるま様のリクエスト後編です!
早速、どうぞー。





「なるほど、告白ね…」
しょぼんと肩を落としたキョーコから今日身の上に起こった事を聞きだし、蓮は肘をついたままポソリとつぶやくように言った。
「す、すみません…あまりに今日1日、やたらとそんなことがあったので…」
「まあ、気持ちは分からなくはないけど、全部が違う局の現場だったんだろう?それは仕掛けじゃなくて、純粋に全部が本気の告白や誘いだったんだよ」
「はあ…」
まだ信じられない、という表情のキョーコを横目でちらりと見て、蓮は何とか不機嫌な空気を外に出さないよう苦労していた。

全く…油断も隙もあったものじゃないな。普通だったらこんな話してくれないだろうし、今日の事だけでも聞き出せてよかった。まだ本人が、告白されても心を揺らす事がないようだからいいけど…

内心でこっそりとキョーコに言い寄る馬の骨への警戒を強める。しかしとりあえずここはキョーコの誤解を解いて安心させることが第一だ。
「大丈夫。ここにはカメラもないし、俺もそんなことで君をだましたりしないよ」
「はい…すみません、変な事言いだしちゃって」
キョーコはようやく肩の力を抜いて表情を緩めた。そんなキョーコを見ながら蓮は苦笑する。
「最上さんは、思いこむととことん信じちゃうのかな?大体君は今日は事務所に戻る予定じゃなかったんだろう?突発的に戻った事務所でカメラが仕掛けられてるなんて、そんなこともないよ」
「そうですよね…冷静に考えたらそんなはずないのに……騒いだりして、申し訳ありませんでした」
「構わないよ。誤解も解けたようだし、気にしないで」

蓮は軽く笑ったが、急に表情を改めると真っ直ぐにキョーコの方を向く。
「それで…君は、その数人からの告白には応えなかったの?」
キョーコはぎゅっと唇を引き結んで目線を下げた。
「はい…私、もう恋愛はしないって誓っていますし」
「そうか…」
こわばったキョーコの表情を見れば、まだ過去の恋愛から受けた傷が癒えていないことはよく分かる。蓮は、今の段階で他人が何を言ってもキョーコの頑なな意志を変えることはできないだろう、と受け止めた。自分の気持ちに応えてもらえないのはもどかしいが、他の男になびく事もなければ今は上出来だろう。しかし、考えながらもふと妙な違和感に気がついた。

蓮は顎に手を当ててしばし考え込んでから、慎重に口を開いた。
「最上さん…さっき、俺が仕掛け人かもしれないと思った時、どうして君はあんなに取り乱したんだ?何が起こると思った?」
キョーコはとりあえずどっきりの企画ではなかった、という安心感で肩の力が抜けている。蓮の疑問に対して、言葉を選びつつも返事をした。
「敦賀さんが仕掛け人だったら、やっぱり敦賀さんからもその…告白めいたことを言われて、それでそれが『ドッキリでした』なんてなったら、えと…自分の間抜けな姿を放送されるのではないかと…」
「ふぅん…なるほど?」
「な、なんでしょうか?」
いや、と蓮は笑みをこぼした。抑えようとしているのに抑えきれない、そんな微笑みだ。

「妙だな、と思って」
「妙…?何か私、おかしなこと言いましたか?」
「おかしくはないんだけど…ね」
「はっきり仰ってください…何かすごく、気になるんですけど」
眉を八の字にして蓮を見るキョーコは、何かやらかしてしまったのではないかと不安げだ。ああやっぱり、本人も無意識で言ってるのか、と思うと蓮の胸にはくすぐったさがこみあげてしまう。

「じゃあ、聞くけど」
蓮は殊更ゆっくりと、はっきりと言葉を口にした。
「なんで、それで君が間抜けな姿になるんだ?」
キョーコは困惑顔のまま、少し考えてから答える。
「え…なんでって…だって、敦賀さんが私に告白して、でもそれが嘘だった、となれば、騙された私は間抜けじゃないですか」
「それはおかしいな。逆じゃないのか?」
「逆?」
「そう。だって君は、今日何回も告白されたり誘われたりして、それを悉く断った。当然、俺が告白しても断られるよね。そうしたらそれがドッキリであったとしても、間抜けな姿をさらすのは断られた俺の方じゃないの?」

え?と声を出したまま、キョーコは時間が止まったかのようにフリーズした。それから視線だけがウロウロとさまよう。

言われてみれば…その通りなの?ちょっと待って、とキョーコは自分の思考の変遷を再確認する。自分が嫌だったのは、蓮に告白されて、それが嘘だった場合。なぜ嫌なのか?決まっている。天まで持ち上げられた後に地面に叩きつけられる状態になるからだ。
つまり、自分は、蓮からの告白を"喜んでしまう"ってこと…?
えらい事に気がついてしまった、とキョーコの顔面は白く色を失っていく。

蓮はそんなキョーコの様子を見ながら、再び口を開いた。
「君が間抜けな姿をさらすのは、俺の告白を受けて…OKしてしまった時、だよね。その状況だったら確かに、告白が嘘でした、と言われたら…まあ、ちょっとは恥ずかしい、かな?」

キョーコは目線を蓮から外したまま、黙りこくっている。しかしその顔は今度は見る見る内に赤くなっていった。何か反論しようと口を開きかけては閉じて、ようやっと赤い顔のままで拗ねたように反論する。
「私が告白を受ける、受けないは関係なく、敦賀さんにそういうこと言われて、その後で嘘って言われたら、ショックを受けて間抜け面になるって思ったんです!」
「ショック、受けてくれるの?」
蓮の口調はあくまで優しく、表情も柔らかい。いやしかし、ある意味キョーコの表情や反応を楽しんでいるようにも見える。
「それは…ショックですよ!敦賀さんはそんなことする人じゃない、て信じてるのに、裏切られる気分です!」
「大丈夫、裏切らないよ」
「だからその、そういうことじゃなくてですね!考えたら、急に怖くなっちゃったんです!!!」
キョーコはまだ真っ赤な顔のまま、つんとそっぽを向いた。蓮はその様子をにこにこと眺めてとても嬉しそうだ。

「うん、そういう告白もいいな」
「どういう告白ですか」
「俺の告白が嘘だったらショックだって言ってくれるの、ある意味俺に対する最上さんからの告白じゃない?」
「そおっ!!!そんなつもり、ありませんってば!!」
「うん、まあ、そういうことにしておいていいけど」
「しておいていい、じゃありません!本当に違うんです!!」
キョーコは必死に蓮に噛み付き、それを蓮は愛おしげな目で見つめる。埒の明かない言い合いが続くのかと思われたが。

「でもやっぱり、告白は男からしたいかな」
急に蓮が笑顔のままで言い放った。
「は……そ、それでいいじゃないですか。なんで今いちいち…」
「だからさ、最上さんはまだ俺に告白しないで?」
「んもーー!何言ってるんですか!!」
「ああ、あと、ドッキリの仕掛け人もやめてね。俺も最上さんのドッキリはかなりショック受けそうだから」
「もういじめるのも大概にしてください…」
疲れ果てたキョーコは机に突っ伏す。すると、その姿をしばし眺めた後、キョーコの髪をちょいちょいといじりながら、蓮がぽそりと呟いた。
「でも、よかった」
「何がですか」
キョーコは突っ伏したままぶっきらぼうに尋ねた。先輩に対してこんな態度をとるのはキョーコらしくもないが、先ほどから色々考え過ぎてパニックにもなって恥ずかしさの極致で、ぐったりしてしまって顔を上げられない。それに、これは絶対に言えないが、動いたら髪をいじっている蓮の手が自分から離れてしまいそうで、それもなんだかもったいない気がする。

「うん、最上さんが、俺の事嫌ってないって分かったから」
キョーコの態度を全く気にするでもなく、くるくるとキョーコの髪で遊びながら蓮が答える。キョーコはそろりと顔を上げた。
「嫌ってる訳…ないじゃないですか」
「先輩として、じゃないよ?…男として、ね」
キョーコは無言でまた顔を下げる。ゴツン、と音がしたので、おでこを机に軽くぶつけたらしい。蓮はくすくすと笑いながら頬杖をつき、そのまま反対の手でキョーコの髪をすき続ける。蓮の指が通るすぐそばに見えるキョーコの耳は真っ赤だ。蓮はその耳を見ながらしみじみと思う。

今日この場で告白めいた事を言っても、冗談とか、からかってるだけだとか、言われるんだろう…残念だけど。
でも、顔を見られればと思っただけなのに、思いがけず最上さんの気持ちを…ちょっとだけ覗く事ができたな。偶然にも立て続けに最上さんに告白した男たちにも感謝……か?

さらさらとくすぐったい指の感触を感じながら、キョーコはそろりとちょっとだけ頭を上げた。まだ赤い顔のまま、恨みがましい目で蓮を見上げる。
「でもほんとに、違いますからね」
「分かってるよ。そんなに念を押されると、傷つくなあ」
「はぐっ…すみません…」
「いいよ、俺は君の先輩、だろう?」
「偉大なる先輩です…」
「親愛なる先輩の方がいいな」

くすぐったいけれどずっとそこにいたい、そんなほわほわとした雰囲気の中、2人はしばしの時を過ごしたのだった。

それから数分後、遅れてやって来た社がノック直後に何気なく部室のドアを開け、中を覗いた瞬間に思わず「あ、ごめん!」と言いながらもう一度ドアを閉めてしまったのは、当然だったかもしれない。

あれ?別に、やばくはなかったよな?

首をひねりながらもう一度そろりとドアを開けた時、蓮は平然と微笑を浮かべて社を迎え入れたのだが、キョーコはまだ真っ赤でばつの悪そうな顔をしていたのだから。


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