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薔薇の素顔 (6)

…分かりにくいですが、パラレルです。
パラレル苦手な方はご注意ください。

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社の目は、驚愕に見開かれていた。正確には、口も。

あの蓮が!朝食を!!自分の意思でとってる!!!
「お、俺は今信じられないものを見ているぞ…!」
オーバーな、と笑いながら蓮はバゲットにバターを塗りつける。

二人は揃ってCafe Felicia Gardenにいた。
打ち合わせをするつもりなので、蓮もいつものカウンターではなくテーブル席についている。
この日、社は一旦蓮の部屋まで出向き、そこから二人でカフェに来たのだった。席に着くなり、蓮が卵の調理法とパンの種類を注文を取りに来たキョーコに伝え、ほどなく運ばれてきた『朝食』に、蓮が手をつけ始めたのだ。

「一体、どんな魔法を使ったの?」
社が恐る恐るキョーコに尋ねる。
「朝食がコーヒーって言われたのでちょっと頭に血が上ってしまって…有無を言わさず押し付けました」
少し恐縮してキョーコは答えた。
「それでも蓮が大人しく食べてるんだもんなぁ…」
「朝ご飯食べてるだけでマネージャーさんがそこまで驚かれるって、すごいですね」
あ、俺、社って呼んで、とにこやかに名前を告げると、社は蓮の食生活の頼りなさの暴露を始めてしまった。
朝だけじゃなく、昼も夜も放っておくと食べないとか、食べたと思ったら栄養補助食品やコンビニおにぎりだとか、ロケ弁が出ても少しつまむだけだとか。

ロケ弁は揚げ物が多くてもたれるんです、と反論する蓮に それは食べ盛りの若い男子の言葉じゃない!とすかさず社が突っ込む。

やり取りをくすくす笑いながら見ていたキョーコだったが、安心したように言った。
「うちのご飯は食べてくださって、よかったです」
「キョーコちゃんの作るものは美味しいからね。俺も美味しいものは食べたいと思うよ」
蓮はキョーコの顔を見つめて笑顔で答える。なぜか、社はその表情を見て少し赤面してしまった。
「お世辞言っても何も出ませんよ」
キョーコはほんの一瞬真顔で固まったが、すぐににっこり笑うと、さらりと言い残して仕事に戻った。

「…なに、口説いてんだよ」
社がぼそっと口を開く。
「口説いてませんよ。料理をほめただけです」
「…言葉じゃなくて顔で口説いてたよ」
「口説くって言葉でするもんじゃないんですか」
しれっと言い放って食事を続ける蓮の様子を社はまじまじと見つめてしまった。

こいつ、もしかして無意識にあんなとろけるような慈しむような笑顔をキョーコちゃんに向けてるのか?
自覚、ないのか???今まで浮いた噂一つないのって、蓮がうまく立ち回ってるからだと思ってたけど、もしかして、こいつ、実際に好きな娘がいなかったってことなのか?
それにしても、キョーコちゃんってあの笑顔見ても全く動じてなかったな… それはそれで凄いな…

自分を凝視したまま心ここにあらずであれこれ考えを飛ばしているマネージャーを見て、考えていることがなんとなく想像できてしまった蓮は、連れて来るんじゃなかった…とやっかいな未来を思って天を仰いだ。


翌朝も二人は前日と同じ席についていた。
何せ前の日店を出るときに、「明日も来るから!よろしくね!」と社が言い残してしまったのだ。
「俺としては、時間のある時はお前に飯を食っておいてもらいたい」と鼻息荒くしていたが、だったら俺一人で来たっていいじゃないか、と蓮は朝食をつつきながら社を見やる。
社は上機嫌で手帳をめくりながら今日の予定の確認をしているようだ。
蓮がプレートを空にし、社との簡単な打ち合わせを終える頃、キョーコがやってきた。皿を下げに来たのかと思ったが、両手を体の後ろに回し、躊躇っている様子だ。なんだか普段と違う?と首をかしげながら蓮がキョーコを見ると、意を決したようにキョーコが蓮に声をかけてきた。

「あの!ご迷惑かと思ったのですが…………お、お弁当なぞを作ってみたのですが、よろしければお昼用にお持ちいただけませんか?」
びっくりしてキョーコを見つめる二人。
途端にキョーコは焦り出した。
「やっぱりご迷惑ですよね!!すみません、私勝手に…!」
「いや、迷惑だなんてそんなこと全然ないよ!ごめん、ちょっとびっくりして」
蓮は慌てて弁解した。今、お弁当って言った?

「…昨日、社さんが、敦賀さんがお食事をなかなか食べないっておっしゃってたの聞いて、揚げ物がもたれる、てことなので、あっさりしたものだったら召しあがれるのかな、と思いまして」
おずおずと、後ろに回した手を前に持ってくると、小さい紙袋が現れた。

「このお店で出してるものでお作りしようかとも思ったのですけど、そうすると朝食とほとんど同じようなものになりますし、朝が洋食なら昼は和食がいいかなと……」

「え、本当に俺がもらっちゃっていいの?代金は?」
蓮はまだ状況がよく把握できないまま聞き返す。
「お、お代だなんてとんでもないです!私が勝手に作っただけなので!!!」

蓮はキョーコの言葉を反芻し、ようやっと現状を飲み込むと紙袋を受け取った。
「ありがとう。わざわざ俺のために作ってきてくれたんだ…」
店のメニューを勧めるだけではなく、仕事を離れてまで自分の食事のことを気にして、メニューまで考えて作ってきてくれた、というその事実を思って、蓮はくすぐったい気持ちになった。
何よりも、弁当を持って蓮のところにやってきてくれたキョーコは、その素顔を晒してくれていると感じられたのだ。
「いや、すごく嬉しいな。お昼を楽しみにして午前中の仕事がはかどるよ」

「そんな大層なものではないので、あんまり期待しないでください…」
キョーコはとても恥ずかしそうに顔を赤くしている。
社は、目の前のキョーコが、数回の訪問で出来上がっていたキョーコの印象とだいぶかけ離れていることに少し驚いていた。だが、蓮の表情や受け答えを見ると、蓮の方はキョーコを見て驚いている様子がない。

もしかして!俺が知らないだけで、この二人ってかなり仲いいのか?
キョーコちゃんも、普段は見せない素顔を、蓮にはさらしてるとか?

2日間というわずかな間に、社の予想と期待は大きくなり、勝手に二人の仲を応援する態勢がすっかりできあがっていたのだった。


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