SkipSkip Box

愛している じゃ 足りなくて【リクエスト】

こんばんは!

終わってみればGWなんてあっという間!
明けて早々、仕事山積みでフルスロットルを余儀なくされている、ぞうはなです。

さて、GW中はのんびりとお休みさせていただきましたが、本日はいちまんヒットのリクエスト第2弾です。
リクエストをくださったのは、はるりん様。
深いリクエストをありがとうございます。リクエスト内容はキーワードですので、これはお話の後で公開いたします。

最初に書こうと思い描いたものと少し雰囲気が変わりましたが、このまま行きます。
ではどうぞ!



愛されている、ということをひしひしと実感する瞬間がある。

言葉だったり、笑顔だったり、抱きしめてくれる強い力だったり。
その時によってきっかけは色々だけど、その瞬間はすごく嬉しくて、胸がキュンとして。
けれど、嬉しければ嬉しいほど、ふとした瞬間に考えてしまう。

もしこの自分に向けられている気持ちを失ってしまったら?
自分ではなく他の誰かに向けられてしまったら?

嬉しさが大きい分、失った時の絶望は大きいだろうと思う。考えただけでも胸がズキンとして、言いようのない恐ろしさに襲われてしまう。あなたの笑顔を失った後に、他の人に愛情を向けているあなたを直視する事が、はたして私に出来るだろうか?


郊外の大きな公園。
一面に広がる濃い緑の芝生、抜けるような青空にぷかぷかと浮かぶ白い雲。

キョーコは白いワンピースを着て、大きな木の下で膝を抱えて座っていた。ピクニックに来た、という訳ではなく、とあるミュージシャンのプロモーションビデオの撮影だ。望んでいた晴天に恵まれて上機嫌の監督により精力的に撮影が進められ、やっと短い休憩時間に入ったところだった。

春の陽は思ったよりも強く、撮影中は野原の真ん中で立ちっぱなしのキョーコにじりじりと照りつける。日焼け止めでしっかり防御はしているが、休憩時間は日陰に!とスタッフにパラソルの下に入ることを勧められた。しかし、キョーコはすぐそばにあった大木の下を選び、こうして1人ここにいる。

日陰に入ると柔らかく吹いていく風が少し冷たいくらいだが、あちこちから聞こえてくる葉っぱのそよぐ音が気持ちいい。キョーコは座ったまま顔を上げ、しばらく風に揺れる梢を眺めてから、ゆっくりと目を閉じた。

キョーコの恋人である蓮は今頃、ここより少し季節が戻ったような山の中で、ハードな撮影スケジュールをこなしているだろう。携帯の電波も届かない山小屋でのドラマ撮影は10日ほどの日程で、山小屋にある衛星電話のみが通信手段になっているためここ1週間ほどは全く連絡が取れていない。

蓮がロケに入って以来、キョーコは考え込む事が少し増えていた。単純に連絡が取れないから、という事ではなく、それは蓮が旅立ったその日に発売された週刊誌の記事がきっかけだった。
ゴシップ記事で8割が出来上がっているその週刊誌は、画像の粗い写真を2枚ほどスクープとして載せていた。見出しには『敦賀蓮 熱愛?』『楽しそうに微笑んで寄り添う2人』などというキャッチーな文字が並んでいて、背の高い男性と、蓮のドラマの共演女優らしき女性が並んで飲食店から出てくる姿が捉えられていた。

ロケに同行せずに東京に残った社によれば、その写真が撮られたのはドラマ共演者やスタッフ大勢が参加した食事会の時で、2人だけが写るようにトリミングされてはいるが、その場には社も含めてたくさんの参加者がいた事は簡単に証明できる、という程度のお粗末なスクープだった。しかし、蓮の恋愛ネタが出る事は少ないためか、ワイドショーでも取り上げられ、最終的にはスクープの真偽とは関係なく、ひたすらに蓮の恋愛事情をつつき回し、世間が盛り上がっているような状況が出来上がっていた。蓮とキョーコの交際は公になっていないため、キョーコもその状況を静観するしかない。

キョーコはその夜に食事会がある事は事前に蓮から聞いていたし、お開きになった後に蓮本人と電話で話していたから、記事に書かれているような2人の逢瀬がなかった事はよく分かっている。分かってはいるのだが、たまたま1人でいる時に見た、2人が共演しているドラマのワンシーンが事あるごとに頭に蘇ってしまうのだ。

そのシーンはかなり濃密なラブシーンで、幻想的に仕上げられてはいたが色気のあるものだった。2人が微笑みあい、キスをかわし、裸で抱き合う映像は、監督がこだわったとコメントしただけあって、2人の切ないほどの愛し合う想いが痛いほど伝わってきた。


蓮から告白されて付き合い始めたものの、キョーコは常に付きまとう不安な気持ちと戦っている。蓮から、ずっと想いを寄せていたのだと告白された事は、もちろんキョーコにとって嬉しい事だったけど、それ以上に「なぜ、自分を?」という驚きと戸惑いの気持ちが大きかった。到底手が届かないと思っていたものが突然目の前に転がってきたとしても、何かの罠?と思ってしまって素直に手を伸ばせない。そんな気分だ。

今は…何の間違いか、確かに敦賀さんは私を好きだと言ってくれるけど…あの眩しい笑顔で見つめられると涙が出るほど嬉しくなるけど…もしそれが、あのドラマみたいに他の人に向いてしまって、それを、横で見ているしかなくなったら?

そんなキョーコの不安な気持ちを敏感に察知してやさしく落ち着かせてくれる恋人も今はここにはいない。姿が見えないばかりか、声も聞けない。告白を受けてから何回も見た夢、蓮が知らない誰かと肩を抱き合い、微笑みあって去っていく夢は、ここ数日はその誰かが例の共演女優だったりして、キョーコの心をざわざわとかき回していた。

「撮影再開しまーす」

スタッフの声にキョーコは目を開いた。
蓮はあと数日で東京に戻ってくる。きっと、「ただいま」といつもの笑顔を見せてくれる。きっと、「会いたかった」と抱きしめてくれる。だから、余計な事をごちゃごちゃ考えるのはやめよう。
キョーコはもう一度ぎゅっと目を閉じると心の中で「よしっ!」と気合を入れ、再び撮影に向かって気持ちを切り替えた。

とはいえ、やはりずっと付きまとっているネガティブな気持ちをすっぱりと捨てるのはなかなか難しい。その後の数日間も、キョーコは日々の仕事は着実にこなしていたが、ふとした隙間の時間や深夜自分の部屋でボーっとしているときなどに、急に苦しい不安な思いに囚われてしまう事を防ぐ事ができないでいた。

そして、蓮が戻ってくる日の夕刻。
キョーコはバラエティ番組の収録を終えて、楽屋に戻ってきていた。着替えてメイクを落とし、一息ついたその時に、カバンの中で携帯のバイブが ブーーーーン、と震え始める。

もしかして?

慌てて携帯を取り出してディスプレイを見ると、そこには待ち望んだ愛しい人の名前。キョーコは無意識のうちに笑みを浮かべると姿勢を正して通話ボタンを押した。

「はい、最上です!」
『ああ、よかった、出てくれて。ただいま。今羽田に着いたよ』
「お帰りなさい。ロケお疲れ様でした」
電話の向こうからは待ち望んでいた蓮の声が聞こえてきて、キョーコはほうっと息をついた。しかし、向こうはざわざわと騒がしく、空港内のアナウンスの声も聞こえている。
『ありがとう。無事に終わってキョーコの声を聞けて、ホッとしたよ』
「私も…敦賀さんの声が聞けて嬉しいです。まだ空港の中ですか?」
素直な気持ちを吐き出してしまってから急に少し恥ずかしくなり、キョーコは質問を付け加えた。
『…うん。本当に今飛行機から降りて歩いてるところ。…キョーコ、このまま電話してても大丈夫?』
「あ、はい!私は仕事も終わってちょうど楽屋なので、大丈夫です!」
『そうか…それならちょっと、付き合ってもらっていいかな。しばらくの間、名前を呼べないけど』
「え?…はい……」
名前を呼べないって?と思ったところで、電話の向こうが一段と騒がしくなった。「敦賀さん、お帰りなさい!」などという、複数の人間の声が聞こえる。もしかして、マスコミの取材?とキョーコは身構えたが、蓮は普通に話しかけてくる。

『なんだか知らない間に騒がしくなっちゃって。君にも心配と迷惑をかけた』
「い、いいえ!迷惑だなんてそんなこと!」
『俺のことで不安になったりしなかった?いつも考えすぎちゃう君の事だから、それがちょっと心配で』
キョーコは会わない間の自分の心境をすっかり見透かされている気分になって、思わずぐっと息を呑んだ。でも、久しぶりに優しい声を聞いて、気持ちがふわりと緩んでいる。
「いえあの…私が考え過ぎるのは今回の事とは関係ないんです…」
『不安にさせてごめんね。大事な時にそばにもいてあげられなくて』
「そんな!お仕事なんですし、私がしっかりしていればいいだけのことなんです。…だって、敦賀さんは、ちゃんと大丈夫っていつも言ってくださるんですから…」
『うん。大丈夫どころの話じゃないんだよ。君の隣は、俺がようやっと手に入れた場所なんだから』
「え?」
『俺の居場所は、君の隣以外にない。手放すことも、他の男に譲ることもしない。もう、どこへも行かないよ』
「敦賀さん…」
『俺は、君の隣にいたいんだ。体が離れても、心はどこへも行かない』
「私も、敦賀さんのところから、もうどこにも行きません。私、いていいんですよね、敦賀さんの横に」
『もちろん。俺から、お願いするよ』
「はい…なんだか、すごく、照れ臭いんですけど嬉しいです。えへへ…ありがとうございます」
『お礼を言いたいのは俺の方だな。ええと、これから俺は事務所に顔を出すけど…』
「あ、私もこれから台本をいただきに椹さんのところに行きます」
『じゃあ…』
「会えますよね!部室で、お待ちしててもいいですか?」
『もちろん。すぐに済ませて行くよ。待ってて』
「はい!またあとで」
『うん。またあとで。顔を見るの、楽しみにしてる』

キョーコは通話を終えた後もしばらく携帯をじっと見つめていた。それからじんわりとこみあげてくる喜びで、顔が緩んでしまう。ここしばらくずっと感じていた不安も、どこかに行ってしまうくらいの軽やかな気持ちだ。

「よし、事務所に行こう!」

敦賀さんに会える!!キョーコは笑顔で楽屋から飛び出した。


蓮は通話を終えて携帯を閉じると、穏やかな笑みを浮かべたまま周囲をぐるりと見渡した。
蓮を取り囲むようにマイクを差し出していたリポーターたちは、気圧されるように黙っていたが、我に返ったように口々に質問を繰り出す。

「つ、敦賀さん、今の電話のお相手は!」
「聞くまでもないでしょう」
「付き合っている、恋人がいらっしゃるんですか?」
「そうですよ」
「お相手の方は、どちらの、どなたなんですか?やっぱり芸能界の方?それとも…」
「土足で踏み込まれると分かっていて、その質問にお答えすると思いますか?」
「いや…あの」
「一つだけお答えするならば、あなた方がここ数日騒いででっち上げてほじくり返した中に名前の挙がったどなたでもありません」
「せめて、どんな方か…」
「俺に恋人がいる、それだけは確かです。それ以上は現時点でお答えできません」
「はい…」
「では、事務所に戻りますので失礼します」

にっこりと隙のない笑顔を浮かべると、蓮はそのままくるりと背中を向けて歩き去った。レポーターたちも後を追おうとしたが、なぜか足がすくむような気がして躊躇っている内に、蓮の姿はあっという間に消えた。


そしてその1時間後、2人はお互いの居場所へとおさまる。
「うん…やっぱりキョーコの隣は居心地がいいな」
「もう…それは私のセリフですよ」
「ねえ、キョーコ?」
「なんでしょう?」
「さっきの電話で言った事、覚えてて……俺は、どこにも行かないからね」
「私も、おんなじです」
「ちゃんと、証人もいるんだ」
「証人?」
「記録も撮られてる。明日それを一緒に見ようね」
「それってどういう……そういえば!」
「どうしたの?」
「さっき人の声がしたんです、レポーターさんみたいな…敦賀さん、まさか!」
「大丈夫、名前呼ばなかったでしょ?電話の相手が誰だかは、ちゃんと秘密にしてあるよ」
「だからって…」
「君を逃がさないため、て言ったら怒る?」
「もう…怒りませんし、逃げません…」

そばにいるよ、どこへもいかないよ。
その言葉で、泣きたいほど嬉しくなる。






はるりん様からいただいたリクエストは、「"どこへも行かないよ"をキーワードとした話」でした!
リクエストの元となった moumoon の曲とはイメージが変わっちゃいましたが…。

関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する