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Personal Engagement (28)


こんばんは!

少し更新が遅くなってしまいましたが、なんとか最後の一話となりました。
GW前に終えられて、よかった…。

では、最終話、どうぞ。





「ただいま」
スーツ姿のままの蓮がキッチンに入ると、驚いたようにキョーコが振り向いた。
「おかえりなさい!早かったですね!!」
「うん。急いで片付けて帰ってきた」
「…ありがとうございます。もうちょっとで出来ますよ」
はにかんだように笑うキョーコが可愛くて、蓮はそのまま後ろからキョーコに近づくと、ぎゅうと抱きしめた。
「ちょ…蓮さん?」
「うん」
「ひゃっ…んんん、ダメですってば」
首筋に顔をうずめられて、キョーコが慌てた声を出す。抱きしめていた腕がするりと動いてわき腹を辿り、耳たぶを甘がみされてキョーコはぶるっと震えた。
「やん…!って…蓮さん!ご飯が先ですー!!」
やっとのことでキョーコが真っ赤になりながら蓮を押しのけると、蓮はあっさりとキョーコを解放した。
「分かったよ…着替えてくるね」
笑顔でそう言い残し、すたすたと寝室へ消えていく。残されたキョーコは蓮が素直に従った事に首を傾げつつも、気を取り直して食事の準備を再開した。

「今日は…オムライス?」
フライパンの中のチキンライスと、ボールに割り入れられている卵を見て、着替えを済ませて戻った蓮が尋ねる。
「はい!とろとろ卵のオムライスにしようと思って」
「それ、俺がやってみてもいいかな?」
蓮はキョーコの了承を得ると、フライパンを熱して手際よくオムレツを形作っていく。
「すごい…蓮さんが料理してるところ、初めて見ました…」
キョーコが蓮の手さばきを見ながら感嘆の声を上げる。蓮はフライパンの端に綺麗に卵をまとめると、キョーコの手で盛られたチキンライスの上に移した。
「包丁はやり慣れないから苦手なんだけど、これだけは最初からちゃんとできたんだ」
続けて2つ目のオムレツを完成させ、盛り付ける。キョーコがナイフでオムレツを切ると、とろりと開いて美味しそうなオムライスが完成した。

2人はリビングに料理を運び、食事を開始した。
「うん!すごいですね、蓮さん。とろとろのふわっふわです!おいしい!」
「久しぶりだけど結構うまくできたな」
「お店で出せますよ、これ」

すると蓮は手を止めて、じっとキョーコを見た。
「将来、2人でお店を出したりするのも楽しそうだね」
「お店ですか?」
キョーコはきょとんと蓮を見返す。蓮は笑って再びスプーンを動かし始めた。
「そう。オムライスが売りのカフェとかね」
「蓮さん、カフェのマスターですか…うぅん、エプロン姿とか、想像できない…」
「はは、そう?海際のお店で、のんびりコーヒー入れて」
「そういうゆったりしたのも憧れますねえ…でも、オムレツだけ出来てもダメですよ!」
「ふふ、確かにそうだね。そうなったら色々修行しないと」

笑顔でオムライスを口に運ぶ蓮を見ながら、キョーコが不思議そうに尋ねる。
「でも、そうするとヒズリグループはどうするんですか?」
「うん、まあ、たとえばの話。けどあれだけ大きくなっちゃうと、世襲じゃなくてもいいだろうって思うけどね。…キョーコは、俺がヒズリグループを継いだ方がいいと思う?」
キョーコは真顔になるとスプーンを置いた。かしこまって背中を伸ばし、真っ直ぐに蓮を見る。
「私があれこれ言えることじゃないんですけど…"ひさや"の社長としての蓮さんは、すごく生き生きとしてて、キラキラして見えます。きっと、この仕事がお好きなんだろうな、て思います。蓮さんは前に、会社の理想を語ってくれました。あれを、ご自分の手で実現したいんじゃないんですか?」
「そうだね、理想は追っていきたいと思うよ」
「それでしたら、やりたいことをやりたいようにするのが一番ですよ!!」
目をキラキラと輝かせて、契約を結んで間もなくの頃のような尊敬の表情で、キョーコは言い切った。
「ヒズリグループで達成できるなら、それもすごい事だと思いますし。海辺のカフェも、それはそれで地元にとけ込んだ幸せの提供ができると思いますし。どっちも、魅力的です」

キョーコの言葉を聞いた蓮は、満面の笑みを浮かべた。
「そうだね…キョーコに言われると、なんでも出来る気分になるな」
「すみません…なんだか無責任な事をべらべらと」
「ううん、気分が軽くなったよ。キョーコは、俺がどっちを選んでもついてきてくれる?」
え、と言葉に詰まったキョーコは、少し考えると口を開いた。
「まだ…想像もつかないんですけど、でも、私も、蓮さんとだったら何だって出来る気がします!」
「ありがとう。…選択肢によっては、貧乏生活になるかもしれないよ?」
「ふふふ、それこそ私の得意分野ですよ!色々とノウハウを伝授できる自信があります!」
貧乏自慢に胸を張るキョーコはえらく誇らしげだ。蓮は思わず噴き出しそうになった。


2人は楽しい食事を終えると仲良く片づけをし、コーヒーを入れてリビングのソファに座った。
ここのところ、蓮の膝の間がキョーコの定位置のようになっている。いや、毎回キョーコは並んで座ろうとするのだが、結局はなんだかんだで抱き寄せられてしまうのだ。

「でも、コーヒー1杯でもお客様に出すんだと思うと侮れないですよね」
キョーコの言葉に蓮は微笑んだ。
「すごいな、真剣にカフェの事考えてるの?」
「いや…すみません。最近原価の計算とか、どうしてもそっちに頭が行っちゃって…前にカフェでバイトしてたからなおさらですね」
蓮は後ろからキョーコの髪を梳きつつ尋ねた。
「ねえ、キョーコ?」
「はい?」
「俺が京都のカフェに通ってた時、君がレジに入ってる時は君の方の列に並ぶようにしてたって、気がついてた?」
「えっ?い、いいえ…そうだったんですか?」
「そうだよ。気がついてなかったのか…」
「あ、あのいや!!だけど、必ず『今日のコーヒー』を尋ねられて、だから知ってますよ?」
「ん?なにを?」
蓮は興味深げにキョーコの顔を覗き込んだ。

「蓮さんは、深煎りで酸味が少ないコーヒーが好みなんですよね。『今日のコーヒー』がモカだと、違うもの頼んでました」
「それ以上にあの店には好みのものがあったんだけど」
「え?なんですか?いつもコーヒーしか…」
「『最上』って店員さんの、笑顔だよ」
「ひえ?」
「あの店で会えて、笑顔で挨拶されると、それだけでやる気がわく気がして。だから、元気をもらいたくて君のレジに並んでたんだ」
「そ、それはありがとうございます…」
「やだな、お礼を言うのは俺じゃないの?……でも、すごいことだな」
「何がですか?」
「あの店でだけ見ていた笑顔が、今はこんなに近くにあるんだ。3月の終わりに、東京に来る前にあの店に寄って君に会えなかった時は…もうそれきりだと思ってたのに」
「う…私も…びっくりしました…」
「もう一度会えてよかった。そして、君とこうして触れあえるのが、今は幸せだ」
「はい…」
キョーコも頬を染めつつも、蓮に体をあずけるようにもたれかかった。
「俺と…同じ気持ちでいてくれてるの?」
「もう…面と向かっては恥ずかしいんですってば」
ふいとキョーコは顔をそらしたが、蓮はキョーコを強く抱きしめる。そしてその手が、怪しく動いてキョーコの体をまさぐりはじめた。
「きゃっ。ちょ…ちょっと、蓮さん…んんん!」
「あれ?もういいでしょ?」
「な、何が『もう』なんですか?」
思わず振り返ったキョーコに対して、蓮はにこりと笑顔を作った。
「さっき、『ご飯が先』って言ったよね。ご飯はもう済んだから…」
「あっ!またそういう…ひゃん!もう~…」
だからさっき、台所であんなにあっさり引き下がったのか、とキョーコは内心で悔しがった。いつもこうやっていいように丸めこまれ、太刀打ちができない。いつか、見返してやりたいのに!と思いながらも口づけられ、そこからは蓮に翻弄されるがままだった。



梅雨も明け、オフィス街にも夏がやってくる。ビルだらけに見えても隙間にたくさんの木があるため、あちらこちらで蝉の声が聞こえていた。

コンコン

"ひさや"社長室にノックの音が響く。入室してきたのは、眼鏡の社長秘書。
「蓮~~。面白いもの見つけたぞ」
「なんですか?」
外のうだるような暑さを感じさせず、パリッとした白いシャツに身を包んだ若社長が顔を上げた。
「ちょっとさ、不破レストランズのホームページ、見てみてくれよ」
蓮は素直に傍らのPCに手を伸ばすと、ライバル会社のページを画面に表示させた。

「そこの…これ。ニュース欄の研修の話題。それそれ」
社の指示通りにリンクをたどると、そこには不破レストランズの新人研修の報告が上げられていた。
「自○隊の体験入隊?」
「そう。最近企業の研修で体験入隊を取り入れるところがあるらしいんだけど。この写真、拡大してみてくれよ」
ヘルメットをかぶり整列している社員の写真、一番はじの人物に、蓮は見覚えがあった。
「御曹司も一緒にやったんですね」
「少しは根性入ったかな」
「どうでしょうか…ねえ?」

不破グループの話題の御曹司、尚はあの後も2回ほどキョーコの事を強襲しているが、キョーコ本人が無意識に繰り出した蓮に関するのろけに勝手に打ちのめされ、さらに帰りついた京都でも渡辺にこってり絞られているようで、ここしばらくは姿を見せていなかった。

「さて、そろそろ始まるな、新メニューの検討会」
「ああ、そうですね。行きますか」
2人は社長室を出て廊下を歩きだす。
「今回もキョーコちゃんのメニュー、出るんだろ?」
「ええ」
「前回は改善点指摘されて、相当燃えてるんじゃないか?」
「いや、今回はもう…大丈夫って分かってますから」
「え?」
「…昨日、家で先に試食させられました」
「ええ?なんか最近、キョーコちゃん随分仕事にのめりこんでないか?」
「まあ、悪い事ではないですけど」
「お前、自分そっちのけで仕事されたら寂しいんじゃないのか?」
「いえ…」
少し落ち込んだ社長が入っていく会議室には、わくわくした顔で待ち構えている新人の女子社員がいる。

東京のオフィス街の空は、どこまでも高く澄み渡っていた。


(おしまい)

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コメントコメント


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これで。

のんびり?GWがおくれますね(笑)
連載お疲れ様でした。
今回のお話も楽しく拝読させていただきました。

美音 | URL | 2013/04/27 (Sat) 20:22 [編集]


Re: これで。

> 美音様

最後まで読んでいただいてありがとうございました!
最終話がGWに入ってしまうとお待たせしそうでドキドキしましたが、終わってよかったです。
お休み中は少しのんびりさせていただきます~~~(^^)

ぞうはな | URL | 2013/04/27 (Sat) 23:29 [編集]