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Personal Engagement (27)


こんばんは!

Personal Engagement、終盤です。
おそらく次で終わる、予定です。

では早速いきます~





蓮は1人、社長室で執務に当たっていた。決裁処理が必要なものを一通りさばき終わり、ふう、と一息つく。蓮は機械的に処理を行いながら、ずっと考え込んでいた。それは数時間前の近衛の言葉によるものが大きい。
自分がヒズリグループ内でどんなポジションにつくのか、自分も父親もはっきりと口に出して話したことがあるわけではなかった。それでも、小さい頃から父の背中を見て育ち、いつか同じ仕事ができれば、と思っていたし、一時期父親の元を離れたことはあったが、その理念や仕事術は深く蓮の中にも根付いている。かといって、単純に『息子だから』というだけで後を継げるほど簡単なものではないということはよく認識していた。逆に、血縁であるからこそ、自身の実力の部分を周りに認めさせなければ、反発の方が大きい事は目に見えている。

だから、面倒な事をこっちに振って来たのか…?

面と向かって問いかければ「そんなことも自分で考えられないのか?」と口の端を上げながら言われそうな気がして、父親には聞けない。それでも、おそらく自分が育つのを待ってくれているのは間違いがないだろう。
蓮は最近になって将来のことを考える時間が増えてきていた。それは仕事の事もあり、プライベートの事もあり…


手を止めてぼんやりと考え込んでいると、机の端で携帯が震えた。すぐにつかみ上げ着信したメールを表示する。

『お疲れ様です。仕事がきりよく終わりましたので、今会社を出ました。予定通りお部屋にお邪魔して食事の用意をしておきますね。 キョーコ』

シンプルなメールの署名の後には、今日の仕事が順調に行ったのか、ピカピカ光る太陽マークがついている。蓮は もうそんな時間か、と思いながら振り返って窓の外を眺めた。梅雨時ではあるが今日は天気が良くて、夏の日は長く18時を回っていてもまだ昼間のように明るい。

とりあえず自分も早めに仕事を終えてキョーコの後を追おうと、蓮は中断した仕事を再開した。しかし、それは数分で内線電話のベルに遮られた。取り上げた受話器からはやや戸惑い気味の飯塚の声が聞こえてきたのだった。


キョーコはまだ明るい外へと足を踏み出した。
下手をすれば長時間の残業にもなりかねない状況だったが、思いのほか順調に仕事が進み、19時前には会社を出る事ができている。帰りに買い物をしてから蓮の部屋を訪ねても、それなりにちゃんとしたものが作れそうだ。キョーコは立ち止まってカバンから携帯を取り出し、蓮に向けてメールを1通送信した。そして、蓮の部屋の冷蔵庫の中身を思い起こしながら、夕飯の献立を頭の中で組み立てつつ駅に向かって歩き出す。
しかし、歩き出した瞬間、後ろから来た人物に肩を抱えられると、何が起こったのか理解できないまますぐ横の路地へと連れ込まれた。

よろめくように路地へと押し込まれ、キョーコは慌てて腕を振り払うと、声も出せないまま振り返って後ろを確認する。そこに仏頂面で立っていたのは、京都以来の幼馴染だった。

しばらく呆然とその姿を見ていたキョーコは、ようやっと声を出すことができた。
「何…いきなり。何でこんなところにショータローがいるの?」
「俺がいつどこにいようが俺の勝手だろう」
「それはそうだけど…」
キョーコはあまりの予想外の出来事に、頭が追いついていなかった。なぜここにいるのか、何か用があるのか、聞きたい事はあるが、尚の表情を見ていると何を聞いてもまともに答えが返ってこない事が想像できる。

「あんた、仕事は?」
考え抜いてようやっと出てきた質問は、どうやら尚の神経を逆なでしたらしい。尚はぐわっと怒りの表情を浮かべると、キョーコの言葉に噛み付いた。
「どいつもこいつも仕事仕事ってうるせーんだよ!!」
「そんな、社会人だったら働くのは当たり前でしょ?」
「今日はもう終わった!文句あんのか」
「文句はないけど、何か用?こんなところまで来て…」
大体、なぜ尚は自分の退社したタイミングでここにいるのだろうか。定時退社でもないのに。するとなぜだかキョーコに問われて尚は言葉に詰まり、落ち着きなく目線をさまよわせた後、何かに気がついたようにじろりとキョーコを頭の先からつま先までねめつけた。

「お前…今日は化粧してないのか」
「してないとは失礼ね!ちゃんとしてるわよ!」
「ああ?この間と全然違うじゃねーか」
「あれは…パーティーだから特別だったの」
「どーせあの男がお前を着飾らせたんだろ」
「う…」
悪い事ではないと思いつつ、間違ってはいないので反論はできない。それにしても、一体この男は何が言いたいのか。不機嫌そうな目の前の男の真意が分からず、キョーコはイライラと問いただした。
「なんなのよ、何が言いたいの?私、急いでるんだけど」
「…あの男に会うのかよ」
「そうよ。悪い?」
「あんな野郎のどこがいいんだか…いかにも遊んでますって面してやがんのに、ほいほいついてくんじゃねーよ。みっともねーな」
「あんたに言われたくないわよ。人の事いいように使ってたくせに」
「でもそんな俺の事が好きだったんだろ?」

キョーコは尚の言葉に きゅ、と唇を引き結んだ。尚は相変わらずキョーコの事を睨みつけているが、キョーコも返事をせず、厳しい目つきで真っ直ぐに尚をにらみ返す。
「…この間はあの男がでしゃばってきやがったからな…お前の言葉を聞かせろよ」
「私は…!確かに、あんたのことを好きだったけど…もうそれは、過去の話よ」
「今はあの男に尽くしてんのか…俺にしてたみたいに馬鹿みてーに尻尾振って。お前はホントに進歩がねーな…それでいずれ捨てられて、またあの男の事を恨んで、今度はどこに逃げてくんだ?北海道にでも行くのかよ」
尚の言葉にも、キョーコは全く動じない。表情を変えずに言い返した。
「あんたと蓮さんとじゃ全然違うわよ」
「は。何が違うんだよ?」
「お互いの想いの深さよ」
「はっ。くっだらねー…」
「今考えれば、あんたに対する気持ちって恋愛じゃなかったのかもね」
尚は怪訝そうにキョーコを見た。

「相手がどこを見てても関係なく、ただ物理的にそばにいられればそれで満足なんて、そんなの恋愛じゃないわよね」
キョーコは肩にかけたバッグの持ち手をぎゅっと握り、呟くように言った。尚は黙って突っ立っている。
「蓮さんとは…違うのよ。そばにいると顔を見るだけで幸せだけど、もし心が離れたらって思うとどうしようもなく不安で泣きたくなる。そんな風に思うの、これが初めてだもの。それに…」
キョーコは尚から視線を外すと、ふわりと微笑んだ。
「蓮さんも同じ気持ちでいてくれるって、一緒にいると分かる。同じ気持ちを共有できてるのが、信じられないくらい幸せなの」

「キョーコがそう思ってくれてるのは、俺も嬉しいな」
路地の入口から別の声がした。
「蓮さん!」
「てめー!」
2人が弾かれたように声の方を見て、同時に、別々の叫び声を上げる。
「よかった、すぐに見つけられて」
蓮は上着も着ずにYシャツの袖口をまくったままの姿だ。手には携帯だけを握りしめている。
「んだよ!キョーコと話してるんだ。邪魔すんなよ」
一気に表情を険しくした尚に対し、蓮はにっこりと笑いながら返事をする。
「もう時間切れだよ、不破君。渡辺さんから伝言だ。『21時までは京都駅で待ってるので速やかに戻れ』とね」
尚は慌てて腕時計で時間を確認した。そして「げ。間にあわねーぞ」と漏らすと、キョーコの方をじろりと見た。何か言いたげに口を開くものの、思い直して再び閉じる。しばらくの沈黙ののち、「また来る」と言い残して足早に去っていった。

去っていく後ろ姿を見送ると、蓮は一つ息を吐いた。
「危ない目にはあってないね?キョーコ」
「はい!何も…大丈夫です。でも、なんでここに?何しに来たんでしょう?」
「さてね…本人も、よく分かってないんじゃないのかな?」
「っていうか、蓮さんはなぜここに?お仕事中じゃなかったんですか?」
ああ、と蓮は笑って髪をかきあげた。おでこにうっすらと汗が浮かんでいる。
「キョーコからメールが来たすぐあとに、渡辺さんから連絡をもらってね。不破君、今日は横浜の方でセミナーに出ていたらしいんだ。で、同行者を振り切って姿を消したらしくてね。こっちに来るかもしれない、と言われたんだ」
「はあ…てことは、横浜からここまで来たってことですか」
「だろうね。寄り道せずに真っ直ぐ戻れと厳命されていたらしいのにこれだからね。渡辺さん、かなり怒ってたよ」
「もしかして、蓮さんはあいつが私のところに来るって思って…?」
「それ以外ないだろう?俺のところに来ても仕方がない。まあ彼自身、よく分からず衝動的に足がこっちに向いちゃったんだと思うけど」

キョーコはふるふると首を振った。
「馬鹿のやる事は…分かりません。あいつ昔から非常識なんですよ」
「渡辺さんが鍛え直してるみたいなんだけど、苦労してるな」
ふう、と息を吐きだしてからキョーコは ハッと気がついた。
「あああ、スミマセン蓮さん!お仕事中なのにわざわざ探しに来ていただいて…!ご、ご迷惑を!」
「いや、俺が君を守るって言ったんだから当然だよ。それに…キョーコのいつも聞けない本心を聞けたから、俺は満足だな」
キョーコは恥ずかしそうに目線をそらした。
「ぬ、盗み聞きしないでください…」
「じゃあ、今夜ちゃんと聞かせて?急いで帰るから」
「そ、そうやって改まると無理なんです!!」

それから蓮はキョーコを駅まで送り届けると、会社に戻って上機嫌で仕事を片付け、いそいそと帰路に着いたのだった。

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コメントコメント


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面白かった〜♪

最後は契約が本当になるのは分かっているのに読み進める度にワクワクしました。
料理を仕事にも発揮出来るキョコたん、生き生きしてますね。

尚が訓練に出される姿も目に浮かんでしまって笑えました‼︎

ケロ | URL | 2014/09/30 (Tue) 11:22 [編集]


Re: 面白かった〜♪

> ケロ様

コメントありがとうございます~!
キョコさん、仕事に生きる女になりそうで、それはそれで蓮さんが拗ねてしまいそうです。
のめり込むと一直線ですもんね。

尚はでも、なかなかその程度では根性入らなさそうですよね。
いつか目を覚ましてくれる…のかなあ…?と思いました。

ぞうはな | URL | 2014/09/30 (Tue) 18:12 [編集]