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Personal Engagement (26)


こんばんは!1日空けてこんばんは!
ぞうはなです。

もうすぐGWですね。
早いなあ。つい先日お正月だった気がするのに。

ちょっと日々惰性で過ごしている気がします。気をつけねば。





会議室の扉が開き、中から役員や管理職たちが話しながら出てくる。
たまたま通りかかった奏江は、何気なくそちらに目をやった。チラリと見える机の上には、いくつかのお盆や皿、丼などが置かれていて、そこで試食かメニュー検討がされていたと言う事が分かる。

…てことは、商品開発部が主催の会議よね…

行き過ぎてから3歩ほど後ずさりして中の様子を伺い、奏江は目的の人物の姿を発見した。半袖のサマーセーターにタイトスカートを着た親友は、笑顔で先輩社員たちと話をしているようだ。時折皿の方を指したりして頷いているので、仕事の話だろう。
楽しそうにやってるわよね、と思いながら奏江が立ち止まって見ていると、キョーコの斜め後ろから蓮の大きな体が近づき、キョーコの肩に手をかけて少しだけ自分の方に引いた。若干のけぞる体勢になったキョーコの耳元で何かを話しかけると、肩から手を離し、キョーコの頭をぽんぽん、と軽く叩いてそのまま会議室を出てくる。
奏江が無言のまま出てきた社長に会釈をすると、相手は上機嫌で「やあ」と片手を挙げ、そのまま大股で歩いて去っていった。社長の横にはぴたりと有能な秘書が並んでいく。

奏江が二人を見送ってから会議室へ目を戻すと、中は若干騒がしくなっていた。そばで目撃した女子社員はきゃあきゃあ喜んでいるし、キョーコは周りに冷やかされて真っ赤だ。でも、真っ赤なキョーコが浮かべている表情は、照れてはいるものの幸せそうな、ほわんとしたものだった。

奏江はキョーコの表情を確認すると、特に声をかけることもなく歩き始める。

あーあ…
あの子もすーっかり社長の魔の手に落ちたのね…まったく、相変わらず社内でも隙があればああやって周りに見せつけるんだから、あの男、どんだけ独占欲の塊なのよ!喜ぶキョーコもキョーコよね!

でも、あれこれ心配はしたものの、2人はうまくやっているようで、安心もする。社長は色男の割にキョーコ以外は全く眼中に入っていないようだし、最近は蓮を見るキョーコの瞳にも熱いものが宿っている。でも、それだけに相変わらずキョーコが一方的に振り回されているのではないかという心配はつきまとう。強引社長を好きになってしまったら、今まで以上に無理難題を断れず、いいようにされているのではないだろうか。

まあ、私が心配することじゃないわね!

奏江は思ったものの、自分の席に帰りついてまずやったのは、キョーコとのランチの約束を取り付けるためにメールを書くことだった。


「どうなの?最近は」
「どうって?」
早速次の日のランチタイム、キョーコと奏江は向かい合ってお昼ご飯を食べていた。
「もう、いい加減察しなさいよ!あんたの彼氏の事に決まってるでしょーが!」
「あ、ああ…!どうもこうも…相変わらずよ?」
「ふうん…あんたの様子は相変わらず、て感じじゃないけどね」
奏江はフォークにパスタを巻きつけながらちらりとキョーコの様子を伺う。
「え、私何か違う?」
「前はあんなに上司を見るような尊敬のまなざしだったくせに、最近はすっかり恋する乙女じゃない?」
「そんなこと……」
「ないって言えるの?」
たたみかける奏江の言葉に、キョーコはうっと言葉に詰まる。

「まあ…向こうも向こうで頭がお花畑みたいな顔になっちゃってたけど」
「モー子さん、いつ社長の事見たの?」
「昨日、試食会か何かやってたでしょ?たまたま終わったタイミングで通ったのよ、第一会議室の前を」
「ああ、昨日ね!新メニュー検討会だったの」
「勤務中だってのにあんたに声かけて、まあご満悦だったわね…何言われたの?」
「別に、たいしたことじゃないのよ…今日会おうってことだけ」
言葉とは裏腹にキョーコは少し恥ずかしそうにはにかむ。この顔が見たくて人前でちょっかいかけるのだろう、社長は。

「メニュー検討のときも褒めちぎられたりする訳?」
「それは…ないわ……」
キョーコの表情は一変して、渋い顔でどこか遠いところを見ている。
「昨日は私の班の考えたメニューも出したけど…たくさん課題をもらっちゃった」
「あら、そうなの?」
「うん…そりゃあ、社長は仕事には妥協しないもの。納得できる指摘だから、頑張って次回までに改善しないとね!」
むん、と気合を入れるキョーコを見て、奏江はやれやれ、とため息をついた。

…しっかりけじめがついてるあたり、逆に嫌みったらしいわよね!

どうやら、奏江はどうあっても親友の恋人である若社長を全面的に認めるつもりは当分ないようだった。


午後の社長室。
事務連絡のために訪れた社が話の後に急に切り出した。
「はぁ…ようやく落ち着いたなあ」
「なんですか、急に」
蓮は書類をめくる手を止めて笑いながら顔を上げた。
「いやぁ…4月にここに来てから色々あって、どうなる事かと思ったけどさ。やっと定常状態かなと思って」

蓮が社長に就任してから丸3ヶ月が経過した。
京都で行われたパーティー以降、不破レストランズにうつった渡辺が何か吹聴して回る事もなくなり、社内の体制も落ち着いて経営が回り始めていた。渡辺の問題があったからこそか、蓮と管理職、さらには実務担当者の間にも連帯感が生まれ、会社がだいぶまとまってきた気配がある。

「そうですけどね。こういう時こそ気を抜くわけには行かないですよ」
「分かってるけどな。しかし、会長が何も言ってこないのは気になるな。報告はしたんだよな?」
「もちろんしました」
「またグループ内のほかの会社に行けなんて言われたらどうするんだ?」
「さすがに社長がこれほど短期間で変わるのもよくないでしょう。しばらくはここにいますよ」
「しばらくって、どのくらい?」
「分かりませんけどね…ただ、俺だって何でもかんでも父の言う事を聞くつもりはありません」

すると社はにやりと笑った。
「お前…キョーコちゃんと離れたくないんだろう」
「社さん…それとこれとは全く別次元の問題ですよ」
蓮は呆れ顔で反論する。しかし、社は畳み掛けた。
「だって、次またどこか行けって言われたらどうするんだ?アジア圏の出店だって検討してるんだ。キョーコちゃんと離れ離れになってやってけるのか?」

蓮は真顔でしばらく沈黙する。
「京都からこっちに来た時みたいに、相手に振られたからあっさり別れるなんて、もうできないんだろう?」
社の顔にはからかうような笑みが浮かんでいたが、その声には蓮の真意を試しているかのような響きがあった。
「あっさり別れたりは…しませんよ。仰る通り、今の俺にはそれはできません。キョーコにもやりたい仕事があるでしょうから、距離が離れるのは仕方ないかもしれませんが…」
蓮は考えながらゆっくりと言葉を紡いだ。自分に言い聞かせているようでもある。

「そう言えるならいいよ。お前も、成長したよな、男として」
社はにっこりと笑うと言った。蓮もそんな社を見て苦笑する。
「すみませんね、ご心配かけて」
「何、俺は構わないんだけど。キョーコちゃんに感謝だぞ、お前」
「本当ですね…」
蓮がしみじみと頷いたところでドアがノックされた。蓮が返事をするとドアが開いて、顔をのぞかせたのは近衛だった。
「敦賀君。ちょっといいかい?ああ、社君も一緒に」
席を外そうとした社を制して、近衛は室内に入ってきた。蓮は社とともに応接セットへと移動する。
「いやね、業務とはちょっと関係なく、渡辺さんの事なんだけど」
近衛は腰を下ろすや否や笑顔で切り出した。蓮も頷いて続きを促す。
「実はね、うちの家内と渡辺さんの奥さんは社宅にいた頃からの付き合いで仲がよくてね。ここのところあまり連絡を取ってなかったみたいなんだけど、先日奥さん連中で送別会をやったそうなんだ」
「送別会ですか?」
「うん。京都に行くから、ということだった」
「渡辺さんは既に京都に行かれたと思っていましたが、まだこちらに住んでらっしゃったんでしょうか。いや、それとも…」
「そう実はね、渡辺さんは奥さんには何の相談もなく、1人で京都に行ってたようなんだ。ここ数年、夫婦の仲もぎくしゃくしていたらしいんだけど」

「はあ…それもまた、奥さんは驚いたでしょうね」
社が目を丸くして近衛に聞いた。
「だろうね。だけど、先日また突然戻ってきて、京都に着いてきて欲しい、と頭を下げたそうだよ。久しぶりにちゃんと話をした、と奥さんは笑ってたらしい」
「心境の変化があったんでしょうか…?」
「おそらくね。敦賀君が行ったあの松島水産の創立記念パーティー。あのすぐ後だったみたいだ。敦賀君、渡辺さんに会ったんでしょ?」
近衛の言葉に蓮と社は思わず顔を見合わせた。
「お会いしましたが…」
「仕事の事や家庭の事や、渡辺さんも色々と悩んでたんだろうね。でもまあ、残念ではあるけど、残った我々はここでしっかり頑張らないと」
「そうですね」

近衛は満面の笑みで蓮に語りかけた。
「4月から色々助けられちゃったけど、ここからが敦賀君の腕の見せ所だと僕は思っているんだ」
「ここからですか?」
「そう。きっとヒズリ会長も期待してるよ」
「そうですかね…俺はこの問題対処のためだけに呼ばれたと思ってたんですけど」
「え?」と近衛はきょとんとした顔で蓮を見た。それから、眼鏡を指で直しながらやれやれ、と息をつく。
「会長は君に何も言ってないの?」
「何が…ですか?」
蓮も訳が分からず問い返した。近衛は身を乗り出して蓮の顔を見つめている。

「敦賀君、うちの社名はひらがなだけど、元々どんな漢字をあててるか、知ってる?」
「いえ。………いや、まさか」
「そう。『久しい』って字だよ。確か君の本名にもなかったかな?同じ字が」
「近衛さん……」
「ヒズリ会長がこの会社を作った時、まだ君は子供だったけど…きっと今の姿を思い描いてたんだろうね。君のためを思ってつけた社名なんだな」
参ったな、とため息をついてソファにもたれかかる蓮を見て、近衛は楽しそうに笑った。
「だから、きっと会長はここからが本番だと思ってるんだよ。何だかんだ言って君の事が可愛くて仕方ないんだろうな」
「勘弁してください…」
蓮はうんざりした顔でぼやいたが、ならば期待通り、この会社で頑張ってみようではないか、と心の中でそっと思っていた。


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