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Personal Engagement (25)


こんばんは!
週末の天気はむちゃくちゃでしたーー!
さすがに南関東では雪は降りませんでしたが、暖房は必要でした。
ああ、寒いの嫌いなのに…。
東北地方はすごかったようですね…サクラに雪が積もってる画って、初めて見ました…


さて、週明け。Personal Engagement、更新です!






「どうしたの?」
思わず足を止めてしまったキョーコを振り返って蓮は問いかけた。キョーコは戸惑っていたが、再び歩きだして蓮に追いつく。
「いえ…どうしてここに?」
「うん。とりあえず、コーヒー飲もうか」

キョーコは混乱していた。
確かに目の前の店はカフェだから、休憩してコーヒーを飲む事が間違っている訳ではない。
けれど、チェーン展開している店だから、ここでなくてはいけない理由はない。先ほどいた場所からもタクシーで乗りつけるくらいの距離だ。わざわざ、なぜこの店に?

キョーコは戸惑ったまま蓮の後ろから店に入った。
キョーコがバイトをしていた時のままの店は、日曜日の午後のせいか、そこそこの人の入りだった。客としていた事はないから、何か不思議な感覚に陥る。思わず「いらっしゃいませ」と言ってしまいそうだ。

レジカウンターに着くと蓮はレジの店員に2人分の飲み物を注文する。
カウンターの内側をぐるりと見回してみるが、キョーコが知っている顔はいなかった。曜日と時間帯が違うせいだろうか、それとも入れ替わっているのだろうか。それでも制服姿の店員たちが立ち働く様子は、キョーコに懐かしさを覚えさせた。

なんだろう…ほんの3か月前くらいには私もこうやって働いてたんだよね。
まさか、こんな形でここに来るとは思わなかったな…

「さて、座ろうか」
紙のカップを2つ受け取った蓮がキョーコを促し、二人掛けのテーブル席を通り越して窓際のカウンター席に向かった。隣り合わせに座り、2人はカップに口をつける。
「あの…どうしてこのお店に?私、学生の時ここでバイトしてたんです」
「うん。知ってるよ」
え?とキョーコは目を丸くして蓮を見た。
「君は大体平日の朝にここで働いていた。レジに入っていることもあれば、カウンターの中でコーヒーを淹れてる事もあった。手があけば店内を見回って、ゴミを捨てたりテーブルを拭いたり、まめに動いてたよね。そうそう、キョーコの髪は長くて、まだ染めてなくて黒かった」
「!!なんでそんなことご存じなんですか……?え、いやでも!」

キョーコは慌てて思い起こす。
蓮の口ぶりでは、キョーコがいるときに何回もここに来た事があるかのようだ。店を訪れる客の中に、蓮がいたら忘れる訳がない。こんな背が高くて美形の男性、店員の間でだって噂になるはずだ。

背が高くて美形の男性…?

キョーコはゆっくりと頭を巡らせて蓮の顔を見た。
切れ長の目とすっきりと通った鼻筋。シャープな顔の輪郭とさらさらな柔らかそうな髪。ここまで整った美貌の客の対応を、自分はこの店でした事があっただろうか。

いや、あった。思い当る客は………1人だけ。でも。

「蓮さん…」
「うん、なに?」
キョーコは顔をぐっと近づけて、蓮の瞳の中を覗き込んだ。
「蓮さん、コンタクトですか?」
「うん、そうだよ」
「髪は……地毛、ですよね」
「そう、これは地毛だよ」
蓮は自分の髪を一束つまんで引っ張ってみせる。
「……もしかして、もしかすると…」
キョーコは蓮の顔をじっと見つめたまま、ごくりと唾を飲み込んだ。

「その髪…染めてますか?」
そっと聞かれた問いに、蓮はにっこりと笑った。
「正解。俺の地の髪の色はこの色じゃない」
「もっともっと明るい、金髪…」
「…そうだね、その通りだよ」
キョーコは目を丸く見開いてしまった。
「まさか…お、"王子様"……?」
うっかり、バイト仲間の中でだけ使っていたあだ名をぽろりと呟く。聞こえてしまった蓮は声を上げて笑った。
「王子様って、何?」
「あっ!ごめんなさい……あの、ここでバイトしてたときの常連さんで金髪碧眼の背の高い男の方がいて…ものすごく格好いい方だったので、バイトの中でこっそり"王子様"って呼んでたんです。でもまさか、蓮さんが…?」
「…よかった。覚えていてくれてたね、俺のこと」

キョーコは呆然とした顔で蓮の顔を見つめている。しばらく無言で凝視してから、ようやく口を開いた。
「ほんとに…?え……なんでそんなことが?ほ、ほんとに蓮さん…えええええ?」
まだ混乱しているらしく、口にする言葉はあまり意味を成さないが、とりあえず "王子様"=蓮 ということは認識したようだった。
「"ひさや"の社長になるにあたって、名前と顔を隠そうと思って、髪を染めて、カラコンを入れたんだ」
「え、名前もですか?蓮さんの名前って、本名ではないんですか?」
「うん。俺の本名は『クオン・ヒズリ』というんだ」
「ヒズリ…って、まさか!お父様が食べ物関係のお仕事って…!!」
「そう。俺の父親はヒズリグループの会長、クー・ヒズリだ」
「だ……だから、その若さで社長を…???」
キョーコの目はまん丸に見開かれっぱなしだ。瞬きすら忘れてひたすら蓮を見つめる。対する蓮は落ち着いて、コーヒーを口にしながら話を続けた。

「まあ、そうなるね。前の社長が病気で倒れて、その時点で会社に色々問題があることが分かってたから、解決させるために俺を社長にすえた、てところかな?」
「はあ…」
「だけど、その問題については父からも前社長からも何も教えてもらえなかった。先入観を抱かないように、という建前だったけど、俺はものすごく試されてる気分だったよ。とりあえず警戒されないよう、父との関係を伏せた」
「そういうことだったんですか…」
「でもね、会社ってのは登記の必要があるから、社長が偽名を貫くのはかなり難しい。結局、少なくとも役員たちには俺の素性を明かさざるを得ないんだ」
「はあ…?」

キョーコには話の行き先が少し見えなくなった。蓮はそれをキョーコの表情から見て取って、話の核心に触れた。
「キョーコと契約を結んだのは、そのためだ。社員は俺が誰だかよく分かってないけど、役員たちは俺がヒズリ会長の息子だと分かっていて、警戒していた。その警戒を少し緩めるために…」
「あ…あの時、演じる必要があるって言ってたのはその事だったんですね!」
「そう。新入社員の女性を追いかけるようなロクでもない社長だと思わせて、緊張が緩んで問題が表に出るのを待った」
「はあ…そういうことですか……」
キョーコは納得というより呆然と言う表情をしている。しかし、ふと怪訝な表情になった。
「あの、蓮さんがここで私の事知ってたというのは、偶然なんですか?それとも何か…」

蓮は ああ、と声を上げる。
「それは、本当に偶然だ。俺が勤めていた会社がこのそばなんだよ。俺も急に命令されて行った先の東京で、しかも自分の会社の入社式で君を見つけてびっくりした。ほんとにね」
蓮はふわりと笑った。ネームプレートに見覚えのある名前を見つけて不思議と嬉しかった事を思い出す。
「契約をしたのも、偶然ですか?」
「いや…調理室に行ったのは偶然。でも、そこにいたのが君だったから、契約を持ちかける気になった」
「…なんでその時、教えてくれなかったんですか?」
キョーコはカフェラテを一口飲んで息をつくと、少し恨みがましい目で蓮を見つめた。蓮はキョーコから目線を外すと窓の外を見る。
「君を縛りたくなかった。俺と君に縁があるような事を言ったら、影響を与えてしまいそうだったから」
「じゃあ…なんで今、その話をしたんですか?」
蓮は再び目線を戻すとキョーコの顔を見た。キョーコは真剣な顔で蓮の返事を待っている。

「君を縛りたくなった」
「え?」
「君が俺とのことを運命だと思ってくれたらいいな、と今は思ってるよ」
「は……」
キョーコは恥ずかしそうに目をそらす。その目を覗き込むように蓮は顔を近づけた。
「それに…今後の契約にも影響があるだろう?」
キョーコは思わず蓮の顔を見てしまった。
「今後の契約?」
「そう。婚姻も立派な契約だ。あれこそ、偽名ではできないしね」
「なっ、何を仰るんですかっ?」
「あれ?お付き合いの次にあるのって、結婚じゃなかったっけ?」
「必ずしもそうとは限りませんよ!」
「そう?でも、恋愛なんてしないと言い切った君が、俺と付き合ってくれてるんだ。その先も、見てみたいな」

キョーコは恥ずかしさを紛らわすように冷めてきたカフェラテをぐいっと飲んだ。
「気が…早すぎるんですよ!」
「俺、せっかちなのかもしれないね」
「しれないね、じゃありませんよ、他人事みたいに!」
「俺がせっかちになるのはキョーコが相手の時だけだからね。昨夜みたいに」
「~~~~~!!」

キョーコにとって、生まれ故郷である京都は、悲しい事、辛い事もたくさんあった場所だ。
昨日は、ここに来るのも躊躇われるほど、気が重く感じられていた。けど今は。その悲しみや辛さを打ち消すように、くすぐったい思い出が新しく出来た場所になった。
キョーコはどこかすっきりと落ち着いた気持ちで、京都を後にする事が出来たのだった。

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コメントコメント


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素性を明かしても

蓮さん自分の素性をついに明かしましたね。
そして、キョコちゃんも思い出せてよかったです。
偶然だけれど、運命だった  って事わかってもらえたのでしょうね。

京都から戻ったら、社員にも素性を明かすのでしょうかね?
お掃除が出来たら蓮様「ひさや」から撤退するのかしら?

美音 | URL | 2013/04/22 (Mon) 23:19 [編集]


Re: 素性を明かしても

> 美音様

蓮さんもきっと言いたくてうずうずしていた事でしょう。
でも本当、金髪と黒髪じゃなかなか結びつかないですよね。
キョコさんもお客さんの事は覚えていてもまさかまさかの同一人物でした。

京都から戻ってどうなるか?それも問題ですよね。

ぞうはな | URL | 2013/04/23 (Tue) 06:16 [編集]