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薔薇の素顔 (4)

…分かりにくいですが、パラレルです。
パラレル苦手な方はご注意ください。

内容があまりないのになかなか文章にならない…精進します。

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来てしまったな‥。

足を止め、目的地を見ながら蓮は腰に手を当て、ひとつ息を吐いた。
ここまで10分もかからなかった。腕時計をちらりと見て開店時間ちょうどであることを確認すると、再び目線を戻す。蓮の視線の先には、マンションの1階に収まるカフェがあった。


今朝目が覚めた時点では、来ようと決めていた訳でもなかった。
久しぶりに仕事の始まりがゆっくりだから、とあえて目覚ましを止めたまま眠りに付き…悲しいことに、かなり早い時間にすっきりと目覚めてしまった。寝直そうかとも思ったが、眠れそうにない。仕方がないので起きだし、シャワーを浴びてからリビングに入る。
タオルで頭をがしがしと拭きながらふと見ると、テーブルに置かれた封筒が目に入った。

そういえば昨日持ち帰ったまま確認してなかったな、と蓮は首にタオルをかけ、ソファに座りながら中の原稿を取りだした。
原稿は貴島との対談内容とともに写真もレイアウトされている。ざっと目を通していくと、最後の方にカフェの二人とともに並んで撮られた写真が載っていた。小さめのサイズのそれには、『Cafe Felicia Gardenのマスター椹さんと看板娘キョーコさんと一緒に』というキャプションが付いている。ああ、そんな名前の店だったっけ、と蓮は思った。
マスターの要請により、記事の中にはカフェの店名と大まかな場所は載っているものの、詳細情報はない。小さい店にお客がたくさん押し寄せられても、満足な接客ができないから、という理由らしい。
『らしい』な…と蓮は思い、笑みを浮かべた。マスター、そんな感じの人だったよな、と思い起こす。

蓮は原稿を封筒に戻しテーブルに置くと、キッチンへと向かった。
コーヒーを飲もうかとやかんに水を入れ、ふと思い立って作業を中断すると再度リビングに戻る。
確かここに…と思いながら電話台の引き出しを開けると、先日持ち帰ったカフェのショップカードが現れた。表には『Cafe Felicia Garden』という店名と電話番号、所在地、くるりとひっくり返すと営業時間と定休日、簡単な地図が書かれている。
営業時間は7:30からとあった。貴島君が朝帰りで寄ってたって言ってたからな、と思いながら、蓮は時計を見る。
時計は7時10分前を指していた。少しの間考え、時間もあるし、発売前の原稿もあるし、と理由を並べ立てながら蓮は着替えるために寝室へ向かった。


そして、蓮はショップカードと雑誌原稿を持って部屋を出て、道に迷うこともなく先日訪れたカフェに辿り着いて今に至る。
突き動かされるように訪れておいて、なんとなく後ろめたい気持ちもあったりするのは、先日の『キョーコちゃん』との一件のせいか。
まあ、考えても仕方ないし、と蓮は思い直してカフェのドアを開けた。

「いらっしゃいませ!」
蓮が店内に足を踏み入れると、朗らかな声が響いた。声の主は蓮の想像通りキョーコだった。今日はしっかりカフェ仕様のクールな印象だ。営業スマイルをたたえてカウンターの方から出てきたが、蓮の顔を見るとちょっと驚いた表情を見せた。蓮は帽子をかぶり、薄く色のついたサングラスをかけていたが、その日本人離れした長身とスタイルで誰だか知れたらしい。
キョーコはすぐに表情を元に戻すと、通常通りの接客を続けた。
「おひとり様ですね?」
「うん。カウンターでもいいかな?」
蓮はカウンター席に腰をかけると、帽子を取ってマスターにも挨拶をした。
「先日は、どうもお世話になりました」
マスターは、こちらも少し驚いた顔になったが、笑顔で言葉を返してきた。
「こちらこそ。なんかオーラのある人が来たな、と思ったら、やっぱりそうでしたか。また足を運んでいただいて嬉しいですよ」
「先日いただいたコーヒーがすごくおいしかったので…自分でインスタントコーヒー入れるより、マスターのコーヒーが飲みたくなってしまって」
「そう言っていただけるとは光栄ですが、こんな朝早くいらっしゃるとは」
キョーコがお冷を蓮のところへ運んできた。蓮はキョーコに頭を軽く下げて、笑いながら答える。
「実は俺の家、ここからすぐなんですよ。歩いてみたら、10分もかかりませんでした」
マスターとキョーコがそろって驚いた顔を見せる。
「そうなんですか?」
キョーコが声を上げてから、慌てて声をひそめてつけ足した。幸い、まだ他にお客はいなかったのだが。
「いいんですか、そんなプライバシーさらしちゃって」
「別に構わないよ。お二人はそんなこと言いふらすこともないだろうしね」
「まあそれは、言いませんけど」
「それに、貴島君みたいに通い先がこの近所だってより、まともな情報じゃない?」
蓮は、いたずらっぽい笑顔を見せ、コーヒーを注文した。


蓮は、コーヒーを味わいながらのんびりした時間を過ごしていた。
店内には一番乗りの蓮の後に、数名の客が入って来ていた。スーツにネクタイの男性ばかりで、新聞を広げている人、手帳で予定を確認している人など、出勤前に立ち寄っているようだ。蓮のことを認めた人もいたようだが、ちらりと一瞥するだけであとは特に気にする風もなく、マスターもキョーコも必要以上に蓮に話しかけてくることもない。

…居心地が、いいな…
コーヒーの香りに包まれて、自分がその空間になじんでいるような気持ちになった。

窓の外には秋の風が吹き、薄い色の薔薇の花弁がいくつか揺られている。
前に来た時、咲いてたっけ? そんなことを思いながらコーヒーを飲み干すと、「お代わりは?」とマスターから声をかけられた。
「いただきます」と返事をし、持参した封筒から雑誌ゲラを取り出す。
「この間お邪魔させていただいた時の原稿、できたんですよ」
マスターに向かって紙を掲げてみせる。
「お二人と一緒に撮った写真も載ってますよ」
「ああ、それね。最上さんが、小さくないと嫌だっていったやつだ。ちゃんと、小さく載ってます?」
「そうなんですか?」
「そうそう。恥ずかしいんだそうですよ」
「なるほど。そういえば、キョーコちゃんは、最上さんっていうんですか?」
「ああ、そう。最上キョーコちゃん。お客さんはキョーコちゃんって呼ぶけど」
蓮は仕事中のキョーコを見やる。
視線に気がついたキョーコは「何かご用ですか?」と蓮の元へやってきた。
「これ、この間の原稿。ほぼこのまま雑誌に掲載されるよ」
「あ、すごい!この写真、お店の雰囲気が割とよく出てますね」
貴島と蓮がそれぞれアップで写っている写真を指差しながらキョーコは満足げに言った。記事にもざっと目を通し、へー、こんな事話してたんですねー、と呟いている。
当日はスタッフにも気を遣って動き回っていたため、対談の内容はほとんど聞いていなかったらしい。

プロだな、と改めて蓮は思った。入った店で、仕事もそっちのけの店員に寄ってこられた事は一度や二度ではない。
俺自身に興味がないってこともあり得るな、と思いついてしまって、蓮は少し落ち込みそうにもなったが、原稿の最後の写真を見て少し眉をしかめたキョーコに気がついた。
「自分が写ってる写真、気に入らない?小さいけど綺麗に撮れてると思うけど」
「あ、いや、気に入らないなんてことはないですよ」
キョーコは何気ない風でありがとうございます、と蓮に原稿を返した。

何か、ありそうなんだけどな…?
蓮は引っかかる何かを感じたのだが、ほじくり返すように聞く訳にもいかない、と無言で原稿を受け取った。

心にさざ波が広がっていく。そのことに、蓮は不安を覚えていた。
交友関係は広く浅くを心がけていたはずだ。
なのに、自分はまだ3回しか会っていない、それも店員と客の関係であるこの少女のことを知りたいと思っている?
危険だ、と思いながらも、なぜ自分がそう思うのかを知りたい自分も確かにいたのだった。


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