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Personal Engagement (21)


こんばんは!

今朝なぜか5時にぱっちり目が覚めてしまったため、すでに眠くて眠くて…。
早目に寝なければ…。

今日は若干つなぎっぽい部分になりました…





「な…んだと?」
尚はかろうじて言葉を絞り出した。目の前の男は、今日まさにこの瞬間まで、温和な表情と穏やかな口調を崩さなかった。だが、今はどうだ。まるっきり違う人間かと思えるほど、鋭い眼光でこちらを射ぬき、その言葉は凍るような殺気をはらんでいる。

「それとも、まだお前にはキョーコに執着する理由があるのか?」
「俺は……そいつに執着なんかしてない」
「ならばもういいだろう。キョーコ、行こうか」
腕をほどいて俯きがちに頷いたキョーコの肩を、いたわる様に優しく抱き、蓮は尚の脇を通り抜ける。尚は表情を固くしたまま無言で見送るしかできない。すれ違いざま、キョーコがポツリと言葉を発した。

「さよなら、ショータロー」

尚ははじかれたように後ろを振り返ったが、寄り添って会場に戻っていく2人はもう尚の方を見る事はなかった。



蓮は会場に入るとすぐ、壁際の椅子を見つけてキョーコを座らせた。近くを歩くウエイターを呼んでジュースの入ったグラスをもらうと自分も隣に座ってキョーコに差し出す。
「よく頑張ったね」
「ありがとう…ございます…」
キョーコの顔色は少し悪かった。ぴんと張った糸が切れたように、ぐったりとした様子でグラスを受け取る。しかし、ひとつ息をつくとグラスの中身を一気に飲み干し、頭を下げて長く息を吐いた。
「キョーコは女優になれるな」
蓮はいつもの柔らかい笑顔と優しい声で少しからかうように言った。キョーコがゆっくりと頭を持ち上げて、弱々しく笑う。
「蓮さんに惚れこんでる高飛車女を演じろって言ったの、蓮さんじゃないですか…」
蓮は会場内で渡辺と一緒にいた尚を見つけたとき、キョーコにそう指示を出したのだ。そしてキョーコは、指示された通りにしっかりとやり遂げてみせた。

「言ったよ。そのおかげで、あの男に最大級のショックを与えられたんだけど…まさかあそこまで完璧に演じるとは思わなかった」
「ふふ…テンさんの魔法のおかげでしょうか」
「魔法?」
「メイクのおかげで、いつもよりちょっとはきれいに見えるかなって思いまして。思い切ってなりきれました」
「なるほどね…」
蓮は上を見上げながら髪をかきあげ、ふう、とため息をついた。
「演じすぎだよ…あんな表情で見上げられたら……本当にキスしたくなる」
「へ?」
キョーコは間抜けな声を上げた。そして、見る見るうちに顔が赤くなる。尚にキスのことを言われたとき、キョーコは蓮からされたキスを思い出していた。蓮の、慈しむような優しいキス。それは触れるだけのものだったが、自分にとっての一番のキスは尚にされたものではなく蓮のだ、と思ったからこそ、「あんなのキスじゃない」というキョーコのセリフが自然と出た。
そしてそして。キョーコも自分の頬をなでる蓮の顔を見て思ってしまっていた。「その唇にもう一度触れたい」と。

蓮はキョーコの顔色があれこれと変わる様子を見て、ふ、と笑みを漏らした。それからこそりとキョーコに尋ねる。
「俺が勝手に話を進めちゃったけど…本当にもう、不破君に対して未練はない?」
「未練なんて!そんなの、もともとないんです!…でもなんだか、今日の様子を見てたら、今までの自分が馬鹿みたいに思えちゃいました」
「それは…なんで?」
「あんな傲慢で、横暴で、ナルシストで、なのに情けない男を好きだったかと思うと…自分の見る目の無さにがっかりするんです」

蓮は声を上げて笑うとキョーコの頭をぽんぽんと叩いた。
「そこまで言えるなら、大丈夫かな。見る目はこれから磨けばいいよ」
はい、とキョーコは素直にうなずいたものの、身近にこんな男性がいたら、これ以上どう磨けばいいのか、と蓮を横目で見ながら心の中で首をひねったのだった。


「さて、俺はもう少し挨拶まわりをしてくるよ」
蓮は立ち上がった。が、キョーコも慌てて席を立つ。
「わ、私もお供します!」
「キョーコは休んでていいよ」
「休むような事、ありませんから!ちゃんとお仕事させていただきます」
「…ありがとう。でも、さっきのパフォーマンスがあったから、色々声かけられると思うけど大丈夫?」
「う……望むところです!"ひさや"の宣伝になれば、いいんですよね!さ、行きましょう!」
苦笑しながら歩き出した蓮の後ろに控えながら、キョーコの目の端に不破レストランズの社長の姿が入った。その周りには尚の姿はなく、キョーコは少しだけ胸の奥が痛かったが、すぐ目の前の蓮の背中を見ると、そんな痛みもすぐに消えて行ったのだった。


蓮、社、キョーコの3人はパーティーの終了とともに自分たちが宿泊するホテルへと戻ってきた。
蓮が告げたとおり、パーティーの後半はあれこれ聞かれて話しかけられ、キョーコは精神的にぐったり疲れ切っていた。笑顔とそつない返答で切り抜けたものの、蓮が隠すことなくキョーコの事を紹介するので、それについてもキョーコは(もうすぐ契約終わるかもしれないのに!)とハラハラとしていたのだ。

キョーコがカードキーを挿して部屋に入ると、そこはゆったりとしたツインルームだった。
大きいベッドが2台あるのに1人で泊るのがなんとも勿体なく、その分贅沢だ。キョーコは荷物を置くとバスルームへと向かう。バスタブとシャワーブースに分かれたその場所もまた広々としていて、クラシカルな雰囲気が漂う。キョーコはバスタブの横に置かれたバスソルトを確認して、早速バスタブにお湯を溜め始めた。

「疲れただろう…しっかりお湯につかって疲れを落とすといいよ」
廊下で別れた蓮の笑顔と優しい言葉が頭の中でよみがえる。
化粧を落とし、足を伸ばしてバスタブにつかると、疲れがお湯に溶けて行く気がする。

今日はなんだか…半日しかここにいないのに、色々あったなあ…

キョーコは肩までお湯につかったまま、パーティー会場にいた時からずっと頭の片隅を占めていた考えを引っ張り出してきた。

蓮と渡辺は話していたようだが、あの件は片がついたのだろうか?
尚はもう、自分の前には現れないだろうか?
…二つの件が片付いたら、契約は終了だと蓮は言った。…つまり、契約はもう終わりになる?

そしてキョーコが抱える一番大きな疑問。

蓮はなぜ、契約上の恋人でありながら、わざわざ不破亭まで出向いたのだろうか。
もちろん、不破家の人間に対して契約の事など話す訳もないから、蓮はキョーコの恋人として不破家の両親と会ったことになる。さらに、蓮は尚からキョーコを守ると言った。いつまで?これからは…?

結局、考えても1人では答えの出ないことばかり。キョーコのため息はバスルームに立ちこめる湯気をほんの少しゆらめかせただけだった。

考え過ぎて若干ゆだったキョーコはバスローブを着て髪を乾かすと、部屋へと戻ってきた。
冷たいミネラルウォーターを口にすると、少し頭がすっきりするような気がする。ぐるぐると堂々巡りの考えをたどりながらベッドに座ってぼーっとしていると、部屋に備え付けられた電話のベルが鳴った。

「はい」
『ああ、キョーコ。もうお風呂には入った?』
電話の向こうから聞こえてくるのは隣室の蓮の声だった。
「はい、さっき出ました」
『そうか…ねえ、お腹は空いてない?』
キョーコは思わずサイドテーブルのデジタル時計を見た。時刻は夜の8時半を回ったくらい。言われてみれば、パーティーは午後に始まって夕方に終わった。中途半端な時間の上、キョーコは忙しくしていたため、パーティーで出された食事にはほんの少ししか手をつけなかった。
「そうですね…言われてみれば、少し空いてるかもしれません」
『よかった、俺も同じなんだ。軽くつまめるものを頼むから、こっちに来て一緒に食べない?』
「え…お邪魔していいんですか?」
『もちろん。1人で食べても味気ないし、一緒に食べよう。これから頼むから、適当にこっちに来て』

キョーコは受話器を置くと、自分の体を見おろした。
まさか、蓮の部屋にバスローブで行く訳にはいかない。かといって、パジャマはもっとだめだ。

なんか、着るもの…!!何持ってきたっけ???

キョーコは慌ててベッドわきに置いたボストンバッグをがさごそと探り始めたのだった。




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