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Personal Engagement (20)

こんばんは!
やはり週末の更新は…難しいですね…

ここ数日、ブログの管理画面に入るのがやったら重くて、どうなってるんでしょう…(不安)


今日は早目に更新、と思ったんですけど、細部をちまちま直してたら結局いつもと大差ない時間です。
さて、こっから加速しますよーーー(気持ちだけは)





「手が生臭くなっちゃうから、ちゃんと洗った方がいいだろう?」

理由をつけて、蓮はキョーコを宴会場の外へと連れ出した。
廊下にも客はいるが、まだ会場内に比べればまばらだ。蓮は一番奥にある化粧室へキョーコを促すと、自分は手前の廊下の壁にもたれてそこへ陣取った。腕にはキョーコのジャケットをかけ、ハンドバッグを手にしている。
目の端に、会場から出てきてこちらへ向かう1人の男の姿が入るが、あえて無視したまま佇む。男はしばらく立ち止まって逡巡したが、やがて意を決したように蓮の元へ近づいてきた。

「なああんた。キョーコはどうしたんだ?」

礼儀も何もあったもんじゃないな…

蓮はため息を一つつくと、ゆっくりと体を壁から起こして男を見た。正面からしっかりと見るのは初めてだが、線の細い、男前と言うより綺麗な顔立ちの男だ。いい仕立てのスーツを着てきちんとネクタイを締めているが、たたずまいにはどことなく違和感がある。どっちかといえばダメージジーンズの方が似合いそうだな、と蓮は思った。尚は蓮とは初対面のはずだが、その目には敵意が満ちあふれ、友好的に接しようという気持ちは微塵も感じられない。

「見て分かる通り、化粧室にいるよ。キョーコに何か用かい?不破君」
蓮は尚を怒らせるつもりもないため、今回は名字で呼びかけた。しかし穏やかな表情であっても、名前を呼び捨てにし、上着やバッグを手に女を待っている、という状況だけで、尚の気分は十分逆なでされたようだ。
「あんたは、キョーコのなんなんだよ」
尚はちらちらと視線を廊下の奥に向けながら、いらついた様子で言いつのる。陳腐なセリフだ、と思いながら、蓮はごく普通に返事をした。
「俺はキョーコが勤める会社の社長だ。君は、キョーコとは?」
「俺はあいつと同じ家で暮らしてたんだよ」
「ああ、それは聞いてるよ。君のご両親がキョーコの育ての親みたいなものだって。でも、それは君とキョーコの関係とは違うよね」
「…それを知ってるならわかるだろう。俺とあいつは幼馴染だよ」

「それで、キョーコに何か用かい?」
蓮は尚の返答には触れず、先ほどの問いを繰り返した。
「あいつに話があるんだよ。あんたには関係ない」
ちょうどその時、キョーコが化粧室から出てきた。蓮の元へと歩いてくるが、尚に気づくと不思議そうに声をかける。
「こんなところで何してるの、ショータロー」

尚は一瞬呆気にとられた。
今までキョーコが自分の事を「ショータロー」と呼び捨てにしたことなどなかったし、尚が気分を害していそうな時は、その原因が自分になくとも、機嫌を伺いながら恐る恐る声をかけてきたはずだ。それが、あっさりと呼び捨てにされ、更に自分の機嫌など全く興味がないような声を出されている。

「お前……よく、こんなところまでノコノコ顔出せたな」
キョーコは蓮にジャケットを羽織らせてもらいながらきょとんと尚の顔を見た。
「ノコノコ…って言われても、ここに来たのって半分は仕事みたいなもんだし…」
「残りの半分は何なんだよ!」
「ふふ、蓮さんのお供かしら?」
キョーコは蓮と顔を見合わせると笑顔になった。俺のお供は仕事じゃないの?と蓮に聞かれ、私秘書じゃないですもん、と返す。親しげな2人の様子に、尚はますますイライラを募らせた。
「お前何なんだよ。男にへらへらしやがって、馬鹿じゃねーのか?」
「あら、どうして?私、蓮さん以外の男にへらへらなんてしないわよ」
「は?社長に媚びて、どうしようってんだ」
「ショータロー、渡辺さんから何も聞いてないの?」
キョーコは目をぱちくりとさせる。それから少しはにかんだような笑顔で蓮を見上げ、そっとその腕に自分の腕をからめる。
「蓮さんは確かに社長だけど…私の恋人でもあるの」

「……あああ??」
阿呆面というのはこれをいうのだろう、という顔で尚は声を上げた。
「恋人だあ?お前、本気か?」
「え、どうして?何か、おかしい?」
「おかしいっていうか、お前まだ東京に行ってから3か月経ってねえんだぞ?」
「そうだけど…付き合うのに、そんなに長い時間って必要?時間の長さなんて、想いの深さには関係ないわ」
少しバカにしたような顔で笑うキョーコに、尚は言葉を失った。
「キョーコ、不破君とは恋人だったの?」
蓮がキョーコに尋ねるが、キョーコは即座に首を横に振る。
「いいえ、ただの幼馴染です」
蓮は頷くと、尚の方に顔を向ける。
「そう……じゃあ、君にとやかく言われる筋合いは全くないってことだね」

2人のやり取りに呆然とした表情の尚だったが、すぐににやりと笑って言い放った。
「はっ。社長さんは知らないだろうけど、そいつは俺にキスされるだけで喜んで尻尾振ってた女だぜ。なあ、キョーコ?」
キョーコを慌てさせようと吐き出されたその言葉はしかし、キョーコの表情を変える事はなかった。ことさら笑みを深めると、キョーコは目を細めて呟くように言葉を返す。
「ふふ…あれが、キス?…あんなの、キスじゃないわ。……あんなの、キスじゃない」
そしてキョーコは絡めた腕に力をこめて、蓮を見上げた。蓮もキョーコを見つめ返すと、するりとその頬をなでる。無言で見つめあう二人を見た尚は、頭をブルブルと振ると表情を険しくした。
「お前が誰とどーしよーと俺の知ったこっちゃねーけど。…哀れだよな。お前みたいな女を、本気で相手する奴なんていないことくらい、お前が一番知ってるだろ?」
「ふふ、それこそあんたにはどうでもいい事でしょう?…放っておいてくれるかしら?」
キョーコは突き放すように言うと、蓮にくっついたまま冷たく笑った。

尚は、かつて自分が放った言葉がキョーコに多大な影響を及ぼしていた事を知っていただけに、キョーコの変わりように内心では驚愕していた。一番ダメージが大きいはずの言葉を選んで発してみても、キョーコには全く響いていないように見える。そしてそれは、間違いなく、キョーコが絡み付いている男のせいだ。目の前に立ち、余裕の笑みを浮かべてこちらを見ている男が、キョーコを変えてしまった。その男の手によるのだろう、外見まで大人っぽく色っぽくクールな美人になっていることも、なぜか腹立たしい。

尚は表向きは平静を保って見せていたが、かつて自分にすがり付いていた女が自分を見下すような態度を取る事に我慢ができなかった。一緒にいるこの男の表情が全く揺るがないのも気に食わない。どうにかして慌てさせ、跪かせてみせる。その考えに支配されていた。

「ああ、俺には関係ないからどうでもいいぜ。好きにしろよ。…だけど、大事な事を忘れてるんじゃねーのか?」
「大事な事?」
「そうだ。お前、勝手に"ひさや"なんかに就職しやがって、恩を仇で返してるんだぜ。一生かかる恩返しを、どうするつもりなんだ」
キョーコの笑みがほんのわずか固くなる。蓮の腕をつかむ手に、きゅっと力が入った。蓮は敏感にそれを察知すると、キョーコの頭をぽんぽん、と叩き、心配いらない、というように柔らかく微笑んでみせた。
「君が言う恩返しというのは、キョーコから君へという事かい?」
「…そうだ」
「では聞くが、キョーコが君に返さなくてはいけない恩とは、なんだ?」
「は?あんたそんなこともキョーコから聞いてねーの?」
「ああ、君に恩があるという話は聞いてないな」
「ふざけんなよキョーコ。お前、誰のおかげで飯が食えて大学まで行かれたと思ってんだ」

ふふふふ、と蓮が笑う。尚は蓮の顔を睨みつけた。
「何がおかしい」
「いや、失礼。君が、キョーコに金銭的な援助をしたのか?君自身の家にキョーコを住まわせたのか?」
「なんだって?」
「それは君への恩じゃない。君のご両親への恩だ」
「同じ事だろう!」
「違うな」
蓮と尚は真っ向からにらみ合った。といっても、蓮の表情はあくまで穏やかだったが。

「君自身ではなく、不破という家に対する恩が返し切れていないというのであれば…それは解決済みだ」
きっぱりと言い切った蓮に対し、尚はいぶかしげな顔になる。部外者が何を言う、と笑い飛ばそうとしたが、蓮の表情が自信ありげなのを見て、胸の内に言いようのない不安が湧いてきた。伺い見たキョーコも、先ほどの余裕のある微笑みではなく、不思議そうな表情になって蓮を見上げているのが気になる。

「君のご両親はキョーコからの恩返しなんて望んでないんだよ、不破君」
尚は部外者であるはずの蓮に自分の両親を持ちだされてカッとなった。感情のままに蓮に噛みつく。
「なんでお前がそんなこと言うんだよ!ふざけんなよ、適当な事言いやがって」
「適当ではないよ。君のご両親に直接聞いたんだからね」
「なに?」
「えええっ?」
キョーコは思わず尚と同時に驚きの声を上げてしまった。蓮は笑いながらキョーコの顔を見る。
「本当だよ、キョーコ。今日、待ち合わせの時間に俺は間に合わなかっただろう?」
「あ…もしかして急なアポイントメントって…!」
「そう。その通りだよ」
蓮はキョーコの髪を数回優しく漉くと、また尚の方へと視線を戻した。

「キョーコもすごく気にしていた事だからね。不破君のご両親には直接お会いして話をしたかったんだ」
尚は口を引き結んで無言のまま蓮を睨みつけている。
「ご両親は、逆に謝られていたよ。娘だと思って暮らしていたのに、気を遣わせ過ぎて申し訳なかった、とね。友達との遊びもほとんど出来ず、家の手伝いをしてくれて、既にそれでおつりが出るくらいだと。そしてそれから…」
キョーコはごくりと唾を飲み込んで蓮の顔を見つめた。
「息子の我儘に付き合わせ、面倒をみさせてしまって済まない、とも仰っていた」
「おじさま、おばさま…」
キョーコはぽつりとつぶやいて、顔を悲しげに歪ませた。
「キョーコ。君も気がついていたかもしれないね。不破君のご両親は、君が不破君と一緒に不破亭を継いでくれる事を、どこかで期待していたんだ。だから、不破君が多少君に無理を言ったり我儘に振る舞っても、君がそれをよしとしている間は…見守っていた」
「はい…」
「だけど、君から就職に関する相談を持ちかけられ、ご両親は気がついたそうだ。キョーコの不破君に対する決別の気持ちが、決定的なものになったという事を。それで、キョーコがしがらみの無い東京へ出る事を、むしろ後押しした」
「そうだったんですね…」
「そう。だから、君の主張は全くの筋違いと言うことになるんだ、不破松太郎君」

いつの間にか表情から笑みを消し去った蓮の瞳に射すくめられて、尚は背中に汗が伝うのを感じた。しかしここで言い負かされる訳にはいかない。なんとか持ちこたえると、口を開いた。
「部外者のてめえに…言われることじゃねーだろ!これは、俺とキョーコの問題だ!」
「いいや。俺は部外者じゃないよ」
「なんだと?」
「不破君。君のご両親はさすがに、君の事をよく分かっている。俺は頼まれたんだよ。キョーコを君から守る事をね」
「守るってどういうことだよ!」
「加害者は、被害者の辛さを知らないんだな。もっとも、相手の気持ちが分かるくらい想像力が豊かだったら、そこまで相手を傷つけ追い込むようなことはしないか」
「何を訳の分からない事を…」
「君に何を言っても伝わらないだろう。だから俺から言うことはひとつだけだ」
再び蓮の瞳に射られて、尚の口が止まる。蓮の声は一段低く、底冷えするものになっていた。

「キョーコに関わるな。この子をこれ以上傷つけることは、俺が許さない」

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コメントコメント


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きゃー

蓮様。かっこよすぎです。
契約の恋人からキョコちゃんを本当の恋人に昇格させたのですね。
馬鹿尚からも、守ってみせる  的なニュアンスにとれました。
このかっこよさに惚れてしまいます。

美音 | URL | 2013/04/15 (Mon) 23:03 [編集]


Re: きゃー

> 美音様

うふふふ。ありがとうございます。
もう、何者からも守るぞ宣言です。
本性むき出しで排除です。
これってもう、契約だけじゃないですよね、確かに・・。

ぞうはな | URL | 2013/04/16 (Tue) 06:07 [編集]