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Personal Engagement (16)


こんばんはー!

ああーーーー。
悩んでたら、日が変わってしまいました。
深夜組の皆様、こんばんは。
明日が土曜日だと思って調子に乗ってます。

明日は全国的に嵐、のようですね。
「不要不急の外出はお控えください」だって。皆さま、お気を付けください…。





「嫌というか……どうしても、会いたくない人間が、京都にはいるんです」

悲痛な表情でようやっと吐き出されたキョーコの言葉は、蓮の胸に重く染みこんだ。
店で振りまいていたあの明るい笑顔の奥に、この子はどれほど傷ついた心を抱えてきたのだろうか?きっと、外に出したくても出せなくてずっと抱え込んだまま、傷ついた心が癒えないまま、ここまできたのだろう。

キョーコが抱えている傷が、どんなものなのかは分からないが、これまでの行動や表情、契約のときに言い放った言葉から、会いたくない人間とは『男』だろうと蓮は半ば確信していた。単なる失恋ではない、確執があるのだろうか。それを、自分が引きちぎって拭い去る事はできるだろうか。

それはある意味、欲望なのかもしれなかった。キョーコの辛い気持ちを分け合える、そしてその力になれる、もしそれができたなら、何よりも自分の心が喜びに打ち震えるだろう。

「俺じゃ…君の力にはなれないかな」
蓮は後ろからキョーコを抱きかかえたまま口を開いた。キョーコはビックリして思わず振り返る。
「そんな、そんな!とんでもないです。これは私の問題で…」
「君一人じゃ、いつまでも抱えて傷ついたまま我慢して過ごして行きそうな気がするよ。話してみたら、何か変わるかもしれない」
もちろん嫌じゃなければだけど、と蓮は付け加える。

キョーコはしばらく黙ってうつむいていたが、ようやく、重い口を開いた。
「そうですね…京都の松島水産に行くなら、お話しておいた方がいいのかも…しれません」

蓮はしっかりと話を聞こうと、拘束を解いてキョーコと隣り合って座った。
「前にお話しした通り…私は不破亭という旅館で育ったんです」
キョーコが話しだしたのは、以前蓮が聞いた話と同じことだった。しかし、以前の話からは1人の男の存在がさっぱりと取り去られていたのだ。
「不破家には…私と同い年の息子がいます。松太郎って言うんですけど、本人は名前が嫌で勝手に尚って名乗ってます」
やはり男か、と蓮は思うが、黙ってキョーコの話に耳を傾ける。

キョーコは頻繁に不破家に預けられたため、尚とは幼いころから一緒に育った。ややぶっきらぼうだが格好良くて人気者の尚に、キョーコは幼いころから憧れていて、徐々に恋心を抱くようになっていった。
尚と一緒の家に暮らすキョーコは、当然の成り行きとして、尚を好きな女子からはやっかみを受けるようになっていた。えげつないいじめを受けたりもしたのだが、尚さえいてくれれば大丈夫!とばかりに、耐えていたのだ。
尚はキョーコを単なる幼馴染と思っていたのだが、年を重ねるごとに尚は段々とキョーコの存在を軽んじるようになっていった。尚がどれだけキョーコの事を蔑ろにしても、キョーコがニコニコと笑い、尚を許していたため、何をやっても許されると思っていたのだ。

やがて2人は大学生になった。
キョーコは高校を卒業したらすぐにでも不破亭で働いて恩返しを、と思っていたのだが、尚の両親に諭され、成績はダントツによかったため、地元の国立大学に通うことになった。これ以上世話になる訳にはいかないと、自分で見つけた居酒屋に下宿し、働きながら大学に通った。

尚も、適当に選んだ近所の大学に入学すると同時に、何かと窮屈な家を出たがり、こちらは親の借りたマンションで1人暮らしを始めた。ところが、今まで実家にいた尚は家事ができず、結局は頻繁にキョーコを呼び出して掃除洗濯炊事、と自分の部屋の事を一通りやらせるようになっていった。「大好きなショーちゃんの役に立てるなら!」と、キョーコは自分の時間よりも優先して尚の世話を焼くことに全力を尽くしたのだ。ごくごくたまに、尚に抱きしめられ、キスをされるだけで、キョーコは尚に必要とされる喜びをかみしめ、幸せな気分だった。

尚のマンションは大学生が1人暮らしをする部屋としては広々としていたため、大学の友人たちがたびたび遊びに来るようになった。
そんな時もキョーコは呼びつけられ、買い出しをしたりつまみを作ったり、かいがいしく働いた。尚達が飲んでいる間、ずっとキッチンにこもり、友人たちが帰って行けば1人で後片付けをする。
尚の友人との交流は一切なかったのだが、キョーコにとって大切なのは尚だけだったので、全く構わなかった。その日までは。

その日も、尚の友人たちが広いリビングでキョーコの作った料理をつまみながらダラダラと飲んでいた。きっかけは、友人のうちの1人の質問だった。
「なあ、尚の彼女ってさ、なんで出てこないの?」
「ああ?どの彼女?」
ひでえ、と笑う友人を気にせず、尚は続けた。
「もしかしてキョーコのこと言ってんのか?あんなの彼女じゃねーよ」
「え、そうなのか?だっていつもいるじゃん、ここに」
「あいつはここに住んでる訳じゃねーし。単なる幼馴染だよ」
「単なる幼馴染がここまでやってくれんの?なんで?」
「これくらいしかあいつにできることなんてねーしな。やりたいっつーんだから、いいんじゃねえの?」

まあそうだけど、と少し言葉を濁した友人に、尚はにやりと笑いかける。
「単純なんだよ。たまーにキスしてやるくらいで、永久に働き続けるんだから」
悪い男だよな、と笑う別の友人に対して、酒の回っている尚の口は段々となめらかになる。
「こっちだって、我慢してキスしてやってんだからさ。お互い様だろ」
ヤッてねえの?と聞く相手に、尚は鼻で笑った。
「そんな気になるかよ。俺は出るとこ出てねーと反応しなくて」
一同がどっと受けたところで、リビングの入り口のドアがかちゃりと開いた。新たに作ったつまみの皿を持ったキョーコがそこに立っていたため、尚の友人たちははっと口をつぐむ。
キョーコは無表情のままリビングに入ってくると、黙って皿をテーブルに置いた。それから、くるりと背中を向けてまた入口へと向かう。が、尚が怒ったような口調でキョーコを呼びとめた。

「んだよ。何怒ってやがんだよ。場を白けさせやがって!」
「別に…怒ってなんか…」
確かにキョーコは怒っていなかった。大声でかわされた会話はドアの外に丸聞こえだった。キョーコはそれを聞いて、怒るよりまず呆然としたのだ。頭が真っ白になって、気がついたら(お料理、温かいうちに)とそれだけを考えてドアを開けていた。
「じゃあなんだよ、いつものへらへらした顔してればいいだろ」
「え……」
「ほら、これでいいんだろ?」
尚はキョーコの腕を引っ張ると、無理やりキスをした。嫌がって抵抗するキョーコの腕を掴んで、唇を押しつける。
「や……!ショーちゃん、やめて!!」
キョーコは執拗に押し付けられる尚の顔を何とか押しのけて、壁際まで飛びのいた。無理やりにされた唇が切れて、ぴり、という痛みがする。口の中に残る血の味とアルコールのにおいが無性に気持ち悪い。

「お前…自分の立場わかってんのかよ?散々人んちで世話になって、このくらいで済むと思ってんじゃねーだろな」
尚は初めて、本気でキョーコに抵抗されて頭に血が上っていた。酔いも深く、簡単に怒りに火が付く。
「一生、一生だ。うちのために働いて、やっととんとんなんだよ。就職だって世話してやるって言ってんだ、感謝しろよな」
尚は言い放つと、どかりと座りこんでグラスを空けた。友人たちはさすがに尚の暴言に言葉もなく、固唾をのんで事態の進展を見守っていた。

キョーコは、壁に背中をあずけて立ち、切れた唇に手を当てて俯いていたが、やがて、ふるりと震えた。
「あんたじゃない…」
ぼつりと低い声でこぼした言葉に、キョーコが泣いていると思っていた一同はぎょっとしてキョーコの方を見る。
「私がお世話になったのは、おばさまとおじさまよ。あんたじゃないわ…!」
「ああ?」
尚も予想外のキョーコの言葉に振り返った。が、キョーコを取り巻く得体のしれないどろどろとした威圧感に、ぎょっとする。
「ふざけんじゃないわよ…!誰があんたなんか!!」

そのままキョーコは尚の部屋を飛び出した。そして、二度とその部屋を訪れることはなかったのだ。


「おじさまとおばさまには…感謝してもしきれないほどのご恩があるのですが、あいつだけはどうしても許せなくて…」
キョーコは両手を固く握りしめる。蓮は黙ってキョーコの話を聞きながら、キョーコの握りこぶしを上から柔らかく包み込んでいた。
「会いたくない相手と言うのは、不破グループの息子のことだったのか」
「はい…今会ったら、呪い殺せる自信がありますし…」
「元々は不破グループに就職するつもりだったの?」
キョーコはこくんと頷いた。
「本当にお世話になりましたから、御恩返しのために、微力ながら会社のお手伝いができれば、と思っていました…元々不破亭で仲居もやってましたし、厨房にも入れてもらって板前さんのお手伝いもしてましたから、何か出来ることがあるだろうと」
「あの不破亭の厨房に入ってたのか…それは、料理の腕も納得だな」
「おじさまには、たくさん鍛えていただきました。下宿した先が居酒屋で、こちらの大将もものすごく腕のいい方だったので、自然と飲食店に関わるお仕事がしたくなって」
「となると、不破レストランズか」
「はい…だけど、ショータローがまずはそこで社会人経験を積む、ということは決まっていましたし…もう、同じところにはいたくないと思って」
「そうか、それで離れた東京の、同じような形態の店舗を持つ"ひさや"になったんだね」
「う…すみません、志望動機が不純で…」
構わないよ、と蓮は笑った。
「志望動機がどうあれ、キョーコは高い倍率をくぐりぬけて入社試験を通過したんだ。"ひさや"に必要とされる人材だってことだよ」
「ありがとうございます…」

それにしても、と蓮は少し考え込んだ。顔を上げるとキョーコに尋ねる。
「"ひさや"を受けるとか、東京に来るとか、そのあたりのことは不破さんには?」
「おじさまとおばさまには…お話しました。ショータローとのことは言いませんでしたけど、なんとなく、感付かれているようでしたね…」
「では、そのショータロー君には言わずに東京に出たんだね?」
「はい。あれ以来、顔を合わせていません。ショータローは実家に寄りつきませんでしたから、多分本当に知らないままだったと思います」


と、なると…キョーコの行動は不破のぼっちゃんには裏切りに思えるだろうな。おそらく、渡辺さんが不破レストランズに引っ張られたのも偶然ではないはずだ。
そして、俺が今度のパーティーに顔を出す話が渡辺さんに伝わっていれば…

蓮はキョーコに事情の説明をせざるを得ないと感じた。
京都に行けば間違いなくキョーコの憎む相手に会うことにもなるだろうということも。それでも、これはもしかしたらキョーコのトラウマを取り除くチャンスなのかもしれない。


蓮は、キョーコとの契約の終わりが近い事を、強く感じていた。





すみません、関西弁はうっそくさくなるのでスルーさせてください…!!

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