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天然と純情の行方




「むぅ~~~~~~ん」
最上キョーコは、行儀悪く机の上にあごを乗せ、目を閉じて考え込んでいた。
机の上、キョーコの顔から30cmほど離れたところには、1台のコンパクトなデジタルカメラ。

「…やっぱり、考えすぎよね………でも…」
つぶやきは、空気に溶けていく。
何度目か分からないため息をついたとき、部屋のドアが前触れもなくガチャリと開いた。

「わっ。びっくりした!…あんた、いたのね」
ドアを閉めながら琴南奏江がキョーコの方を見やる。
「あ、おはよう、モー子さ~~~ん!」
「おはよう。なんなの、どろどろしたオーラ背負っちゃって」
「ん~~ちょっとね~~」

なんだか歯切れが悪いわね…と思いつつ、奏江はキョーコの向かいに腰を下ろす。
「そのデジカメ、この間言ってた番組用よね?」
「うん、そーなの…」
最近ドラマを中心とした露出が増え、知名度が上がってきたキョーコは深夜枠のトーク番組への出演が決まっていた。『視聴者の知らない京子のプライベート』、というお題目で、わざわざデジカメまで貸し出されてプライベート写真を撮ってくるよう依頼されていたのだった。先週その話を聞いたときは、「モー子さんとのらぶらぶツーショットを撮らせて!!」と奏江にキラキラ目で迫ってきてうざかったのだが。

「で、そのカメラ関連でなんか悩んでるわけ?」
キョーコはびっくり顔で奏江を見やる。
「なんで、分かるの? …やっぱりモー子さん、親友のことなら何でもお見通しなのね!!!」

あんたのその様子を見て、分かんない方がおかしいわよ!!!

奏江は叫びたい気持ちでいっぱいになったが、またキョーコをしょげさせても面倒くさいだけだと思い直し、ぐっと言葉を飲み込んだ。何だかんだ言って結局キョーコのことは大抵お見通しなのだが、ほぼ無意識下の処理なので本人は自覚していない。

「…何を悩んでるのよ」
嫌々ながら奏江は質問を投げかけた。本当だったら面倒くさいから相談なんて乗るの嫌なんだからね!!と思いながらも、キョーコの困り顔には基本的に弱いので仕方がない。

「うーん、写真、撮るには撮ったんだけどね。本当に出していいのかなーって」
「収録前にスタッフと一緒に選別するんじゃなかったっけ?」
「そう、するの。だけど、その場にも出していいのかな、て写真がね、あって」
「…見ていい?」
奏江はキョーコが頷くのを確認すると、置かれているデジカメを手にとって電源を入れた。再生モードにすると、最初の写真から1枚ずつ見ていく。

最初は、先週の私とのツーショット写真ね。やだ、最初の1枚変な顔だから消してって言ったのに。
…BOX-Rの収録現場の写真と、これはプリンセスローザとやらのアップ写真…。アップで見てもすごいわね。これ、ほんとに手作りなの?
こっちの制服姿は学校の教室かしら。

主に仕事場での写真と学校での写真が続き、何も問題なさそうに見える。
と、最後から2枚目で写真を繰っていた奏江の指が止まった。

凝視している写真には、制服のブラウスの上にピンクのエプロンをつけてキッチンに立っているキョーコが写っていた。
菜箸を手に、上目遣いで少し恥ずかしげな笑顔。
背景に広がる白を基調とした高級感あふれるキッチン。

「…キョーコ」
普段は呼ばれない名前を呼ばれたことに驚いて、キョーコが顔を上げる。いつもだったら喜ぶところだが、声に含まれている怒気と呆れの響きに、ちょっとおびえているようだ。
「な、なに?」
「この、エプロンして料理してる写真…どこで誰が撮ったの?」
はぅ、と声にならない悲鳴を上げて、キョーコの目が泳ぐ。じっとりと睨み付ける奏江の無言の圧力に負け、渋々と答えだした。
「つ、敦賀さんの部屋で、敦賀さんが撮ったの」
「なに?あんたいつの間に敦賀さんと付き合いだしたの?」
「つつつつつ、付き合ってなんてないわよ!!!そんな、恐れ多い!!ご、ご飯を作りに行っただけで!」
慌てたように首と両手をブンブン振りながらキョーコが答える。

はぁ~~~~~~~~~っ。
奏江は頭を振ると、肺の空気を全部吐き出すような勢いでため息をつく。
「あんたね、この写真、誰がどう見たって彼氏の家でご飯作る彼女よ!」
「ええええええっ!?」

驚くことか! あんたのその思考回路のほうがびっくりするわよ!!
大体付き合ってもいないのに男の部屋にご飯作りにいくって何!とブツブツ言いながら最後の写真を見る。
次の写真は、リビングであろう場所で、ガラステーブルの前に座るキョーコと、テーブルの上に並べられた食事。
写りこんでいる食器とカトラリーは二人分。後ろには革張りのソファが見える。

ふと、奏江はあることに気がついて先ほどの写真に戻った。
さっきは気にしていなかったが、キッチンでの写真は、キョーコを見下ろすように撮られている。つまり、撮影者と被写体であるキョーコにかなりの身長差があると言うことが分かる。

…これは、こーゆー写真をわざと撮ったのね?

奏江は撮影者の意図について確信を持って結論を下し、ちらりとキョーコの方を見た。
すると、なんだかキョーコは顔を真っ赤に染めて落ち着かない様子でそわそわしている。

あらら?
奏江が予想していたキョーコの反応は、顔を青くして、「こんな写真が公開されたら敦賀さんの迷惑になっちゃうんじゃないか」とおろおろしている、と言うものだったのだが、だいぶ違う。

「もしかして、あんたこの写真撮られたとき、敦賀さんに何か言われたわね?いや、何かされたんじゃないの?」
キョーコの全身がびくりと震え、顔が真っ赤になった。いや、袖から出ている手も真っ赤だから、きっと全身赤いんだろう。頭から出ている湯気が見える。
「な、な、ななななな」
「そうなんでしょ?」
どきっぱりと言い切った。


はひゅぅううう~~

キョーコは変な音を上げて空気が抜けたようにしぼみ、ゴツンと音を立てて机に突っ伏すと、しばらくの間動かなかった。
奏江が辛抱強く待っていると、やがてキョーコはゆっくり起き上がり、目を伏せたままぽつりぽつりと語りだした。

蓮に写真を撮られたとき、キョーコも抗議したのだ。
誤解を招くから、この写真は出せない、蓮に迷惑がかかる、と。
するとなぜか蓮は真剣な顔で、迷惑なんかじゃないし、誤解でもない、と言い出したのだという。
キョーコが食事を作りに来てくれるのがとても嬉しくて、楽しい、それは本当なのだと。
写真を出すかどうか、蓮の名前を出すかどうかは任せるけど、幸せな気持ちで撮った写真だ、だれに何と言われようと構わないと言ってくれたのだと。

キョーコは真っ赤な顔のまま、しどろもどろではあるが、蓮に言われた言葉を懸命に奏江に伝えた。
その顔は戸惑いの表情がほとんどを占めていたものの、嬉しそうな恥ずかしそうな笑みが混ざっていた。
奏江は口を半分開けた間抜け面のままキョーコの語りに聞き入っていたのだが。
キョーコの話をもう1回反芻して、恐る恐る聞いてみた。

「…敦賀さんが言ったのってそれだけ?」
「うん、…それだけ」
「好きだとか付き合ってくれとか」
「そ!そんなこと言うわけないじゃないの!!!た、ただ、またご飯を作りに行くって、約束させられたけど…」

呆然としていた奏江の顔に、ふよ、と抑えきれない笑みが浮かんだ。

ぷふーーーーー!と盛大に噴出すと、奏江は両手で顔を覆って盛大に肩を震わせ始めた。
「お、おかしぃっ…あ、あの顔で!」
「も、モー子さん?」
「ま、まるで純情乙女みたいな……!!!あははは!」
自分で吐き出した台詞にはまって更に笑いがこみ上げる。

可愛い後輩との仲のよさをアピールするためにあんな写真撮ったくせに!
策略巡らす割には、本人には回りくどいというか、こ、壊れ物に触るみたいに!!!
よっぽどこの子に嫌われたくないのね!!!



「キョーコ…あんた、すごいわねーー」
ようやっと笑いを収めた奏江は はーーー、と息を吐き出して心底感心した様子で呟いた。
無意識のまま、天下のあの敦賀蓮を思いっきり振り回してるなんて。
抱かれたい男No.1に輝く超美男子に中学生みたいな恋愛させてるなんて。

「えぇっ?なんで??」
先ほどから、親友がいきなり笑い出した理由も分からずオロオロしていたキョーコは、更に訳が分からなくなっている。

あー、でも…不器用なりのアプローチも、少し効果が出てきてるのかしら?
奏江はまだ真っ赤なキョーコの顔を眺めながらそんなことを思った。
あの人が、適当にだまして撮ったんだったら、すぐさまあんな写真消せ、て言うつもりだったけど…。

「うん!多少は協力してあげるか」
「えっ。何に?」
「キョーコ!」
「は、はい!!」
「その写真、堂々と出しちゃいなさい」
「えええっ?」
「あ、名前は大丈夫よ。うっかりポロリと出ちゃっても、放送のときはピーって入るから」
「えー!!!だってそれでもその場ではバレちゃうじゃない」
「いいのよ、撮った方だってむしろバレてほしいんでしょ」
「はぇ??」
「仲いいアピールしても、悪いことじゃないわよ。仲のいい先輩でしょ?」
「そ、そうなのかなあ??」

この子の方がラブミー部卒業、早いかもしれないわね…と思いつつも、いや案外、ここからが長いのかもしれない、と鈍ちんな親友の今までのあれこれを思いながら、二人の今後を思ってまた深いため息を、奏江はつくのであった。



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(おまけ)

「そういえばこういうのって主任のチェック通さないの?」
「椹さんにはもう見てもらったの」
「(えっ) なんか、言われなかった?」
「…驚かれて、判断保留されたんだけど、しばらくして『君たちがいいなら問題ない!』って電話かかってきたの」
「そ、そうなの…」
「なんか、社長許可が出たから気にすることはないぞって」
(社長のおもちゃってラブミー部だけじゃなかったんだ……)

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