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Personal Engagement (14)


こんばんは!
ぞうはなです。

なんとかどうにか連続更新!
てことで、早速いきまーす。





"ひさや"の副社長退任は社員の知るところとなったが、事情を知る一部の者以外は突然の事に驚きはしたものの、それほど日常業務に影響を与えることは無かった。役員たちは事実を聞き、前社長と蓮の責任を問う者と、渡辺ならやりかねないと納得する者と半々だった。

渡辺が去り、新しい経営陣体制が固まった頃、社長室に社が入ると蓮は電話中だった。社は書類を置いて無言で立ち去ろうとしたが、蓮にジェスチャーでそこに留まるよう指示され、会話の終了を待つ。

「分かりました。こちらでもある程度把握はしてましたが、助かります。情報ありがとうございました」
「…ええ、対処は任せていただいて大丈夫です。はい、では」

蓮は受話器を置くと社に笑いかけた。
「あのまま終わるかどうか五分五分かと思っていましたが、なんだか妙な事になりましたよ」
「渡辺さんか?そいや、新開さんに色々頼んでたよな」
「はい。そちらからも多少探ってもらってはいたんですけど、父からも別ルートで情報が入りました」
「なんだって?」
「ふふ、可笑しいんですけど、どうやら渡辺さん、俺だけに恨みを集中させてるみたいです」
「え?どういうことだ?」
「俺に追い出された、あの会社は俺が社長をやってる限り先がない、とあちこちで…」
「吹聴して回ってんのか?どうしちゃったんだよ、渡辺さん…」
社は困り顔でぐしゃぐしゃと髪をかくが、よほど悔しかったんですかね、と蓮は堪えている様子は無い。

社はやや不満げな声を出した。
「放っておくのか?」
「それでもいいんですけど…いずれ会社全体の不利益になるかもしれませんしね…かといって同じ土俵には立ちたくありません」

社は腕組みして考え込んだ。こちらは東京、あちらは京都。渡辺が迎えいれられた不破グループの会社は同業の競合他社のため、仕事上の接点はない。向こうから適当な事を言われても反論する場はないし、ムキになっても確かに同レベルに落ちるだけだ。
「どうすんだ?」
「これを利用すればいいと、父からアドバイスをもらいました。ちょうど俺も同じ事考えたんです」
蓮は机の引き出しから1通の封書を取り出して社に差し出した。

「ああ、これ、ちょっと前に来てた、松島水産のパーティー招待状か」
社は封書の表の会社名を見て言った。招待状は"ひさや"に海産物を卸している会社の創立50周年記念のパーティーのものだ。取引先に広く招待状を送っているらしい。
「はい。ヒズリグループの他社も取引しているところですが…少し調べたら不破グループとも取引があります。うまく情報流しとけば、顔合わせられるんじゃないでしょうか」
「直接対決するのか?」
「喧嘩するつもりはありませんけどね。直接顔見たら、あちらも言いたいこと全部言い切れるんじゃないですか?」
「お前、そんな余裕でいいのか?」
社は少々呆れ顔だ。なんだか目の前の蓮は事態を楽しんでいる様子すら見える。
「余裕な訳ではありませんよ。なにせ松島水産の社長にも直接あれこれ吹き込んだらしいですから」
「そこまでやってんのか…」
「それで、松島社長から連絡をもらった父が電話して来たんです」
「ふ。ヒズリ会長も自分の息子を貶されて黙っていられなかったか?」
「いや…俺はいいけど"ひさや"の評判まで下げるな、と言われました」

ああ…そういう親子か、ここんちは…蓮も全くそこに疑問は無いんだな…

それでですね、と蓮は社の反応を意に介さず切り出した。
「キョーコを連れて行こうかと思うんです」
「…ついに出たな、公私混同」
「そうですか?商品開発本部ですから今から仕入れ先の事知っておいた方がいいですし、キョーコは京都出身ですし」
「あ、そか、松島水産の本社は京都か。はいはい、別にいいんじゃないか?ああ、土曜日だから業務じゃなくて普通にプライベートで連れてきゃ何も問題なしだ」
「そうですね、そのつもりです」
ふうん、と社は細めた目で蓮を見やった。仕事に絡む事にはほとんど恋人の姿をちらつかせる事はなかったというのに、どういう風の吹き回しだろうか。どうせ聞いたってまともに答えないことは社には十分すぎるほど分かっていたため、問い詰めたりはしない。

その代わり、社は全く違う方向から攻めてみることにした。
「お前もさあ、最上さんに夢中になるのはいいけど…熱し過ぎていきなり冷めたりするなよ」
「ひどいこと言いますね、社さん」
「だって昔見た彼女との付き合い方と全然違うように見えるんだよ」
「心配ご無用です…まあ、可能性としては振るより振られる方ですね」

社はビックリして目を見開いて蓮を見た。なぜだろうか、蓮は少しさびしそうに笑っている。
「そりゃそうでしょう、キョーコの都合もお構いなしに振りまわしてますから。いつ愛想尽かされてもおかしくないですよ」
「お前…そんな自嘲めいたセリフ吐くくらいなら、つなぎとめる努力しろよ……」
「してますけどね。なかなか功を奏さないんです」
この言葉は蓮の本音だった。契約にかこつけて、契約に定めた以上に近づこうとしてみるが、キョーコは全くそんなこととは気がつきもしない。ただひたすらに真面目に契約の履行に励んでいるのだ。
契約満了の条件はキョーコに明かしていないから、嘘をついて期間を引き延ばすことはできるはずだった。ただ、心が通じてない状態でいくら手元に置いても虚しいだけだと、蓮は痛いほど分かっていた。

社は蓮を励ますように明るい声を出した。
「でも、まだ付き合い始めて1か月くらいだろう?これからだよ、これから」

1か月…

蓮はその単語を噛みしめる。過去には1か月で終わった恋もあった。
どの恋も、相手から別れを告げられれば、あっさりと開放してあげられた。それがなぜか契約であるはずの今回はそんな気になれない。蓮はまだ諦めている訳ではなかったが、契約が終わった時にキョーコが鎖から放たれて飛んで行こうとした時、邪魔しないで手を離せるだろうかと、自分に問いかけていた。


「京都ですか?」
キョーコが目を丸くして問い返す。キョーコと蓮は会社帰りに一緒に食事をしていた。毎回キョーコが作ると疲れてしまうからと、蓮は適度なタイミングでキョーコを外食に連れだしている。

「うん。昔からの仕入れ先の会社が京都にあってね。松島水産って言うんだけど」
「松島水産…?」
ぼそりと呟きながら顎に手を当てて考え込むキョーコの反応に、蓮はおや、と思った。
「知ってる?」
「あ、はい。前に、旅館を経営しているうちにお世話になってたということをお話したかと思いますが、そこでも松島水産から仕入れている物があったと思います」
「ああ、そうなんだ。…ちなみに、その旅館って何て名前?」
「御存じかどうかは分かりませんが、『不破亭』という旅館です。懐石料理が売りで、最近は不破グループとして料亭やレストランも経営していますが…」

今度は蓮が目を丸くする番だった。
今までキョーコがかつていた旅館の名前を気にしたことなどなかったのに、こんなところで一致することがあるのだろうか。ただでさえキョーコには偶然再会したという縁があるのに。

これが運命的な何かだったらいいのにね…

蓮はそう考えてしまう自分の都合のいい思考回路に苦笑した。自分はそんな不確かなものにすがるような人間じゃないだろう、と思い直す。

「どうかされましたか?」
キョーコに聞かれて蓮は思考を中断する。テーブルの向こうではキョーコが首をかしげて、やや心配そうな表情で蓮を見ている。
「ああ、いや。そんな有名な旅館にいたのか、と思ってね」
「あー、確かに今はかなり有名になりましたけど…私が子供のころは本当に普通の旅館だけをやってる家だったんですよ」
「一代で築き上げたってことだね」
「はい!おじさまは経営の才能がおありなんです!」
キョーコは嬉しそうに答える。が、急に何かを思い出したのか、眉間にしわを寄せて険しい顔になった。
「そのおじさまの努力を一代で無にしそうな男もいるけど…」
ぶちぶちとキョーコの口から紡ぎだされたセリフは、幸い小声だったため蓮の耳には届かない。

「それで、京都に一緒に行ってくれるかな?松島水産の創立50周年記念パーティーに呼ばれているんだ」
「ええっ?私ごときがそんなパーティーなんて!!」
「ごときなんて言わないの。俺のパートナーとして一緒にいてくれたらいいんだから。それに、きっと貴重な海鮮が振る舞われると思うよ。仕事のためにもなるだろう」
「はい…」
キョーコはやや気乗りしなかったが、肯定の返事を返した。

いくら京都って言ったって広いものね!そうそうばったり会うなんて、ないはずだわ!
あいつだって入社1年目の新人で、いきなり特別扱いはさせないって女将さんも言ってたし…

キョーコは大きな懸念を抱きつつ、それを打ち消すような楽観的な予測を懸命に探した。
社長と一緒にそういう場にいけば、社外との交流のお手本を見せてもらえるはず、とか、"ひさや"でも大手の取引先、知っておいて損はない、と、なんとか自分を納得させることに成功したのだった。

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コメントコメント


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そうそうばったりあうなんて・・・。

キョコちゃん言っていましたが、あうんですよね。おはなしだから。そして、キョコちゃんも蓮様も嫌なめにあいそう。馬鹿な不破グループの御曹司に。自分のもの呼ばわりしそう。

美音 | URL | 2013/04/03 (Wed) 09:24 [編集]


Re: そうそうばったりあうなんて・・・。

> 美音様

その通りですね!
おはなしですから(^^)
会わないと、終わりませんから。
さて、蓮さんがどう対処するか。
キョコちゃんは乗り越えられるのか。頑張りどころです。

ぞうはな | URL | 2013/04/03 (Wed) 21:46 [編集]