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があるず・とおく(特殊事例)

前の話「があるず・とおく(通常事例)」とセットです。
役者馬鹿だとまあこうだろうと…

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某日、某芸能事務所のラブミー部部室。
十代後半のラブミー部員3人が、待機時間をそこで過ごしていた。全員ラブミー部ユニフォームに身を包み、TVを見ながらおしゃべりに花を咲かせている。

「この敦賀さんのドラマ、見てる?」
画面を見ながら琴南奏江が残り二人に問いかけた。
「あ、私1回飛ばしちゃったけど後は見てる」
「私は最近ドラマは見てないわ」
最上キョーコと天宮千織はそれぞれ答えた。

「私この間初めて見たんだけど…」
奏江は画面を半ば睨み付ける様にして話し出した。
「やっぱり敦賀さんの演技ってすごいわね」
「そうなの?」
間髪入れず聞き返したのは千織だった。先輩であろうとも、なかなか他人の実力は認め難いらしい。
「このドラマの敦賀さんの役柄って、結婚詐欺師なのよね」
「そうそう、でもヒロインのことを本気で好きになっちゃうんだよね」
キョーコが補足を入れる。
「そうなのよ。で、仕事の相手とヒロインと、それぞれ口説くわけなんだけど…ちゃんと、違うのよね」
「口説き方が?」
「口説き方はまあ台詞だからね、いいんだけど。表情って言うの?こめられてる情感って言うのか、ヒロインに対してじわじわと本気になっていくのが分かると言うか」
「へぇ…」
「それにしても、あの温厚紳士と言われる敦賀さんが、ここまで冷徹で女を道具として利用する最低男を演じるとは思わなかったわ」
奏江は眉間にしわを寄せたまま、どっかりと背もたれにもたれかかった。
「女から見ると憎しみがわくくらいよね」
肘を付いて画面を見ながら千織が同意する。
「でも敦賀さん主演のドラマだから、ここから視聴者の感情移入が出来るような展開になるんだろうなぁ」
キョーコも目をキラキラさせて蓮の演技に見入りながら言った。
「悔しいけど、そのギャップがまたすごいから惹きつけられるのよね」
奏江は相変わらず険しい顔をしている。どれだけ悔しいのだろうか。

「それにしても、この主演女優のおかげで台無しよね」
千織が話題の方向転換をした。さめた目つきで、画面の中の主演女優を眺める。
「演技派って言われてるけど、どこが?敦賀さんとの掛け合いは、引きずられるのか割といいんだけど、それ以外はてんでなってないわ」
「天宮さん、相変わらず厳しい…」
思わずキョーコがもらすと、すかさず10倍の反撃を残り2名から食らう。
「大根を大根といって何が悪いのかしら?こんな演技で女優を名乗るなんておこがましいのよ」
「激しく同意するわ。しかもこの女優、完全に敦賀さんに落ちてるわね」
キョーコは後ずさって黙り込んだ。これは、半端に口を挟まないほうがよさそうだ。

「本物がある分、偽物との落差がはっきり見えちゃうのよね」
「私は、絶対本物と認められる女優になるわ」
「私だって、敦賀蓮に圧倒なんてされるもんですか!」
キョーコももちろん『打倒!敦賀蓮』を掲げているのだが、二人の剣幕に圧倒され、口を開くことすらできない。キョーコには、画面を睨み付けつつ決意を新たにする二人の背後にめらめらと燃え立つ炎のようなオーラが見えた、気がした。


ルルルルルルル……

部室に置かれた内線電話のベルが鳴る。
キョーコが受話器を取ると、仕事の準備が出来たとのタレント部からの呼び出しだった。
3人は部室を出て、タレント部に向かって歩き出す。と、向こうから敦賀蓮とマネージャーが歩いてくるのが見えた。
「お疲れ様です!敦賀さん」
「「お疲れ様です…」」
「お疲れ様。今日は揃ってラブミー部の仕事?」
「はい!今椹さんに呼ばれたところですので、失礼しますね」
「「失礼します」」

去っていく3人。
背中を見送ってから、社は蓮に声をかけた。
「なんか琴南さんと天宮さんが蓮のことにらんでた気がするんだけど」
「…やっぱりそう思います?俺も、不覚にもちょっと気圧されました」
「なんかしたのか?蓮」
「何も覚えがないんですけど。そもそもさほど接点がないというか」
「そうだよなあ~。俺、一瞬襲い掛かられるかと思っちゃったよ」
「……」
「どうした、蓮、考え込んで」
「いや、なんか最近、シチュエーションが違えど似たような気分になったことがあったような…」
(最上さんが申し訳なさそうな顔してたのが気になるな…)

全く心当たりがないまま、首を捻りつつ二人は俳優部へと向かうのであった。

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